プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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潜入、エインズワース家

平行冬木市

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「はふぅぅー……。コートってなんて暖かいんだろう」

「薄着で寒がっている女の子を放っておくわけにもいかないしね」

「うう、私よりちっこいのに何という経済力と包容力……」

 

 イリヤはギルさんに買ってもらったコートを身に纏い、その暖かさに感激している。……少し前まで物陰に隠れてあれだけ警戒していたのにもうその面影はない。

 

「僕にもありがとうございます」

「うん、構わないよ。イリヤさん一人だけに買ってあげて二人は放置、なんて後味も悪いからね」

 

 そう言いながら僕もギルさんに買ってもらった上着をしっかりと着て冷気の侵入を防ぐ。……最悪どこかの廃屋の扉吹っ飛ばして漁ろうかとも考えていたからありがたい。

 

「どうせなら田中さんもちゃんとした服買って貰えば良かったのに」

「田中ですか? 田中はほかほかなので大丈夫ですよー」

 

 先頭を歩いている田中にも声をかけるが彼女はこの寒さをなんとも思っていないようだ。

 

「それは解ったけどなんというか寒いからどうこうって理由じゃなくてね……」

「さぁて! 打倒エインズワース! やるですよー!」

「どう見てもこれから部活するぞって風にしか見えないからさ……」

 

 ……田中の格好は今までのブルマにプラスしてジャージの上着のみ。さらに腕くみなんかしちゃって、もう部活に気合入ってる女学生にしか見えないんだよね。

 

「狙うは全国です!」

「わざとやってるんじゃないよね、田中さん?」

「本物の天然さんは厄介だから頑張ってねイリヤさん」

 

 ……ギルさんは天然の相手の経験あり? そんな会話をしながらついにクレーターの端に到着する。

 

「うわー……近くで見るとすごい迫力……こんな大きな穴がガス爆発でできるなんて……」

「……地層の露出はない、か」

 

 一応こちらから出ていないか確認するがみた限りこちらのほうから()()()()()が出てきた痕跡はない。となれば……やはり未遠川の方に行かないとダメか。

 

「ガス爆発?」

 

 イリヤの言葉にギルさんが不思議そうな表情を浮かべる。

 

「うん。さっきのラーメン屋さんが教えてくれたんだけど」

「ふーん。一応仕事してるんだぁあの人」

 

 ……あ、もしかしてこれ魔術的な事故の跡地なのか!? それで神秘の隠匿の為にガス爆発ってコトにしてるのか!? え、てことはあの店主さん魔術協会か聖堂教会の関係者ってこと!? 

 

「何ボヤボヤしてるですか……敵陣は目の前! 後先考えずブッ込むっすよ!」

「ハチマキしたらキャラ変わった!?」

 

 ハチマキを巻いたとたん田中は熱血キャラに早変わりして今にもクレーターの中に突っ込もうとする。それをどうにかイリヤと一緒に引き止める。

 

「間違ってもクレーター内には入らないでね。あっという間に感知されるから」

「工房の防衛装置……」

「正解。クレーター内は全てエインズワースの索敵範囲内なんだ。中央まで一キロ、遮蔽物が一切ないこの荒野はあらゆる奇襲を許さない見えない城壁ってわけ」

 

 なるほど、厄介だな。飛翔体でも一気に一キロはきついなあ……。集合体になって分身を囮に使うか? いや、それでもクレーターの索敵で本命が直ぐにバレるか……。

 

「ヴィマーナがあれば一発だけど……うーん、流石にあっち持ちか。どうしたものかなぁ……。あれでもない、これでもない……」

 

 そう言いながらギルさんは波紋の中からあれやこれやと色々な道具を取り出していく。その間にイリヤは田中のハチマキを外して彼女を大人しくさせる。……あ、田中の体温が高いからカイロ代わりに使い始めた。

 

「おっ。うん、これで行こうか」

「え……なにそれ?」

 

 ギルさんが取り出したのは一枚の布だった。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと……どうかと思う」

「何がです?」

「この格好が……」

「イリヤ、余り気にしない方が良い」

 

 その方が精神的に良い。

 

「でも田中、超楽しいですよ!」

「あっはっは」

「敵陣に乗り込もうっていうのに楽しくしちゃダメでしょ!?」

 

 イリヤが叫ぶ。……正直気持ちは解る。ギルさんが取り出した布。その布にくくられたものは魔術的、視覚的に完全な隠匿状態になるというもの。その布を僕たち四人でどうやって使っているかというと、電車ごっこだ。僕たち四人が縦に並んでその周り、布を電車ごっこの紐替わりにしてくくるというもの。

 ……この歳になってこんな遊びをするとは思わなんだ……。

 

「効果はバッチリだね。これだけ進んでいるのに奴等が気づいた様子はない。相手が索敵を魔術に頼っている限り僕らを感知することは出来ないよ」

「それは解ったけど……いったいどこまで行けばいいの? クレーターの真ん中にあるって言ってたよね? でもどこにもそんな……」

「見渡す限り荒野です!」

 

