プレートには「中央発電所」と書かれている。
強化された聴力により聞くと内部の爆発音がしない。
非常電源に切り替わったのか、通路のランプも赤色に光り続けている。
「はぁっ、はぁっ。」
上がった息を整える。
魔術師として凡人の身としては、ここまでの後先を考えない魔力消費は負担が大きかった。
この選択について考える。
既に管制室と中央発電所は爆破されてしまった。
ならば、今から管制室に行っても手伝えることはないだろう。
やるべきことは一つだった。
カルデアスの火を絶やしてはならない。
今、観測レンズシバとトリスメギストスの運営を止めてはならない。
ここで止めてしまえば存在観測が失われてしまう。つまるところ藤丸とマシュの二人の事実上の死を意味してしまう。
それだけはダメだ。
時間がない。
早急に、迅速に、カルデアの運営を再開しなくてはならない。
気が進まないが、連絡するしかない。
今の自分の能力では何もできない、魔術も魔法も奇跡も自分にはそんな特別な力は何一つとしてないのだから。
だから、だからネットで調べる。
そのメールアドレスを、その電話番号を。
自分には使えない方法を持っている人への連絡を。
「申し訳ない。あなたが干渉しないことを過去に決断したことを知っている。」
「けど、頼みたい。今のカルデアにはリソースが足りない。今も藤丸とマシュはできることを頑張っているはず。」
「彼らの冒険をここで止めてはいけない、それもこんなちんけな爆弾の数個で。」
そう言い切る。
今の自分が考えていること。
保身も損得勘定も藤丸たちへの尊敬や畏敬の念も込めて話しきる。
「わかった、助力してあげよう。キャスパリーグもお世話になっていることだしね。」
その声が聞こえると同時に安堵したのかフラッと体が傾く。
思わず膝をつき、少しの間扉の前で茫然としていると。
赤いランプが止まり、いつも通りの青白い光に照らされた通路が目に映る。
おそらく自動修復機構、いわゆるスプリンクラーであったり魔術的な防壁であったりが動かせるほどのリソースを非常用電源の方に回してくれたのだろう。
ありがたいことに彼は誰が管制室にいるかも知っているし、何をできるのかも知っている。
今の自分よりもよほど効率的にこの事態に手を貸してくれることだろう。
「ところで、君はいったい誰なんだい?私の眼についても知っている。魔物の類かと思えばそうではなく、神や精霊の類でもない。何が目的なんだい?」
背筋が凍った、とはこのことを言うのだろう。
自分の才では感知できていないが、何かしらの魔力がうごめいているのがわかる。
現代の一般的な魔術師であれば対処できないほどの神秘の濃度。神秘を残した星の内海からの警告。
もちろん、凡人である自分では太刀打ちできない魔術の業。
「ま、待ってほしい―――。」
急いで自分の状況を説明する。
自分がこの世界の未来を知っていること、原因はわからないこと、そして人に対して害意は全く抱いていないことを。
少しの間だが空間に静けさが戻る。
身体強化の魔術による魔術回路全体の発熱と、脅迫と爆発事件による冷や汗により通路内の風の流れを気持ちよく感じる。
そして口を開ける。
「頼みがある。俺と契約を結んでほしい。とはいえサーヴァント契約ではなく、一般的な魔術の契約のことだ。口頭による契約を行いたい。契約内容は一つ。俺と協力関係になってほしい。そしてこの詰んでしまっている世界を変えたい。」
「一つだけ問いたい。その契約は私にとって何かメリットがあるのかな?少なくとも私は君の話を1割も信じていないけど。」
「もちろん、ある。このままだとハッピーエンドにはならない。どうあがいてもビターエンドだ、それも本人たちには解決できないタイプのエンドだ。人類が描く模様を楽しみにしているあなたが、そのために過干渉をやめたあなたが、彼らの旅路が何にも影響を与えないことに耐えられないはずだ。」
ここまでだった。
あありにも時間がなかった、これ以上の説得の材料を用意できなかった。
だからこそ一番の熱量で、自分も尊いモノを見たとそしてそれを守りたいと訴える。
この気持ちはあなたと一緒なのだと。
「そうか、君は私の過去をまるで見てきたかのように言うんだね。そしてハッピーエンドを見たい・・・か。困ったな、君を否定する材料を見つけられない。まさか嘘を一つも言っていないとは思わなかった。」
「よしわかった。魔術師マーリン、花の魔術師として君に協力をしよう。とはいえこの契約が絶対とは思ってほしくないけどね。」
この時、俺は最高のろくでなしな協力者を手に入れることができた。