あべこべ和風オスガキ剣士   作:耳野笑

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第五話 わからせの時、来たれり

 夜も更けたころ。僕は武蔵の部屋を訪れた。彼女は布団の上で、手持ち無沙汰に座っている。

 

「こんばんは、武蔵」

 

「な、なによ。敗者を笑いにきたの?」

 

「うん」

 

「じゃあ帰りなさいよ!」

 

 嫌そうな顔をしている武蔵を余所に、僕は部屋へ入る。

 

「やっぱり、敗者はわからせなきゃね」

 

「ちょっ……」

 

 武蔵は嫌な予感がしたのか、立ち上がって逃げ出そうとする。しかし、僕は懐から縄を取り出し、早業で彼女の体を束縛する。

 

「はっ!? ちょ、なによこれっ! (ほど)きなさいよっ!」

 

 仰向けにされ、手足を縛り上げられた武蔵は、身動(みじろ)ぎしながらそう叫んだ。

 

 異能――拷問吏(ごうもんり)刑術(けいじゅつ)

 

 どんなに粗末な麻縄であっても、僕が縛れば絶対に抜け出せぬ拘束となる。馬も獅子も鯨も、何人も逃げることの叶わぬ、不壊(ふえ)羈絏(きせつ)*1だ。

 

 僕は武蔵の上へ馬乗りになり、彼女の服をはだけさせ、肩、腋、腹、太ももを露出させる。

 

「な、なにするつもりなのよ……」

 

「僕をわからせようとしたからには、自分がわからせられる覚悟もあるよね?」

 

「ちょ、まっ――」

 

 僕は武蔵の腋に手を突っ込み、わしゃわしゃと五指を動かす。

 

「んひゃっ……!?」

 

「まだ腋弱いんだ?」

 

「んっ……! んっ……!」

 

 喘ぎながら身悶えする武蔵。その頬は赤く染まり、呼吸は荒い。

 

「んっ……! んんうっ……!」

 

「ふふっ、かわいい♡」

 

「こいつッ……!!!」

 

 武蔵は僕を睨みつけてくる。

 

 僕は一度手を止めた。そして――。

 

「え!? なにしてんのよアンタ!?」

 

 僕は着物をはだけさせ、肩と胸を露わにする。女好きのする、豊かな胸筋(おっぱい)。むっちりと膨らんだ筋肉は、女の欲を煽り、その身体を昂らせる。

 

 極上の肉体を前に、武蔵は食い入るように見つめている。

 

「おっぱい、触りたい?」

 

「さ、触りたいっ!」

 

 僕は武蔵に覆いかぶさるように、四つん這いになる。彼女の顔の目の前に、僕の胸がある姿勢だ。

 

「だめ~♡ 負けメスの武蔵には触らせませ~ん♡」

 

「うぁあああああああああッ!!!」

 

 目の前に極上のオスがいる。しかし、武蔵は決して抱くことができない。指一本触れることすらできない。

 

「ざぁ~こざぁ~こ♡」

 

「くそぉおおおおおおおおッ!!!」

 

 武蔵はもの凄い形相で咆哮する。

 

 さらに、さすっ♡さすっ♡と、女を誘う娼夫のような手つきで、武蔵の太ももを撫ぜると――。

 

「あっ、あっ、あっ……!」

 

 異能――桜芸妓(さくらげいこ)の遊戯。色街の最高級男娼にも匹敵する、女を悦ばす手練手管。

 

 ただし、武蔵に与えるのは、最上級の極楽ではなく、生殺しの地獄だ。

 

 また、異能――竹の心眼で、弱点を暴き、どんな風に罵られるのが悔しいか、どんな風に責められるのが好きかまで分かっているので、最も効果的にいじめることができる。

 

「武蔵のザコメス♡ 男に負けるのだいすきな変態♡」

 

「ちがうッ……! 変態じゃないッ……! ……んひゃっ!?」

 

 僕は、武蔵の耳奥へ舌を挿れ、淫猥な水音を脳へと注ぎ込む。また、彼女の腹をさわさわ♡と撫ぜ――内側の子宮を昂らせてやる。

 

「んっ、あっ、んんうっ……! あぁっ……!」

 

 武蔵は苦しげに悶えながら、切なそうな声を上げる。

 

「ッ~~~~~~~~!!!!!!」

 

 武蔵の顔が、死にそうなくらい紅潮する。耳も首筋も真っ赤だ。

 

 異能――桜芸妓(さくらげいこ)の遊戯のおかげで、武蔵の状態が手に取るように分かる。

 

 子宮が苦しさのあまり号哭しているのが伝わってくる。自らの性欲によって体が焼き尽くされんばかりに熱く、脳味噌が沸騰しそうになっている。

 

