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「随分趣味の悪い恰好ですね……間桐桜さん」
「あら? お会いしたことありましたっけ……? あれ? 私、どこで……? もう、最近忘れっぽくて……」
……鎧姿の桜さんに声をかける。勿論僕が知っているのは僕の世界の桜さんであって目の前にいる桜さんとは面識なんてない。……のはずなんだけどなんか混乱してるな? なんか、この桜さん可笑しいぞ? 会話が成立しているような、していないような……。だが、混乱しているならそれは好機だ。今の内に擬獣化形態を飛翔体から中間体に変更する。この地下空間じゃ飛翔体のスピードは行かせないし……。
「いえ、僕が一方的に知っているだけなんで貴女は僕のこと知らないと思いますよ」
「あぁ、そうだったんですか。なら良かった……。遠慮なく掃除出来ますから!!」
っ! 来るかッ!! こちらに掴みかかってこようと飛び掛かって来た桜さんをバックステップで躱す。
「げぇ」
単純な掴みかかりかと思って避けたが桜さんはこちらを掴んだ後そのまま地面に叩きつけるつもりだったか地面に手のひらが叩きつけられる。そしてその威力にレンガの地面が砕け瓦礫が舞う。
思った以上にパワーがある。多分負けはしないだろうが、初撃が掴みかかりっていうのが少し気になる。殴りや蹴りで怯ませてから掴みかかり、そこからマウントポジションならわかる気がするんだけど……。なにかあの手に秘密があるのか?
「ん? あ、そういうこと……」
「避けないで下さいよ……お掃除出来ないじゃないですか!」
桜さんは瓦礫の内尖った破片をもってこちらにゆっくりと振り返る。……その先に首を動かしてから体動かすホラーチックな動きやめて欲しいな。と、それよりも! 問題なのは手にした破片。赤い血管みたいなものが走ったかと思ったら黒く染まって魔力の反応が出始めた。つまりあの手に触れたものはなんであれ、彼女のものになるとか、武器になるとかそういう力だと思う。だから最初僕の背中の触手を狙ったのか。
あれ、そうなると接近戦不味いかも? ……なら!
「
凛先輩仕込みの宝石魔術! それを凛先輩に渡した礼装と同じように自分の指を宝石の代わりにして放つ。対の雷撃で動きを鈍らせて本命の炎でダメージを稼ぐ!
「……対魔力持ちか」
「宝石魔術……ッ!」
思った以上に利きが悪い。魔術に対する耐性を持ってるな……。え、強くない? 強制的に接近戦させてくるじゃん。しかも接近戦は接近戦であの両手が襲い掛かってくるんでしょ? なんだこのクソゲー。
「それでもやるしかないんだけどさ!」
宝石魔術がなにかの琴線に触れたのか破片を短剣のように振りかぶりながら突っ込んでくる桜さんに向かってこちらも突っ込む。
振り下ろされた短剣を右の触手で防ぎながら左足で蹴りを叩き込む。しかしその蹴りは破片を握った右手とは逆の左手で防がれる。一瞬の硬直。
「けど……残念!」
僕は残った左の触手を横なぎに放ち両手が塞がって動けない桜さんを横合いから叩く。
「っく! よくも……!」
しかし桜さんは吹き飛ばされた空中で体勢を整えて地面に綺麗に着地して再び突進してくる。……触られた左足に違和感なし、目視でも変なところはない。あの能力無機物限定か? まだ安心しきるには早いがある程度余裕は出来た。
「このっ!」
「そんな大振り当たりませんよ!」
しかし最初の一撃で警戒されたのか、油断を捨てたのか、全然攻撃が当たらなくなってきた。あの見た目と言動の不安定さからバーサーカーだと思うんだけどなんか、えらく芸達者な狂戦士だなぁ!? いくら攻撃しても器用に短剣で防がれ隙を見ては切りつけられる。……まだレンガの破片の短剣で良かった。これでちゃんとした武器だったら今の僕だと回復が間に合わなくて負けてたかも……。ってヤバ!?
「ベブッ!?」
考えごとをしていたせいか動きが鈍くなりその隙に思いっきり顔面を蹴られる。吹き飛ばされ地面を転がる。急いで起き上がって構えるが―――
「遅いですよ」
「ヅぅッ゛!?」
左目に激痛、視界が無くなった、右眼から見える視界的に刺された。いくら再生するって言っても痛いもんは痛いんだぞ、痛覚もしっかり再生するから!
