プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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決意

温泉後

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 温泉から上がって後、拠点となっている教室でバゼットさんが何か作業をしていた。職員室から運び込んだコピー用紙にガリガリと何かを書いている。

 

「バゼットさん、それなに?」

「結界用のルーンです」

「結界……?」

 

 へぇ……これがルーン。

 

「敵感知の結界? 今より範囲広げるの?」

 

 クロエはバゼットさんの書いている紙を一枚とって眺める。そしてすぐに何の魔術か分かったらしい。……ダメだ、ボクにはなんか変な線にしか見えない。

 

「ええ、既に校舎内にはこのルーンを張り巡らせていますが、人手も増えたことですし学校の敷地全域に拡大しようかと」

「侵入者対策ですか」

「結界ってバリアみたいなの?」

「生憎、戦闘以外の魔術は得意ではなく……そこまでは……」

 

 イリヤが目を輝かせながらバゼットさんに質問するが流石にそこまでの機能はないのかバゼットさんは苦笑しながら否定する。確かにバリアまで張れたら凄いが消費魔力がえぐいことになりそうだし無理だろう。

 

「私たちに敵意を持った者が侵入すると警報が鳴るのよ」

 

 クロエはそう言いながらフライパンとお玉を持ち出す。……なぜ?

 

「無いよりはマシってくらいけど少なくとも急襲は避けられるかな」

 

 ガンガンとお玉でフライパンを叩く。フライパンの近くにはぐっすり眠りこけている田中が。……全然起きないな。こんなに大きい音が出てるのに。イリヤも田中の様子を見て頬をヒクつかせる。

 

「警報なっても起きなさそうな人はどうすれば……」

「では手分けしてルーンの設置を」

 

 そう言ってバゼットさんがコピー用紙を求めて立ち上がる。うーん、申し訳ないけどパスかなぁ……。

 

「ごめんね、バゼットさん。僕、少し別の用があって街の方に行きたいんだ」

「街の方に?」

「どうしたのレイ? 私も一緒に行くわよ?」

 

 すぐに上着を羽織ってついてくる準備をしてくれたクロエ、僕の言葉に首を傾げるバゼットさん。

 

「うん。街、というよりは未遠川に用があるんだ。あとクロエ、気持ちは嬉しいけど水辺で寒いだろうし僕一人で行くよ」

「そ、そう?」

「うん、ごめんね。今回は手伝えないけど別の何かで埋め合わせするよ」

 

 そう言って僕は上着を着て教室から出て、未遠川へと向かった。

 

冬木大橋付近の公園

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「……この世界にもあるんだ」

 

 未遠川の脇、冬木大橋の足付近にある公園。……こっちの世界にもあるんだなぁ。ベンチに座りながら目の前を流れる川を見つめる。水量こそ減ったが今でもしっかり流れている。カード回収任務の始まりの場所。そして……僕が始まった場所。以前切嗣さんに見せられた新聞記事、あれが正しいならこの世界でもここに()()()()()()が眠っているはず。

 

「全てを終わらすにはあと少し、力が必要なんだ」

 

 正直なことを言えば僕は美遊のこともイリヤのことも、もうどうでも良い。未だ出会うことの出来ていない凛先輩やルヴィアさんのことも残念だが助けようという気持ちにはあまりならない。今の僕にとってはクロエこそが真に愛する人類(ひと)であり、すべてだ。だからクロエを傷付けたエインズワースを滅ぼせればあとはどうでも良い。

 

「でも、それだけじゃ足りなくなった」

 

 イリヤは絶対に美遊を諦めない。そしてそれはエインズワースも同じ。美遊という聖杯を巡ってこの地で再び聖杯戦争が起ころうとしている。イリヤは美遊を取り返すためにエインズワースと争う。もし、その戦いの中でイリヤが敗れたら? 殺せれるかもしれない、死ぬよりひどい事をされるかもしれない。そしたら、痛覚共有でイリヤと繋がっているクロエにも同じだけの苦しみが行くということ。

 

「……許せない」

 

 そんな存在してはいけない世界を想像して思わずベンチの手すりを握り壊してしまった。……ともかく面倒なことだがクロエに幸せな日常を送ってもらうためにはイリヤに協力して美遊を助ける必要が出来た。

 そしてエインズワース、奴らも決して諦めない。仮に奴等を出し抜いて美遊を連れ出せて元の世界に帰ったとしても奴等は諦めない。どんな手を使ってでも美遊を奪いに僕たちの世界にやって来る。奴等の手元には王様のカード、つまりエアがある。アレをつかえば世界に裂け目を作れることが出来るのは体験した通りだ。それにレディ・アヴァロンや沙条愛歌が他の世界から元の世界に干渉しているように他の手もある、安心はできない。奴らはこの世界で、この世界ごと滅ぼす必要がある。

 

「巻き添えの人々には哀悼の意を表する、ってことで」

 

