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「……時間がない、強硬手段を取らせてもらう」
僕は川の前でそう呟く。時間は掛けられない。そうしないとイリヤの身に何が起きるか分からないし、また震えだしてしまうかもしれない。
「別れも、祈りも済ませた。あとはやるべきことをやるだけだ!」
擬態を解く。するとみるみるうちに僕の身体は甲殻に包まれ、触手が生え、巨大化していく。円蔵山でクロエたちと戦った時以来の怪物態だ。この巨体と火力で一気に川底を掘り起こす!
「グキャァァァッッ!!」
川に飛び込んで触手や体当たり、オキシジェン・デストロイヤー・レイで川底をどんどんと掘り返していく。圧倒的効率、これなら直ぐに……! 今、確かに感じたぞ、同族の気配! こっちか! よし、どんどん近くなってきてる。近く……なってきている、のか。
「ヴゥゥゥウウ……」
同族まであともう少しという所で動きを止める。……これが『人間としての沖繫レイの終着点』か。なんともまぁ、奇妙な人生だったと思う。今はもう思い出せないけど、僕には前世というものがあって、気が付いたら冬木市にいた。凛先輩と出会って魔術を知った。イリヤと出会って、クロエとも出会った。カード回収でルヴィアさん、美遊に出会った。カードを巡ってバゼットさんとも争って、王様と戦い、平行世界までやって来た。
うーん、波乱万丈。きっと僕の人生は短く太くを物凄く極端にしたものなんだろうな。
那奈亀、悪いけどツッコミは任せた。上手くみんなと連携して龍子を抑えてくれ。あと、出来ればツッコミはもう少し優しくな。
龍子、多少落ち着きを持っては欲しいけど、君のハチャメチャな所に救われたこともあった。どうかこれからも元気でいて欲しい。
美々、いつも感謝してたよ。全員にしっかりと目を配っていつでもフォローしてくれる美々がいたから僕たちは思いっきり遊べたんだ。
雀花、ごめんね。もう同人誌の手伝いできそうにないや。もしかしたら夏休み明け、イリヤ達が大変かもしれないから僕たちのグループのリーダーとして頑張って欲しい。
ルヴィアさん、凛先輩には違うって言われますけど、僕にとってあなたは気品と思いやりがある本物の貴族というものに見えていました。
凛先輩、あの日、僕に出会ってくれてありがとうございました。僕に魔術を教えてくれてありがとうございました。あなたはとっても尊敬できる先輩でした。
美遊、驚いたよ。まさか君と僕で似たようなところがあるなんて。申し訳ないけど君の世界は僕が滅ぼす。どうか僕たちの世界でイリヤと幸せになって欲しい。
イリヤ、君はよくも悪くも人を惹きつける星だ。もしかしたら僕もあの時迷子になって泣いていた君に惹かれたのかもしれない。その結果がこれとは驚きだけどね。……元の世界に戻ったらクロエのこと、お願いね。
クロエ……君に会えてよかった。愛してるよ。
「ギャアアァァッッゥ!!」
それじゃ、いよいよ最後です。さようなら、皆さん!さようなら!
