プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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夏の始まり!

海水浴場

────────────────────────―――――――――

 

 森を走り抜ける。ただ一心にその果てにある青い海を目指して。雲一つない快晴の空、身を焦がす空気の熱気。絶好の『夏』日和。

 

「来た来たキター! キタよコレーー!」

「ほ……ほんとにやるのこれ!?」

 

 テンションを最高潮にしてはしゃぐ那奈亀と戸惑いこれからやろうとすることを本当に実行するのかと確認するイリヤ。

 

「当たり前だ! 何のために前回イメージ練習したと思っている!」

「海だー!」

 

 あー、龍子が興奮を抑えられず一人先走った。

 

「た、龍子が決め台詞を先走ったよ!?」

「台無しだ! 台無しだ!」

 

 走りながらも想定外の事態に浮足立つ女子たち。そんな彼女たちを目で追いながら隣にいた士郎さんに声をかける。

 

「すいません、彼女たちの上着の回収、手伝って貰って良いですか?」

「ん? あぁ、それなら俺たちがやっておくから君も一緒に行きな」

「え、でも……」

「ほら、行った行った」

 

 士郎さんに背中を叩かれて走り出す。出遅れているが、少しだけ身体強化すればすぐに追いつける。

 

「もう、構わん予定通りいくぞー!」

 

 どうにか雀花の号令までに列に加わることが出来た。

 

「ちょっと待ってそんなすぐ服脱げな――――」

 

「「「「「海だ……ッッ」」」」」

 

 上着を掴み空に向かって放り投げる。そしてみんなに混ざって決め台詞を叫ぼうとしたとき、走って来た車に龍子が跳ね飛ばされた。えぇ……。

 

 

 

 

 

「いやー参った、参った。危うくイリヤ達の誕生日がタッツンの命日になる所だったぜ」

「シャレになってないから!」

「轢かれたのが、受け身だけは天才的なタッツンでよかった」

「ふははははは」

 

 雀花が額の汗を拭いながら冗談交じりに話すが、イリヤが代わりに突っ込みを入れてくれているが本当に洒落になっていない。クロエの誕生日に龍子の命日とか言ういらぬオマケがくっつくところだった。しかし、車に轢かれて受け身が上手いとはいえタンコブ一つで済む龍子の身体は一体どうなってる? 

 

「ねえねぇ」

 

 龍子の身体能力に驚愕しているとクロエが困惑気味に声をかけてくる。

 

「さっきの運転手せめてのお詫びにって1万円置いて行ったんだけど」

「1万だと!?」

「え、1万?」

 

 クロエの手には1万円札がしっかりと握られていた。

 

「マジかよ……世間じゃひと轢き1万が相場なのか?」

「もしかしてウチ等、タッツンでひと稼ぎできるんじゃ……」

「それは、人道的にもタツコ的に完全アウトだからー!!」

 

 其1万円札を見て雀花と那奈亀が何やらあくどい商売を計画しているけど……。え? なんか、少なくない? 一応、人を轢いたんだよね……? イリヤがまたもやツッコミを入れてるけど僕なら再生もできるしこの方法使えばもっと荒稼ぎが出来るかも……。

 

「まったく、道路では止まると思っていたんだが……。そのまま跳び出すなんて二度とやっちゃだめだぞ」

「怪我がなかったのは奇跡だな」

 

 そう言いながら手に持った籠に俺達の脱ぎ散らかした上着を入れて持ってきてくれたのは士郎さんとその友人だという人。

 

「うう、ごめんなさい」

「ひと夏の過ちってやつね……」

 

 士郎さんの言葉にクロエとイリヤの二人は反省の色を見せる。二人の言葉を聞いた士郎さんは満足そうに笑って加護を置いてビーチパラソルの設置などを始める。

 

「イリヤイリヤ」

「ん?」

「短髪の方がイリヤ兄なのは知ってるけど、隣のメガネ男子はどなた?」

 

 ナイスだ那奈亀。僕も聞きたかったけど聞けずじまいなんだ。イリヤは知っているのか紹介しようとするがその前に自身に向けられている視線に気が付いたのだろう。件のメガネ男子さんから来てくれた。

 

柳洞(りゅうどう)一成(いっせい)だ。お初にお目にかかる」

「皆を引率するのに俺一人じゃ心もとないかと思ってさ、応援頼んだんだよ。柳洞寺って知ってるか? そこの息子なんだ」

 

 一成さんの自己紹介と士郎さんの解説がされる。へぇ、柳洞寺の……。お坊さん? 