「痛ったいなぁ……だけど捕まえた!」
「なっ!? 離してください!」
左目に短剣を突き立てている桜さんの右手をがっしり掴む。そして拳を思いっきり振りかぶる。自身の手を掴んでいる手を引きはがそうと攻撃してくる桜さん。その攻撃で体はボロボロになっていくが関係ない。
ずっとそうだ。僕にあるのは力だけで戦いの技術なんてものはない。それで最初のライダーのクラスカード回収任務の時からずっと苦戦し続けてきた。いまも苦戦している。けど、それでいい。僕の持ち味は耐久力と膂力なんだから。相手の攻撃を受けて、耐えて、こちらの攻撃をぶち当てる―――
「この戦い方が一番合ってる!」
「ガァッ!!?」
振りかぶった拳を勢いよく解き放ち、桜さんの胴体にぶち込む。体は『く』の形に折れ曲がり、鎧には大きく罅が入り、一部は崩壊する。猛烈な勢いで吹き飛んでいく桜さん。……今思えば手を離さずにそのまま連続で攻撃すれば良かった。
「痛いじゃないですか……。私を傷つけて良いのは先輩だけなのに……」
やっぱりまだ動くか……また攻撃を受けて掴んでも良いんだけどそれも今度は警戒されてるだろうし……。うん、数で攻めてみるか。丁度垂れてるし。 左目からボタボタと零れる血液を変化させて手のひらサイズの幼体を大量に呼び出す。小さいと侮るなかれ、このサイズならどれだけ潰されようが再生が間に合うサイズだし、ミクロオキシゲンもしっかり吐ける。あっという間に大量の幼体がうじゃうじゃと呼び出せた。
「私を殺していいのは先輩だけなのにィ! え? ―――――あ……蟲? いや、なんで、まだいるの……?」
ん? なんか桜さんが固まった? というか、蟲って……甲殻類なんだけど……。まぁいいや、なんだろ? 桜さん蟲嫌いなのかな? それならそれで勘違いしてくれる分には都合が良い! 幼体を一気にけしかける。桜さんは幼体を近づかせまいと必死に短剣を振るうが量が量ださばき切れない。あっという間に桜さんの身体は幼体まみれになる。体の上を歩き回りながらミクロオキシゲンを吹きかけていく幼体たち。
「いや、いや、いやいやいやいやいやいや!! 先輩、助けてください! 先輩! 先輩! う、ごぼっ!?」
小さくてもそれなりにパワーはある。あれだけ群がられたら身動きも取れないだろう。鎧の上、鎧の中、素肌の上、さらには穴から体内に侵入して内側からも溶かし、体中を幼体が蹂躙していく。なんか桜さんが幼児退行したみたいに半狂乱で誰かに助けを求め始めたけど誰か来る様子はない。
「決まったな……。あぁー……分身出し過ぎてもうダメだぁ……動けない……」
幼体たちが桜さんを溶かし切って養分にして再び融合すればある程度復活も出来るだろう。急がなくてはいけないのは確かなんだけどあの窓の不思議な仕組みとかを突破する為にも戦力の補充は必要だろう。うん、少しだけ遠回りしよう。急がば回れってね。幼体に凌辱される桜さんの悲鳴をBGMに少し休憩に入る。
「さて……一応出口も探すか」
壁に寄りかかって休みながらも辺りを見回して出口を探す。……ダメだ全然分かんない。最悪壁をブッ飛ばして無理やり地上に出るか? それぐらいのパワーは残って――――!
「あぁッ!? クソ!?」
どっからかはわかんないけど急に上から雷撃が飛んできやがった!? というか、それで桜さんごとぶっ飛ばしてきやがった!?
「ぁぁぁぁ……、先輩、先輩助けて……」
「な、逃げるな!?」
雷撃は桜さんに纏われついていた幼体どもを木っ端みじんにした。お陰で桜さんは自由になり黒い液体のなかに自分の身体を掻き抱くようにしながら沈んで消えていった。敵には逃げられて……力を回収するはずだった幼体は殆どが消され回収できた力も少ない。いや、これじゃあ大赤字だ。雷撃が降ってきたことで亀裂が入った天井を睨む。ある、その先の空間が確かにあった。出口だけが唯一の収穫とはなッ!
