はらぺこヴァンパイア   作:棗の

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からっぽの熱情-5月16日23時12分

星野由佳(ほしのゆか)は自室のベッドの上にいた。

 

 

常夜灯だけが点いた、7階建てマンションの一室。単身者向けマンションのワンルームの中。

ベッドに寝転がる由佳の顔周りだけは白く照らされていた。

 

白く由佳の顔を照らす手元のタブレットには、(あずさ)の写真が写っている。

新しい一枚。

 

図書室の中で、スマホを見ている梓を横から撮った写真。

手元のスマホを見ながら、うっすらと開けた口から出た牙を触っている。

 

それはどう見てもアルビノ少女ではなく、恍惚(こうこつ)に浸るヴァンパイアだった。

 

 

赤い目を柔らかく細めて、嬉しそうに、色っぽく。

ちょっとえっちな感じの顔。

 

 

その顔が、由佳のすぐ前にある。

 

ちょっとえっちな梓が、目の前にいる。

 

「あずさ……あずさぁ……」

 

由佳は上下ちぐはぐの色の下着姿だった。

由佳の指が、微かに膨らんだ乳房から首筋をなぞっていく。

白く光る画面の内側の少女が、そうしてくれるように。

 

ばたばたと暴れる足が、脱ぎ散らかした寝間着を蹴り飛ばす。

 

 

今日撮ったばかりの写真を見ていたら、気持ちが高ぶって、そこからは流されるように行為に及んでいた。

 

 

今日の昼休み。

梓がいつものようにどこかに行ったから、ご飯を食べて図書室に行くと、やっぱりいた。

遮光の強い席に座ってた。

 

遠くから覗いたら、なんだかスマホを見てにやにやしてたから、思わず撮っちゃった。

 

盗撮、だけど。

やっちゃいけないこと、だけど。

 

梓があまりにも綺麗で、可愛いから、やっちゃった。

 

 

許してもらえるとは思ってないけど。

誰にも見られないスマホの中に置いたから。

 

それに。梓と恋人同士になれば、いつでも撮らせてくれるし。

堂々と、梓の顔も、もっとえっちな写真も。きっと。

 

 

梓はスマホで、何を見てたんだろう?

 

きっと、わたしと撮った写真を見てた。

 

わたしの首筋を見て、噛みつきたいって思ってた。

 

 

「あずさ……あずさぁ……」

 

鼓動が高鳴る。指が乳房を荒々しく揉みしだく。

 

キスされて、噛みつかれて、血を吸われて。

きれいな梓に、体を求められて。

 

あの声で「由佳」って呼ばれるだけで、胸がきゅんきゅんして、抱きしめて、梓の体を感じたくなる。

大人っぽくてきれいで、クールな梓を抱きしめたら、熱っぽく見てくれるかもしれない。

押しに弱そうだし、男にも女の子にも慣れてなさそう。

 

三浦(みうら)梓。

わたしの運命の人。

 

わたしの恋人は、ヴァンパイア。

 

「吸ってっ……わたしの血、吸ってよ……」

 

首筋に爪を立てて、押し込んだ。ちょっとチクっとして痛い。

きっと梓の牙も、こんなふうに入ってくる。

 

わたしの血を吸って、えっちな目でわたしを見てくれる。

わたしだけを求めてくれる。

 

想像するだけで心の奥から無限に熱が湧いてきて、全身をめぐって、果てしなく高ぶっていく。

指が敏感な場所を這い回って、いつもは出さないような高い声が断続的に漏れる。

 

その声を目の前の妖艶なヴァンパイアが聞いているというだけで、指の動きが早まっていく。

 

「あずさぁ……っ……!」

 

一瞬跳ねた体がベッドに落ちて、ギシギシと音を立てた。

暴れる両手と両足が止まって、ふうっと長い息を吐いた。

持っていたスマホが、ぽとりと落ちた。

 

「はぁ…………」

 

 

絶頂のあとに冷めていく狂熱と、戻ってくる理性。

 

カラカラと回る換気扇と、低い音を立てる冷蔵庫。

遠くから聞こえる都心の喧騒。

 

 

現実が戻ってきちゃった。

 

ここにはだれもいない。

わたし以外、誰も。

 

 

「……梓、わたしに任せてね」

 

這い寄る孤独を、梓への気持ちで踏み潰した。

 

 

明日は球技大会。

計画は完璧。

 

梓は太陽の光が怖い。

だから球技大会に出ても怖がってるはず。

梓の前に立って、ボールを取って、投げ返して、梓にかっこいいとこを見せる。

 

クラスを半分に分けて、勝った方が隣の1年1組と戦う形式のはず。

梓とわたしは同じグループになるのは先生に確認済み。

1組にどんな人がいるかは知らないけど、うちのクラスなら、すごく運動が得意な人はいないはず。

 

「さすが由佳、頼りになるね」って言ってくれるはず。

そしたら手を握ってもらったり、頭を撫でてもらったりして。

そのままぎゅって抱き着いて、「梓、今度の休みにデートにいこ」って言えば完璧!

 

場所も調べてる。Paypayの残高もまだある。

 

「……服、デート前に着といたほうがいいかな」

 

スマホのライトで、窓際の突っ張り棒に引っ掛けた服を照らす。

梓とお揃いの服に似てる、ちょっといいトコの服。

高かったけど、思い切って買った。

しばらくご飯は朝抜き。夜も質素なご飯になる。

 

梓の私服はすごく可愛いし、完璧だし、わたしだって隣に並んで恥ずかしくないようにしたい。

メイクもちゃんと勉強しないと。

 

 

何にもやることがなかった毎日が、忙しくなっていく。

 

ぜんぶぜんぶ、梓と出会えたから。

 

運命のひとと会えたから。

 

 

「がんばろ……!」

 

今度こそ。

 

 

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