 

「ほほーう、ほうほうほう……。それでお二人はどのような関係で?」

「雀花」

「「関係?」」

 

 どこからかメモ帳を取り出した雀花に嫌な予感がして一応声をかける。僕は別に雀花の趣味を否定する気はないし、今となってはそういう形の愛もあるよね。って理解も出来るけど流石に初対面の相手にその目は駄目だと思うの。

 

「関係って言っても……まあ、普通の友人関係だよな?」

「ふむ……『普通』の一言で済ませられるのも、いささか寂しいな」

「ッ! ……ほうほう?」

「雀花」

「衛宮にはいつも、生徒会の雑務を手伝ってもらっていてな。堅実な仕事ぶりにはいつも助けられている。衛宮がいなかったらと思うと、俺はどうして良いのか分からんよ」

「何だよ、急に……褒め殺しか? 俺は自分ができる事をやれる範囲でやっているだけだ。それに俺がいなかったところで、お前がどうとでも仕切れるだろ」

「ふっ……フヒッ」

「雀花」

「いや、お前がいなくてはだめだ。衛宮手製の弁当が食えなくなると、俺の士気に関わる」

「それかよ……まあ、張り合いがあって良いけどさ」

「衛宮の味噌汁なら、毎日飲んでも良いぞ」

「毎日は流石に勘弁だ」

「アッ……アッ……アッ……」

「無意識でこれは……雀花を攻められないよ」

 

 ほら、周りのざわざわしてるじゃん。クロエは愕然として、イリヤは震えてるし。ん? 美々……妙に顔が赤く……。へぇ、()()()()()()()()()……。

 

「アリガトウゴザイマシタッッ!!」

 

 うん、まぁ……。良かったね、雀花。色々あったが、せっかく海に来たんだ。いつまでも戸惑ってはもったいないということで遊びまくる僕たち。

 

 単純な水の掛け合いから始まり。ビーチボールでは相変わらず美遊が脅威の身体能力を見せつけ、BLの過剰摂取で意識が朦朧としていた雀花にボールが直撃したり。ビーチフラッグでは美遊、イリヤの俊足対決が盛り上がり。スイカ割りで少しばかり驚かしてやろうと目に見えないレベルでヴァリアブル・スライサーしたり。砂浜で城を作っていたはずだがいつの間にか龍子を砂に埋めてたり色々と遊んだ。

 

 少しして休憩がてら僕を含む魔法少女組は岩場に上がり波を眺めていた。

 

「え? じゃあ美遊は、海に来るのって初めてなの?」

「来たのは2回目。入るのは初めて。だから海で何をするべきなのかよくわからない」

 

 なんなくの会話で美遊が今まで海に来ていないことが判明してイリヤが驚いて質問する。しかし二回目だという。それにしても何をするか分からないって……やっぱ美遊はどこかズレてるんだよな……。

 

「そんな難しく考えなくていいよー。自由に遊べばいいんだよ」

「……イリヤ、自由ってあんなの?」

 

 僕はなんとなく今だ遊んでいる雀花たちの方を指さす。指の先では那奈亀が龍子をぶん投げて雀花に衝突させてた。……あれは何をやっているんだ。

 

「あそこまで自由なのはちょっと……。でも珍しいねこんな海の近い町に住んでいるのに」

 

 あ、逃げた。

 

「少し前まで海外にいたから」

「海外!? 帰国子女だったんだ」

「小さい頃は冬木市に住んでた。父と兄と……三人で。でも父が病死して……それから海外に引き取られた。こっちに帰って来たのはつい最近」

「もしかしてそのお兄さんってのが……」

「……うん。士郎さんによく似てる人」

「……そっか」

 

 え、美遊に兄がいたの? 士郎さんにそっくりなの? なんか皆知ってる風だけどなに、また僕がいない時になにかあった感じ? いや、もぅ訳が分からん。イリヤと美遊が独自の世界に入って黙りこくってしまったのでクロエの方に向かう。

 

「クロエ」

「レイ?」

「二人の話聞いてた?」

「ええ」

 

 クロエは二人から少し離れた位置で流木の枝で蟹をつっいていた。……。

 

「どう思う? その……美遊って、さ」

 

 うまく口には出来ないけど、美遊にはやっぱり何かがある、何かを隠している。それも魔術がらみで。

 

「私もどうしようか迷ってるの。あの二人何時まで棚上げしとくつもりなのかしらね……」

「アイスキャンディー!」

「いっそ発破かける?」

「いかがっすかーー!」

「それも考えたんだけ――「アイスー! キャンディー!!  いかーーーーすかーーーッ!」

 

 ……全然クロエの言葉が聞こえない。

 

「なんなのもー! うるさいわ!」

 

 クロエも我慢ならなくなったのか声のする方に向かっていく。僕もクロエの後を追いかけないと。でも、その前にっと。

 

「フんッ」

 

 クロエに遊ばれていた蟹を踏みつぶす。グチャグチャになった体を海にまき魚の餌に代えてやる。

 

僕の甲殻の方が立派だし。お前がクロエに遊んでもらえたのは偶々なんだからな

 

 クロエたちの所に向かうとそこにいたのはバセット・フラガラックだった。は?

