プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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8枚目のクラスカード

エーデルフェルト邸

────────────────────────―――――――――

 

《エーデルフェルト邸再建おめでとうございまーす》

「おめでとー。大したお祝いもできなくて恐縮ですが……」

「あら、そんな他人行儀なことは不要ですわよ。おほほほほ」

 

 ルビーとイリヤが一番に声を上げる。

 

「ルヴィアさん、おめでとうございます」

「レイも感謝しますわ」

 

 僕もお祝いして頭を下げればルヴィアさんが軽く撫でてくれる。……年齢的には間違っていないのだけれど、この人僕を弟か何かだと思ってない? なんか、扱いが……。

 

「はい。お祝いムードはそのくらいにして。八枚目のカード回収の作戦会議始めるわよ」

 

 手を叩いて場の雰囲気をまとめ上げるのは凛先輩。作戦会議とは言うけれどテーブルの上には紅茶にお菓子、お茶会みたいな雰囲気なんだけれども……。

 

「屋敷の再建と同時にボーリング作業も完了。地中深くに眠っていたカードの元へようやくたどり着いたわ。あとはこれまで通り、鏡面界にジャンプして、カードを回収するだけ!」

「はいはいしつもーん」

 

 凛先輩がホワイトボードに情報を書きだしていく。するとクロエが手を上げて質問する。

 

「現実界はボーリング工事してあるからいいけど、鏡面界は土の中なんじゃないの?」

「あっ、言われてみれば」

「あー」

 

 クロエの発言につられてイリヤと僕もはっとする。確かにそこらへんってどうなんだろう? 

 

《それは大丈夫です。鏡面界は可能性の重ね合わせた状態にありますから》

「ん?」

 

 サファイアが質問に答えてくれたけど……分かるような分からんような。イリヤは……うん。分かってないな。

 

《我々がジャンプする事によって、重ね合わせの中から相対状態を選び取る訳です。まあ、本当の意味での理解はじじいにしか不可能ですが、『シュレディンガーの猫』を思い浮かべればわかりやすいかと》

「よ、よくわからないけど大丈夫ならそれでいいです……」

「じじい?」

 

 気になることは色々とあるけれども。戦闘に支障がないということならなにも問題は無い。今度は美遊が手を上げる。

 

「バゼットさんはどうするんですか?」

「うん。それが問題その一ね。……彼女も同行することになったわ」

「えっ」

「うげ」

 

 思わず顔が歪む。

 

「と言ってももちろん仲間ではない。どちらが先にカードを手にするか……競争相手ってところね」

「競争かぁ……」

「ふふっ」

 

 凛先輩の言葉に困り顔を浮かべるイリヤを見て思わず笑みがこぼれる。

 

「レイ? なにか面白い事でもありまして?」

「ああ、すいません。競争って聞いて『最初の方のカード回収もそんなこと言ってたなぁ』と懐かしい気持ちになってしまって」

「成程そういうことでしたの」

 

 ルヴィアさんにどうしたのかと聞かれ素直に答えたらルヴィアさんも少しだけ微笑んだ。

 

「ならとにかく速攻ね! あっと言う間にケリをつけてあの筋肉女より早くカードを回収!」

「事はそう簡単じゃないわ」

「どういうこと?」

「問題そのに。八枚目のカードはこれまでの比じゃないほど魔力を吸ってる。よりにもよって地脈の本幹ど真ん中。二か月半にも渡って途方もない量の魔力を吸収し続けているのよ」

 

 凛先輩の言葉に場が静まり返る。

 

「地脈が収縮するほどの吸収量……ですか」

「いったいどんな化け物になっているのか想像もつきませんわね」

 

 美遊とルヴィアさんが少しだけ冷や汗を掻きながらそう話す。そっか……バーサーカー以上のが出てくる可能性があるのか……。めんどいなァ、戦い辛いんだろうなー。

 

「でも……あの時の僕に比べたら楽じゃないですかね」

「……否定し辛いわね」

「確かに……」

「あの時のレイに比べたら……ねぇ?」

「あんたみたいなのがそうポンポン出て来られたらたまったものじゃないわ」

 

 僕の言葉を聞いた後全員頭痛をこらえるように頭に手を置いた後口々にそう言い放つ。

 

「レイやクロエの言葉は間違いじゃないわ。正体不明にして恐らく過去二番目の強敵……とれる作戦は一つだけよ。最大火力をもって初撃で終わらせる!」

 

 凛先輩は力強くそう宣言した。しかしその表情は一瞬で崩れた。

 

「―――なんだけど……。イリヤ、手持ちのカードは何だったっけ?」

「え? えーっと『キャスター』『アサシン』『バーサーカー』」

「……見事に火力不足な面子ですわね」

 

 うーむ、バーサーカーとキャスターはまだ使えそうな気がするんだけどなぁ?

