プリズマ☆イリ『ア』   作:四脚好き

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祈り

拠点校舎

────────────────────────―――

 

「なんてザマよ……! 隣で寝てて気づかなかったなんて!」

「結界は何も反応していません。まだ攫われたと確定したわけでは……」

 

 クロエの大声で起こされイリヤがいないことを教えられる。すぐに上着を着て教室を跳び出し、クロエとバゼットさんと共に校舎内を駆ける。

 

「確定よ! いくらあのおとぼけイリヤでもこの状況で……」

《カードや私を置いていくわけにもありませんものねぇ》

「それに昨日のイリヤの決意は固かった今更どこかへ逃げるなんてことも考えられない」

「ならば敵はいったいどうやって……!?」

 

 バゼットンの言葉にクロエ、ルビー、僕の順で答える。

 

「さぁね。だからいつも訳知り顔してるやつに聞きに来たのよ!」

 

 そう言ってクロエが立ち止まったのは王様が寝室として使っている教室。たしかに王様なら何か知っていてもおかしくはない。クロエは遠慮せず一気に教室の扉を開ける。

 

「ギル! イリヤが攫われたわ!」

 

 そういって開いた教室内の光景に思わず固まる。

 

「……いけないな。お転婆も嫌いじゃないけど、朝のまどろみには似合わない」

 

 そこにはまるで王宮の一室だった。天井からはキラキラと輝く色鮮やかな布が垂れさがり巨大なベッドに巨大な枕。サイドテーブルの上には瑞々しい果実が並んでいる。そんなベッドの上で王様はこれまた精巧な装飾がついたグラスで何かを飲んでいた。

 

「……絵画?」

「ふふふ、相変わらず君は嬉しい事を言ってくれるね」

「……」

 

 僕はまるで美術館で飾ってあるような光景にすごいとおもっていたんだけどクロエはそう思わなかったのか、ハリセンを投影する。そんなものも投影できるんだ。……前から思ってたけどそのアーチャーのクラスカード本当にアーチャー? 多分いっつもクロエが使っている黒と白の剣がメインの武器なんだろうけど……いったいどこの英雄だ? 二刀使いの弓兵とか聞いたことないぞ?

 

「あっ、その扇子見た事あるよ! まさかと思うけどそんな低俗なもので僕の頭を……」

 

 王様がクロエの投影したものを見て眉をひそめる。しかしそんな王様の言葉も遮ってクロエは思いっきりハリセンで王様の頭をぶっ叩いた。

 

「いや、ホント君ね。僕が大人になったら真っ先に殺されるよ、間違いなく」

「ボケには容赦ないのがこの国のルールよ。覚えておきなさい」

 

 王様はクロエに叩かれた頭を摩りながらそんな寝言を宣う。……目覚ましが足りなかったのかな。

 

「……それで何だっけ? イリヤさんが攫われたんだって?」

「窓が開いていてベッドにはカードが散乱。……油断していたわ。まさか昨日の今日でダリウスがこんな手を……」

「……私の判断ミスです」

 

 バゼットさんが俯きながら後悔を吐き出す。

 

「敵に居場所がバレた時点で拠点を他に移すべきでした」

「……結果論よ。一から拠点を作り直すのが最善だったとは限らないわ」

「それにここ以上に拠点に適してる場所なんて周囲にあった?」

 

 落ち込むバゼットさんにクロエと一緒に声をかける。

 

《索敵の結界は機能しているんですよね? 警報は鳴りませんでしたよ?》

「結界が破られたり、外された痕跡はありません。少なくとも敵の侵入は無かったはずです」

「あー……使われたかな」

 

 唐突に王様が何かを思い出したように呟く。

 

「……なに?」

「レイ君、君は覚えていないかい? ボクたちがエインズワースの工房に侵入した方法を」

「……あ、布!?」

「正解」

 

 しまった、あれがあったのか……。

 

「まって布って何?」

 

 僕と王様が納得しているとクロエが質問をしてきた。

 

「ボクたちがエインズワースの工房に乗り込んだ時に使った宝具。あらゆる魔術的な探知を遮断・透過する『身隠しの布』を使ったんだろう」

「は!? なによ、それ!?」

「どさくさでイリヤさんが工房内に置いてきちゃったみたいでねー。紛失されて横領されて……踏んだり蹴ったりだよ」

 

 そう言われると王様も中々気の毒だな。

 

《その布を使ってダリウスがイリヤさんを……?》

「それも違和感あるなぁ……この脈絡の無さ。なんというか頭の悪いタイミング……首謀者は多分……ダリウス以外のエインズワースだと思うな」

 

 なるほど……。頭の悪いエインズワースの奴……ベアトリスか?

