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「まったくやれやれだね。一番驚いているのは僕だよ? 間違いなくさ。それにしても本当に参ったなぁ……。まさかこんな風になるとは思ってもいなかった」
金髪の男の子は魔力の渦が吹きすさぶ大空洞の中をまるでなんともないように堂々と歩く。そのあり方には小柄で幼くありながらも"風格"というものを感じさせる。
「軽はずみなことをしてくれたものだよね―――どう責任取ってくれるのさ? ねぇ?」
全裸でなければさぞ決まっていただろうに……。あ、ほらまたイリヤの顔が真っ赤になった。
「いっっ……やああああああ!」
「わわっ!? またこのパターン!?」
顔を真っ赤にしたイリヤは魔力弾を男の子向かって連続で放つ。
「待ってイリヤ! むやみに攻撃しちゃダメ……!」
「だっ……だってだって! 何か大切なものを汚された気がして……!」
美遊がイリヤをどうにか落ち着かせようとするが美遊も若干顔が赤い。
《いやーしかし何がなにやらー。いったいどういうことなんですこれは?》
「それは僕も知りたい」
「僕もその怪物さんに同意だよ。僕だって突然のことで混乱してるんだ。……まったくおかしいよこの場。こんな混じり方してるなんて」
《混じり方?》
……ルビーも完全に把握しきれていないことについて多少の知識があって、なおかつ僕が人間でないと一目で看破できる。……黒化英霊の中から出てきた以上普通ではないと思っていたけど、予想以上になにかあるな。
「あっ、渦が……ドーム状に!?」
「どんどん広がってきてる……!」
イリヤと美遊が魔法陣の中心に目を向けてそんなことを言う。あー、ホントだ。今までただの竜巻みたいだったのがドームに代わってる。
「あらら、あっちはなんだか順調だなぁ……。気を付けてね、あの泥に触れると多分死ぬよ」
「はい!?」
男の子の言葉にイリヤが驚愕する。
「イリヤ、レイ! この場は駄目! ドームの膨張速度が速い! どこまで膨れるか分からない、脱出を!」
「うん!」
「はいよ!」
美遊の提案で一斉に飛んでその場から離脱する。
「待ってよー! 君らだけ飛んで逃げるなんてズルくない!?」
「は!?」
「僕も助けてよー!」
……え、どうしよう。下から声がかけられて見下ろせば全裸の男の子が走って逃げていた。
「な、なにあれ自分で逃げることも出来ないの!?」
《まるっきりただの子供っぽいですねぇ》
「あの不思議道具はもってないのか?」
「どうするのイリヤ……?」
逃げて困っているあの姿に嘘はないみたいだけど……。どう考えても普通の子供じゃないしな……。
「ど、どうするって……あーもー!」
……ま、そこで見捨てられないのはイリヤらしい。
勢いよく降下して男の子を助けにいくイリヤを見て少し笑ってしまった。そしてイリヤと協力して男の子を引っ張り上げる。
「ひゃー……危なかった。あそこで死んじゃうのかと思ったよ」
「助けて良かったのかな?」
「で、でもあのまま見殺しってのは……」
美遊の言葉にイリヤは苦笑いしながら答える。
「……なにか怪しい動きしたら両腕叩き切って落ちてもらうから」
「うわー、ちょっとそれは止めてほはいなー」
ヴァリアブル・スライサーをちらつかせながらそういうと僕の本気度が伝わったのか大人しくする男の子。それから少し離れた所に着地する。すると男の子は見通しの良いところに移動してドームに注視する。
「結界の膨張は止まったみたいだね。結構な大きさだけど……なるほどあそこが境界か。はた迷惑なことしてくれるなぁ……」
なにやらドームを眺めつつ訳知り顔でなんか語ってるけど、全裸何だよなぁ。
「今度は君たちが隠れるのかい?」
こちらを振り返った男の子は木の後ろに隠れたイリヤと美遊を見てそう話した。
「あ、あなたねぇっ……! 誰だか知らないけど取り合えずその恰好を何とかしてよ! これじゃ話も出来ないわ! ちょっとは恥ずかしいとか思わないのーッ!?」