「あっ、あっ、あっ、これヤバいっ……!」

 

 武蔵は必死の形相だった。体を触られ、興奮させられ、噴火のように性欲が込み上げ続けて苦しんでいる。

 

「おねがいっ! ヤりたいっ! ヤらせて小次郎っ!」

 

「あははっ♡ だめ~♡」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 武蔵の額に青筋が浮かぶ。怒りのあまり、脳の血管がぶち切れる寸前の状態だ。

 

 それでも手を緩めず、武蔵の身体を撫で回しながら「ちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅぱっ♡ れろ~っ♡」と耳奥を責め続ける。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! これマジで苦しいッ!」

 

 燃えるような性欲に襲われ続け、武蔵は苦しんでいる。

 

 つらさ、悔しさ、恥ずかしさ。それら全てと性欲が混じり合い、身体の中で爆発しそうな程の熱となって、彼女自身を燃やし続ける。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! く゛る゛し゛い゛ッ! ヤらせてッ! ヤらせてよ゛お゛ッ!」

 

 腹、鼠径部、太もも。円を描くように、マ○コの周りばかり撫ぜる。性欲が燃え上がり、そのせいでより興奮し、けれど決して気持ちよくはなれない、最悪の悪循環。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!!!!!!!!!!!!!!! マ○コく゛る゛し゛い゛ッ!!! 触って゛!!! 意地悪しないで触ってよお゛ッ!」

 

「だめ~♡」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 武蔵は狂ったように吼えている。異能のおかげで、彼女の苦しさが伝わってくる。

 

 たまらない支配感に満たされる。女を意のままに弄んでいることが、心底愉しい。

 

「へ~♡ こんなにつらいんだ、女の性欲って♡」

 

「くそッ……くそおッ……!!!」

 

 武蔵は(まなじり)に涙を浮かべながら、僕を睨んでいる。

 

 僕は一度手を止め、懐からあるものを取り出した。

 

「武蔵、これ知ってる?」

 

 取り出したのは、一枚の札。表面には、幾本かの赤い線が不思議な紋様を描いている。

 

 不生(うまず)の呪符。これを腹に貼り付けて紋様を転写すると、およそひと月の間、子を孕まなくなる。陰陽師によって作られる避妊具である。

 

「不生の呪符でしょ、知ってるわよそれくらい」

 

「あ、そうなんだ。武蔵は使う機会ないから知らないかと思ってた♡」

 

「こいつッ!!!!!!!!!! バカにするなッ!」

 

 武蔵は怒り吼えながら暴れるが、起き上がることは叶わない。

 

 僕は札を、ぺたりと彼女の腹に貼り付ける。

 

「えっ」

 

 武蔵は呆然としている。

 

 待つこと約十秒。赤い紋様が彼女の腹に転写された。

 

「これで、交わっても子を孕まずに済むよ」

 

「え、な、なんで……?」

 

 武蔵はそう問いつつも、期待でいっぱいの眼差しで僕を見上げている。

 

「強くなったご褒美に、僕の体好きにしていいよ」

 

「えっ、まっ、マジ?」

 

 武蔵はにやにやと、たまらなく嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 僕は拷問吏の刑術による拘束を弛めてあげる。ただし――腰から膝だけが、自由になるように。

 

「えっ、あのっ、腰と膝しか動かないんだけど」

 

「ほら、がんばって、僕の身体に届かせてみなよ♡」

 

「お、お前えぇえええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 武蔵は大音声(だいおんじょう)で叫びながら、僕目掛けて腰を振る。

 

 へこへこ♡と、情けなく腰を突き上げる。まるで情事の腰使いだが、実際はただ腰を浮かせて下ろすだけの繰り返し。無論、繋がる雄などいないのに。

 

「ち゛く゛し゛ょ゛う゛ッ゛!!!!! ち゛く゛し゛ょ゛う゛ッ゛!!!!! くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 武蔵はひとり、へこっへこっ♡と腰を振りながら泣き叫ぶ。

 

 無様だった。

 

 最高だった。

 

 僕は恍惚とする。

 

 背骨を貫くような喜びが走る。嬉しさのあまり、天にも昇る心地だ。

 

 武蔵は地獄の苦しみを味わいながら暴れ続ける。

 

 ――まあ、そろそろいいかな。

 

 僕は武蔵へと顔を近づける。目の前に、空色の瞳がある。

 

「武蔵、可愛いよ」

 

「え、な――」

 

 武蔵へと口吻けする。

 

 舌を入れ、口腔内を撫ぜる。蹂躙するように舌を絡ませ――ぷはっ、と唇を離す。僕と武蔵をつなぐ唾液が、銀色に光った。

 

「っ……小次郎、アンタ、なに考えてんの……?」

 

