────────────────────────―――――――――
「ッ」
あの武器は一体どこから、いや、治療……ダメだな、間に合わない。
「ギッ……ィィィィイイイイイイアアア゛アア゛ア゛ア゛ア゛ア」
黒化英霊が叫び声をあげると足元に黒い泥が広がりその泥の中からいくつもの剣が跳び出してくる。そうか、あの泥の中から武器が……。
「なに……あれ。なんなの!? なにが起きてるのッ!?」
「何でも良い! イリヤと美遊は転移の準備急いで!」
バゼットがまた動き出したがあれはただ動いてるだけだ。もう助けられないしあんな身体じゃ英霊を殺すこともできない。身動きの取れないバゼットに新たに剣が跳び、心臓を貫いた。
「心臓……!」
というより、あの武器は一体何なんだ。バゼットって言ったら僕がある程度の力で殴っても軽傷で済むぐらいには頑丈だっただろうに! なんであんな簡単に傷ついてるんだよ!
「条件……完了」
は? バゼットの身体が光に一瞬包まれたと思ったらピンピンして英霊を殴り飛ばしていた。……ん?
「うそ! 心臓貫かれたのにどうして……ッ!?」
イリヤが驚いた様子で叫ぶ。正直僕もそうやって叫びたい。
「蘇生……」
「へ?」
凛先輩が呟いたその一言。え? マジで?
「蘇生のルーン……! おそらく心停止した瞬間発動したんだわ!! それこそ宝具クラスの魔術を……!」
「化け物か……あの女」
「正真正銘バーサーカー女ってことね」
凛先輩の言葉に思わずそう口から飛び出る。
「でも、あれだと……」
「ええ、無理よ。いくらバゼットが英霊じみた力を持っていても絶対に敵いっこない」
クロエが隣に立って僕の意見に賛同してくれる。
「!? どういう……」
美遊が状況を飲み込めずに質問してくる。それに対して僕は空中に浮かぶ剣たちを指さす。
「何の冗談って感じ。アレが何か分かる?」
「浮いているアレ、全部が宝具だよ」
カチャカチャと空中の剣がその切っ先をこちらに向ける。
「宝具……!? あの一つ一つがエクスカリバーやゲイボルグのような……!?」
《そんな、ありえません!》
「来ますわ!」
「ル、ルビー! 物理保護……」
「そんなの効くわけないでしょ!
「オキシジェン・デストロイヤー・レイ!」
飛んでくる剣を防ぐためにクロエがバリアのようなモノを展開して僕はそのバリアが少しでも長持ちするように飛んでくる剣を撃ち落とす。しかしまるで無限に飛んでくる剣。際限がなさすぎるだろ! これじゃあどれだけ撃ち落としてもバリアが持たないッ。
「ダメ……ッ! 盾が持たないッ! 美遊! 脱出して 早く!」
っく、ここまで焦っているクロエの顔は初めて見た気がする。それだけ不味い状況だというのに、少し、少しだけ『そんな表情も良いな』って思ってしまう自分がいる!
「
意識が急激に回る。
────────────────────────―――――――――
「っは!」
「全員無事!?」
目を開けるとそこには黒化英霊はおらず、通常界ということが分かる。
「……クロエがいない!」
いない、いない!? 辺りを見回すが近くにいるのは凛先輩にルヴィアさんに美遊だけ。僕の言葉に凛先輩たちも気が付いたのか周りを確認する。
「イリヤもいないじゃない!」
「美遊! すぐにまたジャンプの準備! 僕だけでも良い、すぐに連れて帰る!」
「向こうの状況も分からないのに許可できるわけないじゃない!」
「向こうの状況もなにも復活できる僕なら関係ない!」
「レイ、落ち着きなさいな」
凛先輩に食って掛かっているとルヴィアさんが肩に手を置いてくる。……邪魔立てするか!
