プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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分かれと『想い』

 数年後 

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 そんな出会いから数年、俺は8歳、凛先輩は14になっていた。小学生となった俺は通学路を歩きながらこれまでの事を振り返る。

 あの夜から俺は凛先輩から魔術を教わる代わりに、自分の莫大な魔力を活かして凛先輩の使い魔……というよりただの使いッ走りみたいなことをしている。やれ、勝手に移住してきた魔術師の相手だの、霊脈のみだれだの、宝石の買い付けやらいろいろやった。そうして魔術師……いや、俺の場合は魔術使いか。ともかく魔術を使うようになって分かったことだが……この冬木市……大分ヤバ目な土地では? そんな土地でも生きてこれたのは紛れもなく凛先輩のお陰だろう。ただ、教わった魔術よりも雑に魔力をぶっ放すだけのほうが威力があったのは微妙な感じだが。

 

「僕が先輩に返せるものは……」

 

 そんな先輩はもうすぐ中学を卒業して魔術師の巨大学院『時計塔』に留学するらしい。つまり滅多に会えなくなるということ。いや、もっと言えばもう、会えなくなるかもしれない。魔術に関わっていれば命の危険なんてどこにでもある。お世話になった先輩に恩を返すため、また笑って再会できるよう願いを込めるという意味でもなにか贈り物をしたい。

 しかし贈り物、それに女性へ、かぁ……。

 

「どうしよっかなぁ……」

「あ、レイだ!」

「『おはよう』、イリヤ」

「おはよー! レイ、難しい顔してどうしたの?」

 

 俺が悩みながら登校していると背後から元気な声がかけられる。振り返りながら挨拶を返せばそこにいるのは長い銀髪に、紅色の瞳。明らかに日本人ではない見た目の少女。彼女の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。あだ名は『イリヤ』だ。

 凛先輩と出会って魔術を習い始めたころに迷子になっている彼女を見つけ、一緒に親御さんを探したのがきっかけで知り合い、こうして同じ学校に通っている。彼女は所謂ハーフというもので、見た目こそ西洋人形を思わせる愛くるしさだが中身は風呂好きでどこかオヤジ臭い(変態チック)なところがあるバリバリ日本人だ。(かなりの偏見)

 ……今日も返答はなし、か。

 

 イリヤは間違いなく良い子だ。それは間違いない。だけど彼女は普通じゃない。あるいは彼女が普通でも彼女の家族は普通じゃない。迷子になったイリヤを助けたときに一度だけ彼女の両親に会ったことがある。魔術師だった。それも並の魔術師ではなかった。一流、恐らく凛先輩よりもはるかに強い。でも多分向こうも気が付いていた。特に親父さんの俺を見る目が半端なかった。マジで殺されるかと思った。そこから数日、常に視線を感じていたが恐らくイリヤの親父さんが俺をどうにかして見ていたんだろう。今はその視線を感じないから俺の事を調べつくして無害、もしくは何かあったとしてもすぐに処理できると判断したんだろう。

 

「実はお世話になった先輩が留学で海外に行っちゃうんだ。だから何か贈り物をしたいんだけど何にするか悩んでいて……」

「留学! それは大変だね……。うーん……」

「因みに、女性なんだけど」

「女性! え、ええええ、も、もしかしてレイはその先輩の事がす、す、好き……だったり?」

「いや、それはない。悪いがイリヤが想像しているようなことは無い。恩人なんだ」

 

 そしてイリヤ自身だが……。何かがいる。彼女の中に彼女の知らない『誰か』がいる。イリヤと初めて出会い、手を繋いで両親のところまで連れて行こうとしたとき、それが分かった。以降、イリヤと会うときは挨拶を声に出して行うだけでなく多少の魔力を乗せてイリヤの中にいる『誰か』にも聞こえるように挨拶している。ただまぁ、一度も返答ないんだよなぁ。まあ、もとより意識のない存在、返事の出来ない存在なのかもしれないから何とも言えないけど。……魔術的な封印っぽいからそれを透過して言葉が届くようには術式組んだんだけどなぁ……。上手く行ってないのかなぁ?

