プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

20 / 76
ニアミス

孤児院の庭

────────────────────────―――――――――

 

 

 大迫力のドッヂボールが学校で繰り返された日の夜。孤児院は既に夕飯も済ませて、風呂も入り終わってる。 今は僅かにある寝るまでの自由時間。もう寝てしまっている子や、上の子たちが小さな子に本を読んであげたり、なかには先生たちを手伝って明日のごはんの仕込みをする子までいる。そんな時間に俺は庭に出てぽーっと夜空を眺めていた。

 

「はぁ……」

 

 凹むなぁ、感情的になってイリヤを傷つけるなんて。なんか最近、上手く行ってないかも。体の調子ではなく、精神的な調子が。イリヤの言うことも分かるんだ。彼女にとってクロエは最近現れた自分と似た見た目をもつ誰かであって、他人だということも。そしてそんな他人に自分の日常を好き勝手されて良い気がしないというのも理解できる。

 ただ俺はクロエがずっと前からいたのを知っている。俺が初めてイリヤと出会った5年前からずっとイリヤの中にいた。クロエの発言から察するにあの時からずっとクロエの意識はあった。誰にも気付かれず、誰とも喋れない、手足も動かせない、ただただ、イリヤが楽しく過ごすのを見せつけられる。そんな彼女がやっと外に出てこれた。自分の手と足を持って自由に笑い、遊んでいる。あの子はもう、イリヤの中に入る『誰か』じゃない。『クロエ』なんだ。

 

「どうにか仲良くさせられないかな……」

 

 片やクラスのムードメーカーで幼馴染。共にカード回収の任務を成し遂げ、ともに死線を潜り抜けた親友であり、戦友。片やもう一人の幼馴染でミステリアスな部分のある強く、美しい子。そして……初めてキスした女の子。

 

「……ッ」

 

 自分の唇を指でなぞる。感触、匂い、体温、全てが鮮明に焼き付いている。はぁ……。苦しい、とっても苦しい。まるで息が出来ないみたい。大好きって悪い感情じゃないのにどうしてこんなに苦しいんだろう。まるで水の中に引きずり込まれたみたいに体が重くて息が出来なくて、溺れそう。

 

「会いたい……」

 

 うん。凄く会いたい。そっか、好きになるって海に落ちることなんだ。だからずっとずっと潜っていくと(会えないと)息が苦しくなっていく。だから人は水面に上がって(会って)息継ぎをするんだ(好きって伝える)。だから今の俺はずっとずっと潜っていて、息継ぎしたくてもできなくて、溺れてるんだ。

 

「会いたいよ、クロエ」

 

 さっきお風呂には入ったはずなのに手足が冷たく感じる。ああ……ダメだ、涙も零れてくる。明日クロエに謝ろう。いっぱい話しをしよう。もう寝よう……早く明日になればクロエにも会えるから。

 

「早く会いたいな」

 

 

教室

────────────────────────―――――――――

 

 

「クロエが逃げた?」

「うん」

 

 なんでも昨日、イリヤが家の裏で新技の練習していた時に手元が狂って給湯器を破壊したらしい。それで衛宮家の皆さんは風呂も湯沸かし器も使えなくなってしまい、イリヤの親友である美遊がいるエーデルフェルト邸に風呂を借りに行ったらしい。それで色々あってクロエは浴場の壁を破壊、逃走したらしい。

 

「それで……やっぱり学校には来てないかー……またどこからか私の命を狙ってるのかな……」

「痛覚共有がある限りそれは無いと思う」

 

 息が苦しい。呼吸が乱れる。ああ、どうして俺がいない時にそんなことが起きるんだ……。フォローがまったくできないじゃないか……。落ち着け、落ち着け、大丈夫。前回みたいにまた捕まえればいいだけ。そしたら今度はもっと抱きしめよう。もっと好きだって伝えよう。もう……どこにも行きたくなくなるように蕩け堕としてしまおうか……。―――ッ!?  あ、は!?

