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「……え?」
目が覚めるとそこはもはや懐かしいと感じてしまうようになった
――ジリリリリリッ―――
「うおっ、目覚ましか……」
突如ベッド脇で鳴り始めた目覚ましに驚いて体が震える。恐る恐る目覚ましを取ってベルを止める。何が起きているのか分からなくなってこれが本当に現実なのか頬をつねろうとする。
「ほら、○○起きなー! って起きてるじゃないの。目覚まし止めたならサッサと降りてきなさい。朝ごはん出来てるから!」
「お母さん……?」
頬に手を伸ばしたところ、部屋のドアを開けてお母さんが入ってくる。……あぁ、こんな顔だったっけ。
「なぁに素っ頓狂な顔してんの? 寝ぼけてないで顔洗ってテーブルついて。学校遅れるよ! ほらあんたも!」
お母さんはそう言って隣の部屋のドアを開けて妹も起こしている。隣の部屋からは姿が見えないがもにゃもにゃと妹が寝ぼけて声にならない声を上げている。
「あぁ……。帰って来たんだ」
ベッドから立ち上がり長い長い夢を見ていた身体を思いっきり伸ばす。イリヤ、美遊、凛先輩、ルヴィアさん……。今思うと中々個性強いキャラだな。にしても魔法少女って、俺にあんな趣味があるのか……? 俺は机の上に置いてあった『ゴジラVSデストロイア』のDVDを手に取る。
「……良い夢だった」
うん、色々あったけど総評すればいい夢だった。DVDを棚に戻して部屋を出る。懐かしすぎる家は所々間取りを忘れていてこんなもんだったっけ? となりながら、朝の準備を終わらせて学校へ向かう。
「うん、なんとかなるもんだな」
正直通学路とか全然覚えてなかったけど、体が覚えていたようでいつの間にか学校についていた。いやー、全然どこ通ったか記憶にない。
「おーい○○!」
「おはよう!」
おー、懐かしきクラスメイト達! もはや名前なんて覚えていないから名札があって助かった! ……いや、字が汚くて読めねぇ。名札の名前ぐらいしっかり書いてくれよ……頼むから。あー、まぁ良いだろう。一緒に教室で過ごしていればそのうち思いだすし、こいつは確かサッカーが上手かった。昼休みとか毎回サッカーやってたいたからそれだけ覚えてればどうにかなるだろう。
久々の教室に入ればおーおー、どれもこれも懐かしい顔だ! あー、全員名前も顔も覚えてねー。こんな感じだったか。一日しかたってないのにすっごい久々だ。
「雀花……」
まぁ、当たり前だけどいないか。ちょっとだけ、ちょっとだけだけど寂しい気もする。
「ただいまー!」
いやー、楽しかった。長らく忘れて居た気がするこの感覚! 授業中先生の話を聞かずにただ呆けて居たり、給食のおかずの余りでじゃんけんしたり、昼休みにルールも減ったくれもない様なただみんながボールを蹴りたいだけのサッカーやったり。沢山、遊んだ! 沢山ふざけた! もう遊び過ぎて今日なにやったか全然覚えてない! 走ってたら家についてたし、まーた帰り道覚えてない! もう色々疲れたしね全部明日でいいや! 家に帰ったらお母さんがいて、今日学校であったことを話ながらおやつ食べて、宿題して! それで晩御飯を食べて! ゲームして! いろいろなことが久々過ぎてやりたいことが盛りだくさんだ!