 イリヤと田中の指摘通りどれだけ進んでも工房も、地下への秘密の入り口みたいなものも見つからない。けど、これは多分あれだ。エーデルフェルト邸と同じ……いや逆か。向こうはどれだけ荒れていても綺麗な状態を見せている。ならこっちはどれだけ綺麗でも、荒れているように見せる魔術だ。

 

「そろそろ中央だ。ここから大きな声は厳禁だよ。この紐は音までは隠せないからね」

「え、う、うん。でも……」

「大丈夫、そのままゆっくり進んで。確かここならちょうど正面だ」

 

 疑問を感じるイリヤにギルさんはそのまま真っすぐ進むように指示する。そして、景色が一気に変わる。雪は消え去り、明るい日の光が差し込み、暖かい風が吹くのどかな邸宅。ここがエインズワース家……。

 

「なッ―――なにモゴッ!?」

「はーい、大声のリアクション禁止ね」

 

 驚愕で大声をさっそく出しそうになっていたイリヤをギルさんが止める。

 

「ふぃー……なんだか秋みたいにポカポカして気持ちいです……」

「春じゃなくて!? う、ううん、そうじゃなくて! どうなってるの……!? さっきまで何もなかったのに急に目の前に城が……」

「何も無いように見せかけているのさ」

「イリヤ、ルヴィアさんの家の逆だよ」

「え、あ! 成程……」

 

 良かったイリヤにも伝わったみたいだ。

 

「さて、どうしたものかな」

「なんで中に入らないです?」

「流石に正面玄関から入るのはマズそうだし、お城の中に必ず美遊がいるとも限らないでしょ? こういう場合離れの建物とかに囚われて居たりするものだと思うんだけど……」

「流石の発想力だね」

「それに定番だ」

 

 そう話しながら城の周りを歩いてみて回る。流石に正面玄関だけが入り口だとは思えないしどこか別の出入り口があると思うんだけど……。あ、丁度なんかドアがあっ―――

 

「……ッ!」

 

 丁度、ドアの中からあの時大洞窟でみた金髪の女が出てきた。全員が壁に身を寄せて息をひそめる。今の僕たちの戦力はゼロに等しい。そんな状態でこの女のカードとやり合うのは無理だ。

 

「!?」

 

 突如、金髪がナイフを抜いて僕たちの方に切りかかる。見つかったかと思ったがナイフは絶妙にズレていてイリヤの頭上を切りつける。

 

「……何もないか。……麻婆の匂いがしたのだが」

 

 あ、この布匂いもダメなんだ。そうして満足したのか金髪はこの場を離れていった。

 

「やれやれ、危うくゲームオーバーだったね」

「麻婆が原因でゲームオーバーとか笑えない……」

「あの人美遊を攫って行った人だ……」

「気を付けなよ。彼女はドールズの中でも得に手強い」

 

 成程……いや、使っているカードから考えてもそうだよな。

 

「ドールズ……? そう言えばベアトリスって人もそんなこと言ってたような……」

「ああ、あのことも会ってたのか。アレは別の意味で不味いね」

 

 ドールズ……。そのまんまんなら『人形たち』だよね。

 

「ドールズはエインズワースが使役する兵隊みたいなものだよ。この家を滅ぼすってのなら必ず立ちはだかる相手さ。どうする田中さん?」

 

 え、なんでそこで田中に話をふった?

 

「うーん……よくわかんないですけど……あの人は田中が滅ぼす人じゃない気がするです」

「ふーん、それならいいけど」

 

 いや、田中の反応もなんか怖いな! というかギルさんは田中の正体というか事情を知ってそうなんだけど!

 

「ねぇギル君……この先、怪しくない?」

 

 そうイリヤが指さすのは先ほど金髪が出てきた扉。

 

「確かに、彼女が意味もなく出入りするとは考えにくい」

「……行ってみよう!」

 

 僕たちはイリヤの決定のもと金髪の出てきた扉の中に入っていった。そしてその先にあったのは巨大な地下水路だった。

 

「あららー……」

「どうなってるのこのお城……。ここほんとに冬木市……?」

「綺麗……だけど異質だ」

「地下水路だね、どこから持ってきたんだか」

 

 流れ続ける綺麗な水、淡い光が水面で揺らめいてとても美しい風景。外とは大違いだ。

 

「ハズレかな。こんな所に美遊がいるとは思えない」

 

 え、ハズレなの? こういう綺麗な地下に魔術師の工房の本丸があってそこに聖杯たる美遊を置いて儀式するとかじゃないの?

