はらぺこヴァンパイア 作:棗の
常夜灯だけが点いた、7階建てマンションの一室。単身者向けマンションのワンルームの中。
ベッドに寝転がる由佳の顔周りだけは白く照らされていた。
白く由佳の顔を照らす手元のタブレットには、
新しい一枚。
図書室の中で、スマホを見ている梓を横から撮った写真。
手元のスマホを見ながら、うっすらと開けた口から出た牙を触っている。
それはどう見てもアルビノ少女ではなく、
赤い目を柔らかく細めて、嬉しそうに、色っぽく。
ちょっとえっちな感じの顔。
その顔が、由佳のすぐ前にある。
ちょっとえっちな梓が、目の前にいる。
「あずさ……あずさぁ……」
由佳は上下ちぐはぐの色の下着姿だった。
由佳の指が、微かに膨らんだ乳房から首筋をなぞっていく。
白く光る画面の内側の少女が、そうしてくれるように。
ばたばたと暴れる足が、脱ぎ散らかした寝間着を蹴り飛ばす。
今日撮ったばかりの写真を見ていたら、気持ちが高ぶって、そこからは流されるように行為に及んでいた。
今日の昼休み。
梓がいつものようにどこかに行ったから、ご飯を食べて図書室に行くと、やっぱりいた。
遮光の強い席に座ってた。
遠くから覗いたら、なんだかスマホを見てにやにやしてたから、思わず撮っちゃった。
盗撮、だけど。
やっちゃいけないこと、だけど。
梓があまりにも綺麗で、可愛いから、やっちゃった。
許してもらえるとは思ってないけど。
誰にも見られないスマホの中に置いたから。
それに。梓と恋人同士になれば、いつでも撮らせてくれるし。
堂々と、梓の顔も、もっとえっちな写真も。きっと。
梓はスマホで、何を見てたんだろう?
きっと、わたしと撮った写真を見てた。
わたしの首筋を見て、噛みつきたいって思ってた。
「あずさ……あずさぁ……」
鼓動が高鳴る。指が乳房を荒々しく揉みしだく。
キスされて、噛みつかれて、血を吸われて。
きれいな梓に、体を求められて。
あの声で「由佳」って呼ばれるだけで、胸がきゅんきゅんして、抱きしめて、梓の体を感じたくなる。
大人っぽくてきれいで、クールな梓を抱きしめたら、熱っぽく見てくれるかもしれない。
押しに弱そうだし、男にも女の子にも慣れてなさそう。
わたしの運命の人。
わたしの恋人は、ヴァンパイア。
「吸ってっ……わたしの血、吸ってよ……」
首筋に爪を立てて、押し込んだ。ちょっとチクっとして痛い。
きっと梓の牙も、こんなふうに入ってくる。
わたしの血を吸って、えっちな目でわたしを見てくれる。
わたしだけを求めてくれる。
想像するだけで心の奥から無限に熱が湧いてきて、全身をめぐって、果てしなく高ぶっていく。
指が敏感な場所を這い回って、いつもは出さないような高い声が断続的に漏れる。
その声を目の前の妖艶なヴァンパイアが聞いているというだけで、指の動きが早まっていく。
「あずさぁ……っ……!」
一瞬跳ねた体がベッドに落ちて、ギシギシと音を立てた。
暴れる両手と両足が止まって、ふうっと長い息を吐いた。
持っていたスマホが、ぽとりと落ちた。
「はぁ…………」
絶頂のあとに冷めていく狂熱と、戻ってくる理性。
カラカラと回る換気扇と、低い音を立てる冷蔵庫。
遠くから聞こえる都心の喧騒。
現実が戻ってきちゃった。
ここにはだれもいない。
わたし以外、誰も。
「……梓、わたしに任せてね」
這い寄る孤独を、梓への気持ちで踏み潰した。
明日は球技大会。
計画は完璧。
梓は太陽の光が怖い。
だから球技大会に出ても怖がってるはず。
梓の前に立って、ボールを取って、投げ返して、梓にかっこいいとこを見せる。
クラスを半分に分けて、勝った方が隣の1年1組と戦う形式のはず。
梓とわたしは同じグループになるのは先生に確認済み。
1組にどんな人がいるかは知らないけど、うちのクラスなら、すごく運動が得意な人はいないはず。
「さすが由佳、頼りになるね」って言ってくれるはず。
そしたら手を握ってもらったり、頭を撫でてもらったりして。
そのままぎゅって抱き着いて、「梓、今度の休みにデートにいこ」って言えば完璧!
場所も調べてる。Paypayの残高もまだある。
「……服、デート前に着といたほうがいいかな」
スマホのライトで、窓際の突っ張り棒に引っ掛けた服を照らす。
梓とお揃いの服に似てる、ちょっといいトコの服。
高かったけど、思い切って買った。
しばらくご飯は朝抜き。夜も質素なご飯になる。
梓の私服はすごく可愛いし、完璧だし、わたしだって隣に並んで恥ずかしくないようにしたい。
メイクもちゃんと勉強しないと。
何にもやることがなかった毎日が、忙しくなっていく。
ぜんぶぜんぶ、梓と出会えたから。
運命のひとと会えたから。
「がんばろ……!」
今度こそ。