夜の森に響くイリヤの絶叫。
「なんだそんなことか。安心してよ、僕の身体に恥ずかしいところなんてないから」
……こいつすげぇな。
「その……色々と凄いな」
僕はなんというか納得しかけたんだけどイリヤはそうではなかったようで再び男の子に向かって魔力弾の連射を浴びせる。
「あたたたた。わかったよ、もう……服を着ろって事でしょ。でも今の僕じゃ、ちゃんと繋がっているか怪しいんだから期待しないでよね?」
「えっ……!?」
そう言って何もない空間に手を突っ込んだ男の子。……へぇー。なんかその力凄い見覚えがあるなァ。
「あーやっぱりロクなものがないなぁ……。えーと服、服……あった!」
そう言って取り出した服に着替え始める男の子。
「空中から服を取り出した……」
「同じだ……無数の宝具を出現させたのと恐らく同じ能力!」
木の後ろから見ていたイリヤ達も同じ結論に至ったらしい。
「やっぱりこの子は……」
《そのようですね。姿こそ変われど……8枚目のカード……その英霊です!》
「さてと、これでお話しできるよね?」
着替え終わったその男の子は綺麗な赤い目をこちらに向けてそうほほ笑んだ。
瞬間ドームの中からいくつかの光線が立ち上る。えぇ……。
「お話……できる雰囲気じゃなくなったけど?」
「へぇ、君カード持ってたんだ。他のカードもここに近づいてるみたいだし、やっぱり惹かれ合うのかな。ねぇ美遊ちゃん?」
あ、スルーですか。
「美遊……?」
「まさか……記憶があるの?」
あー、しかもなんか結構重要な話っぽい? なんか美遊と男の子の間でだけ分かる話があってそれが今回結構重要な事象なのかな。
「……そこらの英霊とは違うさ。ごめんね、僕の半身はどうしても聖杯が欲しいみたいだ。ただ、聖杯戦争の続きをするにしても、君がいないくちゃ始まらない」
聖杯戦争? 美遊が必要? ……この男の子は一体何を言っている?
「やめて……」
「なにせ君は……
「それ以上口を―――開くな!」
「美遊!?」
「うっそだろ!?」
男の子の何が気に入らなかったのか分からないけど多分美遊の地雷を踏みぬ行きやがった! それも多分特大のやつ! いきなり美遊がこんな風に切れて襲いかかるとか今までなかったぞ!? 連続して魔力砲を発射する美遊。それを透明な壁の様な何かで防ぐ男の子。くっそいつもの美遊と全然違う! 滅茶苦茶撃ちまくりやがって援護しようにも巻き込まれる!
「眠ってばかりの君が随分とお転婆になったものだ。もしかして秘密だったのかな、並行世界のお姫様?」
男の子の言葉が響く。
「平行……世界……?」
並行世界……。パラレルワールド。こことは違う別の世界。……まぁ呼び方なんてなんでもいい。ともかく重要なのは美遊がそう言った世界からやって来たということ。恐らく秘密にしていたであろうことを暴露されたショックが大きいのか美遊は歯を噛み締めてるし、イリヤは驚愕で固まってしまっている。
「あー……なるほどね」
そんな中僕は納得していた。いや、だって正直な話美遊って色々ズレてたし。そのずれが異世界由来のものだとしたら納得できてしまう。それにそう言った異世界の存在だって僕は僕自身という前例を知ってるからそれほど驚愕するものでもない。さっきの男の子の言葉だと美遊は並行世界のお姫様……。だから文武両道だったという訳か。しかしどうみても純日本人なのに『お姫様』とは……。もしかして異世界の日本は民主主義ではなく君主制の可能性が……?
「ごめんね。人の隠し事を暴くのは趣味じゃないんだけど。でも、状況がこうなってしまったんだからしょうがない。許してね。運が悪かったと思って、諦めてね。これが君の
男の子の言葉にまるで反応するかのように魔力のドームは輝きを増し、中から巨人の腕が跳び出してきた。でっけぇ……。巨大な腕は美遊を鷲づかみにして締め上げる。
「美遊!」
「乱暴だなぁ……術式の乗っ取りは終わったのかい?」
「待ってて今助ける!
