プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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伝える愛

エーデルフェルト邸

────────────────────────―――――――――

 

 

 へえ……この家、こんな部屋あったんだ。俺達は黒イリヤを捕獲後、拘束してルヴィアさんの家の一室に連れ込んでいた。目の前には両腕をぐるぐる巻きにされて十字架のような台に拘束されている黒イリヤ。

 

「さて……それじゃあ尋問を始めましょうか」

「……この扱いはあんまりじゃない?」

 

 まぁ、そう言いたくなるのも分かる拘束具合だ。

 

「抗魔布の拘束帯まで持ち出して……まったくここまでしなくても危害を加えたりしないわよ。イリヤ以外には」

「それが問題なんでしょーッ!?」

 

 黒イリヤの言葉に強く机を叩いて抗議するイリヤ。うん、そうなんだよね。実際そこが一番の問題な訳で。

 

「残念だけど貴女には弁護士を呼ぶ権利も黙秘をする権利もないわ。分からないことだらけなの……全部答えてもらうわよ」

「全部ねぇ」

 

 凛先輩は真面目に問いただす気満々だが黒イリヤの方はなんとなく不真面目な感じ。たぶん、全部を語る気なんてさらさらないだろうな。

 

「まずはそうね、貴女の名前を教えてもらおうかしら?」

「名前? イリヤだけど。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 ほーん?

 

「ちなみに、嘘をつく権利も認めないわよ?」

「心外ね。嘘なんてついてないわ」

「どうだか……。貴女の目的は?」

「まあ、イリヤを殺す事かなー」

「……なら自分の首でも絞めれば良いでしょ」

「わたしじゃなくて、あっちのイリヤだってば」

 

 テキパキと続く会話。しかし内容は一行に進む気配はなく、ややこしさと面倒くささだけが増していく。あ、凛先輩が限界を迎えて机叩いた。

 

「ああもう!! どっちもイリヤじゃややこしい! えーと……黒……クロ!! 黒イリヤだからクロで良いわ!!」

「私は猫か?」

「そうですよ、凛先輩。流石にそれはそのまんま過ぎます」

 

 犬猫じゃあるまいし……。いや、まぁ私から見れば犬も猫も人も大差はないが。

 

「クロだから……もうちょっと女の子らしくして……『クロエ』。クロエでどうかな?」

 

 そう言って俺はクロエに話しかける。気に入ってくれると良いんだけど……。

 

「クロエ……。えぇ、私はクロエ。それでいいわ」

 

 良かった気に入ってくれたみたい。

 

「そう、分かったわ。それじゃあ、クロエ。イリヤを殺そうとする理由は何? まさか、オリジナルを消して私が本物になってやるーとか、そんな陳腐な話じゃないでしょうね?」

 

 凛先輩も納得してくれたようで黒イリヤの名前はクロエとなった。

 

「あれ、よくわかったね。まあ、おおむねそんな感じ」

 

 なめほど……。確かに折角体を他に入れたんだ。色々とやりたいこともあるだろう。ただ、それでイリヤの殺害につながるのはどうしてだ……? クロエは俺にち、ちゅーしたのも生きる為の行為と言った。何か、そういう行為をしないと、そしてイリヤを殺さないと生きられない事情がある?

 

「……貴女は何者なの?」

「核心部分? んー……ネタバレは、まだちょっと早いんじゃないかなぁ」

 

 ここでだんまりか、面倒だな……。私の力で腕の一本や二本切れば話す気にもなるか? いやでも尋問の主導は凛先輩だし俺が勝手になにかするのも違うか。

 

「もう良いわ」

 

 そう言って凛先輩は立ち上がった。どうやら尋問を終了するらしい。

 

「あら、全部聞き出すんじゃなかったの?」

「聞き出すわよ、いずれわね。でもその前に、イリヤに関する抑止力を作っておきましょうか」

 

 そいう言って凛先輩とルヴィアさんが本やら、宝石やらを取り出し始める。

 

「邪魔になりそうだし少し下がっておこうか」

「うん」

 

 俺がそう声をかければ美遊は頷いて一緒に部屋の端の方で待機する。

 

「ルヴィア」

「えぇ」

「え?」

 

 凛先輩が注射器を片手にルヴィアさんに声をかけたと思ったら急にルヴィアさんがイリヤを羽交い絞めにする。

 

「え……いあーーーーッッ!?」

 

 お、ブスッといったぁ……。イリヤに思いっきり注射をぶっ刺した凛先輩。唐突な注射にイリヤの絶叫が響き渡る。

 

「ひ、ひどい……」

「ちょっと血を抜いただけよ。大げさね」

 

 いや、告知なしにいきなりの注射はヤバいでしょ。というか……うわぁ。イリヤの血と宝石を混ぜてる?