僕は最後の岩を砕いてこの世界のデストロイアと合流する。体がドロドロと解けて……混ざり、とけ、ていく……。ぼ、くの意識も散り散り、に……混ざ――て い く。
そして目が覚める
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「ははははははははは! なんてことだ、そういう軸か!」
エインズワースの工房の本来の姿である岩山の上で自身の半身たるカードを取り戻したギルガメッシュはピトスと呼ばれる正方形から溢れた泥を浴び続けているエリカの言葉を聞いて大声で笑いだす。
「なるほどこの世界は詰んでいる! どうしようもなく行き詰っているわけだ! 放って置けばシステムダウンを起こした星に人類は殺され! かと言って救いを求めれば星は泥に覆いつくされる! まったく、なんて憐れなんだ! しかも! その上!? 厄災の獣まで現れるのか!」
「ギルくんは一体何を言ってるの!?」
「知らないわよ!?」
大笑いするギルの下ではイリヤ達が負傷した美遊の兄、こちらの世界の『衛宮士郎』の治療をする凛を庇いながら泥から出てきた英霊達と戦っていた。
「……ったく! キリがないわ!」
「バリケードも気休めにしかならないね……」
「レイ、あんまりレディを待たせるものじゃないわよ……」
額に流れる汗を拭いながらクロエは未だ姿を現さない想い人のことを考える。
「なんとか押し返せたけど……次にまた総攻撃が来たら……」
「リン! お兄ちゃんの治療はまだなの!?」
「全力でやってるわ! けど―――ッ」
凛の言葉の続きは巨大な英霊がバリケードを突破したことで遮られる。
「なんて巨体!」
「くっ、弓を使うわ! 足止めッ!?」
「クロ!? キャッ!?」
巨大な敵に対して弓で一気に勝負を決めようとしたクロエ。しかしガクリとその体が倒れこむ。イリヤは直ぐにクロエの異常に気が付いてクロエの方を確認する。すると足元の泥からナイフをもった英霊が現れてクロエの足にナイフを突き立てていた。急いでその英霊に向かって剣を振り下ろそうとするが目の前にいる巨体の英霊はそんなイリヤの隙を見逃さず手にもつ槌でイリヤを叩き飛ばす。
「……カハッ」
「イリヤ!!」
吹き飛ばされたイリヤは岩山に叩きつけられ倒れる。巨体の英霊は次に目の前で倒れこんでいるクロエに狙いを付けてゆっくりと槌を振り上げる。
「……ッ!」
クロエはどうにか攻撃を防ごうとするが体に力が入らず身動きが取れない。そして槌が振り下ろされそうになった瞬間、未遠川で大爆発が起きた。それはとても巨大な水柱でクレーター内で戦っている全員が、泥の英霊達さえも動きを止めて川の方に視線を向ける。
「なに!?」
「こんどは何ですの!?」
「……」
「なんだ、ありゃァ!?」
イリヤ達もエインズワース達も全員が困惑で動きを止める中、ギルガメッシュだけが笑みを深めた。
「やっと来たね。エインズワースのお兄さん。可哀そうな君に教えて上げよう。君の望みはここで潰える。この世界は終わりを迎えるのさ」
「……なに?」
ギルガメッシュの言葉にジュリアンは眉を顰める。ガタガタと地面が揺れ始め全員が身動きが取れなくなる。揺れは収まることなくどんどん強くなっていく。
「ルビー! 何が起きてるの!?」
《ま、待ってくださいイリヤさん。私もわかりませんよ! 解析中ですので少々お待ちを! ……動体検知? 霊基反応増大……止まりません!》
「動体って……あの爆発の中に生き物がいるってこと!?」
イリヤはルビーの発言が信じられず驚く。
《そうです! あの爆発は何かの生物が起こしたものなんですよ! 推定体高……100メートル、130メートル、160、190、200! 250メートル、300メートル以上です!》
ルビーの絶叫にも近い報告が上がる。そして未だ高く立ち上っている水柱の頂点からオレンジ色の光の輪が放たれる。光の輪はものすごいスピードで泥の英霊たちに向かって放たれ、泥の英霊達は迎撃や回避をする暇もなく一瞬で消し飛ばされた。
「この光は!? 」
この光とその効果に見覚えがあったバゼットは驚愕した。
《この霊基パターン……この攻撃……あぁ、そんな、レイ様》
「レイ?」
サファイヤは解析結果と先ほどの攻撃を見てある事実に到達し悲し気な声を上げる。無数の黒い手に掴まれながらも美遊は水柱の方向を見つめながらサファイアの言葉の意味を探る。
「ギュアアアアァァア゛ァァァ゛ァ゛ア゛ア!」