 

「んー、海外かぁ。日本と海外だと生活リズムとかも変わるだろうし、そこらへんの解決に使えそうなお役立ちグッズとか?」

「生活で……役立つか。ありがとう、イリヤ。その方向で探してみるよ」

 

 凛先輩の生活で困っていることか……。下手に電子機器与えても扱えんだろうしなぁ……。

 

 

 数日後 遠坂邸 

────────────────────────―――――――――

 

 

「という訳で凛先輩、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとう、レイ」

 

 今日は凛先輩の卒業式だった。俺と凛先輩は彼女の家で細やかなお祝いパーティーをしていた。俺は詳しく知らなかったがどうやら凛先輩は学校ではかなりの優等生であった様で放課後凛先輩に挨拶しようと校門へ向かったところ多くの同級生、後輩に囲まれている凛先輩がいた。というか、本当に別人みたいだった。

 

「凛先輩、学校だとあんなに猫被ってたんですね。普段のうっかりや苛烈さはまったく感じなくてびっくりしましたよ」

「なーにー? もしかして文句でもある訳?」

 

 テーブルの上で頬杖を突きながらとても『イイ笑顔』を俺に向けてくる凛先輩。

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ。ええ、本当に。それよりも渡したいものがあるんです」

「露骨に話逸らしたわね。……まぁ、良いわ、それで? 私に渡したいものって?」

「はい、こちらです」

 

 俺は手のひらが入るような大き目の包装された箱をテーブルの上に置く。

 

「おっきな箱ねぇ……。で、開けて良いの?」

「勿論!」

 

 凛先輩が箱の開封を始めたのを眺めながら解説を挟んでいく。

 

「最初はロンドンの生活で役立ちそうなグッズとか考えたんですけどよくよく考えると何がロンドンで役立つかなんてわからないですし、それなら凛先輩が今も悩んでいて、ロンドンでも絶対に困るであろうことを解決しようと思いまして稚拙ながら礼装を作ってみました!」

「私の悩みを解決できる礼装ねぇ……。宝石をポンポン生み出してくれる礼装だと助かるんだけど」

 

 そんなもの作れるなら作ってあげたかったが残念。そんなに都合の良いものは存在しない。

 

「あ、これね。もう厳重に包装されてるからなにかと――――キャアアアッッ!?!?」

 

 ようやく放送を解き終わった凛先輩が中身を見た瞬間礼装をぶん投げやがった!? 窓を突き破って外に落ちる前に何とかキャッチする。

 

「ちょ、せっかく作ったのにいきなり投げるなんて酷いですよ!」

「投げるわよ! な、何よ、それ? それが礼装なの!?」

「はい! 俺の手です!」

「何してんのよ、アンタはァ!!」

「ほら、凛先輩いっつも宝石の在庫を気にしてたじゃないですか、これがあれば多少緩和出来るんですよ! 知っての通り俺は熱と魔力で体を再生できるじゃないですか?」

「そうね」

「あ、なのでほら、俺の身体にはちゃんと両手ついてますよ。それは少し前に切り落とした方の手です」

「いらんわ、そんな解説」

 

 凛先輩はムスっとした表情で腕を組みながらこちらを見ている。

 

「この礼装、少し前に冬木に立ち寄った死霊魔術師さんに協力してもらって作ったんです。お陰で腐敗とかの心配はありません」

「なに、その死霊魔術師って私聞いていないんですけど?」

「ええ、本当に冬木市には立ち寄っただけで特に害のない人物でしたので報告はしませんでした。見た目はサングラスの怖いおっさんでしたけどいい人でしたよ」

 

 凛先輩から聞いていた魔術師像とはまったく違う気前の良い、そして気分の良い人でした。

 

「で、ともかくこの礼装の指! これ一本一本が宝石の役割を果たします!」

「何ですって……?」

 

 そう言って凛先輩は俺の手から礼装を取ってまじまじと観察を始める。そして何かを唱えると指が僅かに光る。

 

「確かに使えるわ。魔力を流転させることも、術式を組み込むことも出来る」

「そして仮に指を使い切ったとして手のひらをライターなどを使って焙ればなんと! 指が再生します!」

「……見た目はともかく本当に有能な礼装ね。見た目はともかく」

「なんで二回も言うんですか」

「重要だからよ」

 

重要なら、仕方がないか……。うーん、結構良い贈り物かと思ったんだけどダメだったかぁ……?