「ルヴィアさんも邪魔するんですか! これが落ち着いていられる状況だとで―――」
その時少し離れた位置の地面に魔法陣が浮かび上がり激しく光るとクロエにイリヤ、それにバゼットもいた。
「クロエ!」
「イリヤ! クロ……!」
僕は思いっきりクロエのもとに走り出す。
「だ、脱出出来た……?」
《いやはやー、間一髪でしたね》
「何だったのアレ……。あぁ、レイただいま」
「良かった、よかった……」
思いっきりクロエを抱きしめる。あぁ、暖かい。心臓の鼓動が聞こえる。肩に吐息を感じる。良かった、生きてる。視界の端の方でイリヤが凛先輩に説教されてる。
「無事……とも言い切れないようですわね。一体何があったんですの?」
ルヴィアさんの一言にクロエとバゼットの顔色は悪くなる。
「地獄……いや神話を見ました」
神話?
「……分かったことは2つ。あの英霊の正体は不明ですがクラスはアーチャーです」
「!?」
二枚目のアーチャーのカード。というかアーチャーなんだ、アレ。……だから弓使えよ、アーチャーなんだったら。
「そして……我々ではどうやっても勝ち目がない。もはやカードを回収するのではなく別の解決案を模索すべきだ」
そう言ってバゼットは立ち上がって階段へと向かっていく。
「そんな……!」
「私も同感ね。正直二度と戦うのはゴメンだわ」
「だからといってこのまま放っておいたら……」
「とにかく一度協会に……」
凛先輩にルヴィアさん、それに珍しく美遊まで意見をだしてこれからについて話している。イリヤは少し離れた位置でオロオロしてるし、クロエは未だ僕の腕の中。
そんな中、何かが割れる音が聞こえた。その音は次第に大きくなっていく。音のする方を向いてクロエを背中に庇う。するとそこには
「なに!? 何の音!?」
「これはいったい……?」
流石に音が大きくなってきて凛先輩やルヴィアさんも気が付いたらしい。しかし二人にも何が起きているのかまるで分からないらしい。
「亀裂が広がって……割れていきます!」
「割れるって……何がよ! アレは何が割れてるの!?」
あ。遂に罅は巨大なものとなり、穴が開いた。穴の中は真っ黒な闇が広がっておりそこから風が吹き出してくる。
「風……?」
「これって……まさか……ッ!?」
《こんなことがあり得るとは……》
どうやらイリヤとルビーはこの風に又は風を起こしている存在に思い当たるものがあるのか信じたくないものを見たような顔をしている。一体どういうことなのか聞こうと顔を穴から逸らそうとした瞬間
「は?」
黒化英霊。え、出てきた? 鏡面界からこちら側へ? そんなことが出来るのか? どうやって? あの穴が原因? いや、そんなことは今はどうでも良い!
「吹き飛べッ!」
オキシジェン・デストロイヤー・レイは防がれた。なら直接叩き切ってやる! 剣を構成、翼を全力で動かして、思いっきり地面を蹴れ! 限界まで加速してッ!
「ヴァリアブル・スライサァァァアアアア!」
「えあ」
「ッ!?」
なんで切れない? 全てを溶かし切るはずのヴァリアブル・スライサーは黒化英霊の持つドリルのような剣によって受け止められていた。……というか、これ剣か? そもそもなんだ、何で出来てるんだこれは……。いや、よく見たら剣? に当たってない! 剣にまとわりつく赤い風のような何かに止められてるッ!
「レイ、離れなさい!」
「ッ!?」
背後からルヴィアさんの声が聞こえたので黒化英霊を蹴っ飛ばして鍔迫り合いの状態から一気に離脱。みんなの居る所に帰って来る。するとルヴィアさんは壁に手を当てる。
「
壁になにか仕込んでいたようで一気に術式が壁一面に広がっていく。そして壁や天井で爆発が起こりはじめる。
「まさか、最終手段をこちらの世界で使う事になろうとは……」
「……やる事が派手だねぇ」
「天井が崩れる……!」
まさか爆薬を仕込んでいたとは!
「逃げますわよ! 生き埋めになるのは敵一人で十分ですわ!」
「階段じゃ間に合わない……イリヤ! 美遊! 私とルヴィアを引っ張って飛んで!」
「わ……分かった!」
そう言ってイリヤは凛先輩を、美遊はルヴィアさんを引っ張って飛び始める。なら俺は……。
「クロエ!」
「よろしくね、レイ!」
「……バゼットは尻尾掴んでて!」
「ッ! ありがとうございます!」
クロエを両腕で横抱きしてバゼットを尻尾の先にぶら下げる。一瞬迷ったけど置いていくわけにもいかないからな!