 

「だらだらしてる場合じゃないわ! 早くイリヤを助けに行かないと……!」

「えー……雨降ってるんでしょ? 出たくないなぁ」

「何を寝ぼけたことを……!」

 

 クロエは一刻も早くイリヤを助けに行こうとしているが王様はどうやらあまり乗り気ではないらしい。しかも理由が天気。

 

《雨は雪になってきましたよ》

「うわ、それじゃますます道路グチャグチャだよ」

 

 うーん、やっぱりこう見てると王様ってやっぱり王様なんだなあ……。我がままで自由気まま、我が道を行く、というか……自分こそがルールというか……。

 

「イリヤさんならひとりでもイケるでしょ。だってこのボクに一度は勝った人だよ?」

「あれは特別! 今のイリヤはただの小学生よ!」

《向こうに潜伏しているサファイアちゃんと仮に合流出来ていたとしてもおひとりでは脱出も儘ならないでしょう》

 

 そうか、向こうにはサファイアがいるんだっけ。けど、合流できたとしてもルビーの言う通り脱出は厳しいか……。

 

《もしかしたら今頃はもう……!》

「やめなさいルビー」

「それはないでしょ」

 

 もしイリヤが殺されているなら痛覚共有をしているクロエも無事ではないはず。

 

「んー……殺すのが目的なら潜入された時にやられてる。イリヤさんがよっぽど暴れたりしなければ大丈夫だよ、きっと。……ホントに雪だ」

 

 そう言いながら王様は立ち上がって窓を開けて外の景色を眺める。そんな後ろ姿にバゼットさんが声をかける。

 

「……ずいぶん敵のことを信用していますね」

「いやぁだってホラ。彼らは一応、正義の味方ですし?」

 

 ん?

 

「……正義の味方……?」

 

 あ、僕だけの聞き間違いじゃなかった。やっぱりクロエもバゼットさんも聞こえたよね。『正義の味方』って。

 

「どっっっっ……こがよ!? 子供を拉致監禁してる極悪人じゃない!?」

「子供じゃなくて聖杯」

「同じ事よ!」

「同じじゃない」

「……!?」

 

 えも言わさぬ王様の圧に先ほどまで言いあっていたクロエもたじろぐ。

 

「もうちょっとゆっくり進める予定だったけど、お子様のお陰で展開がひとつ飛ばしになった。僕らがエインズワースの工房へ乗り込めばそのまま最終決戦になるだろう。そうするでしょう?」

「……えぇ」

 

 王様は僕の方を見て微笑む。それにしっかりと頷いて返す。当たり前だ、出来るならさっさと終わらせたい。もし戦うなら全力で行く。

 

「だから君たちの意思確認をしておきたいんだ。……君たちは悪を貫けるかい? イリヤさん……そして美遊を助け出そうとするならその覚悟が必要だ」

「どういう……意味です」

 

 王様は深い笑みを浮かべる。

 

「エインズワースの目的は世界の救済だ」

 

 世界の救済……。

 

「この世界は滅びに向かっているんだ。正確な原因は不明だけどこの星のマナは枯れ始めている。植物の育成は衰え、それを食料とする動物も数多くが死滅。あ、人も勿論例外じゃないよ。おまけにこの雪。今この国は夏らしいよ。なのに降る雪……この意味が分からないかい?」

「まさか……!?」

 

 王様の言葉にバゼットさんがなんか驚いているけど……。うーん、今一ピンとこないんだけど。

 

「そう、地軸がズレたんだ」

 

 あ、解説はなしのまま話つづけるんだ。

 

「そりゃもう環境なんか惑星規模で激変したろうね。君たちも見たでしょ? 海岸線の形すら大きく変わってしまった。この世界はまもなく滅ぶ。早ければ10世代も保たないかもね。エインズワースはこの終わりが決定づけられた世界を美遊(せいはい)を使って救済する気なんだ」

 

 聖杯での人類の救済か……。

 

「滅びゆく世界の救済……」

「それがエインズワースの目的だと?」

 

 クロエとバゼットさんが驚愕の表情を浮かべてる。

 

「どうやってマナの枯渇を止めるのか、美遊にそれほどの力があるのかボクにはわかりませんけど。ま、取り合えず決めてくださいよ、皆さん方。簡単な話でしょう? 世界(多数)を殺すか、美遊(一人)を殺すかですよ」

 

 え、この世界とか心底どうでも良いんだけど。

 

「世界を殺して良いんじゃない?」

「美遊を助けるに決まってるじゃない」

「なっ、あなた達は!?」

 

 僕とクロエが即答したことにバゼットさんが驚いてる。……けどそんなに変なことかな? 隣にいるクロエの手をそっと握る。手に気が付いたクロエは僕の方を見て笑い、手を握り返してくれる。所謂恋人繋ぎってやつになる。

 

「「(大切な)女の子の命って世界より重いのよ(んだよ)」

 

 ほぼほぼクロエと同じ言葉を口にする。僕たちの言葉に口が塞がらなくなったバゼットさんと目を見開く王様。

 

「く、くくく、くはははははははは!」

「王様?」

「……なにか可笑しいの?」

 

 急に王様が笑い出した。なんか変だったかな?

 

「いや、何もおかしくないよ。うん、良いんじゃない? それが君たちの選択ならボクは何も言わないさ」

「……世界どうこうは一旦置いておくとしてまずはイリヤスフィール、美遊・エーデルフェルトを救出しなければいけません」

「それじゃあ作戦会議と行きましょう」

 

────────────────────────―――

 

 ギルのやつが手を叩いて場を引き締める。そして全員がイリヤの救出に向けて準備をしようとした時、レイがさっと手を挙げた。

 

「ごめんなさい。その前に確認したいことがあって」

 

 なにかしら?

