目覚めると白い天井だった。
と、そんな定型文を考えていると一つ理解してしまったことがある。
この時点で俺の人生を詰んでしまっていると。
呼吸が荒くなる、視界がかすんでいく。
頭がかゆくなる、背中もかゆくなる。
現実を受け入れられない、必ず死んでしまうことを理解してしまう。
肌がかゆい、爪が赤くなる。汚れがたまる、痛みを感じてしまう。
努力をしてもしなくても、結果が変わらないことがわかっている。
いっそもう一度寝てしまおうかと考える、手あたり次第に殴ってみる。
カルデアにおける主人公は自分ではないことが、運命がわかっている。
何をしても事実は変わらない、目に見える白く統一された寝具や棚、机それらすべてが否応なく現実だと認識させる。
「ははっっ・・・。」
乾いた笑いが口から漏れる。
記憶すら混濁している。魔術の使い方がわかる。俺の役職がわかる。俺の今までがわかる。俺が知っている機械がある。俺が知らないはずの機械を知っている。俺に機械への忌避感がある。俺は変わってしまっている。俺が変わったことがわかる。俺が変わっていないこともわかる。
数秒、いや数分ほど思考が巡り続けていると唐突にレールの上を何かがすべる音とふわふわしている声が部屋に響く。
「大丈夫かい?バイタルと様子がおかしかったみたいだから、来てみたんだけどってうわっ。
何をしているんだい?!血がにじんでいるじゃないか、それに部屋もあれているし。大丈夫かい?」
そう言って困惑とやさしさをもって現れた人物は、職員としてではなくプレイヤーとしてよく知っているロマ二・アーキマンだった。
ああ、わかっていた。
いや、わかっているとも。
俺がまだカルデアス爆破の事件を経験していない以上、生きていると。
ただの職員と医療担当のトップ、浅い関係でもすべてに気を配りすべてに気を許していないことを。
だからこそ、気遣ってはいけない。
俺が知っていることを知られてはいけない。
「いえ、大丈夫ですよ。少々自分の環境と状況に打ちのめされていただけですから。」
俺は言った。
以前まで俺がしていたように話しかけ、以前と同じように距離を取り、以前と同じように感情を制御する。
魔術の基本である感情の制御、以前までの俺がプレイヤーとしての記憶が焼き付く前の俺ができたことをする。
「そうだね、君も含めてカルデアにいる人々は様々な事情を抱えている。そんな問題を解決するためのセクションが、僕がいる医療部門なんだ。だから、頼ってほしい。こんな僕かもしれないが、話し相手にはなるよ。それこそおいしい饅頭とセットでね。」
髪をかき上げ笑いながらロマ二、いやロマンは言った。
「お気遣いありがとうございます。でも医療セクションのトップにお手間はかけられませんし、魔術師なのでこれぐらいはなんとでもなります。」
俺にはやさしさにこたえられるだけの勇気がなかった。
なにより、これ以上この人間に何かを背負ってほしくないから。
「そうかい?なら僕は用事があるから行かなきゃいけないけど、業務に差し障るようだったら僕に言うように。所長に僕からも進言して、所属している物資管理部門から配属の変更をお願いするから。」
そう言ってロマンは俺の部屋を出て行った。
よかった。魔術に気づかれなくてよかった。
今も頭が落ち着いている。いやこんな思考をしている時点で落ち着いていないのかもしれないが、少なくとも殴ったり傷つけることはない。
そんな頭で思う、これからやるべきことを。
優先順位としては
1、生き残れる方法を見つける。
このままだとカルデアスの演算から巻き込まれてしまう。
確かに主人公たちは覚悟していたし、あの選択をプレイヤーとして尊いものだと感じた。
だけどまだあの場所には到達していない、人理焼却を解決していない今のカルデアならあるかもしれない。
まあ、正直願望ではある。
2、ストーリー通りに進める。
1と矛盾しているじゃないかと思うかもしれないが待ってほしい、少なくともストーリー通りに進めばあのカルデアスまでは進むことが決まっている。なら余計な干渉をしてめちゃくちゃにするよりも、見守る方が安定だと俺は考えた。それに対策も打ちやすい。
3、協力者を見つける。
正直、一人でこの事態をなんとかできる気はしていない。だから早急に見つけなきゃいけない、俺の立場をわかってくれてかつストーリーの本筋を変えることに同意してくれる人物を。
一人、検討はついてるんだけど。どうしようかな~。
まずめんどくさい、次にうさんくさい。
なによりプレイヤーの意見の大半を占めていたろくでなしという言葉が似あいすぎてる。
だけど、唯一連絡手段がある。それも匿名で遅れて、おそらく誰にもバレることはないはず。そしてハッピーエンドという言葉が示すところは、俺が求めている生き残るという目的にも一致する・・・はず。
アナウンスA
「緊急事態発生。緊急事態発生。
中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。」
「中央区画の障壁は90秒後に閉鎖されます。
職員は速やかに第二ゲートから対比してください。」
「繰り返します。
中央発電所、及び中央——―」
背筋が凍りつくような寒気と鳥肌がたつ感覚が身を襲う。
サイレンと赤い光が部屋中を覆う。
ああ、本当の本当に来てしまったと。
衝動的に俺は走った。
無意識的に発動していた身体強化を用いて、体の記憶にあったカルデアの内部構造を元に。
ただ一つの場所を目的に走る。
それと同時に理解する。なぜロマ二が早く自分の元に来たのかを。
そりゃそうだ。レイシフトミッション直前に職員の一人が異変を起こしている。たとえそれが自室待機の倉庫整理係でも気にかけてくれる。気にしてくれるのがあの人だ。
それは善意だけではなく人理が滅ぶ光景を見たことが原因だ。
それこそ誰も信じていないし、信じている。
だからこその努力だったし、だからこその結末だった。
ロマ二について考えたところで、ようやく目的地にたどり着く。
そこにあるプレートには「中央発電所」そう書かれていた。