ドンドン加速して上を目指すがその間にも爆発は起きて土砂と瓦礫が落ちてくる。爆薬仕掛けすぎだろ!
「想定外の事が起こりすぎているわ! 敵がこっちの世界に出て来るなんて!!」
凛先輩が吐き捨てるように叫ぶ。バーサーカーも色々とヤバい奴だったけどこれは……。ヤバさのレベルが違うな。
《いったい、向こうで何があったの姉さん? 敵も虚軸の移動手段を持っているの?》
《いいえ、わたし達のやり方とは、まるで違うようですよ。 恐らく敵が最後に出した奇妙な宝具……。あの剣が鏡面界そのものを切り裂いたのではないかと……》
「なるほど……世界にある物なんでも切れる剣と世界そのものを切れる剣ではそりゃ向こうが勝つか」
サファイアとルビーの解説を聞いていて少しだけ納得してしまった。確かに切れ味勝負は分が悪い。
「どんな宝具を持っていようと……160万トンのコンクリートと720万トンの地層に押しつぶされれば―――!」
「いや……ダメ、かもね」
ルヴィアさんが押しつぶしたことに自信を持っていたようだが凛先輩が下を見ながら苦し気な声をあげる。すると何かが瓦礫やらを物ともせず跳び出した。そしてものすごいスピードで上へ登っていく。
「いっ、今のは!? なにか黒いのが飛び上がって……!!」
「地層を……突き破ってる……」
……ははっ、冗談きついよ。
「急いでイリヤ! 早く地上へ……!」
全員が嫌な予感に包まれ、急いで地上へと向かう。そして竪穴から飛び出して見た景色は……。
「なんてこと……敵が、市街地に出てしまった……」
「90メートルの地層をいとも簡単に……!」
「あれも宝具?」
「いくつ持ってるっていうのよ、アイツ。後出しで秘密道具出されちゃかないっこないわ!」
しかもアイツ、あれだろ。魔術の秘匿もなにもしてないだろ……。最悪だ。
「市街地からなるべく離したいところですが……空中にいる限り手出しできない」
「私たちなら飛べます」
そういって美遊は戦闘準備に入るが……。近づいたところであいつが何をしてくるか分からないからな……。
「危険すぎる! 近づいたところで勝算は無いのよ!」
「無策で近づいても宝具の投射を誘発するだけでしょうね。そのうち1本でも街に落ちたら……」
街の上に出られた時点でキツイな。いっそ全部更地にしていいなら手が無いわけでもないんだが……。
「なら、海側におびき寄せるか、地面に叩き落として……」
「仮にそれができたとして、その後どうするのよ? こっちの全力が何も効かなかったってのに!」
「で、でもこのまま放って置くわけには……!」
不味いな、想定外のことが起こりすぎて全員が軽くパニック状態だ。……ここから一撃狙ってみるか?
「手詰まりよ! こんなのどうしようも……!」
凛先輩も追い込まれ過ぎてる。僕が、僕がきっと『獣』と化せばそれで全部終わらせることが出来る。だけど、『獣』を呼べば僕が消えようともこの世界のどこかに他の『獣』たちが現れてその脅威にクロエたちを晒すことになる……。どうにか、どうにかこのままの僕であいつを倒す方法は……。
「豚の鳴き声がするわ」
「……は?」
行き成りの罵倒に凛先輩が固まる。というか……この声は? この下方向を見ると誰かが暗がりの中からこちらに歩いて近づいてきている。
「まったく名家の魔術師二人に執行者と人外が雁首並べてピイピイと無様なものね」
「あなた……!」
「ま゜っ」
「どっ、どうしてここに……」
なんか、すっごい見た事ある人が来た……。やばい、どこで見たんだ……。
「華憐先生!?」
……あ、うちの学校の先生なのかぁ!
レイ君、まったく保健室に行かないため、華憐先生のことを殆ど知りませんそのため、こんな反応になったわけです。