 

「ほんっとアイツってば勝手だし何考えてるのか分かんない!」

「……イリヤ、クロは―――」

「な、ら、ランドセル!? 美遊大丈夫!?」

「うみ゛ーーーー!!」

 

 ヤバい、ヤバい、無意識の内に牙が出てた!? 考えゴトして口元触ったから気が付けたけど危なかった。丁度龍子が騒ぎ出して注目がそっちに集まってて助かった……。教室の隅に顔を向けてバレないよに顔を再構成して牙を消す……って角も出てた!? え、ほ、他……。触って確認……ない、尻尾もない、翼も……よしオッケー……。 ダメだな最近ホントに制御が出来てない……。

 

「おーい」

 

 !?

 

「ッ!? ……あ、雀花か」

「……レイ、大丈夫か? 最近のお前、ちょっと可笑しいぞ」

「あ、あはは、やっぱり分かる?」

 

 雀花にも分かるレベルか……。

 

「その、いつもモデルとかコスプレ売り子頼んでるけど今年は止めとくか? おねぇには私から話通しとくし……」

 

 あー、夏が近いということは例年のアレの季節か……。すっかり忘れてた。

 

「ううん、大丈夫。それで、なにかあった?」

「大丈夫ならいいんだが……。皆で海に行こうって話しただろ? 夏休み初日ってイリヤの誕生日だっただろ? だから一緒に誕生日会もやろうって話でさ」

「あぁ、それは良いね」

「私、龍子、那奈亀、美々、レイ、イリヤと美遊。あと……クロも入れて8人だな」

「え゛っ、あ……アレも呼ぶの?」

 

 雀花の言葉にイリヤが頬を引きつかせる。

 

「おいおいハブはないだろー。まあ、色々面倒起こす奴だけどさ、友達だろ?」

「強敵と書いて友だぜ」

「あとは……」

 

 ん?

 

「個人的に聞きたいことがまだ全然聞けてないからな! ……今日はクロ休みみたいだし会ったら伝えといてよ」

「あー……そうだね……」

 

 イリヤの感触はまだ今一だが、雀花たちはクロエをもう受け入れ始めている。うん、良い事だ。……クロエ、みんな待ってるんだし、早く帰ってきてよ……。

 

 

 そうして、放課後。イリヤ達と共に帰ろうと下駄箱を開けたときふと何かメモ用紙が入っているのに気が付いた。

 

「これは……」

「美遊、どうしたの?」

「イリヤ、先に帰ってて。わたし、今日はちょっと寄るところがある」

「え?」

 

 ん? そういって少し早歩きに下駄箱を去ろうとする美遊に追いつく。

 

「美遊」

「レイ。私今日はよるところがあっ―――「美遊もメモがあった?」……レイも?」

 

 俺は美遊に自身の下駄箱にメモがあったことを話すとやっぱり美遊の方にも来ていたらしい。

 

「僕は少し遅れていく」

「分かった」

 

 美遊にそう告げて別れて俺は一度、荷物を置きに孤児院に帰る。イリヤとクロエの因縁の始まりの地()()()()()()()。そんな場所に呼び出し、いったいどうしたんだろう……。

 

 

 

大空洞

────────────────────────―――――――――

 

 

 

 ……何度来ても気味の悪い場所だ。一体何がこの気味悪さを感じさせているんだろう……。ダメだ、気配の探知はこの薄気味悪さに上書きされちゃって出来ない。

 

「というか、先に来ているはずの美遊は……?」

 

 んー、もしかしてもう終わって入れ替わりになってる? いや、ここまでは一本道だしそれもそんな―――

 

「ッ!?」

 

 両足が切れた!? 斬撃!? どこから、いや、そもそもデストロイアの外皮を物ともしてない威力!?

 

「両翼展開! いきなりな挨拶じゃないかな、クロエ!?」

 

 翼を展開して転ぶのを防ぎつつ、浮かんでその場を離脱。目視で索敵を!

