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「誕生会?」
休み時間、クロエの隣の席に座って机の下でこっそり手を繋いでいると、雀花たちがやってきた。そして雀花がクロエにイリヤの誕生会の話を振る。そういえばそんな話し合ったね……。
「そう。7月20日にイリヤの誕生会を海でやろうと思ってるだけどさ、クロも来てくれないかなって」
「ふーん……丁度良いわ。実はその日私も誕生日なの」
「うええっ!?」
「ホント!?」
思わず席から立ち上がる。……そっか、そうかクロエの誕生日……なに送ろっかなぁ、あとでキアラ先生に相談しよう!
「顔だけじゃなくて、誕生日まで一緒なのかよ! あんたら本当に双子じゃないのか!?」
あはは、事情を知らないとそうなるのも仕方がないというか、なんというか。
「あの……」
「どしたん美遊」
恐る恐ると言った様子で美遊が手を上げたのでどうかしたのかと尋ねてみる。
「イリヤの誕生日って7月20日なの?」
「え? そうだけど……」
「わたしも同じ日……誕生日……」
うっそだろ。まさかの美遊までとは……。ほら、全員びっくりして固まっちゃってるじゃん。あれか、魔法少女はその日に生まれてないといけないみたいな縛りでもあるのか?
「三人が同じ誕生日!? どうなってんだ!?」
「前世で繋がりでもあるのかお前らー!?」
前世か……。もう全然思いだせないや。でも不思議と悲しくない。きっとそれだけ今が幸せだからなんだろうな。繋いだクロエの手を少しだけ力を入れて握る。
「―――ッ」
力を入れたことに気が付いたのかクロエは繋いだ手の小指だけ器用に動かしてこちらの手をカリカリとくすぐってくる。いけないいけない、声が漏れるところだった。
「おおお、俺も同じ誕生日だぜ!!」
「嘘つけー!」
「『乗るなら今だ』みたいな顔すんな!!」
龍子の見え見えの嘘のお陰で誰にも気が付かれていないみたい。
「それならみんな一緒にお祝い出来るね」
「そうだなぁ、まとめてやっちまおうか」
美々と雀花が楽しそうに顔を見合わせて計画を練っている。
「という訳でみんな、誕生会にかこつけて親から金貰って海で遊ぼうぜー!」
「あぁ、そういう……」
「少しは本音隠してくれないかな!」
イリヤのツッコミが教室に響いた。
それから授業を受けて時間は進み、放課後。帰り準備をして廊下を歩いているとクロエが話しかけてくる。
「そう言えばレイの誕生日っていつなの?」
「僕の? 12月9日ってことになってるよ」
「なってる……?」
反対側を歩いていた美遊が不思議そうに首を傾げる。
「ほら、正確なのは僕分からないから」
「あ、そっか……。ごめん」
「気にしないで」
美遊が罰の悪そうな顔をするので気にしていないことを伝える。
「12月か……。まだまだ先ねぇ」
「そうだね」
「とびっきりのお祝いしてあげるから楽しみにしてなさい!」
「うん!」
クロエがそう言ってくれる。……好きな人に誕生日を祝ってもらえる。……すっごいワクワクする。まだまだ先の未来を想像しながら胸をときめかせ、前を向く。
「や、やあ……」
前から視線を逸らしたくなった。ああ、クロエも美遊も固まってる。というか美遊は大口開けてびっくりしちゃってる。目の前にはなんかもうよく分からないぐらいに髪を盛り上げて可笑しなパフェみたいになっているイリヤがいた。え、なんで、こうなってるの……?
「べ、別に、あなたの事なんか、何とも思ってないんだからねっ!」
急にツンデレになった……? ん? ん? ……ダメだ、本当にどうした? ん? アレは……炭酸飲料? どっから出したし……!? え、待った、握りつぶすつもりか!?
「あっぶぅえ!?」
「れ、レイ!?」
噴出した炭酸が、クロエたちに飛び掛かる。寸でのところで変わり身となって炭酸を浴びることに成功する。……ベタベタする。ただまぁ、何より先に聞きたい。
「なにを……している?」
「病院行けば?」
軽く制服を乾かした(ということにして炭酸を全て吸収した)あと教室に戻るとイリヤが机に突っ伏していた。
「すまんイリヤ、どこかで何かを間違えた……」
「何かじゃなくて全部だよね。全部間違ってたよね」
ふーむ? 雀花がイリヤにかけている言葉的にあの行動に何か意味があった? え、意味があったの?
「イリヤ、きっと疲れているんだと思う。少し保健室で診てもらった方が……」
「お願いだから今はやさしくしないで……。優しさは時に弱い心を傷つけるの……」
ははは、分かる。
「はぁ……先に帰るわ。レイ」
「うん! それじゃあみんな、また明日!」
イリヤが何をしたかったかは分からないけど、まぁ反省してるみたいだしどうでも良いか!
