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「■■■?」
「なんだぁ? アレが新しいサーヴァントか? なんだガキじゃないか。だがヘラクレスに向けるあの目! アレは憧れの眼だな! ふふん、ヘラクレスに憧れるとは目の付け所の良いガキじゃないか!」
周りのサーヴァントやスタッフたちがレイの大声に何事かと視線を向ける中レイは早歩きでどんどんヘラクレスに向かっていく。そんなレイを見てヘラクレスの隣にいるイアソンがヘラクレスの肩を叩きながらそう話す。
「おいおい、熱心なヘラクレスのファンのようだが、サインが欲しいならまず、このイアソンに声をかけるこ―――「ヘラクレス、殺し合いしましょう!」―――はぁ?」
「■■……」
ヘラクレスの前までやって来たレイの放った一言でイアソンは固まり、食堂内のサーヴァントたちも驚く。確かにサーヴァントとして召喚されている以上見た目と実力はかけ離れていることは多い、それでもあまりに幼い見た目のレイがギリシャの大英雄ヘラクレスに殺し合いを挑んでいるという状況には驚かざるをえない。
「あなたが覚えているかはわかりませんが僕は生前あなたと戦ったんです。その時は結局横やりが入ってちゃんと決着をつけられなかったんですよ。えぇ、だからしっかり殺し合いましょう。今回は13回目の復活もしっかりと殺し切って見せますよ」
「は、はぁ!? なんだこの失礼なガキは! お前みたいなガキがヘラクレスと戦えるわけないだろう! というか、13回ってなんだよ! ヘラクレスの『十二の試練』より回数が多いじゃないか!」
「いや、彼は稀にやって見せますよ。自身の神話越えをね」
止まらないレイの言葉にイアソンはキレるがそんな会話に割って入ったのはギルガメッシュ王の子供の姿、所謂子ギルと呼ばれる存在だった。
「戦ったのは大人のボクなんですけど、べつの聖杯戦争でも彼は13回目の復活をしましたよ。それに彼の言ってることは嘘ではないですよ。ボクの眼でも見ましたし」
「噓はついていません」
「清姫さんもこういってるし」
聞き覚えのある声が聞こえたと思ったらまさかの子ギルの登場に驚くレイ。
「王様……? 王様まで召喚されてたんですか?」
「君の知ってるボクとここにいるボクは別人だけどね。君のことは見たからね、知っているよ『怪獣王』」
子ギルの『王』発言に幾人かのサーヴァントに動揺が走る。
「えぇ、ともかくそういうことなので……。あなたに覚えがなくとも個人的に決着を着けさせて欲しい」
そう言ってレイはヴァリアブル・スライサーを手の内に構築してその切っ先をヘラクレスへと向ける。瞬間、辺りのサーヴァントたちの間にヒリついた空気が流れ始める。
「あっ」
「ちょ、レイ。ストップ!」
「しまったルール伝えてない!」
そんな様子に頭を抱えるマスターやイリヤ達。食堂はサーヴァントだけでなく、人間のスタッフたちも利用するし、マナーや『色々あったと思うけど食事のときぐらいいがみ合うのは止めてみんなで仲良く食べよう!』というマスターの提案もあり武器を取り出すのは厳禁なのだ。一部のサーヴァントを除いて。
「さあ、戦いましょう! 戦いたくないというなら無理やりその気にさせ―――」
「おっと、そこまでだ。武器をしまいたまえ」
「もぅ、随分ヤンチャな子が召喚されたわねー」
「そこな小僧よ、今すぐに光り物をしまうのだな! でなければこのキャットが三枚におろしちゃうワン!」
その例外のサーヴァントたちが直ぐに現れてレイを取り囲む。エミヤ、ブーディカ、タマモキャットのカルデアキッチン組とも呼ばれることのある面子だ。
「ここでは我々料理人以外の面子は武器を持つことを禁止されていてね。勿論私闘の類も厳禁だ。分かったかね、少年」
「……クロエの大人化&男性化?」
「ぶふっ!」
そんなエミヤの見覚えの有りすぎる容姿の特徴にレイは思わずそう呟いた。それを聞いていた青いタイツのランサーが吹き出す。
「……違う。クロエ嬢が使っているカードの英霊だ私は。私が、ではなくクロエ嬢が私に似ているんだ」
「そうなんですか。……ごめんなさい」
納得しつつヴァリアブル・スライサーを分解して頭を下げるレイ。その様子を見てブーディカはレイの頭を撫でまわす。
「よしよし、ヤンチャだけど素直に謝れるしいい子じゃない」
「……え、あ……」
"母親代わりに面倒を見てくれる先生"はいてもちゃんとした"母親"を持たなかったレイにとってクロエに近い声で優しく撫でられるという行為は抗いがたいものであり、すっかり戦意を削がれてしまった。
「うむ、今回は初犯だからな許してやろう。キャットは寛大なのだ。ほれ、お近づきの印のニンジンだ。生でも旨いはずだ。食ってみろワン」
「え、あ、はい。……硬った」
