はらぺこヴァンパイア 作:棗の
むかしのはなし。
まだヴァンパイアになって、今よりは日が浅かったころ。
前回、ラブホテルに泊まった時。
確か去年の六月ぐらいだったはず。
「ブラックドッグさん。血を売ってください」
電話の向こうの存在——死体処理を行う異形・ブラックドッグは一秒黙り、答える。
「それは出来ません。私たちの取り扱いできない物品となります」
「なんで! 死体消せるんだからできるでしょ!」
梓は思わず声を荒げていた。
この人たちは信用しちゃいけない。そう思っていても頼りたくなっていた。
「
知るわけがない。
「ああいや失礼。知っているわけがございませんね。日本国の法律では、有料で人体から採血すること、あるいは人の血液の提供の斡旋をすることが明確に禁止されています」
「…………死体消してる人がいまさら法律のことを言うの?」
電話の向こうでくすりと笑う声が聞こえた。
梓はいらだちに任せて、牙で自分の下唇を刺した。
「ああいや失礼。少々、久々でしたから。ヴァンパイアのお客様は。少々、くふふ。少々……ふ、ふふ。からかってみたかったのですよ」
何が面白いのか梓には理解できなかったが、ブラックドッグはそれから数秒笑い続けた。
「ふふ。さて、我々は、決められたものを、金銭と引き換えに提供する存在です。その中に血液はございません。これ以上はお話できません。それでは、また」
通話を切られた。
「ま、待って! 決めたって誰が!」
焦りでスマホを落としてしまって、そこで気づく。
やっぱりこいつらは信用してはいけない。
梓は信用できなかったので、調べてみた。
『血 買う』『輸血用血液 購入』
出てくるのは日本赤十字であったり、献血の募集だったり、質問サイトだったり。
助けになるものではなかった。
とても癪だけど、ブラックドッグの言っていた法律も調べてみた。
「『安全な
言っていることは半分ぐらいしかわからないけど、要は麻薬のように、売ったり買ったりするのがダメなものだと分かった。
アルバイトで買おうとしてもダメ。
献血所の人にお願いしてもダメ。
そうして時刻は現在に戻る。
梓は髪を洗い終えた。
黒ずんで泡まみれのお風呂のお湯を一回抜いて、また溜めてから入りなおす。
しばらく入って出て、ドライヤーで髪を乾かし、ユニクロで買ったシャツを着た。
カードキーと洗濯物の袋と財布を持ってホテルの外に出た。
隣のコインランドリーに駆け込んで、汚れた服を入れて、代金を払った。
恐る恐るホテルに戻って、廊下を小走りで走って部屋まで戻った。
「洗濯物はこれでOK……と」
ラブホテルで、ランドリールーム付きの場所を調べたけどさすがになかった。
場所によってはあるみたいだから、もし次があるなら、そういう所に泊まりたかった。
ちょっと寂しくなって、テレビのリモコンを手に取った。
電源を入れて、すぐに地上デジタルのボタンを押した。時刻は20時を回る頃だった。
今日は何曜日だっけと番組表を見ると、日曜日だった。
ちょうど男性アイドル達が無人島を開拓する番組をやっていた。
「あ……企画が変わってる」
洗濯が終わるまでぼんやりと番組を見る。
ちょっと前は海苔の養殖をしていたのに、今はロープウェイを作っている。
なんだか一年前と見え方が違う。アイドルの男の人たちがかっこいいとあまり感じなくなった気がする。
やっていることはすごいことなのに、なんだか興味のないドキュメンタリー番組を遠くから見ている気分になってしまう。
すごく自分がさびしい人間になった気分。
「……やだなぁ」
この番組は一年前まではよく見ていた。毎週日曜日に録画して、次の日のご飯の時間に家族で見ていたような気がする。
家族で、ご飯。
梓は一瞬スマホを取って、アプリ一覧のところを開いた。
緑色のアイコンを探そうとして、ぽいっとスマホをベッドに投げた。
「……だめ」
梓は首を振った。
思い出しちゃダメな事。
テレビを消して、大きなベッドに倒れこんだ。
気持ちがざわざわして、涙が出てくる気配がする。
そういうときは、寝るのが一番だった。
「6時間ぐらい、寝ようかな」
そう言って目を閉じて、死体のように動かなくなる。
【あとがき】
作者です。ここまで読んでいただきありがとうございます。
作中で書いた通り、殺人以外でまともに、正体をばらさずに安定的に血液を得る方法は私が調べた限り無いのですが、「いやこんな方法あるだろ」という心当たりのある方がいれば、是非感想欄で教えてください。
ちなみに動物の血液は×です