 僕の身体は円蔵山でクロエに助けられて大きな変化を迎えた。けどそれで終わりじゃなかった、あれはきっかけだった。バゼットさんとの闘い、キアラ先生の()()()()を経験して僕の身体は徐々に『獣』のそれに変質していった。けれどもずっとあと一歩、あと一歩自分で決断して踏み出せば獣として完成する部分で僕は我慢していた。理由は一つ、獣は他の獣を呼び寄せるという性質を持っていたから。獣が一体でも現れた時点で他の獣も同じ世界のどこかに現れるというもの。僕が獣へと変質している間に知ったこの事実が僕を獣として完成させずにいた。

 

「クロエのいる世界を獣たちに滅茶苦茶にさせる訳にはいかない……」

 

 その一心で僕は自らの獣を抑え込んでいた。しかし自分の(さが)なんてそうそう抑えきれるものではない。クロエのことを愛する度に、自分の中の獣が止められなくなりそうになる。

 クロエが欲しい、クロエの全てが欲しい。クロエさえいればいい。クロエ以外のヒトにすらなりきれない畜生共を全部贄にしてクロエに最高の愛を与えて蕩かしたい。そんな蕩けたクロエを自分のモノにしたい。自分だけのモノにしたい。畜生共には欠片も与えない、見せたくない。僕はクロエの物で、クロエは僕のモノなんだ。

 目を瞑り自分の内側へと耳を澄ませば抑え込んだ獣の声が聞こえてくる。これはいつまでも抑えられるものなんかじゃない。

 だからこの世界は都合が良かった。敵がいて、戦う大義名分があって、クロエのいない、()()()()()()()()

 僕はこの世界で終わりを迎える。『沖繫レイの人生』はここで終わる。そしてここから『獣』として完成して、美遊を助けて、クロエたちを元の世界に返して、エインズワースを滅ぼし『人類悪としての生』を始める。そして二度とこんなことが起きないように、クロエたちがこの世界に来ないように全てを破壊する。国も、星も、世界も、この世界を破壊しつくして『人類悪としての生』も終わらせる。

 もう二度とクロエとは会えない。クロエのいる世界に帰れない。それでも、クロエが元の世界で幸せに、笑って過ごしてくれるなら何も惜しくはない。

 

「さぁ、まずはこの広い川のどこにこの世界の僕が埋まっているのか見つけないとね」

 

 僕はベンチから立ち上がって川底を掘り返す作業を始める。

 

 

 

拠点校舎

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「本人はヒネったつもりかもしれないけどさ、本当にチャーハンに麻婆が乗って出てきたときは笑っちゃったよ」

「……」

「……」

「美味しかったんですか?」

「辛いだけだったよ」

 

 王様はそう言ってあの店のメニューについて笑いながら語る。一応味を聞いてみるがやっぱり辛みがメインになっているらしい。

 

「ちょっと」

「いやはやあの執着はどこから来てるんだかね。次は餃子を頼んでみようと思うんだけど中身が何か賭けて見る気はないかい?」

「答えがわかり切っているのは賭けとは言えませんよ、王様」

「読みなさい! 空気!」

 

 王様の言葉に返事をしていたらクロエから突っ込みを貰ってしまった。

 

「……読みたくない空気を感じたんだよ。お昼ご飯から帰ってきたら急にこんなんだもん。なにがあったの?」

 

 僕もそれは知りたい。結局僕はあのあと出来る限り川底を掘り返してみたんだけどこの世界の僕は見つけられなかった。場所が悪いのか、深さが悪いのか……。今度は探し方を変える必要があるね。埒が明かなくなってどうしようかと悩んでいたところにお昼ご飯を終えた王様が立ち寄って声をかけてきた。キリも良く一旦考える時間が欲しかったので王様の供をしながら校舎に戻って来た。そしたら校舎の面々の空気が死んでいたという流れだ。

 そして僕と王様は自分たちがいない間に起きた事を聞いた。エリカという少女、ダリウスの登場、正体不明の宝具、田中の異常性。そして……イリヤの強い意思。

 驚いた、カード回収の任務から始まり一連の魔術絡みの事件でイリヤは大きく、強く成長している。多分、クロエも様々な経験をしてこんな風に成長していくんだと思う。その成長が見らないのは残念だけど、そもそもここで僕がやらなきゃクロエにその未来はやってこない。

 

「必ず、見つけ出さないと」

 

 話の後一人で廊下を歩きながらより決意を固めたその翌日。

 

「レイ!? イリヤを見てない!?」

 

 エインズワースにイリヤを攫われた。

 





 実はレイ君、クロエの痛覚共有の呪いが解呪されていることに気が付いていません。屋上でのイリヤとクロエのプロレスごっこを見ていませんし、寒いからしょうがないとはいえクロエはずっと臍を見せていませんからね。この勘違いに気づくかどうかでルート分岐です。
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