 

「おや、あなた達は……」

「バゼット!?」

「ま……また出たわねバサカ女!」

「て、てて、転身しなきゃ! ルビー! ルビー!? いない!? なんで!?」

 

 そういや、あのステッキどもどこに行った!? まぁ、いいさ。お前は愛するに値しない。僕がまたボコボコにして今度こそ息の根止めてやる!

 

「クロエ、下がって。ヴァリアブル・スライサー構築!」

 

 手の内に剣を構築してクロエたちの前に出る。ふふ、少しだけど顔を歪めたな、女。この剣が相当嫌な思いで二なったみたいだな……。

 

「……子供にそういう反応をされると流石に落ち込みますね。安心しなさいここで貴女たちとやり合うつもりはありません。なぜなら今の私は……ただのアイスキャンディー屋さんですからッ!」

「は?」

 

 女の格好をよく見ると水着にエプロン、のぼりのついた台車の上にはクーラーボックス……。え、なんだ、どういうこと?

 

「先日の戦闘行為で発生した修繕費用ですが、なぜか協会を素通りして私に請求がきまして……。カードは止められ、路銀も尽きました」

 

 ルヴィアさん……すげぇ、本当にやったんだ。それはそうと女に戦闘の意識がないのは本当らしい。クロエの方に目線を向けると頷いたので剣を消す。

 

「ですが大した問題ではありません。金など日雇いのバイトで繋げばいい。その気になれば道端の草も食べられる」

 

 あぁー、この女、大丈夫か?

 

「この前の時と全然キャラ違くない!?」

「状況も言動も……心なしか顔つきまでダメッぽく見えるよ……」

「これが封印指定執行者……?」

「僕もう殺気が消え失せたんだけど……」

 

 魔法少女たちと集まってヒソヒソと話す。やっぱりこの変わりように驚愕しているのは僕だけでは無かったらしい。

 

「とまぁ、そう言う訳ですので。一本三百円です。お買い上げありがとうございます。」

 

 あ、やっぱちょっと殺気でる。

 

 

 

 

 

 

 バリバリとアイスキャンディーを齧りながら砂浜に寝っ転がる。隣のパラソルの影の下には押し売りに凹んでいる魔法少女たち。僕は別に日焼けなんて再生でどうにでもなるし、そもそも熱は僕のエネルギー、パラソルの下に入る必要はないので場所を譲っている。

 

「あれ? どうしたのそんなに項垂れて……」

 

 雀花たちが海から上がって来たのかそれぞれタオルで水気を拭きとりながらやって来た。そして美々が凹んでいる魔法少女たちを不思議に思って質問をした。

 

「なんか……ダメっぽい人の押し売りに遭っちゃって……」

「ふーん……?」

 

 代表してクロエが事情を話すが何のことか今一理解しきれていない美々。

 

「よし、それじゃあそろそろ会場に移動するか」

 

 士郎さんが鞄を持ち上げながらそう声をかける。

 

「会場? なんの?」

「雀花」

「ウチら疲れたからもう帰ろうかと思ってるんだけど」

「那奈亀」

「ちょっと!? 今日の趣旨忘れてない!?」

 

 たまらずイリヤが突っ込みを入れる。

 

「ほ、ほら! 今日はイリヤちゃんたち3人の誕生日で……」

「あ……あーあー……」

 

 美々が耳打ちしてくれたおかげで雀花は今回の目的を思いだしたようだ。

 

「すまんイリヤズ。ぶっちゃけ誕生会とか海に来る名目でしかなかったから半分忘れてた」

「ちょっとは歯に衣着せてよー!」

「しかし自分から『誕生日祝ってくれ』とか言うのもどうかと……」

「そんなはしゃぐ歳でもあるまいし」

 「雀花、那奈亀」

 

 まぁ、イリヤにそう言いたくなるのも分からなくはないが、クロエは初めての誕生会なんだ。できればちゃんと祝ってあげて欲しい。そうして士郎さんが予約してくれたという店に全員で移動するのだった。

 

 

海の家 がくまざわ

────────────────────────―――――――――

 

「……驚いた」

 