 

「つ、使いようじゃないかなぁ……」

「そうそう、バーサーカーとかアイツ滅茶苦茶強かったよ?」

「……『バーサーカー』を限定展開するとどうなるの?」

「なんかでっかい剣になったよ。でも重すぎて持ち上がらない……」

 

 剣なら僕が振るって……いや、ルビーが剣になるからイリヤの攻撃手段がなくなるのか……うーん。

 

「実用は無理……か。でもやるしかないわね。これが本当に最後の戦い。持てる全て用いて、勝つわよ!」

 

 そうして作戦会議は解散となった。片付けが終わり自分の家に帰ろうとするイリヤに声をかける。

 

「イリヤ」

「ん? どしたのレイ?」

「バーサーカーのクラスカード、借りても良い?」

「へ? い、いいけど、レイ使えるの?」

 

 カードをこちらに差し出しながらイリヤが恐る恐る聞いてくる。

 

「いや、分からない。けど……試しておきたいことがあるんだ」

 

 カードを受け取りイリヤとクロエに別れを告げる。そして屋敷内にいる美遊を探し出して辺りに他に人がいないのを確認してから話しかける。

 

「美遊」

「レイ? 帰ってなかったの?」

「少し美遊に教わりたいことがあって」

「……? 私が教えることなんてなにも――「夢幻召喚(インストール)」――ッ」

 

 顔が強張った。

 

「まず、勘違いしないで欲しいから言うけど僕はカードも、美遊の事情も、なぜカードの機能を知ってるのかも、興味はあるけど聞き出すつもりはない。ただこの先の戦いの為に夢幻召喚(インストール)のやり方を教えて欲しい。……出来るんでしょう? ステッキが無くても」

 

 僕はまっすぐ美遊を見つめる。美遊は目が泳ぎまくり明らかに動揺を隠せていない。

 

「……」

 

 お、深呼吸して目つきが代わった。

 

「分かった、教えて上げる。こっちに来て」

「ありがとう」

 

 

深夜

────────────────────────―――――――――

 

 

「―――暗くて殺風景。エクストラステージにしては華のない舞台ねー」

「いや、逆にシンプルだからこそ実力を発揮しないと倒せないステージ、とも言えるかもよ」

「クロ、レイもう少し緊張感をもって……」

 

 ルヴィアさんたちの工事によって作られた地下への階段を下りながらクロエと軽口を叩く。

 

「結構、本番こそリラックスして挑むべきですわ。けれど、集中するのも忘れないように」

「「はーい」」

「手筈は昨日確認した通りよ。小細工無しの一本勝負。最も効率的で合理的な戦術……すなわち初撃必殺!」

 

 先頭で降りていた凛先輩の言葉が終わると同時に全員が開けた決戦の地に到着する。……広い、地下にこれだけの空間をつくるなんて一体どれたけのお金がかかっているんだ? 

 

「そろそろ時間ですけど……」

「来ませんね」

 

 ルヴィアさんと美遊が階段の方を見てそう呟く。そうあのバゼットとかいう女、まだ来ていないんだよ。どうした今日は付いてくるんじゃなかったのか?

 

「遅刻者はほっといて先やっちゃおうよー」

 

 クロエは僕のほうに寄りかかって抱きつきながらそう凛先輩に提案する。……あったか。

 

「うーん……それもやむなしかしら……時間まであと5秒……3」

 

 あ、今なにか物音が、

 

「2、1……ゼロ」

 

 す、スーパーヒーロー着地だ。スーパーヒーロー着地してきやがったあの女!? 僕がやるとこっそり毎回膝の組織を再生させないといけないアレを軽々とやりやがったあの女……。

 

「――始めましょうか」

 

 何はともあれ役者は揃った。全員が魔法陣の中に入り転移の準備を始める。擬獣化形態、解放。

 

「配置について! ジャンプと同時に攻撃を開始するわ! とにかく最大の攻撃を放つだけの作戦だけどもし敵からの反撃があったら守りの要はイリヤとレイの物理保護よ」

 

 はいはい、物理(肉盾)と物理(魔法)ね。

 

「でもそれを別にしてもとにかくイリヤはダメージを受けないように!」

「え、なんで?」

「痛覚共有の呪い! 忘れたの?」

「あっそうか。私が怪我したらクロやバゼットさんまで怪我しちゃうんだ」

 

 ということは実質防御役は僕一人って訳ね。……変わんないなァ。

 

「そんなものとうに解呪済みですが」

「えっ!?」

「いつのまに……」

 

 なんとバゼットのやついつの間にか解呪していたらしい。というか解呪出来たんだあれ。

 

「……腕はいいが性格が悪いシスターに祓ってもらいました」

「それは……シスターとしてはどうなんです……?」

 

 腕が悪いのも問題だとは思うけど性格が悪いシスターって……。しかしだとしたらどうしてクロエは呪いをそのままにしているんだ?

