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寒い……死ぬほど寒い。なんでこんなに寒いんだこの街は!!
「……まったく嫌になる」
そもそもこの訳の分からない街に来る直前の戦闘で無茶をし過ぎた。全身の魔力量も全身を構築するためのデストロイアの量もまるで足らない。……どうにかガワを取り繕ってはいるけど、これで戦闘は少しばかりキツくないか?
「しかも大気中のマナも全然ないから回復にも時間がかかるときた……。擬獣化形態! ……飛翔体が限界か」
試しに擬獣化してみたが両手が大きな翼に変化して長い尻尾が生えるだけ。飛翔体だとヴァリアブル・スライサーは使えないし、両手が翼になってるから近接能力だだ下がりなんだけど……。ただまぁスピードや機動力はピカイチだし少しだけ飛んで当たりの偵察でもするとしますか。
「隠蔽の魔術をかけてっと……」
そうして僕は思いっきり地面を蹴って空へと飛び立つ。
「なんだ……この街……」
飛び立って初めて街の全体像を把握する。そして自分の眼を疑った。深々と降る雪に覆われた人の気配を感じない街。それだけなら良かった。しかし目を引くのは街の中心にある大きなクレーター。水位が大きく後退して海岸が遠くなった海。
「この街並み……冬木市?」
一番驚愕したのは街並み。クレーターがあったりと多少の誤差はあるがそれでも分かる。ここは間違いなく冬木市だ。
季節外れの雪、見慣れないクレーター、空き家ばかりの家、異常な海岸、気を失う前の美遊達の会話、成程。つまりここは――――
「
……っ!? 破壊音! 何かが自然劣化で崩壊したとかじゃない、明らかに故意的な破壊! 音のした方向に急いで飛翔する。戦闘になった場合、出来ることは少ない。そもそも敵か味方かも分からない。だが、何の手がかりのない今、この音を出している奴等に接触しない選択はない!
「いた! ……って、いきなり大当たりか!」
音のした方向に飛んで見つけたのはイリヤと僕が足を切り落とした女。それから謎のブルマ女。……誰だアイツ?
「あたしはベアトリス・フラワーチャイルド! エインズワースの超絶美少女ドールズよ! 今後ともよっろしくぅ!」
……なんだあの自己紹介。
「なァーんっても……あと1秒くらいの付き合いですけどォ!」
「そうでもないさ」
「あァん?」
ベアトリスとかいう女が勢いよく振り下ろした電柱をミクロオキシゲンを放射して破壊する。そしてイリヤと謎のブルマ女の盾になるように着地する。
「てめェ……」
「レイ!」
「……」
三者三葉って感じのリアクションだな。ベアトリスはこちらを睨みつけてるし、イリヤは知り合いに会えてうれしいのかテンションが高い。……ブルマ女はそれ、どういう感情だ? 一応お前のこと助けたんだし一言感謝あっても良くない?
「やっほイリヤ。元気そうで何より」
「げ、元気……かな?」
「……」
いや、ホントこのブルマ女、ジッと見てくるんだけど?
「なんなんだよ、てめェは!」
「チィッ! ―――グヘェッ!?」
ベアトリスが大声を上げながら殴り掛かって来やがった。翼でどうにか受け止めようとしたけどやっぱりこの状態だとあまり力が出ないのか普通に吹き飛ばされた。
「っと……。あ、悪い。ありがとう」
「レイ! 田中さん!」
ベアトリスに吹き飛ばされたところをブルマ女が受け止めてくれて瓦礫に激突することは避けられた。イリヤの反応からして『田中』というのが彼女の名前なんだろう。というよりかなりの勢いがあったのにがっしり受け止められてる。見た目以上に力がある田中さんは一体なんだ……?
「二人とも大丈夫!?」
「あなたは……あなた達は誰ですか?」
「え?」
え、このタイミングでもしかして自己紹介を求められたのか、いま?
「あなた達は
「て、哲学的な問いか?」
「わ、私は―――「逃げる人ですか?」―――違う!!」
……え、全然わからん。僕がいない間にイリヤと田中さんとでなんかあった感じ? ほらベアトリスも何が始まったか理解しきれなくて固まったじゃん。
「私は……イリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。私は、美遊を助けるためにこの世界に来た!」
「ふゥん……」
相変わらずイリヤは決める所はバッと決めるよねぇ……。しかし今の言葉で相手側をハッキリと焚きつけたぞ。
「
カードを一度解除した?
「灰すら残さない……!」
ッ! さっきまではインクルードの方だったのか! この魔力の高まり……インストールするつもりか! マズイ、本格的に不味い! 今のままだと勝ち目が薄すぎる……。隙を見て一気に離脱するしかないか。
「……あン?」
「!?」
「止まった?」
なんだ? 急にベアトリスが止まった……?
「なに? 今ちょーいいところだったんですけど!? バッチリ決めポーズとってたのに台無しじゃん!」
……念話か?