しかし成程並行世界か……。そりゃあどうやってもクラスカードの製作者も作成技術も用途も解析できないはずだ。この世界とは違う技術ツリーが使われてるんだ。どうやっても解析できるはずがない。そうなれば並行世界出身の美遊がカードの使いかたについて知ってるのも納得できる。視界の端ではイリヤが美遊を掴んだ巨人の腕を切り飛ばそうと攻撃をするが腕の表面にびっしりと現れた盾に防がれていた。巨人の腕は美遊をドームの中に引きずり込もうとする。
「ダメだったんだ……拒んでも抗っても……逃げても無駄だった……」
「諦めないで! 手をッ!」
絶望に顔を歪める美遊に必死で手を伸ばし続けるイリヤ。
「これが……私の運命」
しかし美遊はその助けを拒絶するかのようにサファイアをイリヤに握らせる。
《美遊様ッ!?》
「美遊!?」
イリヤとサファイアの叫びも虚しく美遊の身体は魔力のドームの中に引きずり込まれる。
「壊して。私ごと、この怪物を。ごめんなさい、関係ないあなた達を巻き込んで。ごめんなさい今までずっと言えなくて……さようなら」
「美遊……どう……して?」
手を取ってもらえなかったことにか、美遊の言葉に対してかどちらにショックを受けたのかは分からないけれど目の前で美遊を失ったイリヤはただ立ち尽くしていた。僕は男の子の隣に移動して話をかける。
「これが別世界の聖杯戦争?」
「そうだよ。少しばかりイレギュラーが多すぎるけどね。万能の願望機たる聖杯を降霊せるための儀式―――聖杯戦争。その為に僕ら英霊までも利用しようっていうんだから迷惑な話さ」
……やってることは前訊いたこの世界の聖杯戦争と変わらないな。
「美遊は……美遊も聖杯戦争の為に生まれたの?」
いつの間にかイリヤもやってきていて話に入ってくる。
「『美遊も』? あぁ、君も聖杯戦争の関係者なのか。ま、べつに珍しくもない。色んな世界で、いろんな時代で繰り返されてきた儀式だものね」
え、マジ?
「けどね、彼女は特別。聖杯戦争の為に生まれたのかって?
「天然の……願望器?」
「そう。しかも中身入りのね。オリジナルに極めて近い飛び切りのレアリティさ」
僕の呟きを肯定してさらに補足してくれる英霊。
「人間が聖杯と言う機能を持ってしまった……と言うよりは、聖杯に人間めいた人格が付いてしまったのかな。いずれにせよ、彼女は世界が生んでしまったバグだ」
「……ッ! 勝手なことを!」
しかし知れば知るほど驚きの連続だ……。異世界からの来訪者、人知を超えた力。もう少しちゃんと話す機会があれば似たような境遇の人間ということで美遊とは親友になれたかもしれないな。
「怒りなら僕じゃなくて、彼女の運命か、それを利用しようとした大人か―――理性を失って肥大化した哀れなこの僕にぶつけてよ」
両手を広げて男の子がそう言えばドームがはじけ飛び中から異形の怪物が現れる。……怪物態の僕といい勝負が出来そうじゃん。
《これは……なんという……こんなものが英霊……!?》
確かに大分絵面はあれだけどそこまで引くもんかね……。
「ああ……とても醜いね。受肉して切り離された僕は正直どちらの味方でもないんだけど。それでもこうするのが一番自然なのかな」
「あっ……」
「おい!?」
空中に出来た足場から後ろ向きに男の子が跳び下りる。
「もうこの戦争は止まらない。死にたくないならカードを置いて逃げなよ」
そういって男の子は化け物の体表に飛び込んで飲み込まれていった。……ゲル状の生物?
「なん……なのよ……」
「イリヤ?」
「美遊も、あの英霊の子も……勝手なことばっか! クラスカード『バーサーカー』!」
《ちょ、待ってくださいイリヤさん!》
「
「うぉっ!?」
イリヤがバーサーカーのカードをインクルードすると巨大な岩のような剣が出てきた。なるほど確かにこれは扱いが難しそうだ。けど上空から叩き落とすだけなら話は別だ!
「劣化品じゃ原典には勝てないよ。
え、なんかあの男の子怪物と一体化してる!? というか、いま原典って……。どういうことだ? あの英霊、バーサーカーの関係者なのか?
「イリヤ! そのまま突っ込め!」
「レイ!」
イリヤに向かって放たれた原典を名乗る
「ッく!」
いくつかの矢は弾くことできずに僕の身体に突き刺さる。それでも……一本もイリヤには通さない!