 

「ま、呪いがあろうがなかろうがもはや関係無いわ。この戦いは先にカードを手にした者が所有権を得る。ただ、それだけの勝負よ」

 

 凛先輩はそう言って意識を切り替える。魔法陣はドンドンとその輝きを増していく。 

 

「行きます!!」

 

 美遊がそう言うとぐるりと世界が回る。……この感覚久しぶりだな。……ん? まて、この感覚、いつもこんなに長かったか?

 そうして気が付いた時、その世界には黒い魔力が満ちていた。

 

「おっとぉ……思った以上に不味いかも」

「黒い……魔力の霧!」

「これってセイバーの時と同じ……!?」

《いいえ、これは明らかに、けた違いです!》

 

 イリヤと美遊にはこの黒いやつに見覚えがあるらしい。……セイバーってこんなの纏ってたのかよ! 

 

「惑わされないで! 敵がどんな姿であろうとすべきことは同じですわ!」

「上からくるわよ!」

 

 ルヴィアさんと凛先輩の声にはっとなって体を動かす。黒い霧が形をもって襲い掛かってくる。それを散開することで避ける。……すごいな、存在自体が盾であり、武器としても使える高密度の魔力の霧……。この部屋の全体を埋め尽くしてる。

 

Zeichen(サイン)! 世界蛇の口(ヨルムンガンド)!」

 

 ルヴィアさんの魔術が敵を拘束する。

 

「まずは捕縛成功! イリヤ、美遊! チャージ開始! 20秒よ!」

 

 凛先輩の指示が直ぐに飛び二人が攻撃の準備に入る。

 

「成程、吸引圧縮型の捕縛陣で敵を一か所にとどめつつ、魔力チャージの時間を稼ぐ。そして……砲台か」

 

Vom Ersten zum acbten(1番から8番)Eine Folgeschaltung(直列起動)打ち砕く雷神の指(トールハンマー)!」

 

 凛先輩の前に巨大な魔法陣が出来上がる。そして凛先輩がバゼットの方を向いて口を開く。

 

「魔力の高速回転増幅路。……お互い妨害とかはしない約束だけど一応忠告しておくわ。私たちの前には出ない方が良いって」

 

 出来上がった魔法陣に二人の魔法少女の渾身の魔力砲が撃ち込まれる。魔力は魔法陣の中を通り加速し、増幅し、極光となって黒い霧も何のその、地面をえぐりながら魔力砲は敵を飲み込んだ。

 ……さて、出番かな。

 

「やった! 完全に決まった!」

「まだよ!」

 

 イリヤが喜んでいるところ悪いがアレはまだ終わっていない。故に、今度は僕たちの番。

 

「体内超高圧縮ミクロオキシゲン右腕部へ移動。充填……完了。魔力回路起動、魔力による増幅バレル展開……」

 

 僕が腕を構える横でクロエも弓を構える。

 

《凄まじい魔力圧縮です……!》

「あの矢も、レイの攻撃も今までのものとは格が違う……!」

「クロ! レイ! 仕上げよ! 敵が再生する前に、カードごと破壊しても構わないわ! 撃って!」

 

「……壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

「今こそ戴冠の時来たれり! 黒き王よ、屍を晒したまえ(オキシジェン・デストロイヤー・レイ)!!」

 

 

 僕とクロエの放った一撃は轟音を響かせ敵に向かって真っすぐ跳んでいった。そして僕たちの攻撃は突如として現れた盾の放った緑色の光によってかき消された。

 

 は?

 

 ……今の僕は間違いなく全力の一撃を放った。それは間違いない。なら、ならどうして僕の攻撃は防がれた? あらゆるものを溶かし堕とすオキシジェン・デストロイヤー・レイだぞ? なんだあの盾は? まるで()()()()()()()()()みたいじゃないか。もしかしてあの盾の内包する世界に被害を移した? 

 

「盾……ッ!?」

「いったいどこから……!? いやそんなことより……防がれた? なんでも溶かすレイの攻撃を?」

「退却ですわ! 作戦は失敗! 戻って立て直しを―――」

 

 ッ! そうだ、一旦引いて立て直さないと―――ん!?

 

「おい、女、どこに!?「次は私の番ですので」

 

 クロエと共に凛先輩の元まで走って後退しようとしているとその横をバゼットが歩いていくのが見えて思わず声をかける。

 

「あいつ、単身で突っ込む気!?」

「美遊はみんなを連れて脱出して! 私がバゼットさんを――」

 

 ま、バカ! イリヤが跳び出そうとするのを止める。

 

「バカッ! 逃げるんだよ!」

「無駄よ! もう間に合わない」

 

 クロエもイリヤの肩に手を置いて抑えてくれる。

 

「あの女は」

「「死ぬわ(ぞ)」」

 

 そう言った瞬間、視界の端でバゼットの身体に沢山の武器が突き刺さるのが見えた。

 

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