巨大な咆哮によって水柱は吹き飛びイリヤ達の前に爆発の原因が姿を現す。黒に近い赤褐色の甲殻、巨大な翼、山のより大きな体躯、額から伸びる一本の角。まさに悪魔といった顔。全長300メートルを超えるデストロイア完全体がそこにいた。
「あれは!?」
《アレがレイさんの本来の姿……》
「なんて禍々しいッ……」
「ッ!?」
「ウソでしょ!?」
その姿は似たような状態を見た事のあるイリヤ達でも息を飲む迫力があった。
「おい、アレは一体なんだ、ギルガメッシュ!?」
ジュリアンは苛立ちを隠そうともせずギルガメッシュを睨む。
「あれはビーストさ。人間の獣性によって生み出された大災害。人類を滅ぼす破滅の化身。文明より生まれ、文明を食らう災厄の獣。人類の原罪が生む自業自得の死の要因。まぁ本来の方からだいぶかけ離れてるけど」
本来この世界には既にビーストを生み出す力さえなかった。しかしレイがやって来た。別世界のビーストの座とビーストを誕生させる力を自前で持ってこの世界へとやって来た。本来存在しないはずの歪んだビースト。本来のこの座のビーストは『愛欲(快楽)』の理をもつビーストでありR・Lと対になる『女性の愛』の性質をもったビーストが顕現するはずだった。そこに現れた3人目の『愛欲のビースト』。R・Lが女性の愛の性質を持つのに対して『男性の愛』の性質をもった本来ありえない存在。たった一人の人間を世界のすべてとした
ありえない、歪んだ、はずだった、歪な、そんな幾つもの可能性の果てに産まれた歪んだビースト。屈折し、歪曲し、ねじ曲がった愛の果て。ここに
人類悪●歪誕
歪み落ちた、獣に与えられた名は『ビーストⅢ/
「キュァァァァ!」
デストロイアは再び咆哮した後、イリヤ達の方に向かって歩き始める。一歩進むごとに地面は大きくゆれ、足元にある建物を全て踏み壊してクレーターへと向かってくる。歩きながらデストロイアは口を開き、オキシジェン・デストロイヤー・レイを薙ぎ払う。狙いは適当、ただ吐けたから吐いただけといった様子の攻撃はイリヤ達の頭上を飛び越え円蔵山や冬木の街を破壊する。山も街も吹き飛び当たりが火の海に代わる。
「なんて威力だ……」
「だめ……。なんで、あんなものが……あれは駄目ッ!」
「エリカ……」
デストロイアの姿を見たエリカが激しく怯えだし、その様子を見たジュリアンはただ事ではないと判断する。
「ベアトリス、帯雷二つまで許可する。潰せ」
「愛してるわ、ジュリアン様」
ベアトリスが跳び出してデストロイアの元まで一気に近づいた。
「召雷!」
デストロイアの身体を駆けのぼりながらベアトリスは雷を呼びハンマーに力を凝縮していく。その威力はかつてイリヤ達に放った時の三倍にもなる。
「吹き狂え、元素の彼方まで!」
以後に大きく跳躍してデストロイアの眼前に到達したベアトリスは大きくハンマーを振りかぶる。
「
質量を待った巨大な雷撃が幾つもデストロイアに直撃する。自身の最高威力の技が決まったこととデストロイアの動きが止まったことからベアトリスは笑みを浮かべた。しかしその笑みは一瞬で絶望へと塗り替わる。
「コイツ……! 全然効いてねェ!?」
デストロイアはいきなりの雷に驚いて立ち止まっただけで全くの無傷だった。デストロイアがベアトリスに向かって口を開き、口元に紫の光が集まる。
「あ、やべ……さよなら、ジュリアンく――――」
ベアトリスの言葉は最後まで紡がれることはなく、彼女は紫色の光に呑まれ消滅した。しかし問題はそれだけでは収まらなかった。ベアトリスを飲み込んだ光はその勢いを衰えさせることなく直進し、この世界の人類の最後の希望たるピトスをも破壊した。
「なッ……あ、ああ」
ジュリアンはベアトリスのあるものを犠牲に一度だけ致死の攻撃を無効化する概念的守護すら突き抜けて消滅させたデストロイアの攻撃に驚愕し、同時に今までのエインズワースの築き上げてきたものを失った絶望を味わい膝から崩れ落ちる。
目障りだった羽虫を排除出来たので満足そうにデストロイアはまた進軍を始める。街がどんどん火の海に変わっていく様をギルガメッシュは笑いながら眺めていた。
「あぁ、君は本当にすごいよ。ここに来るまで多くの困難が、苦悩があっただろう。それでも君はここまでやって来た。
……確かに下らぬ後押しもあっただろうが、最終的には貴様が選択し、到達したのだ。現代の、なんの力もなかった幼子が、人類悪にまでな!