「おかえりなさい。うんうん、色々安定してきたようでなによりだ」
「え?」
家に入ると満面の笑みで知らない人が俺を迎え入れた。白い服に白い髪、そして大きな杖。まるで魔術師みたいな―――。寒い、どうしてか分からないけど急に冷えてきた。手足の先が冷たく感じて震えが止まらない。
「いやー、ごめんね。できればもっと色々再現してあげたかったのだけれど、いくら夢魔とはいえ君自身が覚えているものしか再現できなくて。だから朝からの記憶も所々抜け落ちてるし、家族や友人の顔も少し違和感があっただろう?」
え、あ、アレは俺が浮かれすぎたからじゃなくて―――。
「違う違う、そこらへんは君の記憶にないだけ。だからそこらへんは私がちょちょいと弄って違和感を出来るだけ少なくしたんだ。今日一日とても楽しかっただろう? それにしては具体的な記憶があまりに少ない。結局どんな朝ごはんを食べたか、家から学校の道も、友達の名前も、どんな授業を受けたのかも、曖昧だろう? 妹に関しては存在だけで顔も声もあいまいだから登場もしなかっただろう。そして君はそれに対して違和感を感じていなかった。つまり
あ、あああぁ、あああぁぁぁぁ。そんな、そんなはずない。俺は覚えて、覚えてる。今は少し混乱してるだけで少しすれば全部思いだすに決まってる!?
「そうはいうけど君。自分の名前すら曖昧じゃないか。『沖繫レイ』くん」
!?!?!!? ぅ゛おぇ
「おやおや、夢の中とは言え受け止めきれなかったか。うん、存分に吐いて楽になると良いよ」
なんで、こんなこと……。
「それは君が不安定になっていたからね。君にはしっかり人して枷として機能してもらわないと困るんだ」
人……枷……?
「君、衛宮切嗣だっけ? 彼の言葉を受けてかなり精神的に参ってただろう? 君が自身を『怪獣』として正しく認識してしまうととても困るんだ。だからこうして君の魂の奥底にある人としての原初の記憶を再現して見せてあげたという訳だよ。人と獣の間だ揺らいだ心を人としての記憶を見せて人寄りに調整するんだ」
その言葉が本当なら俺の正体は……。
「ん? あぁ、そうだね。君は人間じゃない、君は正真正銘『怪獣、デストロイア』だよ」
それ、俺に言って良いのか? あなたはさっき俺に怪獣であることを認識させると不味いって……。
「平気平気、ここは深い深い夢の中。朝起きたときには私とあったこと含めて全部忘れて居るさ。あくまで記憶を魂の根本を人寄りに補強するだけの作業だから日常で君が記憶している必要はない事柄だ」
……そもそもどうして俺がデストロイアに?
「あー、それ? 端的に言うと今君が過ごしている世界、それがなにもしないままだとバッドエンドで終わってしまうからかな」
バッドエンド?
「そーなんだ。私の目は特別でね、世界の全てを見通す千里眼。過去も未来も、別世界の事だってお見通しなのさ。まぁ、そんなわけで色々な世界を眺めていたんだけどこの世界、なんの因果かデストロイアが目覚めてしまったんだ。デストロイアがどれほど危険な生物か、そして放置したら世界がどうなるかは君も予想がつくだろう?」
まあ、はい。
「そもそも私にとっては最初あの生物は一体何なんだ、から始まってね。色々な世界を急いで見て回ったんだよ。そしたらなんと見つけたんだよ。君のいた世界と、君を! あの生物が『デストロイア』と名付けられて映画に出ている世界を!」
……
「本来ならその映画の対応策をこの世界の誰かに伝えるだけでも良かったんだけど、それでは足りなかった。あのいたいけな少女たちが犠牲になってしまう未来しか見えなかった。これではバッドエンドじゃないか! そこで私は考えた、逆にデストロイアを少女たちの側に付けられないか、とね。そうすれば、少女たちは犠牲にならないし、デストロイアがいない世界で犠牲になった少女や命が救えるかもしれない、とね」
多分その少女たちってイリヤ達の事ですよね。
「おやおやネタバレは良くない。これ以上の情報は渡せないぞー! たとえこれが忘れ去られる夢だとしてもね。
ともかく私はそこでデストロイアに枷を付けることにした。抑えもなしに獣と化してしまっては本末転倒だからね。
それが君だ。デストロイアのことをよく知っているからこそ、能力を活かすことが出来て、人としての良識を持ち合わせ獣へと堕ちづらい。なにより稀有な無垢さを持った私好みの男の子!」
それで自分をこの世界へ送り込んだ、と。
「そーそー、アーサーを獣討伐の旅に出したときの応用でちょっとね」
アーサー? アーサー王関連の魔術師って……。
「おいおいおい、そこまでだよ。私の正体はまだ明かさなくても良いだろう? どうしても呼びたいならレディ・アヴァロンとでも呼んで欲しいな。取り合えず調整も終わった。ここで君とはお別れだ。君にはまだまだ苦難が訪れる。けど可愛いヒロインも出来るから頑張りたまえよ! さぁ、どうか私に楽しい物語を見せ続けてくれ!」
あっ、ちょ!