タマモキャットから渡されたニンジンをそのまま齧るレイ。当たり前だが生のニンジンはそのまま食べるのには向かず、その硬さにレイは顔を歪める。
「生のニンジンなんて硬いに決まってるだろう。お前何してるのだ?」
「……」
ニンジンを齧ったレイに突っ込みを入れるタマモキャット。そしてそんなことを言い出したタマモキャットを信じられないものを見る目で見つめるレイ。半分以上自棄になり手に持ったニンジンをミクロオキシゲンで分解して吸収する。
するとレイの登場から止まっていたヘラクレスがサンドイッチを食べきって食堂から出ていく。そして食堂の外に出ると振り返り大きな斧剣を取り出してレイをジッと見つめる。
「……マジか。おいガキ、ヘラクレスが相手してやるってよ。ついてこい」
「!」
ヘラクレスについて席を立っていたイアソンが振り返り、食堂の中を見ているヘラクレスの意図に気が付いてレイに声をかける。それを聞いたレイはぱあっ、と顔を明るくした後、獰猛に笑って見せヘラクレス達の方に近寄る。ヘラクレスと新入りサーヴァントが模擬戦をするということで食堂内は一気にざわめき一部好戦的なサーヴァントたちは見物の為に席を立つ。
「ちょ、ちょっとレイ!」
「ごめん、クロエ。ちょっと戦ってくる」
「れ、レイ……」
思ったより大事になったことにクロエはレイに声をかける。しかしレイはクロエに笑顔を向け、一言告げて去っていく。
「■■■■■■■■■■!!」
「ヤアァァァァァァァッ!!」
ネロ祭で使われたコロセウム。その大舞台で巨人とも思える程の筋骨隆々な巨躯を持った英霊『ヘラクレス』とその半分程度の大きさしかない少年『怪獣王デストロイア』が激突する。その余波は観客席まで届き、観客たちを大きく興奮させた。結局二人の対戦は大きく話題になり食堂にいなかったサーヴァントたちまでコロセウムに集まって、カルデアのビッグイベントと化していた。
「やれー! ヘラクレスー! そんなガキに負けるなー!」
「へぇ……あのガキ思ってたよりもやるじゃねぇか。ヘラクレスが終わったら俺も相手してもらおうかね」
観客席にどっかりと座り込むアキレウスは好戦的な笑みを隠さずそう言い放つ。
「本人に聞いてみると良い。あの子は汝のことも気になっていたそうだぞ。なにせ聞いた話では生前、汝とヘラクレスを間違えらしい」
「俺とヘラクレスをか!? もう少しその話詳しく教えてくれよ、姐さん」
アキレウスの背後から声をかけたのは獣の耳と尻尾を持つ女狩人、アタランテ。そんなアタランテが話したレイの生前の出来事にアキレウスは大層驚く。
「イアソン、大人げないですよ。それとアキレウスも彼への模擬戦の申し込みもまた今度にしなさい。これ以上は彼女が拗ねてしまう」
大声でヘラクレスを応援するイアソンと今にもステージに乱入しそうなアキレウスを抑えるのは大賢者ケイローン。彼は少しだけ離れた位置で観戦しているクロエを見ながらそう話す。
「……拗ねないわよ」
観客席に座っているクロエは周りの英霊たちの生暖かい視線に頬を膨らませながら視線をレイに戻す。
「どうして私から離れていくの……」
そのクロエの消え入るような呟きは誰にも聞こえなかった。
「■■■■■■■■■■!!!」
「ぐぬッ!」
「ヘラクレスが有利で進んでいますね」
「まぁな、手足の長さからの圧倒的なリーチ差もあるがそれ以上に……」
「あの子供の剣の腕が酷い。だろう、アキレウス? アレは私から見ても酷いと分かるぞ」
「あぁ、正にガキが棒振り回しているだけだ」
アタランテの指摘にアキレウスは頷く。
「剣を振るったことのある英霊達はすでに気が付いていますが、まさか理性を失っているバーサーカーよりも酷いとは……」
「構えも、持ち方もなってねぇ。本当に腕力だけに物言わせてやがるぜ」
ケイローンとアキレウスは一人の戦士としてレイを見ながらそう評価する。ただアタランテだけが悲し気な目線でレイを見る。
「それだけ本来、争いとは無縁な子供だったのだろう……」
「……あー、そうかもな」
レイをじっと見ていたケイローンは何かを思いついたように口を開く。
「腕力だけはヘラクレス以上……。ふむ、剣もそうですがパンクラチオンも仕込んでみますか」
「おいおい、先生。あの腕力でやったら『掴んだら必ず壊す』じゃなくて『掴んだら必ず消し飛ばす』になっちまうぜ」
「……戦闘においてそれは正解では?」
「……それもそうだな」
「止めんか、汝ら」
レイのあずかり知らぬところでレイのケイローン塾の受講が決まっていった。
「へーらーくーれぇぇぇす!!」
「■■■■■■■■■■ァァァ!!」
アタランテ(私も弓を教えてみるか……? いや、それはあの子(クロエ)の役目か?)
レイ→クロエ
49話『最終マテリアル』より。
今でもクロエが一番大好きで大事なのことには変わりないが、本人的にはしっかりとお別れを済ませているので生前ほどの依存はしていない。
クロエ→レイ
???