 士郎さんが予約した店、『海の家 がくまざわ』はなんと龍子の家族が夏の間だけ経営している店だった。 本来は龍子の実家は『嶽間沢流』と言う格闘術の道場をしているのだが、夏の間は海の家の方が稼ぎが良いからこちらに注力しているらしい。……それでいいのか『嶽間沢流』

 

「「「「「イリヤ&クロ&美遊!! お誕生日おめでとうー!!」」」」」

 

 龍子の家族全員集合などいろいろあったが席に座ればあっという間に誕生会ムードは出来上がりパーティーが始まる。テーブルの上に沢山のご馳走が並ぶ。中でも目を引くのが士郎さんがお願いして作ってもらったというアイスとかき氷のケーキ。

 各々が思い思いに飲み食いし楽しんでいる。

 

「イリヤ」

「ん?」

 

 ジュースを飲んでいた美遊が隣のイリヤに質問をしようとしている。ああ、何故だろうかなんとなく予測できてしまった。多分、またズレた質問が飛んでくる。

 

「誕生会って、何をする物なの?」

「んん?」

 

 そらみたことか。最近美遊の事情は分からないけど、美遊のそういう変なところは予想が付くようになってきた。

 

「誕生会なんだから、誕生日を祝う物でしょ」

 

 イリヤ、相手は海でどうやって遊ぶかわからなかった美遊だぞ。その返答はヤバい気がする。

 

「誕生日って、祝うようなものなの?」

「……」

「やっぱり……」

 

 さっきまで和気あいあいとしていた誕生会が一瞬にして固まった。ああ、もう。これはあれかな、世間一般的に行われるイベント表みたいなの作ってそれぞれの特徴と何をやるかとか事前説明が必要なんじゃないか? 美遊はこれからもクロエと過ごす訳だしそのたびにこんな感じだ困るし……。ハロウィンとかバレンタインデーとか変にどこからか知識を仕入れてきて当日大惨事! みたいなのは御免だからな……。

 

「ず、ずいぶん根本的な質問するなあ、ミユッチは」

「今まで祝って貰った事無いの?」

 

 僕が悩んでいる間に雀花と那奈亀が場の空気を換えようと質問するが……。

 

「……ない」

 

 ダメだった。

 

「あー……そうだな……誕生日ってのはさ、生まれて来た事を祝福し、生んでくれた事を感謝し、今日まで生きてこられた事を確認する。そんな日じゃないかな」

 

 え、深っか。けど……そっか祝福、感謝、確認か……。僕の場合、前世はもう思いだせないし、今は……誰が親なんだ? 地球? でも『沖繫レイ』をこの世界に生み出したのはレディ・アヴァロンだしな……。感謝か……誕生日には顔でも見せに行こうかな……。少しばかり愛してあげても良いし。

 

「祝福と感謝と確認……」

 

 お、美遊にも士郎さんの言葉が響いてるみたいだ。

 

「でもまあ、そんな堅苦しく考える必要もないぞ。誕生日を祝って貰う側は、美味い物を食べて、適当に騒いでプレゼントを受け取る。やる事なんてそれだけで良いんだよ」

 

 そう言いながら士郎さんが鞄の中から綺麗にラッピングされた箱を取り出す。

 

「三人とも。お誕生日おめでとう」

 

 クロエたちが箱を空けると中からブレスレットが出てくる。三人とも違うデザインで士郎さんなりに考えたのが分かる。やっぱ高校生となるとああいう大人なプレゼントになるのか……。

 

「可愛い可愛い、気に入ったわ!!」

「ありがとう、お兄ちゃん。大切にするよ!!」

 

 クロエもイリヤも凄い喜んでる……。

 

「ほら、美遊も!」

 

 イリヤに背を押されて美遊が前に出る。

 

「……生まれて来た事……今日まで生きてこれた事、イリヤに会えた事、みんなに会えた事、士郎さんに会えた事、その全てに、感謝します」

 

 いや、凄いな。なんかこう、込められた感情? 念? なんかすっごい色々込められてる。ほら余りの言葉に雀花と那奈亀が騒ぎ出した。彼女たちに重すぎる空気は耐えられるものでは無かったんだろう。 

 二人のお陰か会場は再び賑やかな雰囲気に戻った。みんながワイワイと騒ぐ明るい空間。クロエもイリヤも美遊も士郎さんのプレゼントが気に入ったみたいで手に付けて眺めたりしている。

 タイミングも逃しちゃったし、ああいうお洒落なプレゼントの後に出しても変だよね……。取り出そうとしていたプレゼントを僕はしまった。

 

「……」

 





ぷーりん「こないで」
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