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……突如現れたのは僕たちの学校の養護教諭らしい。あー、そう言えばこんな先生だったような気がしないでもない。
「な、何よ、この無礼な女は!? 知り合いなの、イリヤ!?」
「し、知り合いって言うか、学校の保健の先生で……」
「はじめまして。
「いや、暴走族の当て字かよ」
どこからか出したか知らないけど力強い毛筆で書かれた巻物で漢字の名前を披露する先生。華憐はともかく、『折手死亜』って……。
「カレン・オルテンシア。聖堂教会所属、此度のカード回収作業のバックアップ兼―――」
「監視者です」
バゼットが解説してくれたが……聖堂教会の人間か……。
「『腕はいいが性格の悪いシスター』?」
「えぇ」
やっぱりそうなんだ。僕はカード回収の前にバゼットが言っていたことを思いだしてカレン先生を指さしながらバゼットの方をみて聞いてみれば肯定の返事が返って来た。
「保険の先生ってのは嘘だったの!?」
「ウソというか趣味? 怪我した子供を間近で見るのが楽しくて」
……人格破綻者?
「表立って動くつもりは無かったのですけど、迷える子豚があんまりに無様で可哀そうだったものだから……」
「なにを……!」
凄いな、この人ホントにシスターなのかよ。余りの物言いに凛先輩の頭が沸騰しそうになるがそれより先にカレン先生は人差し指を立てて空に掲げる。
「道を見つけるプロセスなんて決まっています。観察し、思考し、行動なさい。あなたがたにできる事なんて、それだけでしょう?」
……成程、人間らしいことだ。
「―――『祈りなさい』じゃないの? 教会の人間とは思えない言葉ね」
「信仰の無い者に教えを説くほど疲れることはないわ」
本当に教会の人間らしくないな。性格といい、スタンス?とでも言えば良いのか、そこらへんの考え方が。
「……街に明かりがありません」
「え?」
「! 言われてみれば確かに……」
「点いているのは街灯だけで……建物の明かりは見当たりません」
本当だ。街に光がほとんどない。よく美遊も気が付いたな。
「正解。1キロ四方に人避けと誘眠の結界を張ってあるわ。……それが私の仕事の一つだから」
「なら現時点はまだ秘匿は守られている……?」
「そういうこと。さぁこれでひとまず人目を気にする必要はなくなりました。では次に見るべきは? はい、そこの日焼け少女」
そう言いながらどこからか出した教鞭でクロエを指すカレン先生。
「日焼けじゃないわよ。……あからさまな誘導で癪だけど決まってるわ。アイツをどうするかよ」
クロエはそう言って上空を飛んでいるあの黒化英霊を睨みつける。
「さっきから浮いているだけで……結局何もしてないよね」
「少なくとも無差別攻撃をする意思はない……と」
「まぁそういうことに……」
あ、なんか凛先輩が気が付いたっぽい。
「何かアレの意思を推定できそうな情報は?」
「情報って言ったって……」
情報ね……。しかも意思の確認が出来そうなもの……。いや、まったく覚えがねぇわ。アイツに関する情報なんて僕の全力攻撃も防ぐぐらいヤバい。みたいな戦闘に関するものばっかりだ……。
「セイハイ……と発声しました」
……え、喋ったの、アイツ。
「なんだ。殆ど答えは出てたんじゃありませんか」
「! う、動いた!?」
「どこへ行く気……!?」
カレン先生はなにかを知っているらしい。
「『セイハイ』と言ったのでしょう? なら決まっているではありませんか。聖杯の眠る地―――円蔵山のはらわた。地下大空洞です」
大空洞……! ほんとあの土地は曰くつきだな! 今年に入ってどれだけあの地で問題が起きたと思ってる!?
「このままじゃ見失う……! 敵を追います!」
「美遊!」
「わたしも!」
「僕も行きます!」
「イリヤ、レイ!」
美遊が一人で跳び出しやがった! 向かう場所が分かっているならあのスピードでも追いつきようがある! 大空洞で何をするつもりなのかは知らないけどあそこで好き勝手させるのは絶対マズイ! 飛んで追いつけるなら向かうべきだろう!
「いい!? 追うだけよ! 私たちが追い付くまで交戦は駄目!」
背後から凛先輩の声が聞こえる。……約束はできませんよ。いざとなれば全力で交戦しますから。
「あっ……!」
「イリヤ?」
一緒に跳び出したイリヤが何かを思い出したように急停止したので僕も止まる。……何かあったか?
「カレン……先生」
「!」
「色々聞きたいことはあるんだけど……」
ま、まさかイリヤ。
「今は時間が無いのよ!」
「わ、分かってる! だから一つだけ……!」
「……なにかしら?」
いや、カレン先生もシリアスな雰囲気醸し出してるけどこの流れは……多分……。
「……す……スカート、はき忘れてませんかッッ!?」
「気になってたけど言わなかったこと聞きやがったコイツ!!」
す、すげぇよ、イリヤ。あえてスルーしてたのにぶっこみやがった……。こ、これが……カレイドの魔法少女……!
