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「……流石に春先とはいえ日が落ちると寒いな」
隠蔽の魔術をかけつつ冬木大橋の柱の上に座りながらそう呟く。
凛先輩が時計塔に立って一年が過ぎた。俺は小学4年になり、この世界で目覚めてから5年が経とうとしていた。5年も経てば自分の力についても理解が深まる訳で、俺は自分の力の正体を理解していた。
俺の力の正体、それは『デストロイア』俺がこの世界に来る前に見てた映画『ゴジラVSデストロイア』に登場する平成ゴジラシリーズの最後の敵にして悪夢の兵器の化身ともいえる完全生物。火災や高エネルギーなどを受けた高温状況で進化・変異を繰り返す生命体で『ミクロオキシゲン』の生成能力を持つ。
ミクロオキシゲンとは極限まで微小化した酸素原子であり他の分子の隙間に入り込んで崩壊させ、物質を溶解させることが出来るヤバ目の物質だ。
……なるほど、そりゃ熱があったら再生するわけだ。というか進化に必要なのは熱だけだったはずなんだがこっちに来てからは熱か魔力のどちらかあれば問題ないように変化してるし。さらにその魔力も自分の体内で生成できるようになってんだから自分で言うのもあれだが……もう誰にも止められないだろ。劇中でもドンドン激ヤバ進化していたデストロイア。劇中ではすこーし相手が悪く短い生涯だったが、この世界では天敵となる生き物は存在せず5年も変化し続けられたんだ、こうもなるか。
「一年で帰って来たのも驚いたが……一体何をやっているんだ?」
俺の視線の先では幾重もの魔力弾が飛び交う戦闘を行っている凛先輩がいた。相手方の金髪のお嬢様っぽい方は初見だが二人にはかなりの因縁があるようで内容までは聞き取れないがかなり言い争っているのがわかる。懐かしい魔力を感じて飛び出して来てみたらいったい何なんだ?
「にしても、変わった格好をしてらっしゃる……。この世界の魔術ってあんなんじゃなかったよな?」
なぜ、二人ともあんなメルヘンチックな格好を? 恰好の割には飛行の魔術に魔力障壁と高度なもん使ってるし……。障壁いいなぁ、俺上手く出来ないんだよアレ。まぁ、どうせ当たっても再生するから良いけどさぁ。
お、凛先輩に直撃、結構良いの入ったなぁ。あ、なんかカードみたいなの取り出した。あ、相手方も出した。
「……呪符、にしては? ……どちらにせよ、これ以上は止めるべきか」
とりあえず体の内側の熱を開放する。そうすることで背中の一部が分解され、再構築で赤い翼を生え、額に黄色い角、腰に太い二股の尻尾を生やす。デストロイアなんちゃって擬人化形態だ。
「さて、これで……って、凛先輩落ちてる!?」
俺が変身している間に何やら事は進んでいたようで俺が視線を戻したときには凛先輩が未遠川向けて紐なしバンジー決めていた。
「間に合え!」
俺は急いで翼を広げて飛び立つ。加速して凛先輩の元まで飛んでいく。
「くっ、重力軽減魔術でなんとか……」
「あーッ、加速が止まらない!」
「凛先輩!」
「レイ!? アナタ飛べるの!? というかその姿はいっ―――今は良いわ! 手を貸しなさい!」
「はい!」
俺はしっかりと凛先輩の手を掴んだ後、横抱きにして岸ではなくさらに水面に向かって飛翔する。
「ちょっとアンタどこ向かっているのよ!?」
「あの人も助けます!」
「はぁ!? 別にあんな奴放っておきなさい!」
「それは凛先輩の頼みでもNGです!」
いくら魔術が便利だからってちゃんと発動できなければただの人間なんだ。この高さからの着水……絶対に無事では済まない。その可能性が少しでもあって俺に助けられる力があるなら、見捨てたくはない!
「そこのお姉さん! 尻尾で失礼します!」
「ありがとう、坊や。構いませんわ!」
凛先輩の相手をしていた女性に尻尾を撒きつけて体を固定する。そして体を上に向けて急制動。水面ギリギリで浮上してゆっくりと岸にたどり着く。凛先輩ともう一人の女性を立たせてから翼や尻尾を格納する。
「まずは感謝するわ、ありがとうレイ。それから久しぶり、元気にしてた?」
「はい、お久しぶりです凛先輩。僕の身体が不調になるとお思いで?」
「思ってないわよ、それでも確認よ。レイは私の後輩なんだから」
凛先輩はスカートや上着を手で軽く整えたあと岸にあったベンチに座りながら話しかけてくる。
「何か飲みますか?」
凛先輩の座ったベンチの隣に自販機があったので自販機の前に立ち、指さしながら凛先輩にどれが良いのかを聞く。
「紅茶、あったかいのお願い」
「はい」
「悪いわね、後で返すわ」
「帰国祝いなので構いませんよ」
「やっすい祝いねぇ」
「嫌でした?」
「まさか。構いはしないわよ」
自販機の紅茶を渡しつつ凛先輩と軽口を叩く。ん~、この感じ。一年ぶりで懐かしい。すこしだけほっこりする。
「んん゛っ゛、遠坂凛。この子は一体誰なのかしら。一人の淑女としてお礼と挨拶はしっかりとしたいのですけれど」
あ、そう言えばこの女性もいましたね。
「え? あー、そうね、一応紹介しておくわ。この子は沖繫レイ。この街に住んでる子供の一人で魔術師……というより魔術使いね。そして私の後輩」
「初めまして、沖繫レイです」
凛先輩に続いて挨拶をして頭を下げる。
「あ~ら、しっかりと挨拶も出来て礼儀正しい子! こーんなにいい子が遠坂凛の後輩だとは驚きましたわ!」
「あ、ん、た、ねぇ~。一体私を何だと思ってるのよ!」
「名前でお呼びしても構わないかしら?」