 

「ま、折角の後輩からの贈り物だし、貰ってあげる。ありがとうね、レイ」

 

 そう言って凛先輩は笑ってくれた。どうやらちゃんと受け取ってくれるようで良かった。礼装を笑顔でスーツケースの中に仕舞う凛先輩。……渡しておいてあれだが、アレは税関とか大丈夫だろうか?

 

 

 ??? 

────────────────────────―――――――――

 

 

 最近、私には気になる男の子がいる。いえ、最近なんて誤魔化すのは止めましょう。ずっと前から私は彼の事が気になっている。『私』と同じ学校に通う男の子。彼の名前はレイ、沖繫レイ。魔術師だ。

 出会いは『私』が今よりも小さい時、パパとママが新しい生活を初めて、お兄ちゃんが出来て少し経った頃。『私』は家族みんなで散歩をしているときパパとママ、お兄ちゃんと逸れて迷子になってしまった。どうしようもなく心細くて、いきなり両親が消えたことにパニックになってしまった『私』はどうすることもできず道の端によって蹲ってしまった。

 

「あー、大丈夫? というか日本語伝わる?」

 

 そんな時困ったような、悩んでいるような言葉が聞こえてきた。顔を上げた視界に入ってきたのは彼、レイだった。それから彼は『私』の事情を聴きだして手を引いて両親を探すのを手伝ってくれた。

 

「……ん?」

『どうかしたの?』

 

 そう、その時よ。レイは『私』の手を取った時に一瞬体の動きを止めた。そして『私』の身体を上から下まで観察するように眺めた。そして彼と私の目があった。

 

「……誰かいる?」

『レイくん……?』

「い、いや、何でもないそれよりイリヤちゃんの両親、見つけないとね!」

 

 レイは私を見てくれた。『私』じゃなくて確かに私を見たの。パパとママに封印されてなかったことにされてからずっと独りぼっちだった私を。声を出したくても出せなくて、動きたくても動けない、ただただ『私』の幸せな日常を見させられるだけだった私をレイが見つけてくれた! 

 

『おはよう』

 

 それからというものレイは私に挨拶をしてくれるようになった。態々専用の術式まで組んで私に挨拶をしてくれた。術式の構成も魔力効率も滅茶苦茶のへなちょこ魔術。でもレイが私に話しかける為だけに作った、私の為だけの魔術。本当に可愛くて、愛おしいわ……。

 

"えぇ、おはよう"

 

 本当はレイの言葉にそう私は答えたかった。けど今の私にはその少しの言葉さえ発することは出来ない。ああ! 返事をしてあげたい! 抱きしめてあげたい! 大丈夫よ、貴方の言葉は私にしっかり届いているの! だから自分の術式が悪いのかと悩まないで、そんな悲しそうな表情をしないで! 全部、全部返事を返すことが出来ない私が悪いの! 

 あぁ……レイ。あなたとお話出来たらいいのに……この想いを伝えられたらいいのに……。

 


 

地質調査チーム、行方不明に

 

 〇日午後、冬木市ガス爆発事故跡の調査を行っていた新都大学教授の〇〇氏が調査中に行方不明となったと警察は発表した。

 〇〇氏は〇日冬木市ガス爆発事故跡で発見された地層のサンプル入手の為、大学の研究チームを率いて未遠川爆心地に自らダイビングした。それから数分後、〇〇氏とともにダイビングしていた助手が錯乱状態で浮上、研究チームは急ぎ〇〇氏を引き上げようとロープを引っ張ったがロープは途中で途切れ〇〇氏は行方不明となった。

 警察は助手が『水が教授を喰った』と供述していることを発表した上でガス爆発事故発生時にも起きた幻覚作用が起きているのではと推測し、事故現場周辺の立ち入りを規制している。

 





 レイくん渾身のの"手作り"礼装。

 




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