今の自分は藤丸とマシュがオルレアンで頑張っている姿をモニターで見ている。
想像以上だった。
プレイヤーとして文章では知っていたけど、実際に見ると違った。
間違いなく人が死んでいる。藤丸やマシュも傷ついてる。
グロかった。
若干の吐き気と体調を標準に戻すために魔術刻印が働くことを感じている。
冷静な頭と異変を生じている体を使って、彼らの存在証明を続ける。
一つ、マーリンとの契約が終わってからの変化があった。
それは魔術師としての自分の記憶がより明瞭になったことだ。
ブレンネン家は本家から外れた分家であり、創造科所属の魔術師だった。
古くは鉱石科の本家から分流し、1800年代に株分けと独自の方法による到達を目指した家系だ。
術式は細分化され、今は投影との関連が強い「現像」の魔術式がうちの魔術だ。
写真の現像、強い明かりを当てて実物から虚像を作り出す行為そのものだ。
投影と同じじゃないかと自分でも思った。
けど、少しだけ違うと思い直す。
投影は影を作り出すが、現像は何かに焼き付ける。
どこぞの主人公は除いて投影は残らないが、現像は基本的に残る。
残れば、触れる。触れれば、到達できる。
この工程をもってうちの家は根源へと至ろうとしていた。
と、ここまでが魔術師としての記憶だ。
問題は自分の魔術師の才能がそこまでなく、三男だってことだ。
魔術刻印を受け継いでなければ、秀でた能力もない。
つまりこの状況に使えるモノは何もないことだ。
「お疲れさん、そろそろ交代の時間だ。」
肩をたたかれながら声を掛けられる。
「ああ、ありがとう。ちょっと部屋で休憩させてもらうわ。」
お返しに肩をたたき返しながら、話す。
爆破事件から一週間弱たったことで、カルデア内の全員が顔見知りになる程度には関係性ができた。
だから多少の個人の時間は持てるし、ちょったした頼みをお互いにすることもままある。
それこそ彼とは交代順を少し変えてもらった、まあバイトみたいなものでロマ二に通せば割と自由が利く。
と、そこで目的の部屋に届く。
そこのプレートにはダ・ヴィンチの魔術工房と書かれている。
「失礼します。ダ・ヴィンチちゃんはいますか?」
「もちろん、いるとも。さて、なんの御用でこの万能の天才が必要なのかい?もしかしてまたお土産を持ってきてくれたのかい?」
このタイミングが初対面ではもちろんない。
もともと爆破事件前にも少し話をしたことはあったが、ダ・ヴィンチちゃん呼びになったのは先日のことが原因だった。
本当はあまり関わる気はなかったけど、彼らの手助けをするにはしょうがない。
なにより興味を持たれてしまっては、こっちからはどうしようもない。
だから少しだけ事情を話してみた、彼らのことを手助けしたいが手段がないから手伝ってほしいと。
「今日はお土産は持ってきていないけど、藤丸のために作ってほしいものを伝えに来たんだ。」
「そうかお土産は持ってきてくれていないのか、残念だ。でも問題ないとも、まるで未来を知っているかのような考え方に興味があるからね。いったいどんなものだい?」
「今後、おそらく藤丸は相当な距離を移動しなきゃならない時が来ると思います。だからその時のために移動用、もしくは身体強化の魔術礼装を作ってあげてほしい。今のままだと藤丸がそうとうな苦労をしてしまうことになりそうなので。」
「今の藤丸君が着ている魔術礼装は私から見てもそこそこ出来がいいものだと思うけど、それでも足りないのかい?今のままでも半日ぐらいなら歩き続けられるくらいには補助が働いているはずだけど。」
「考えているのは少なく見積もって時速200キロ、距離は4000キロぐらいを。」
敏捷Aのヘラクレスの妨害を受けた速度と、アメリカ大陸を東西に移動するときの距離を思い浮かべる。
どれも一般人には不可能なことで、プレイヤーとして知った時も驚愕が先に来たことだ。
「!?それはまた、ずいぶん具体的で突飛な数字だね。藤丸君がサーヴァントと鬼ごっこでもすると思っているのかい?」
「まあ、あればいいなぐらいなので。それともう一つ、絶対に作ってほしいもので魔力を活性化させる薬剤的なものとそれを魔術礼装にも簡単に使える機構を取り付けてほしい。」
「本当に君はいったい・・・いや、私からは何も聞かないよ。怪しい様子はないし、なにより藤丸君たちの手助けをしたいと本当に思っているみたいだしね。とはいえ、いつでも話くれるのを待っているけどね。一人で抱え込んだっていいことはないよ、凡人はもっと天才たる私を頼るべきだからね。」
「作成の方、よろしくお願いします。あとお願いはまだあるのである程度余裕が生まれたら連絡してくれるとありがたいです、失礼します。」
正直、自分は若干ダ・ヴィンチちゃんが苦手だった。
プレイヤーの時は好きだったが、今はあの顔に苦手意識がある。
今後どうなってしまうかを知っているし、今の自分にはその未来を変える気がないからだ。
彼が出て行った扉を見ながらつぶやく。
「いったい凡人のくせに何を背負い込んでいるんだか。あれじゃあロマ二よりもひどいじゃないか。」
目が、見たことがある目をしていた。
賭け事で負けた目、告白して振られた目、処刑台に向かう者の目、奴隷の目。
結末が変えられず諦めしかない目。
そのくせ、自分が見捨てたものを視てしまう。
彼が言ったことを思い出す。
同時翻訳、速度と距離、そしてアンプル。
どれもが適切な提案だった。経歴からは考えられないほどの先見性と秘匿性。
この天才が考えていたことを凡人があそこまで思いつく異常事態。
少しかぶりを振って、胸を張る。
「まあ、いいとも。この万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんが君を手助けしてあげよう、なぜなら天才とは世話焼きなものなさ。」