プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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湯灌

翌日

────────────────────────―――

 

 クロエと熱い再会を済ませた翌日。僕は拠点となっている教室にストーブを運び込んでいた。力仕事なら僕の得意分野だし、いくら雨風はしのげるといっても寒いものは寒いのだ。

 

「さーて点くのかしら」

「ば、爆発したりしないよね……?」

《なにぶんノーメンテですからー》

 

 僕の運び込んだストーブの着火を試みているクロエたち。ノーメンテ……一応運び出す前に軽く掃除はしたけど確かに見えないところがどうなってるかは分からないからなぁ……。

 

「大丈夫だと思う……たぶん」

 

 全員がおっかなびっくりしながらストーブのスイッチを入れる。すると少しの間チッチッ、という音を出した後ボッ、と火が点く。

 

「点いた!」

「これで少しは寒さもマシになるわね」

「ああ……なんという文明の利器……」

 

 あたたかい火に手を伸ばして暖を取るイリヤ。そんなイリヤを見ながら立ち上がり教室の端に目を向けるクロエ。

 

「でも灯油もストーブもほったらかしだなんて随分大慌てで非難したみたいね。ま、隕石が降って来たんじゃしょうがないのかしら」

 

 ん?

 

「え? 隕石って……?」

「街のど真ん中に空いたクレーターよ。5年前に振ってきた隕石が原因だって街の人から聞いたわ」

「こっちが聞いた話と違うね。ね、イリヤ?」

「うん。私たちは天然ガスの爆発って聞いたけど……」

 

 イリヤに視線を向けるとイリヤもストーブから手を離して立ち上がり僕たちの聞いた話を説明してくれる。

 

「ガス爆発って……」

「情報が錯綜してますね。……おそらくは作為的に」

 

 教室のドアに寄りかかっていたバゼットさんがそう付け加える。作為的……つまりあのクレーターの原因を隠したい人がいるって事。そして大体こういう隠蔽は魔術絡みなんだよな……。

 

「で、本当のところはどうなの、ギル?」

 

 そう言いながらクロエはいつの間にか蔵から出したであろうソファに座って寛いでいる王様に話しかける。

 

「……あのね。一応断っておきますけど、僕を索引するの止めてくれないかな」

「だってあなたいつもなんか訳知り顔してるじゃない」

「……してないよ」

 

 その顔です、王様。

 

「ホラそれ! その顔!」

「これは呆れ顔。……お察しの通りあれは隕石でもガス爆発でもない。5年前エインズワースか、あるいは別の誰かが引き起こした災害の爪痕さ」

「やっぱり魔術絡みか……」

 

 なんで冬木って土地は平行世界であっても厄ネタばっかりなんだ……。

 

「『誰か』とか……カッコつけないではっきり言ったら?」

「ねぇ……キミ、僕に対してちょっとトゲない?」

 

 あ、確かにそれは僕も思った。クロエの王様への態度がやけに刺々しい気がする。いや、この世界に来る直前のことを思えば当たり前なのかもしれないけど……。

 

「詳しくは知らないよ、ほんとにね。なにせ僕が召喚されたのはほんの数か月前なんだ。それより前のことなて知る由もない」

「……」

 

 んー、バゼットさんの王様を見る目が厳しい。……これは僕が起きる前になんかあったな。

 

「だからもっと実のある話をしようよ。敵陣にどうやって乗り込むとか……田中さんは何者なのか……とかね」

「確かに、気になる……」

 

 王様が指さした方を見ると壁に落書きしている田中がいた。……田中さぁ。

 

「あーっ、田中さん! 壁に落書きしちゃダメでしょ!?」

「落書きじゃないです! パッションです!」

「やかましい。パッションだとか、グラフィティだとかストリートアートだとか綺麗な言葉で誤魔化そうとしても落書きは落書きなんだよ」

 

 なんでああいう奴等って芸術家を自称するんだろうな。

 

「ちゃんと躾けなさいよね。あなたが拾って来たんだから。私は面倒見ないわよ」

「そんなペットみたいに!」

 

 まあ、クロエの言い分ももっともだ。自分たちの明日も分からんのにこんな得体の知れない記憶喪失なんかの面倒は見てられないよなぁ。

 

「ちゃんとしようよ、田中さん! 記憶が戻るように私もお手伝いす―――「イリヤさんもパッションです」」

 

 うお、ためらいもなく顔面に落書きした。しかも皺を描くとか凄いな……。

 

「何するのーッ!?」

 

 当然イリヤは激怒して田中を追い掛け回す。

 

「おばあちゃんが起こったです!?」

「おばっ……!?」

《お孫さんに最低限の社会常識を教えて上げましょうかー!》

 

 そう騒いでイリヤ、田中、ルビーは教室を出ていった。……元気があるだけ良いと考えよう。

 

「……ホント何者なんだろうね」

 

 王様は田中が壁に描いた落書きを見ながらそう呟いた。……なんだろ、この落書き? 箱と……いくつもの輪っか?