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「……はぁ」
なんというか、こういうのにも慣れてきた気がするよ。目の前でバチバチと火花を散らすクロエとイリヤを眺めつつ、溜息をつく。
「なんで家庭科の調理実習でここまでケンカムードになれるんだ?」
「あ、あはは……」
僕の隣にいる美々が苦笑いをしている。正直巻き込んで申し訳ない。以前の様な殺気こそないが、やはりクロエとイリヤは何かと争いがちだ。まぁ、殺し合いでもないし、勝気な表情の素敵なクロエも見れるから僕的にはありだけど。
「こっ、このグループ分けは……可笑しくない!? 戦力の偏りが酷い様な気が!」
うーむ……。A班はクロエ、僕、美遊、美々。クロエの腕はまだ知らないけど、美遊は以前の調理実習でフライパン一つでフルコースを作り上げるという高性能っぷり。美々も優等生で目立ったことはないが、調理実習もそつなくこなしていた。僕は孤児院の料理分担での経験もあるから美遊ほどではないが多少の心得はある。うん、悪くないと思う。
そしてB班は、イリヤ、那奈亀、龍子、雀花か……。はっはっはっ、勝ったぞ。
「厳密なジャンケンの結果じゃない。それに人数もちゃんと半分でしょ」
「一人マイナスの人材がいるんですけど!」
「はははは」
「おめーのことだよ」
イリヤのツッコミに龍子が笑いながら雀花の背を叩くがマイナス要因は龍子、君だよ。那奈亀もそれが分かっているのか龍子の頭にチョップを叩き込む。でもまぁ、向こうもどうにかなると思うけどなぁ……雀花いるし。
雀花が毎年くれるチョコは手作りでとっても美味しいんだ。菓子作りならもしかするかもしれない。
「はーい、それじゃ各自調理開始ー」
「うぅっ!」
無情にも藤村先生の調理開始の合図が入った。イリヤも諦めてあの班で調理するみたいだしこっちも始めようか。三角巾とエプロンをしっかりと締め直し気合を入れる。しっかり技を繰り出さないと!
「パウンド型1本分か……」
材料は卵2こ、砂糖120g、薄力粉120g、無塩バター120g。まず下準備としてバターと卵は室温に戻しておくこと。次にバターを薄くスライスして砂糖と一緒にボウルに入れ、よく混ぜる。このとき、すり混ぜるようにして空気を含ませるようにする。と、いいらしい。美々がそう言ってた。
「レイ君、オーブンの予熱は?」
「大丈夫!」
僕は細かな雑用に回ってます。うん、お菓子作りは繊細だからね。料理とは勝手が違う。慣れてる人の指示に従う方が無難だ。バターの色が真っ白になり、空気を含んだこんもりとしたふくらみが出来たら混ぜは完了。
「レイ、卵混ぜたわよ」
「ありがとう、クロエ。……美々これは?」
「ありがとう! そしたら私が少しずつ入れていくからレイくんボウルかき混ぜて貰ってても良い?」
「分かった」
「私は?」
「クロエは……あ、美遊のアレ、お願いして良い?」
クロエが綺麗な溶き卵を持ってくる。それを美々に渡して貰って美々に数回に分けて卵を入れてもらう。この時よく混ぜるのがポイントらしくて体力仕事となり僕が代わることに。そして手すきになってクロエにはいつのまにか余った食材で何かを作り始めている美遊の制御に回ってもらう。
「何作ってるんだアレ……」
「け、ケーキかな?」
パティシエ顔負けの仕事をしている美遊に困惑しながらも作業を続ける。最後に薄力粉を振るいにかけながらボウルに入れていく。この時、ボウルは練るのではなく、切るように混ぜること。ヘラを生地に切れ目を入れるように縦にいれ、掬いとり、手前に生地を置くイメージで……。
「こんな感じ?」
「上手いよレイ君!」
生地が出来上がれば後はクッキングシートを敷いた型に流しいれて予熱したオーブンで焼きあがるだけ。
「あとは待つだけ?」
「うん。お疲れ様」
調理も終わったので美々と共に席に待機してイリヤの班や未だ黙々と作業を続ける美遊を眺めて時間を潰す。
「パウンドケーキにナツメグ? あなたらしい滑稽な味に仕上がりそうで良かったじゃない」
うわぁ……。イリヤ達の班はどうにか生地を作り上げることには成功したものの、何故かハンバーグを作ると思い込んでいる龍子にナツメグをぶちまけられていた。その様子をカッコつけたクロエが嘲笑している。……うん、可愛い。
「うううッ……! そ、そっちはどうなのよ!?」
「どうって言われてもねぇ……こんな感じですが」
「ウエディングケーキ!?」
イリヤの言葉にクロエは調理台の上にあった美遊渾身のウエディングケーキを見せつける。……なんであんなもの作ってんだろうね、美遊は。
「材料が余ってたからつい……」
「あれは余りじゃなくてみんなの分の予備よ!! 勝手にこんなんしちゃってからにー!!」
予備ってことはアレか? 作り直しが出来ないから、イリヤ達はあのナツメグ入りをどうにかするしかないのか……。
「ちなみに、パウンドケーキの方は美々とレイが作成済み。ありがとう二人とも」
「い、いいの。これくらい……」
「お礼を言われるほどじゃない」
えへへ、クロエに褒められた。この後紆余曲折ありどうにかイリヤの班もパウンドケーキを作り上げることには成功する。……作り上げることには、だけどね。
因みにどうしてクロエとイリヤが対決ムーヴを取っていたかは二人の兄、衛宮士郎さんにどちらの方が料理が上手いか判定してもらうためだったそう。
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デストロイアとの戦闘跡が激しい大空洞で凛は宝石を手に呪文を唱える。
「―――
クロエの出現やデストロイアとの戦闘ですっかり忘れて居た地脈穿孔作業の結果を調べるためだ。
「
魔力を溜め込み光り輝く宝石を凛は広げた羊皮紙の上に落とす。
「
宝石が落下した地点を中心として羊皮紙上に炎が広がり焦げた部分が地脈の流れを現していく。
「これって……。まだ、終わってなかったって言うの?」
凛は羊皮紙上にある炎のくすぶっている地点を見つめて驚愕の声を上げたのだった。