 

「ルビー、イリヤと美遊に合流できたとしたら元の世界へは直ぐに帰れる?」

《えぇ、帰還出来ますとも。こちらの世界に来てからずっと元の世界の座標を探していたんです! ……しかし凛さんやルヴィアさんを置いていくんですか?》

「いや、ただの確認だから。それにあの時の転移に巻き込まれた人間の殆どはこの冬木市内にいたんだから派手に戦えばすぐによってくるでしょ」

「派手に戦うって……」

「どうせこの世界は滅びるんだし、クロエたちもすぐに元の世界に帰るんだから神秘の隠匿とかどうでもよくない?」

 

 そう首を傾げながら話すレイ。……それもそうね。

 

「えぇ、良いじゃない。派手にぶちかましてやりましょう!」

「あなたまで……」

 

 バゼットは頭が痛いのかこめかみを抑えるけど反対はしないのね。

 

「よし、確認も済んだし救出はみんなに任せます」

「え、レイ?」

「僕はエインズワースを倒すための準備をしてくる。だから救出は任せたいの、お願い」

 

 そう言ってレイは頭を下げた。確かにレイは私たちの中で一番の火力を持っていると思う。そんなレイが頭を下げるぐらいだし、なにか策があるんだと思う。けど……けど、どうしてかしら、なんか嫌な予感がするの。レイ、あなたは何をしようとしているの?

 

「わかりました」

「イリヤさんの救出のほうはボクたちだけでどうにかしようか」

「ちょ、ちょっと……」

「それじゃあ、僕は行くところがあるから先に出てるね」

 

 とんとん拍子で話は進んでいく。

 

「クロエ。少しだけ教室の外に来て」

「れ、レイ?」

 

 繋いだ手を引かれて私とレイは教室の外に出る。廊下で二人きりになったレイは手を解いた後私を正面から抱きしめた。……少し震えてる?

 

「……レイ、本当にどうしたの? 少し変よ?」

「……そう、かもね。少し緊張してるのかも」

 

 レイはそう言うと私を抱きしめる手に力を入れる。そうよね。レイは生まれこそ特殊だったけど元々なにも知らない一般人として生活してた。魔術と……私と関わらなければレイは自分の正体を知らないままただの人して生活して、人としてその一生を過ごしていたんだと思う。それがこんな世界を救うか滅ぼすかの戦いに巻き込まれるようになったんだもの、あの場ではすぐに即答出来たとしても、心の中では緊張するわよね。

 私はレイの頭をそっと撫でる。なんどもなんども、彼の手の震えが収まるように何度も。

 

「ありがとう……」

 

 落ち着いたのかレイは背中に回した手を解いた。それから私の目をまっすぐ見つめて片方の手を頬に添えてくる。私は自然と目を閉じてキスを待つ。しかしいつまで待ってもキスしてこないため何かあったのかしら、と目を開ける。

 

「……クロエ」

「ッ!?」

 

 目を開けると飛び込んできたのは涙目で今にも泣きだしそうなレイの顔だった。何があったの!? わ、私何かやっちゃった!? 体の調子悪い!? 色々な考えが浮かんでは消えを繰り返す。それで私がワタワタとしているとレイが口を開いた。

 

「クロエ、ここまで僕を支えてくれてありがとう。僕を幸せをくれてありがとう。僕を好きになってくれてありがとう。僕を愛してくれてありがとう」

 

 なんで、なんで()()()()()()()()()? それじゃあまるでお別れみたいじゃない。怖い、凄く怖い。レイにどうしてそんな事を言うのかを聞くのが凄く怖い。返事を聞くのが凄く怖い。私の口はまるで陸に上がった魚のようにパクパクと動くだけで声を出せなかった。

 

「僕にとって唯一のクロエ(人類)。僕が大好きなクロエ(女の子)。僕のクロエ(聖杯)。お願いがあるの、どうか叶えて?」

 

 両方の手を私の顔に添えて泣きそうな笑顔を浮かべながらレイは願いを口にする。

 

「クロエがもう寂しい思いをしなくていい世界になりますように。色んな人と出会って、友達と笑いあって、暖かくて幸せな―――日々を送れますように」

 

 そう言い切ってレイは私にキスをした。いつもの魔力供給も兼ねているような熱いものではない。唇を合わせるだけの、初めてレイの方からしてくれたキスの様な優しい、まるで祈りの様な思いの篭ったキス。

 

「それじゃあ、行ってくる。バイバイ、クロエ」

「ま、まって―――」

 

 キスをしたあとのレイは涙も消えていてスッキリとした表情をしていた。でもそんな表情に不安を覚えた私は外に向かって走り出したレイの手を取ろうとして、空ぶってしまった。

 何も言えずレイが走り去った先を見つめ続ける私。気が付けばギュっと自分の手を握りしめていた。

 

「大丈夫よね……レイ」

 

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