 

「王様はこの落書きの意味分かるんですか?」

「いや、分からないね。そもそも子供の落書きに意味なんてあるのかい?」

「それもそうですね」

 

 ……『子供』か。やっぱり王様は田中の正体を知っている。田中が子供に見えるのか? いや、絶対にそれはない。ならなんで子供と言ったんだ? うーむ、分からん。

 

「ほら、レイ。そんなところでずっと立ってても疲れるでしょ。こっちおいで」

 

 僕がずっと立って考えごとをしているとクロエが声をかけてくる。視線をクロエの方に向けると僕がストーブを運び込んだ後、教室の机と椅子、それから体育館から持ってきたマット、それらを縛る縄で作った手作りソファに座ってポンポンと膝を叩いているクロエがいた。

 

「……」

 

 そそくさとソファに上りクロエの膝の上に頭乗っける。あ、頭撫でてくれてる、嬉しい。

 

「……ノータイムでいちゃつきだすね、君たち……」

 

 そんな僕たちの姿を見て王様が呆れ顔でこちらを見る。そうして暖かい教室の中ゆったりと過ごしていると暫くしてバタバタと騒がしい音が聞こえてきた。

 

「何の音……?」

 

 首だけ動かして教室のドアの方を見れば扉がガラリと開いて泥だらけの田中をつれたイリヤが現れた。

 

「なぜ?」

「うわっ、何してきたのよ。泥だらけじゃない」

「えうー……」

「ちょっと大地に盛大なキスを……」

 

 転んだってことか。随分派手に行ったっぽい。田中の状況を見たバゼットさんが口を開く。

 

「身体と服を洗った方が良い。風呂の準備をしましょう」

 

 お!

 

「えっ、お風呂あるの!? 私も入りたい!」

 

 やっぱりイリヤもか。僕もここの所、戦闘続きだったし体を洗いたい。

 

「あー、お風呂って言ってもね……」

「どうしたのクロエ?」

 

 なんだかクロエの反応が微妙……? 以前も入ったことがあるのかな? クロエは僕の頭をそっと下ろして黒板に向かい絵を描き始めた。

 

「こういうやつ……」

「あぁ……そういう……」

「何か問題が?」

 

 クロエが黒板に書いたのはドラム缶風呂と呼ばれるもの。え、ちょっとワクワクする。なんかクロエたちのテンションは若干下がっているけど、別に良くない? ワクワクしない? しない、そっか……。

 

「ん? お姉さんたちお風呂入りたいの? じゃあ……屋上でいいかな」

 

 僕たちの会話を聞いていた王様がソファから降りて歩き出す。屋上向かってるみたいだけど何するつもりなんだろう? 

 

 

屋上

────────────────────────―――

 

「王様ってホントなんでもありですね」

「そりゃ、ボクですから」

 

 学校の屋上に温泉が出来るとは……。これはこれでワクワクするな。

 

「温泉の宝具……!? いくらなんでもデタラメすぎる……!」

「もうなんでも良いわ! おっきなお風呂サイッコー!」

 

 ……女湯の方の声が結構聞こえるんだ。

 

「折角だからこの国に合わせたデザインにしておいたよ」

「それについては大失敗してるけど許すわ!」

 

 これが王様の中での日本……? 少しだけ驚愕していると隣でお湯につかっている王様が僕の方を向いてくる。

 

「失敗してるかい?」

「……まぁ、ちょっと変ですね」

 

 特に行燈からお湯が出てるとことか。まぁ、そんな細かいことはこの心地よさの前にはどうでも良い事だ。女湯の方から色々な話声が聞こえるけど今はどうでも良いー。

 

「あー……」

「随分寛いでるね」

「王様」

 

 僕が目を瞑って思いっきり伸びをしていると王様が声をかけてくる。

 

「せっかく出したんだし、そうやって寛いでもらった方がボクも嬉しいよ。存分に癒されて行ってくれ……()()()()()()()()()()()

「……はい」

 

 その後田中がプロレスごっこのことを口に出したり、田中の記憶について探ったりとしていたけど、ボクはただ黙って聞いているだけだった。 只今は、もう味わえなくなるであろう温泉の暖かさ、心地よさだけを味わいたかった。

 





レイ君の人生を見た英霊達の反応とか気になりません? 楽しく生を謳歌していた少年が三人(プーリン、愛歌、キアラ)に振り回されて友、家族、全部失ったうえで魔術絡みの事件に巻き込まれて、獣に成り下がりながらも好きな女の子を守るために努力した物語。
 どうですか、アタランテさん。正直貴方の反応が一番みたいです。
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