「チッ……しょーがない。アンタらはまた今度ね。次は絶対ぶち殺すから!」
「あっ……」
「撤退……いや、呼び出しか」
何はともあれ助かったぁ~~。擬獣化を解除して近くの塀に寄りかかり深く深呼吸する。
「レイ! レイだよね! 良かった、本当にあえて良かった!」
「あぁ、互いに無事で何よりだねイリヤ」
目の前にイリヤがやってきてブンブンと両手を振って感動と喜びを表現してくる。……なんか思ったより元気か? それともさっき切った啖呵ですこしハイになってるのか?
「はい! 田中です! 私は誰ですか!? あなたは
「ん?」
なんか、色々とツッコミどころあったよな、今。
「えっと……?」
取り合えず田中さんを指さしながらイリヤの方に顔を向けて助けを求める。僕の意図をすぐに察してくれたのかイリヤは気まずそうにして頬を掻きながら答える。
「田中さん、記憶喪失みたいで自分のこと何も分かってないみたいなの……」
「ほーん」
記憶喪失ねぇ……。記憶喪失の女の子がブルマ姿で廃墟の街を徘徊……いや。絶対めんどくさい事案じゃんそれ!? よくイリヤは一緒にいるなぁ……。
「田中は自分のことはよく分からないですが、それよりもまずあなたが何なのか。田中はそれが知りたいです」
「た、田中さん!?」
「のぉっ!?」
急に僕の頬に両手を添えて無理やり自分の方を向かせたとおもったら至近距離で無茶苦茶見てくるんですけど!? それも全然ハイライトの無い目で! なんなんだこのブルマ女ァ!?
「
こいつッ! 普通じゃない! 味方、もしくは無害な奴だと思ってたのにとんだ伏兵だよ! くっそ、なんだこの力! 両手が全然外せない! というか田中の方が妙に背が高いから首が閉まってくるし……!
「僕は、沖繁レイ! イリヤの友達だ! なんか知らんが気が付いたらこの街にいた! あとアイツ、ベアトリスがいる組織……エインズワースとか名乗ってたか? やつらはぶっ殺す! どうだ分かったか!」
なんたってクロエを傷つけたからな! ほら、お前が知りたがってた俺が何ものかの情報だぞ田中ァ! いい加減にこの手離しやがれ! ……完全体になれたらこんなのどうとでもなるのに!
「……理解しました。それじゃ行くですか」
「ッは! ……」
「レイ大丈夫!? というか行くってどこに?」
なんだが分からないが僕の言葉は田中の何かに触れたのか手は離された。心配して寄ってきてくれたイリヤに肩を借りて息を整える。もう、ほんとになんなんだこいつは……。
「どこって目的はひとつしかないですよ?」
「え、それって……」
「教えてくれたですよね。イリヤさんとレイさんは何をする人でしたっけ」
「……私は美遊を助ける!」
「エインズワースをぶっ潰す!」
イリヤに続いて宣言する。するとなぜか田中は満足そうに笑う。
「はい。それなら私も一緒に行くですよ。相変わらずなんにも覚えてないですけど、一つだけやらなきゃいけないことを思いだしたです」
そう言いながら田中が歩き始めたのでイリヤと共に追いかける。
「エインズワース家を滅ぼす。それが田中の役目です」
「物騒な目標だ」
本当に何者だよ田中。とりあえず今は歩き出した田中について行くがどこかで拠点とか作ったほうが良い気もするんだがなぁ……。
「エインズワース家を滅ぼすって……どういうこと田中さん!?」
「良く分からないです。でも、絶対に滅ぼさないといけない。何故かそれだけは覚えているです」
さっきあれだけの轟音が響いたのに誰も近くに寄ってこない。それどころか魔術師や使い魔の気配もない。本当に無人のゴーストタウンなのか? だとしたら水道や電気はどうなってる……? 僕もきついけどそれ以上にイリヤが心配だ。半袖ミニスカだぞ? 今は興奮かなにかで大丈夫でも絶対寒いだろそれ。かくいう僕もあげられる服がないんだよね……。
「わかった。田中さんとレイはエインズワース家を滅ぼす。私は捕まってる美遊を助け出す。正直ちょっと……ううん、凄く怖いけど覚悟は決めた!」
お、覚悟を決めたイリヤは強いぞ。
「行こう田中さん! エインズワース家はどこにあるの!?」
「わかんないです」
はぁ……。ほんと何なんだこのブルマ女。
・沖繫レイ『擬獣化(飛翔体)』
簡単に言うならロウヒの第三再臨みたいな状態。手は無く足も細い。擬獣化形態の中では一番スピードがあるがその分パワーが控えめ。あまりに非力すぎてこれから中間体になっておくべきかとレイは悩んでいる。
・3reiについて。
今後の展開について若干のネタバレがあるので反転してあります。
はっきり言いますとドライは滅茶苦茶短いです。レイ君の逆鱗に触れた以上エイデンワース家はすでにゲームオーバーですし、この世界で獣になればもといた世界で獣の連鎖召喚が起きないのでレイ君も抑える必要がありません。エイデンワース家のファンの方々がいたらごめんなさい。