「これは……ファッションです」
「い、言いきった……。これが聖堂教会……?」
すげぇな、カレン先生の覚悟。
「こ、この緊急時に何してんのよアンタたちはー!」
「ひいーッ! ごめんなさーい!」
「とっとと追えーッ!」
あ、あばばば、凛先輩がガンド撃って来やがった! さっさと追跡に戻った方が良さそうだ! そうして即座にその場を離脱して一人先行している美遊を追いかける。しばらく飛んでいると美遊の後ろ姿が見えてくる。
「美遊! やっと追いついた」
「イリヤ!」
美遊とイリヤが空中での合流をしたとき丁度何かが黒化英霊の乗った船の様なものから撃ちだされる。瞬間訪れる轟音と振動。
「こんなの……滅茶苦茶だよ!」
「火力が……想定以上に高い……」
「地表が蒸発して大空洞がむき出しに……!」
あの宝具を撃ちだす攻撃、こんなに火力があっただなんて……。いや、こんどは何する気だ? 僕たちが空中で驚愕していると黒化英霊は大きな両刃剣を取り出し大空洞の地面に向かって突き立てる。
「地面が割れて……地下に何か……!?」
「そんな、どうして……」
黒化英霊が割った地面の下からなにかの術式らしき魔法陣が現れる。……一体なんの儀式用だ? けど……美遊は知ってるみたいだけど。
「
「ハハハはははハはハハハはは破ははははははははハハハハ」
何が楽しんだか大笑いしている黒化英霊。……あいつ、もう絶対意識あるだろ。魔法陣の中心に立った黒化英霊を囲むように魔力の渦が現れる。
「……ねぇ、不味いよ。わかんないけど……多分。このままじゃ大変なことになる……!」
「イリヤ!」
「ちょ、どうした、いきなり!?」
黒化英霊の様子を見ていたイリヤの様子が急におかしくなったかと思ったら急に跳び出しやがった!
「レイ、美遊、手伝って! あいつを魔法陣の外に出す!」
《危険ですよイリヤさん! 交戦はダメだって凛さんにも言われたでしょう!》
「分かってる……でも!」
ルビーとイリヤを止めるが駄目そうだ。ああなったイリヤは言うことを聞かないんだ……。イリヤもなにか確信を持ってるみたいだし……しょうがない!
「美遊、イリヤの援護をしよう」
「分かった!」
隣の美遊に声をかけてからイリヤのもとに飛び立つ。
「
「最大出力……
「ガンドォ! &オキシジェン・デストロイヤー・レイ!」
三連撃を魔法陣の中心に向かって放つ。
「敵はッ!?」
「ダメだ! まだ渦の中心!」
「でも渦が晴れた! これなら直接……! 敵を押し出す!」
え、今、直接って言った? あ、いや、ホントに突撃してる! それは不味いだろ流石に!
「イリヤ……ッ!」
「ばか!」
なにがイリヤをそんなに焦らせているのかは分からないがイリヤを一人で突撃させるわけにはいかず、僕も後ろからついて行く。
「んくッ……!」
「随分無茶するじゃん!」
「レイ!?」
渦の中心で黒化英霊と押し合いをしていたイリヤの肩の手に自分の手を添える。
「パワーなら、任せて!」
イリヤが手に持ってるルビーに力を込めて黒化英霊を渦の中心から叩きだす様にいっきに力を込めて押し出す。次の瞬間、ガクリと黒化英霊の体勢は崩れ、ルビーは黒化英霊の身体を貫通する。
「あ?」
「たは?」
「あら?」
そのまま黒化英霊の背中まで届くと思ったルビーは泥のような体を突き破って黒化英霊の中から一人の男の子を分離させた。……え、誰? あまりに唐突な出来事だったため止まることは出来ずそのまま三人でゴロゴロと転がる。
「ぬ、ぶえッ!」
途中で俺は遠心力で弾きだされ大空洞の地面を転がる。
「イリヤ!?」
イリヤと男の子はまだ先の方で転がっているのか頭上を美遊が飛び越えるのが見えた。
「いっ、一体何が起こったの……!?」
「い、イリヤそれ……ッ!」
「へっ?」
いつつつ。地面から起き上がって体についた土埃を払う。ぺっ、ぺっ、口に砂利も入った。
「いったー……君さぁもうちょっと優しくしてくれないかなぁ。あ、この左手のことも含めてね」
「ッヅァァアアアアオオオオオオオオオオオ!?!?」
「うわぁちょっとちょっと! いきなりそれはひどくない!?」
……背後が随分賑やかだ。いったい何があったかと振り返るとイリヤが全裸の男の子に向かって魔力弾を連射していた。……ほーん、まったく状況が理解できないんだが?
「なんだよもー、叫びたいのはこっちだっていうのにさー」
岩に隠れながらそう話す男の子。うーん……取り合えず恰好をどうにかしないとかな。イリヤは結局何がしたかったんだ?