「あーあー、やっぱり
「ややゃゃああああああああっ!」
僕の身体は穴だらけになったけど、イリヤは確かにあの男の子の元に届けた。怪物の頭頂部に大剣を突き刺すイリヤ。瞬時にインクルードを解除、ステッキの先に魔力の刃を形成して男の子に切りかかる。
「……驚いた。慢心していたら不味かったかもね」
しかしあと一歩足りず、イリヤの斬撃は片手で防がれる。
「美遊はどこ!?」
「……僕の中さ。丁度中心くらいかな。ちゃんと生きてるよ。でも……気を付けて君は今ここで死んじゃうかもしれない」
「そうはさせない」
男の子がイリヤを囲むように武器を出すが、ヴァリアブル・スライサーを片手に素早く降下してイリヤの周囲に出てきた武器を切り裂く。
「イリヤ、離脱!」
「逃がすと思うのかい?」
「チッ」
イリヤを迎えにきたは良いけど更に大量の剣が出てきやがった。……友釣りだったかな。
「二人とも伏せなさい!」
「!」
自分の失敗に歯噛みしていると愛おしい声が聞こえてきた。声の指示に従ってイリヤと共に伏せると周囲を囲んでいた剣が狙撃されてはじけ飛ぶ。
「クロ!」
「クロエ!」
その隙にイリヤを抱えていっきに跳躍。その場から離脱して矢の飛んできた方向に向かいクロエと合流する。
「二人とも無事で良かったわ。……というかアイツはなんなのよ?」
「攻撃方法から見て8枚目のカードでしょう」
「バゼットさん……!」
「しかしどうしてこんな異形に……」
あ、バゼットもいた。そして一度距離をとってクロエとバゼットが来るまでに起きたことを説明するる
「あの中に美遊が……!?」
「平行世界……信じたいことですが……。なるほど道理であの翁が首を突っ込んできたわけだ」
翁……?
「でもどうするのよ!?」
「美遊は自分事壊してって言ってた」
「だから何?」
あ、イリヤとクロエの雰囲気が不味いかも……?
「これが運命だって。あなたには関係ないことだって……!」
「だから何よ!? だから見捨てるって言うの?」
「違う! 違うの……」
クロエの言葉に力強く否定するイリヤ。強くなったなぁ、イリヤ……。ん?
「マジか」
「なっ……!」
イリヤの成長に少しだけ感動していたらいつの間にあの化け物が大きな剣を手に持って今まさに薙ぎ払おうと振りかぶっていた。
《薙ぎ払いがきます! イリヤさん、上空に……》
「美遊もこんな気持ちだったのかな。私が逃げてた時、ひとりでこうやって戦って……。どうしてなのかな」
一人っていや、僕もいたんだけどね。そのとき。
《美遊様はイリヤ様が初めての友達だから……と》
「うん、そっか……」
サファイアの言葉にイリヤはその言葉を自分に沁み込ませるように胸の前で手を握りしめる。
「何してるのイリヤ! 早く逃げるわよ!」
「しかし逃げ場など……」
クロエとバゼットが目の前に迫る巨剣に焦り出す。しかしイリヤは動かない。
「レイ」
「ん?」
ふとイリヤが目を開いてゆったりとこちらに振り返る。
「私はもう逃げたくないの。しなくちゃいけないことが出来たの」
「うん」
「だからアレ、止めて」
マジかぁ……。イリヤも僕に対する無茶ぶりが凛先輩じみてきたなぁ。でもまぁ。
「分かった。イリヤ、バーサーカーのカードかして」
「うん」
イリヤからバーサーカーのカードを借りて美遊に教えられたことを思いだす。本来のカードの使い方、
「……力を貸してくれ
全身に激痛が走る。意識が急激に何かに引っ張られてどこかへ連れて行かれそうになる。
海を見た 旅をみた 金髪の男を見た。
このカードに刻まれた英雄の歩みを見た。そして最後に辿り着いたのはどこまでも青い空が広がる空間。なるほど……これが『座』か。珍しいものを見た。意識が急激に引き戻される。そして気が付いた時には元居た森に景色は戻っており目の前の巨剣を受け止めていた。
「これが
赤い腰布に金の足甲。肌は若干浅黒くなり、髪は所々赤毛が混じった長髪になっている。右手には大斧を携えている。ふーん……なんか僕があのビルで戦った時より色々豪華になってる。
「驚いた……。『獣』に匹敵する霊基をもって『冠位』相当の霊基を呼び寄せたのかい……?」
目の前の化け物もこれにはびっくり見たいだ……。ああ、分かる。これなら勝てる気がする!
「沖繫レイ。『ヘラクレス・イーコール』……参る!」
英霊の座「え……なんか知らん子が迷い込んで……。未覚醒だけど『獣』やんけ! 追い返せ、追い返せ! え、こわっ!? なんでこんなとこ来てんのコイツゥ!? 冠位! 冠位、呼んで!」
冠位「(助けを求められたので)行ってきます」
レイ君が英霊の座を認識しました。