 

「誰かいるです」

「えっ!? ど、どこ?」

 

 ほら、田中センサーになんか引っかかったじゃん! 田中センサーって何だよ。

 

「あそこの奥……中に誰かいるです」

 

 そういって田中が指さす先には重々しい扉が一つ。

 

「いかにも牢獄って感じの扉だね。それに大げさすぎる錠前……」

「それじゃ……美遊!」

「あ、ちょっと!」

「バカ!」

 

 イリヤのやつが布から飛び出していきなり扉に向かって走り出した。まだ中に入るのが美遊ともわからんだろうに!

 

「美遊! そこにいるの!? いるなら返事をして! 美遊!?」

 

 ドンドンと音を立てて扉を叩くイリヤ。

 

「誰だ……?」

 

 ほら、別人じゃねーか!

 

「男の人の声……?」

「別人だったか。それにしても酷くガラガラな声だねぇ」

 

 もうハッキリ言って聞き取り辛いレベルでガラガラだ。

 

「エインズワースの人間じゃ……ないな。お前たちは……美遊を…知っているのか……?」

 

 どうやらこの声の主も美遊を知っているらしい。

 

「私は美遊の友達です! 美遊を助けに来たの!」

「あ、クラスメイトです」

「とも……だち……クラス……メイト……。はははっ、そうか……そうなのか……叶っていたんだな……」

 

 ん? なんか泣いてる? 

 

「俺は……美遊の兄だ」

 

 おっと、思ったより重要な人物。姿が見れないのが残念だが、そうか。美遊のお兄さんか……。美遊がいなくなったから代わりに捕まったのかな? 美遊という聖杯の兄ならもしかしたら似たような性能があるかもしれないと思って研究されていたとか?

 

「君か……! 驚いたよ。まさかまだ生かされていたなんて! その様子じゃずいぶんひどい目にあわされたようだけど……」

 

 ……まぁたなんか知ってて隠してるよ。というかギルさんがこんな目して饒舌になるとかいったい何したんだよ……。

 

「お前は誰だ……? 俺を知っているのか?」

「知ってるよ。はじめましてだけどね」

「あ、あのっ、美遊のお兄さん……? どうしてこんな所に閉じ込められているんですか?」

 

 イリヤの質問に帰って来たのは沈黙。そして数秒経ってから唾をのむような音が聞こえ、美遊のお兄さんは喋り出した。 

 

「俺は……失敗しちまったんだ」

 

 そうして始まったのは妹の身を案じ続けた一人の男の後悔と懇願だった。

 

「美遊を取り戻すために俺はエインズワースと戦った。使える者は何だって使ったさ。そうして美遊を……このクソったれな世界から解放してあげられたんだ。だってのに……美遊はまたここに戻って来ちまった……! ああまでしても運命の鎖からは逃げられなかったんだ……! 分かってるさ、俺が最低の悪だってことは……! けど……どうか、頼む! 美遊を救ってくれ……!」

 

 さぁ、どうするイリヤ。多分僕たちの中でこの願いに返事が出来るのは君しかいない。

 

「運命……って言うのが何なのかはわかりません。美遊は過去のことは話してくれなかったから。……美遊がここまで大きな……とんでもない何かに囚われているなんて知らなかった。私が知ってる美遊は……喋るのが苦手で、表情もあんまり読み取れなくて、何を考えているのかわからなくて……最初はちょっとだけ怖かった。でも……今ならわかる。美遊はただ……すっっごく不器用なだけ!」

 

 イリヤはきっと美遊との思い出を振り返っているんだろう。とても綺麗な笑顔で語っている。

 

「不器用な表情の向こうに不器用な気持ちが隠れてた。友達になろうって私の言葉に命がけで答えてくれたんです。運命とか、この世界の事情はまだ分かりませんけど私にとっては理由はされだけで十分。友達だから助けます! 美遊を不幸にする人がいるなら絶対許さない!」

 

 ……前から思ってたんだけど『友達』という言葉にかける重みが美遊もだけどイリヤも大分重いよね。

 

「ああ、ああ……君のお陰でもう俺の願いの半分は叶ったよ……。美遊のところに行ってくれ……俺のことは放ってくれて構わない……」

「何言ってるんですか! お兄さんも一緒に行くんですから!」

 

そういってイリヤは扉についた鍵をガチャガチャと弄りはじめる。

 

「ううっ……なにこの錠前? 鍵穴がないよ!?」

「イリヤ、あんまり大きな音を出すな」

「やめときなよ。その錠前は魔術式だ。それにどんな罠があるかも――!」

 

 この気配! 間に合わない! 

 

「キャァッ!?」

 

 瞬間どこからか槍の様なものが飛んでくる。それを寸でのところでギルさんが防いでくれる。

 

「助かりました……」

「あっぶないなぁ……不意打ちなんて小物のすることだよ」

 

 げ。攻撃してきた人間を見てそう思わずにはいられない。

 

「どうやって侵入したか答えろ」

「結構複雑な気分さ。僕がその姿に相対するなんてね」

「答えぬのなら―――一人ずつ殺していく」

 

 八枚目のクラスカードをインストールした金髪の女が多くの武器を呼び出しながら立っていた。

 

 

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