 

「何をする気……?」

「言ったでしょ。抑止力よ」

 

 お、おお?

 

 凛先輩がクロエの腹に何か模様を描いた後呪文を詠唱する。これは……呪術の一種か?

 

「な、なにーーー!?」

 

 事態を飲み込めていないイリヤの絶叫が再び部屋に響くと同時に模様が光り出し、辺りに魔力が駆け巡る。

 

「これは……人体血印……呪術ね。何をしたの!?」

 

 クロエが凛先輩を睨みながら叫ぶ。

 

「イリヤ」

「なに……?」

 

 しかし凛先輩はそんなクロエの質問に答えずイリヤを手招きした。そして寄って来たイリヤの頭をはたく。……はい?

 

「「あだっ!?」」

 

 そして上がった悲鳴は二つ。……おや?

 

「いややややややややややややッ!?」

「いだだだだだだだだだだだだッ!?」 

 

 今度はイリヤの頬をつねる。上がる悲鳴は二つ。ほほう。

 

「ギブギブギブ!?」

「ウーマンリブ!?」

 

 今度は格闘技だ。悲鳴はやっぱり二つ。成程。

 

「痛覚が連動している……」

「正解よレイ。痛覚共有よ。ただし、一方的な……ね」

「やってくれたわね……」

「主人が感じた肉体的な痛みを、そのまま奴隷に伝え、主人が死ねば、その『死』すら伝える。シンプルで、それ故に強固な呪いよ」

 

 しかも伝達はイリヤからクロエの一方通行。……嫌な呪いだ。

 

「そう、つまりこれで貴女はイリヤスフィールの『肉奴隷』と言う事ですわ!!」

「いや、それは違う……」

 

 ……なんかルヴィアさんってたまにズレるよなぁ。そんなこんながありながら一旦その場は解散、クロエに関してはこのままルヴィアさんの家で拘束しておくことに。少し可哀そうだけど取り合えず色々落ち着くまでは我慢してもらおう。

 

「レイ、貴方も早く出なさいな」

 

 凛先輩とイリヤは既に部屋を出て玄関へ向かっている。俺は未だ部屋の中に居てクロエの方を見ている。……その視線に気が付いたのかクロエはこちらに笑顔を向ける。背中にルヴィアさんの催促の声がかけられる……けど……。

 

「ルヴィアさん、1分……いや、30秒でも良いです。彼女に一言だけ」

「……仕方ありませんわね。部屋の外で待っていますわ。なにかあったらすぐ大声を上げなさい、よろしくて?」

「ありがとうございます」

 

 ルヴィアさんはそう言って扉を閉めてくれた。外部からの眼はない。クロエと二人きり……これなら。

 

「どうしたのレイ?」

「……」

 

 俺は拘束されているクロエの傍まで駆け寄る。そして彼女の頬にそっと手を添える。手が震える。当たり前だ、だって俺がこれからしようとしていることは……

 

「れ、レイ? 黙り込んで本当にどうし――――っん!?」

「っ」

 

 クロエの唇にキスをする。クロエからじゃない、しっかりと自分から。し、舌は入れない。やり方とかよくわかんないし、された時も混乱で全然どうやって舌が動いてたとか覚えてないから。だから本当に唇を合わせるだけのキス。手も震えてるし、眼も思いっきり瞑っちゃってるから自分が全然余裕のない表情をしているのも分かる。ほんと、カッコ悪いキスだと思う。けど―――伝えたい。自分を好きだと、大好きだと言ってくれた女の子に―――

 

「ずっと思ってた……君に僕の声が届いて欲しいって。いつかお喋りしたいって。一緒に遊んでみたいって。生れてきてくれてありがとう。それだけ伝えたかったの」

 

 それまで行ってゆっくりと目を開ける。

 

「あ……」

 

 これまでのクロエとは違う恥じらいで赤く、驚いているような顔が目いっぱいに映る。

 

「……それじゃ!」

 

 なんだかずっとその表情を見ているととてもイケナイことをしている気分になってきて、急いで部屋を出る。幸い時間は過ぎていなかったようでルヴィアさんも何も言ってこなかった。ルヴィアさんにお礼を言って俺も駆け足で玄関へ向かう。顔が熱い、鼓動が早い。思考がふわふわしてる。う、ううぅぅぅぅぅ!!