その偉業をもってこの
「ギュアアアアァァア゛ァァァ゛ァ゛ア゛ア!」
街も山も何もかもを破壊しながら歩み続ける。あらゆるところから火の手が上がり僅かに残っていた住民たちが炎にまかれ悲鳴を上げて死んでいく。そんな地獄の様な光景。
「こんな……こんなことって……」
「イリヤ!」
「み、美遊……?」
ジュリアンが茫然自失したお陰で宝具が解除され自由の身になった美遊がイリヤの元に飛んでくる。
「み、美遊……街が、人が……こんな、レイが……」
「……辛いかもしれない。けど、ここも危ない、移動しようイリヤ」
確かに、美遊を助けるために困難に立ち向かう覚悟をしていたイリヤ。しかしこんな地獄の様な光景を見るとは思っておらず、ましてや自身の友達がこんな景色を作っているとは信じられず青い顔で震えるイリヤ。そんなイリヤの手をとって他の皆との合流と避難の為に動き始める美遊。
二人の手に握られていたステッキは静かに会話を始める。
《姉さん、あれは恐らく……》
《えぇ、アレがレイさんの本来の姿でしょう。霊基も魔力も尋常じゃありません》
《でしたらこの世界はもう……》
《滅ぶでしょうね。はぁ……レイさんが別れ際に帰還できるかどうか聞いてきた理由が分かりましたよ》
レイは最初からこの世界を滅ぼすつもりだったことを理解したルビーは深く溜息をついた。そして少しでも記録を付けようと再びデストロイアに注視する。
「イリヤ! 美遊! こっちよ!」
「美遊!」
「ルヴィアさん! お兄ちゃん!」
「美遊……」
美遊の兄に肩を貸しながらイリヤ達に手を振る凛。その隣で美遊を見て安心し、喜びの表情を浮かべるルヴィア。多少マシになった傷を抑えながら声をかける美遊の兄。後ろの方にはクロエをおんぶしているバゼットもいる。 全員が取り合えずは無事ということがわかり僅かに笑みが浮かぶ。しかしすぐに真剣な表情に戻りひとまず炎に巻き込まれず、デストロイアの攻撃にも巻き込まれ辛い場所を目指して移動する。
途中、地面に転がっていたアンジェリカをも踏み殺し、遂にイリヤ達の前にまで到達したデストロイア。
「お前は、お前はァ! 何なんだお前はァあああ!」
ジュリアンはそう叫びながら自身の魔術である魔力荊棘を繰り出す。ベアトリスの宝具が通じない以上自分の魔術が通用しないとはジュリアンも理解していた。それでも目の前の存在に何かをぶつけたかった。
そんなジュリアンの攻撃も届かずデストロイアの放ったオキシジェン・デストロイヤー・レイに飲み込まれてジュリアンも、置換されていたダリウスの人格も、エリカさえ消滅した。
「グギャャァァゥゥ゛ゥ゛」
怨敵が消え去ったことに満足したのか一鳴きしたあとデストロイアは辺りを見回す。そしてイリヤ達を見つけると体を変化させ、『沖繫レイ』の姿をとりイリヤ達の近くに舞い降りる。
「うん、全員無事みたいで何より」
赤黒く、袖や裾から体の中央に向かって紫色の血管の様な模様が走っている法衣の身綴を着たデストロイアは笑顔を浮かべながらイリヤ達に近づく。
「全員無事?」
「え、えぇ、無事ちゃぁ、無事だけど……」
なんでもない風に話しかけてくるデストロイア。先ほどまでの暴れっぷりからあまりに軽すぎる態度に困惑しながら凛がどうにか返事をする。
そんな中、クロエがバゼットの背から降りてヨロヨロと足を引きずりながらデストロイアに向かって歩き出す。そんなクロエを見てデストロイアも驚いてクロエに駆け寄り彼女を迎えに行く。クロエは近づいてきたデストロイアに抱き着き頬ずりをしながら話しかける。
「随分待たせてくれるじゃない」
「ごめん、時間が思ったよりかかっちゃって」
「別れ際にレイが変なこと言うから、もうお別れなんじゃないかって心配しちゃったじゃない」
「……」
クロエのその言葉にデストロイアは返事をしないでルビーに話しかける。
「ルビー、帰還の準備は?」
《えぇ、準備万端ですよ》
ルビーは地面に帰還用の魔法陣を展開する。
「そっか……王様はどうします? この世界と共に散りますか? それとも彼女たちの世界で第二の生を謳歌しますか?」
