はらぺこヴァンパイア   作:棗の

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きっとなんとかなるから(二)-3月24日20時12分

三浦(みうら)家の夕食の時間は終わった。

(あずさ)はタオルを一枚だめにするほど泣いて、ご飯の片づけを出来る範囲で手伝って、それから両親と話し合った。

 

明日からの予定や、太陽の光への耐性の特徴。

必要な物のリストを梓と確認しながら、浩平(こうへい)は明日の有給休暇を申請していた。

 

薬を誰から買ったのかとか、いくらだったのかとか。

一美(かずみ)と浩平は決して聞かなかった。

危ない経路で手に入れた薬ではないだろうし、そのうち梓が言い出すのを待とうと二人の大人は思っていた。

 

梓の財布に入っていたお金がお小遣いではないことは知っているし、梓本人も言っていた。

 

昨日いきなり明かされた”日光に耐性を得る薬”が無料のものとも思わなかったし、それを買うためのお金がどこから出ているのかはなんとなくわかった。

 

ヴァンパイアが口にできるものが唯一何なのかは聞いていた。

それをどうやって手に入れてきたのかも想像がついていた。

 

それらすべての罪を責めるつもりはなかった。

そういう行為のことを大人の社会では共犯と言うし、親の責任として、何らかの叱責を加えるべきだと声を上げる心もあった。

 

だが、二人の大人の中では、法や倫理や社会通念よりも、最愛の娘がその決断に至るまでの苦痛に寄り添い、支える気持ちの方が勝っていた。

 

ドラマでも人が亡くなるシーンを見るのを嫌がるほど優しく純粋な梓が、連続強盗殺人に手を染めるまで、どれほどの葛藤があっただろうか。

どれほどの人数の死を見てきたんだろうか。

そこに至るまで、どれほどヴァンパイアの自分と向き合ったのだろうか。

 

人間の血しか口にできないこと。

それがどれだけ今の社会で苦難を強いられることか、病院勤めの一美は何となく気づいていた。

 

存在しないはずのヴァンパイアは、どれほどの嘘がないと存在を許されないのかも気づいていた。

 

だから一美と浩平は、自分にできることをしようと、梓が帰ってきてお風呂で歌っている間に、決意していた。

 

この一年間、いつでも娘が帰ってきてもいいようにと準備はしてきたつもりだった。

けれど、伝説上のヴァンパイアになって戻ってくるとは思わなかった。

 

おそらく本当に疲れ知らずで、ずっと起きている梓に気づかれないよう、二人は車で移動するたびに話し合いを重ねて、色々な準備をしてきた。

 

それは梓に内緒で誕生日やクリスマスのプレゼントを用意してきた数日間とよく似ていて、なんだか楽しかった。

梓が怖がる十字架の置物や神棚を家の中から撤去している間も、まるで梓の高校合格おめでとうパーティーを梓が出かけている間に準備していた時みたいだった。

 

 

梓は自分が準備していた学校での色んな場面での対応方法を、一美と話し合った。

いたずらっぽく笑って、一美は考えていた無数の嘘を梓に教えた。

梓の正直で、素直で、勢い任せな学校での対応方法に、一美がより実用的で、狡猾な嘘を塗り固めていく。

ヴァンパイアの特徴を、人間の世界の理屈で説明する嘘。

 

肌が色素が抜けたように白い。それに似た状態になる人間を知っている。

太陽の光を浴びられない。それによく似た疾患を知っている。

食べ物を食べられない。別の科のナースに聞き込みをして、似たような症例を集めた。

 

 

一美は思う。

娘のためという大義のもとに、一つまた一つと、人を傷つける嘘を組み上げている。

どの嘘も、人が苦しむ病や人生と向き合う者として、決して許されないこと。

医療従事者としての誇りに関わるもの。

 

自分の背に罪が這い上る自覚はあった。

 

夫に相談したとき、本当にいいのかと心配もされた。

 

けれども、最愛の娘がまた昼の世界に戻るために、嘘は必要なものだと信じていた。

そこに矛盾はないと思っていた。

 

娘のために自分ができることは何でもする。

お腹を痛めて梓を産んだその時から、一美の心は変わっていなかった。

 

 

浩平と一美の目線は、梓が社会に戻るための道へと向いていた。

社会からいないことにされている行方不明者の三浦梓が、再び社会に戻るために。

 

娘が背負わされた罪を、社会から隠すために。

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