 

「頭がフットーしそうだよぉ……」

 

 凛先輩が一応の緊急用にイリヤにランサーのクラスカードを渡しているのを横目に俺は速足で孤児院に帰宅する。嬉しいやら、恥ずかしいやらですぐさま自分のベッドに飛び込み、ジタバタする。他の子供たちが『どうした? 』という目線を向けてくるが知ったことか! いまはこのぶつけようのない感情をどうにかして処理するのに忙しいんだ!

 

「……う、ぅぅぅ」

 

 ふー、ふー、なんとか、落ち着いてきた。いや、でもまだ顔あっつい。

 

「レイ、どうしたのです?」

「い、院長!?」

 

 どぅわ、びっくりした……。気が付いたら院長が部屋の中にいた。いっ、いったい何時から……。いや、もしかして丁度いい?

 

「あ、あの院長……」

「はい」

「す、好きな子が出来たんだけど……。女の子ってどうしたら喜んでくれるの?」

 

 は、恥ずかしい! けど身近にいる相談できる女性って院長ぐらいだし……。

 

「まぁ! ふふふ、そうですか、レイに。ふふふ、ふふふふふ」

 

 なんだか、院長めっちゃ、笑ってるし……。え、サクランボですか。確かに旬ですけど……。実は食べないんですか!? 必要なのは茎のほう? ……茎は食べても美味しくないですよ?

 

???

────────────────────────―――――――――

 

 

「あら、恋を知ったのね。……えぇ、恋はとってもいいものよ。恋はいずれ愛となって世界を変えれるほど大きな力になるの……。いいわ、いいわよ。そのまま貴方の欲の思うままに愛を示すと良いわ。私はセイバーへの愛で、あなたはその子への愛で。二人の大きな愛で私たちは人理を超える『獣』となるの……」

 

 愛歌は閉じていた目を開き愛のすばらしさを語る。愛しいセイバーとの思い出に浸り、恍惚の表情を浮かべる愛歌の視界に沢山の花びらが写り込む。

 

「……私の加護がよく途切れると思っていたけど君の仕業だったのか、沙条愛歌」

「あら……誰かと思ったら私のセイバーの周りでウロチョロしてる羽虫じゃない」

 

 花びらの渦の中から姿を現したのはマーリンだった。もしここに話題のセイバーがいればさぞ驚いただろう。マーリンは愛歌にいつもの様子で話しかけるが、その声はとても冷淡な物だった。彼女がここまで感情をにじませるのはそれほど珍しい事だった。

 

「はっははは。それは出迎えのジョークのつもりかい? アーサーは君のではないだろう。それに"あの子"も。本当に君はボクのモノを盗るのが好きみたいだね……」

「ジョークのつもりはないわ。それに……貴女のものでもないでしょう?」

「……」

 

 二人とも顔はにこやかだが、その内心をうかがい知ることは出来ない。

 

「あの子にはボクの好きな物語を紡ぎ続けてもらわなきゃ困るんだ」

「セイバーだけでなく、レイも……あっちもこっちもと少しはしたなくないかしら? それに終わらない物語が好きなのなら永遠に見させてあげても良いのよ? 私と、セイバーの、永遠の愛の物語を」

「残念だけど醜悪なものを見続ける嗜好は持ち合わせて居なくてね……」

「醜悪だなんて……いえ、しょうがないわね。人と虫では価値観が違うもの」

「人と怪物の価値観も違うと私は思うな」

 

 

 

「「ふふふふふふ」」

 





レイ「大体セイバーさんが悪い気がしてきた」
プーサー「……」(目逸らし)
通りすがりのセイバー「すまない、本当にすまない」

どうしてもクロエに「生まれてきてありがとう」と言いたかった回でした。
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