「しゃッ、脱出!」
「おや、レイ君? 外に向かったんじゃ?」
「え、ギルガメッシュ王?」
天井の亀裂に突っ込んで謎の部屋から脱出してみればそこはギルガメッシュ王と別れた地下牢だった。……ここに戻るのかよ!?
「相変わらずウチの繋がりは滅茶苦茶だなァ。まァ……なんでもいいや。ひさびさにぶっ放せて神きもちィー」
少し前に聞いた声がしたと思ったら別れたときには無かった壁の大穴からベアトリスが出てきた。なんなんだこの城! 見た目と実際の部屋の繋がりが丸で分かんない。
「た……田中さんッ!」
「あン?」
「田中さん! どうしてあんな無茶を……ッ!」
《これは……なんて……》
「あらら、こりゃボロ負けって感じかな」
イリヤの声がした方向を向けばそこには魔法少女姿のイリヤとルビーがいた。あ、合流出来たんだ。となればイリヤも戦うことが出来るし最低限の自衛も出来る。よし、順調……ッ!?!?
「ワアアァァァアアアアアア!?」
な、なんで!? なんでた、田中、田中は裸にッ!? え、あ、うぇっ!? え、デッカ。ななな、なんでびっくり? 何があった? いや、キアラ先生の裸も見たことあるけど、やっぱいきなり裸の女性がいたらびっくりするよね!?
「元素まで分解される神の一撃を正面から受けてなんで生きてる? なんで原型をとどめている? そんなモノこの世にある訳ねェ……アンタ一体ナニモノだ? やべェってマジに欲しいよ、アンタ」
やっばいのはお前だベアトリス! なんでそんな発情してんだよ!? 分身もまた焼かれる可能性がある以上、滅多に繰り出せないし……。というか、もう回復が追い付かないからフラフラなんだけど……。
「ひゃあっ!? ギル君!?」
僕が動けないでいるとギルガメッシュ王がイリヤと田中を鎖で縛り上げ近くに引き寄せた。
「手荒でゴメンね。さっきので天井に大穴が開いた。あそこから一時退却だ」
「退却って……」
「……レイ君も限界が近い、それにこんな状態の田中さんを連れてまだ戦う気かい? 君が玉砕に意味を感じるってタイプなら僕は止めないけど?」
そう言いながらギルガメッシュ王は田中の身体を覆う為の白い布を一枚出して彼女にかけてやる……流石は王様そういう気遣いも一流だ。……それに僕の状態もお見通しとはびっくりしちゃうな。イリヤはギルガメッシュ王の言葉を聞いて田中を抱える。
「逃がさんッ!」
「逃がさねぇッ!」
「逃げるさ」
エインズワースの二人が声を合わせて突進してくるがそれよりも早くギルガメッシュ王の足元が白く光り出す。光が一層強くなった瞬間、爆発を起こす。その爆発と煙に紛れて一気に天井から離脱する。
「こんな煙じゃ多少の目くらましにしかならないな。敵の工房内は不利すぎる! とにかく敷地の外に出るよ!」
「わ、分かった!」
「了解!」
走り出すギルガメッシュ王の後ろについて行く。正面の門から逆方向に走り続ければ結界を抜けたのかあたたかな風は消えてあの雪に包まれた冬木市の景色が返ってくる。
「イリヤさん身隠しの布は!?」
「ごめん、落としてきちゃった……!」
「てことはここから一キロ射線通りまくりってこと!?」
あー、もう! こっちの世界に来てからずっと困難ばっかりだ! 僕が本調子に戻ったら覚悟しとけよエインズワース! 取り合えずこっからどうやって逃げるかなぁ!?
「そのための地形だからなァ!!」
あ、ヤバッ!? ―――限界まで魔力を絞りだせ!
「こぉんのッ!!!」
どうにか手に剣を構成して飛んできたハンマーを防ぐ。ミクロオキシゲンを放出するだけの力はもうない、ただの硬いだけの棒切れだが、どうにか持ちこたえれるはずッ……!
「しゃぁっ!」
どうにか弾けた! ハンマーを弾き飛ばす。ガラガラと音を立てながら転がっていたハンマーは次第に勢いを増して飛行し、ベアトリスの手の中に戻る。
「そろそろ分かれっての。逃げらんねぇって。……さっきは悪かったなァ。屋内だったんで帯雷ナシで撃っちゃった。けど……」
なんかベアトリスがまたヤバそうなことしてくる!?