 

「クロエ? 残念だけど人違いだ。けど……そうか、あの子はクロエと言うのか……」

 

 うげぇ……。あの黒コートにタバコ、死んでる目。あぁ、間違いない。

 

「久しぶりだね、沖繫レイ。君を殺す手立てが出来たよ」

「衛宮切嗣……!」

 

 両足を再生させて地面に着地する。ということはアレか。美遊の方にはクロエが本当にメモを入れていたか、こいつがここへの救援に向かわせないために遠い場所が書かれたメモが入れられているかだな。イリヤは多分、アイリさんが家にいればそれで抑えられるし。

 

「……」

「ま、そんなに身構えないでくれ。最初は軽くお話しようじゃないか」

「攻撃仕掛けてきて、なおかつこちらを殺す発言した相手に身構えないとでも?」

「あんなの君には攻撃にもならないだろう? それにあの攻撃は僕の指示じゃない」

「?」

 

 ということは衛宮切嗣以外にも誰かが?

 

「あの攻撃は私の独断だ、少年」

「……神父?」

 

 暗闇から出てくる大柄で褐色の男。顔の傷がかなり威圧感を放ってる。というか……この人多分、めっちゃ強い。多分、さっきの斬撃もこの人の仕業だ。

 

「自己紹介をしておこう。聖堂教会元代行者、カラボー・フランプトンだ」

「は、初めまして……沖繫レイです」

 

 と、取り合えず神父さんだしいい人ではあると思う。それ以上にこえーけど。

 

「礼儀正しい良い子だ。それ故に残念だ、君のような子が我々の教義に背く怪物であることが。最初は魔術師殺しが我々に協力を要請するとは何事かと思っていたが……これほどとはな」

 

 おっと!? どこからそのほっそい剣を取り出しやがった!? というかそんな剣で俺の足を切り裂いたのか? ……一体どういう? 魔術的な事柄でも仕込んである?

 

「さて、本格的に始める前に一応聞いておこう。僕が提案した自分探しは出来てるかい?」

「……」

「予想通りの反応だな。自分が、人間だと思っている怪物ほど、その事実から目を逸らすものさ。ほら、こっちだ探しておいてあげたよ。多分このうちのどれかが君の誕生に深く関わっている事件だ」

 

 さう言って衛宮切嗣は俺に向かってノートを投げ渡す。……見ろってことだろうな。中身を見ればいくつかの新聞のコピーや、オカルト雑誌のコピーが張り付けられたスクラップブックだった。……え、こういうの作るんだ。なんか意外。

 

「ぁ」

 

 ある記事が目に止まる。嘘だ。 冬木市ガス爆発事故とそれに関連する地質調査チーム、行方不明事件の記事。これが本当なら この事件、当たり前だけど俺はまったく知らない。俺って……けどこの記事の中の出来事を俺は知ってる。この力は、偶々持っている物なんかじゃなくて 爆発による無酸素状態、地層の露出。俺自身の力で そして生き物を食べる水。 全て俺は知っている。だって前の世界でたくさん見た。心躍った。悲しくもあるけど傑作だった。そんな怪獣の力を持ってて俺は嬉しかった。楽しかった。けどこれはそんなものじゃなかった。道理でそれらしく振舞えば力が強くなるはずだ。最近やたらと物騒な思考が過るのはおかしなことなんかじゃなくて。いまのこの状態こそが可笑しかったんだ。俺は……普通の人間なんかじゃなかった。俺はクロエを雀花を……みんなを騙してたんだ。俺は……切嗣さんの言った通りの

 

 

 

 

 

 

 

『怪物』だった。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






衛宮切嗣は『沖繁レイ』の呪いを全て解呪した。
衛宮切嗣はデストロイアに『怪物』の呪いをかけた。
カラボー・フランプトンはデストロイアに『怪物』の呪いをかけた。
デストロイアは自身に『怪物』の呪いをかけた。

デストロイアは『怪物』の呪いに掛かった。
デストロイアは覚醒しようとしている。
デストロイアは覚醒に失敗した。
デストロイアは中途半端な『怪物』になった。

世界の終わりはグーンと近くなった。

ぷーりん「っしゃぁぁ! ギリセーフ!」
根源少女「は? あ、あのダメオヤジ……『怪物』『怪物』言いすぎなんだよ……。若干ズレて『怪獣』に覚醒できてないじゃん! せっかく誘導したのに……」
世界「ちょ、ちょっとバランス調整でカラボーの魔眼強化するわ」




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。