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「……う、あ゛……」
ここは? どこ? 俺は確か……。いや、全然わからん。気が付いたら見知らぬ部屋でベッドに寝かされていた。
「起きましたか、レイ」
「院長?」
部屋のドアが開くと御粥を持った院長先生が入って来た。……孤児院ではあるらしい。こんな部屋あったか……?
「ふふふ、ここは病気になった子が寝泊まりする為の部屋です。レイは初めての利用でしたね」
「病気?」
え、再生能力を持ってる俺が? 病気? マジで?
「えぇ、朝あなた達が寝ている部屋に行ったらとても魘されていて、顔も朱かったのでもしやと思い手を体に当ててみたのです。そしたらとても熱くて。私もレイが熱をだすなんて初めてでしたので心配しましたよ」
そう言いながら院長は俺の首元に手を当てる。あー、マズイ、院長の手がひんやりしているように感じる。それだけ俺の体が熱いってことか。
「まだ少し体温は高いですね。おかゆ、食べられますか? もうお昼時で今までずっと寝ていましたから何も食べていないのですよ」
「ありがとうございます」
通りでお腹が減っていると思った。院長からおかゆを受け取り口へと運ぶ。おいしい。とても、とても美味しい。もう、思いだせないお母さんの味も、こんな優しい味だったのだろうか……。
「レイ……?」
ダメだ、一度考えてしまうとどうにも涙が溢れてくる。止められない、違う、美味しいのに、嬉しいのに……。
「なにか、あったのでしょう? もしよければ、聞かせて下さい」
「き、あらせんせい……」
頭がすっと暖かくて柔らかいものに包まれる。上を見上げればキアラ先生が俺を抱きしめてくれていた。
「わからないんです。なにか、大切な物を忘れて……。でもそれがなにか思いだせなくて……とても辛くて……」
「……大丈夫ですよレイ」
キアラ先生は優しく俺を撫でてくれる。その手はとても暖かく、蕩けるようで―――。ああ、きえる、きえる。うすれていく、いやなものぜんぶきえていく。たもてない、いしき をたもてない。
「おや、眠たくなってきてしまいましたか? ふふふ、良いですよ。レイが甘えてくるなんてめったにありませんから。……今くらいは私に身を委ねてください」
おや スみ、きあらせん せい。
「獣となるか、人となるか、どちらにせよ。私はあなたを救って差し上げましょう」
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「やっぱり駄目ね。もう少し熟してからじゃないと。まあ良いわ。貴方はセイバーの願いを叶えるためのとっておきなの……。ゆっくりゆっくり育って頂戴」
少女は望む自分の王子様の願いの成就を。一度は彼に拒絶されたが、それでも恋する乙女止まれない。再び彼の願いを叶えるために彼女はあらゆる方法を模索した。そうして別世界で見つけたのだ。彼に討たれた獣、もはや欠片しか残らぬそれを復元するためのあらたな獣の核を。しかし未だ未成熟であるためか獣を呼び出すことは叶わない。それならそれで彼女は核が相応しい形へと成長するまでの愛しい彼に会えない時間を『遠距離恋愛』という体で過ごすことに決めた。
大聖杯のその淵で沙条愛歌は待ち望む。
「沖繫レイ……早く獣にならないかしら」
愛しいセイバーへの願いが叶えられるようになるその瞬間を。
いやー、レイ君モテモテでしたね。ほんと。