「構いません」
「無視すんじゃないわよ!」
凛先輩の騒ぐ声を無視して目の前の女性は上品に頭を下げてきた。なんだろう、カーテシーって奴だっけ? 女性は俺の手をとって目線を合わせる。
「私、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申しますわ。どうかルヴィアと呼んでくださいまし。レイさん、助けていただいたこと感謝いたしますわ」
「あ、え、は、はい。あの、そんな気にしないで下さい」
「ふふふ、赤くなっておりますわよ。先ほどとは違って可愛らしいところもおありなのね」
あ、なんか、すっごいお嬢様してるこの人。今までまったく触れてこなかったタイプの人だからどう対処するべきなのかが全く分からん。
「レイ、先輩として一つ言って置くわ。ルヴィアだけは止めなさい。マジで」
「あ、はい。それで凛先輩と……ルヴィアさんはどうしてあんなことを?」
「「……」」
俺が質問すると二人とも頭を抱えて黙り込んでしまった。
「あ、何か話し辛い理由なら別に良いですよ?」
「いや、レイにも説明するわ。アナタにも協力してもらった方が任務も順調に進むでしょうし」
「任務ですか?」
「えぇ、私たちは時計塔からある任務を受けてこの冬木の地に参りましたの」
凛先輩はペットボトルの紅茶を一気に飲み切りベンチから立ち上がる。
「まずはあのバカ礼装を追うわよ。レイ、ついてきなさい! 走りながら説明するわ!」
「はい!」
「では、私はサファイアを追いますわ。ごきげんよう、遠坂凛、レイ」
「あ、ご、ごきげんよう?」
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「地脈の異常にクラスカードですか……」
「そうよ。それで私たちはそれらを回収する為に特殊な礼装を師から授かったんだけど……」
凛先輩から事情の説明を受けつつ住宅街を駆け回る。にしても、クラスカードねぇ……。最近また町の雰囲気が妖しいとは思っていたけれども、そんなものがいつの間にこの町に……。怪しさがプンプンしているところには行ったけど何にもなかったんだけど、もしかしてその特殊な礼装がないと原因を見つけられないとかあったのかな?
《キマッてますよイリヤさん! やっぱり魔法少女はローティーンがベストマッチですね! どこぞの年増魔法少女モドキとは大違いです~》
「あいつッ!」
ふと住宅街の一角に差し掛かった時そんな声が聞こえてきた。凛先輩は目当ての物を見つけたようでとある家の敷地に不法侵入を決めやがった。にしてもこの家……というか『イリヤ』って……。
「『衛宮』の表札。ここってやっぱり……。失礼しまーす」
俺は一度玄関の方へ向かい表札を確認する。そこにあったのは『衛宮』の文字。やっぱりここ、イリヤの家だ。そしてこっそり敷地内に侵入し凛先輩のところへと向かう。
「こっちへ来なさいルビー! 誰があんたのマスターなのかみっちり教えて上げるわ!」
《わたしのマスターですか? そんなの教えられるまでもありませんよ。 こちらにおわしますイリヤさん! 彼女こそがわたしの新しいマスターです!》
「はぁ!?」
到着した衛宮家の裏手ではまさに怒髪天と言った感じの凛先輩と見知らぬ格好をした見知ったクラスメイトがいた。
「『こんばんは』イリヤ。なんだかすごい格好だね?」
「れ、れ、レイ!? なんでここに!?」
「レイ、知り合いなの?」
どうやら知り合いに魔法少女姿を見られたのが恥ずかしいのか目をぐるぐるさせて顔真っ赤のイリヤ。そして怪訝な表情で俺を見てくる凛先輩。
「凛先輩、こちらイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。僕のクラスメイトです。イリヤ、こちら遠坂凛、僕の先輩だ。凛先輩、イリヤは良い子ですよ。話せばステッキも返してもらえるかと」
「そう? それじゃあ、イリヤだったわね。そのステッキ、返してくれる? ロクでもないものだけど私には必要なのよ」
「は、はい、どうぞ」
そう言ってイリヤはステッキを差し出して凛先輩が受け取るが一行にイリヤの手がステッキを離れない。んー?
「な、まさか……」
「手が離れないよ!?」
ええー?ほんとにござるかぁ?
《ふっふっふっー ダメダメ、ダメですよーお二人さん 既にマスター情報は上書き済みなんです。 本人の意思があろーとなかろーと……私が許可しない限りマスター変更は不可能です!》
成程……凛先輩がロクでもないステッキと言っていたが確かにこれは……。
「じゃあ、しょうがない」
「ちょ、レイ!?」
「腕ごと溶かし落とすか……」
「レイ!?」
ま、溶かし落とした後イリヤの腕は再構成で再生させれば問題ないだろう。俺は手のひらにデストロイアの角の形をした剣を構成する。あらゆる物質を溶断できるヴァリアブル・スライサーならスパッといけるだろ。
《いやいや、貴方も大分過激な方ですね。ルビーちゃんモテモテで困っちゃいますー。ですが残念、仮にイリヤさんの腕を切り落としてもマスター登録の変更にはなりませーん!》
「……なら意味ないか」
「意味あったらやってたの? ねぇ!?」
「……突っ込みが冴えるねイリヤ」
「話逸らさないでよ!?」
しかし、そうなるとイリヤもとんでもなく面倒なことに巻き込まれたなぁ。どうにかルビーと呼ばれたステッキを手から放そうと奮闘するイリヤと凛先輩を見ながら俺はそう思うのだった。
ルヴィアさん……難しいっピ……。