「好きだよ、武蔵」

 

「……っ!?」

 

 武蔵との決闘を終えた後、僕の中に生まれた覚悟があった。

 

 ――ここまで一途に想ってくれる人と、一緒になりたい。

 

 僕ももう十八歳。オスガキを名乗るにはちょっと厳しい年齢になってきた。そろそろ、身を固めてもいい頃合いだ。

 

「決闘では僕の勝ちだったかもしれないけど、もう、心は決まってたんだ」

 

「……!」

 

 僕は、武蔵の目を真っ直ぐ見つめる。月明かりが彼女の顔を照らす。空色の双眸は、万感の思いを宿していた。

 

「武蔵――僕と、結婚してください」

 

「喜んで。必ず幸せにするわ」

 

「嬉しい、これからよろしくね」

 

 僕は思わず笑みをこぼす。胸がいっぱいだった。自分がこんな風に『普通の男』としての幸せを感じる日が来るなんて、思ってもみなかった。

 

 一方、武蔵は真剣な顔で――。

 

「それはそうとヤらせて。マジで性欲が限界」

 

「あははっ、うん、いいよ」

 

 僕は縄を解き、完全に武蔵を自由にしてあげた。すると、彼女は一瞬で体勢の上下を入れ替え、僕を押し倒す。

 

 血走った目、荒い鼻息。脳を肉欲に支配されたケダモノの形相だった。

 

「絶対わからせてやるわ、覚悟しなさい……!」

 

「ふふっ、むりだよ、武蔵。たとえ夜の戦いでも、僕の方が上だから」

 

 *

 

「あぁ~~~~~きっもちよかったぁ~~~~~」

 

 武蔵は感動の溜め息を吐き出している。

 

 僕は、異能――桜芸妓の遊戯を尽くして、武蔵を気持ちよくしてあげた。彼女はもう絶対に、他の男との情事では満足できないだろう。

 

「よかったね、武蔵」

 

「マジで天国だったわ……ありがとう、小次郎」

 

「どういたしまして、僕も気持ちよかったよ」

 

 勝ち負けを競っていたような気もするが、気持ちよかったので途中から忘れていた。まあ、夜の方は引き分けということで手を打とう。

 

 その後、僕は後処理を済ませ――配下のみんなに挨拶する。

 

「ということで、婿に行くね。みんなも元気でね~」

 

 配下たちは絶望の表情を浮かべながら、各々(めいめい)に嘆く。

 

 そして、僕は武蔵の腕に抱き着きながら、城を出ていく。すると、配下たちはみな、正門まで追いかけてきて――。

 

「待ってください、小次郎殿! 行かないでください!」

 

「私たち、小次郎殿のいない城で働きたくないです!」

 

「実はいじめられるの大好きなんです! もう貴方以外じゃ満足できないんです!」

 

「城長がいなくなったら、この城はどうするのですか!」

 

「次の城長は戦って決めてよ。全員で戦って、最後まで立っていた一人が次代の城長ってことで。じゃあ、ばいば~い!」

 

 *

 

 それから二年後。僕は二十歳、武蔵は二十五歳になった。

 

 春になり、穏やかな陽気に包まれる。開けっ放しの道場内に風が吹き、どこからか流れてきた桜の数片が舞い降りてくる。

 

 僕はお茶を汲んで、門下生たちに差し出す。門下生たちは床に座り、茶を飲みながら休憩する。

 

「いいなあ師範、美人なお婿さんもらって」

 

 近くに座る門下生が、僕と武蔵を見ながらそういった。最近道場に入門した、十歳くらいの女子である。

 

「あなたも強くなれば、いつかいい男と出会えるわよ」

 

「師範はどうやって出会ったんですか?」

 

「小次郎は元々ここの門下生なのよ」

 

「え、うそ!? 男の人なのに!?」

 

 門下生が僕を見て驚いている。僕は苦笑しながら頬を掻く。

 

「あはは、当時はやんちゃだったからね」

 

 武蔵が「やんちゃどころじゃなかったでしょうが。このオスガキが」みたいな目で僕を見ているが、気付かないふりをする。

 

 休憩時間が終わる。しかし、武蔵は稽古には参加しない。この道場で二番目に強い剣士が師範代となって、稽古を付けている。なぜなら――。

 

「あっ、今お腹蹴ったかも」

 

「本当?」

 

 武蔵は腹を撫でた。僕も武蔵の傍に寄り、彼女のお腹に手を当てる。

 

 かすかに、振動を感じたような気がした。

 

 名前はもう決めてある。――伊織。いつの日か、この宮本道場を継いでくれる、僕たちの大切な子どもだ。

 

 〈了〉

*1
繋ぎとめること





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