「次はちゃんとぶっ壊してあげる」
《ハンマーの力が倍化……!?》
「ウソ……あれ以上なんて……!」
「もう、打ち止めだよ……」
魔力がカラカラだよ。どうやって防げばいい? どうすれば逃れられる……。いや、最悪僕は助からなくていい。
「ルビー! 魔術障壁と物理保護を!」
《無理です! あのハンマーは遥か格上……防ぎきれません!》
イリヤが死ねばクロエも死んじゃう! だからイリヤだけは絶対死なせない! 僕が盾になる! イリヤとギルガメッシュ王の襟元、それから田中を引っ張って擬獣化の身体能力で出来るだけ遠くに投げる。
「レイ!?」
「すみません、王様!着地のフォローしてあげてください!」
「君はッ!」
本当はクロエに会いたい。エインズワースをぶっ飛ばしてやりたい。けどそれはどうやら叶わないらしい。あーあ、しっかり復活して万全の状態だったらお前らも、この世界も全部ぶっ壊してやれたのに……。
「消し飛べ!
ベアトリスが宝具を発動しようとした瞬間、彼女のハンマーに何かが当たる。
「あ」
分かる。
「何が……!?」
「狙撃だ! 避けろ!」
「糞が……ッ」
何が起きているのか理解できずに周りの皆は困惑しているが僕にはわかる。寒かったはずの全身が熱を帯びる。口角が上がり、笑みがこぼれる。心地よい痛みが胸を締め付け、高鳴らせる。
「クロエ!」
その子に伝える為の術式を、その子の為だけに編み出した雑な術式を使って、愛しい愛しい女の子の名前を叫ぶ。
「随分、苦戦してるみたいじゃないレイ?」
「あのカードだ」
「またかよ……! 誰だか知らねぇがコソコソちまちまと……。クズカードが、テメェから消してやる! 壊れろ……ッ!――――「下がれベアトリス!」―――……ちっ」
再びベアトリスが宝具をしようとしたときどこからともなく声が聞こえてきた。
「小さな
聞いたことのない声、大人の男性の声だ。
「この声どこから……?」
《音ではありません。魔術で遠隔から贈られてきています》
「この声をよく聞いておきなよイリヤさん。こいつは君の本当の敵だ」
王様はそうイリヤに話しかける。本当の敵……。つまり……
「名乗るのが遅れてしまったね。私はダリウス・エインズワース。エインズワース家の当主だ」
こいつが、エインズワース家の当主……。僕がぶっ飛ばしたい相手……。姿が見えないのが残念だ。
「ウチの使用人が失礼をした。彼女らにも悪気はないんだよ。許してあげてくれ。それではごきげんよう、イリヤスフィールくん」
ダリウスが挨拶をしている間にアンジェリカとベアトリスはインストールを解除して屋敷の中に消えていく。そしてダリウスの声も聞こえなくなる。見逃された、か。
「……行こうイリヤさん。これ以上留まっても―――」
「今は、敵わなくても、届かなくても、いつか必ず助け出す! 美遊はあなた達の道具じゃない!」
イリヤはエインズワースの工房に向かってそう大声で叫んだ。……逃げてばっかりだったイリヤがここまで強くなるなんてなぁ。なんか成長を感じるよ。けど、今は一旦……どこかで……やす、み、たい。もう、けっこう…げん、かい……かも……。あぁ、クロエ、がこっちに走って、き……て…………。
「レイ!? レイしっかりして!? お願い、眼を開けて!!」
ごめ、クロエ、すこ……し、ねか……せ、て……。
因みに、レイ君の現在の状態を例えるなら割れたバケツです。入れ物が割れてしまって魔力が全然溜まりません。バケツを直すのにも魔力が必要なのにバケツの中には少ししか魔力が残ってないからバケツも治せないし、その少ない魔力も戦闘で小出しに使ってしまっているため一行に回復できません。クロエと会えたという安心で気が抜けて最後は強制シャットダウンを起こしました。
身体の再生もできていないので最後やっとレイに遭えたと思ったクロエの目の前には全身ボロボロで左目が潰れたレイがいきなり倒れるという事態が起きた訳です。
この時のクロエの気持ちを想像すると笑顔になりますね。