デストロイアが背後に向かって声をかけるとギルガメッシュが空から降りてくる。
「そうですねぇ……折角ですし、そちらの世界で生を謳歌しますよ。この世界は色々と厄介なことがありすぎる」
「あまり、はしゃぎ過ぎないようにお願いしますよ」
「ふっ、はいはい」
そう言ってギルガメッシュは魔法陣の中に入っていく。何人かが『こいつも!?』と言った表情でギルガメッシュを見つめるが本人はどこ吹く風だ。
「よいしょっと」
デストロイアはクロエをお姫様抱っこして魔法陣の方に歩いていく。そしてあと一歩進めば魔法陣の中という所で立ち止まる。
「レイ……?」
進まないデストロイアにクロエはどうしたのかと名前を呼んで確かめる。
「バゼットさん、クロエをお願いします。僕はそっちの世界に帰れないので」
「え!?」
「レイ、何を言って!?」
「どうしたのよ?」
《レイ様!?》
ギルガメッシュ以外の全員がデストロイアの発言に驚く。それと同時にデストロイアは何かを感じ取ったのか険しい顔を浮かべてバゼットにクロエを急いで渡す。
「……僕が出現したことにつられてなにかこっちに寄ってきてる。ルビー急いで転移して!」
《け、けどレイさんも!》
「僕は良いって言ってる! ―――来たな」
先ほどまでエインズワースの工房があった場所に銀色の何かが落ちてくる。瓦礫と化した工房をさらに踏み壊し、辺りを水晶に変貌させながらそれは姿を現す。デストロイアという
「おっきな、蜘蛛……?」
イリヤはその正体不明の物体を蜘蛛と例えた。空からやって来たそれを見た凛とルヴィア、バゼットとクロエは顔を青ざめさせる。
「ルビー、行って」
《……転移します!》
地面の魔法陣が光を強くし始める。
「離して、バゼット!! レイ、待って! ダメよ! 勝てっこないわ、一緒に……一緒に帰りましょう! 全部終わったじゃない! また一緒に学校行って、勉強して、遊びましょう!? お願い、レイ! 一緒に、ずっと一緒にいてよレイ!! 私を、私を一人にしないでよ!」
バゼットの腕の中から抜け出そうと藻掻きながらデストロイアに手を伸ばすクロエ。そんなクロエの方に振り返って
「大丈夫だよクロエ、君はもう一人じゃない。さようならクロエ、大好き!」
「――――ッ、バカぁッ!!」
その声を最後にイリヤ達は転移してこの世界から姿を消した。一人残ったデストロイアは手に剣を構成しながら大蜘蛛に向かって駆けだす。
「――――――!!」
大蜘蛛は自分に向かってくるデストロイアを知覚し、その脅威度から優先的に排除しようと動き出す。しかしそれを見たデストロイアはニヤリと笑った。
「僕を見たな、僕を優先したな。お前
デストロイアは手に持った剣を上段に構えて渾身の力を籠める。
「今まで僕が積み上げてきた全てをこの一撃に籠める! もうこれで終わらせる。だから、ありったけを!」
自身の魔力をありったけ剣に注ぎ込むデストロイア。しかしそれでも足りないと判断しこの星に残っているマナを急速に吸い上げ剣に注ぎ込む。剣が増大すれば増大するほどドンドンとこの星は死んでいく。しかしそんなことはもとよりこの星を滅ぼすつもりのデストロイアには知ったことではない。
「今、愛しき
叫びながらデストロイアは剣を振り下ろし、辺りは光に包まれた。
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暗い、あるいは黒い。
どこに自分の手足があって、自分が今、上を見ているのか下を向いているのかも分からない程の真っ暗闇。そんな暗闇の中を漂っている。
あぁ、夢を見ていたのか。綺麗で懐かしくて、酷く懐かしい夢。時間の概念すら滅んだこの空間だからどれくらい前のことかは正確には分からないけど永劫にも思えるほど昔の出来事。その時の思い出を今も僕は夢に見続けている。
暗く、冷たいこの空間。それでも僕は笑っていられる。あの時の輝かしい思い出がある限り。うん、もう一度夢を見よう。暖かいあの夢を、優しい夢を。
次回、最終回です。