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「ん、んうぅ……。んぐっ」
「あ、起きたわよ」
ん? 僕、いつの間にか寝て……というかこれ誰の声だ……? クロエ、いや、イリヤ……違うな。この声は……。恐る恐る目を開く。
「おはよう、レイ君。こうしてあったのは初めてね♪」
「……あ、あ、ぁアイリさん!?」
コロセウムの地面に仰向けに倒れていたボクは眼を開けたとき、こちらを覗き込んでいた意外な人物に驚いて上体を起こして後ずさる。 え、え!? なんでこの人がここに!? いや、イリヤが"いる"とは言ってたな! というか何その恰好!? というかイリヤと美遊がアイリさんの後ろで笑ってる! このリアクションを狙ってたな!?
「えぇ、私はアイリスフィール。けれど私は聖杯の器としての形になったもの。簡単に言えば、別世界のアイリスフィールね!」
あぁ、イリヤの言っていたことってこういう意味かぁ……。なるほど、別世界のアイリさん……。僕が知ってるアイリさんよりも少しだけお淑やかな気がするけど……何でだろう。根本の愉快な性格の部分はあんまり変わっていないって僕の勘が言っている。
「今、あなたを回復させたのだけど痛いところはあるかしら?」
「え? あー……。ん、平気です、ありがとうございます」
あー、そっか、僕、負けたんだっけ。やっぱヘラクレスは強いなぁ。
「おい、小僧」
「はい?」
えっと、確かイアソンさんだったっけ? 後ろにヘラクレスさんもいる。……なんか怒っている?
「お前、全力を出していなかっただろう? 折角ヘラクレスが相手してやったというのにどういうことだ!」
あー、そういうことか。
「えっとまず、ごめんなさい。確かに僕は全力ではありませんでした。けど本気です」
「はぁ? どういう意味だ?」
「僕は『生前の決着』を着けたかったんですよ。だから霊基の出力やスキルの一部を当時の僕のレベルまで落としたんです。当時の僕の実力であなたを本気で殺しにかかりましたよ、ヘラクレス」
「……」
僕の言葉を聞いたヘラクレスは少し考え込んだ後こちらに手を差し伸べてくる。
「あ、どうも」
「■■」
手を握ると引っ張り起される。うん、どうやら納得してくれたみたいだ。その手を握りながら喋り出す。
「実は言っていなかったんですけど僕、あなたと戦っただけじゃなくて貴方に力を貸してもらったこともあるんですよ。これも覚えていないと思いますけど、それでも礼を言わせてください。ヘラクレス、あなたと戦えて光栄でした。力を貸してくれたこと心から感謝しています。これからこのカルデアでよろしくお願いします」
「■■■■■■!」
ヘラクレスが大きく吠える。うーん、戦友として認められたのかな?
「はっ、お前たちがそれでいいなら俺は何も言わんさ。じゃあな小僧! さ、ヘラクレスも戻るぞ! お前は良かったかもしれないが俺は食事の途中だったんだからな!」
「■■■……」
イアソンさんが僕の肩を軽く叩きながらそう言ってコロセウムの外に出ていく。それに続いてヘラクレスも同じように僕の肩を軽く叩いてイアソンさんについて行った。
「ふふふ、良いわね。男同士の友情ってやつかしら」
「……そうですね」
そんな姿を見守るようにしながらアイリさんがそう言う。うん、楽しかった。
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「もー、丸く収まったから良いけどホントは駄目なんだからね!」
「はーい、ごめんなさい」
「ホントに反省してるー?」
「してまーす」
アイリさんにまた今度クロエとのなれそめやらを話すことを約束させられた後、コロセウムを出てイリヤ達と別れて今はマスターとダ・ヴィンチちゃん(本人にそう呼べと言われた)の二人と一緒に僕に割り振られた部屋へと向かっている。ここに来るまで何人かのサーヴァントとすれ違っておりマスターは勿論、僕にも話しかけてくれる人たちがいた。にしても、やって来たサーヴァント一人ひとりに個室を与えられるカルデアってでっかい設備なんだなぁ……。
「お、ここだね。ほら、ここが君の部屋だ」
「へー」
うーん、すっごいシンプル。ベッドとシャワールームのみのワンルーム。
「一応、改造とかも好きにしていいけど魔術工房化とかした時は一声かけて欲しい。スタッフが何も知らずに入り込んだ時に危ないし、なにより私が見て見たいからね!」
「……後半が目的では?」
「あはは……それと一部のサーヴァントは一つの部屋でいっしょに生活していたりもするから二人の合意があっていってくれれば部屋替えも出来るよ!」
なるほど……。
「で! どうする! クロエちゃん呼んじゃう!?」
「マスター……目がキラキラし過ぎだよ。一体なにを期待しているの……」
おせっかい焼きなのか、下世話なのか。けどそっか、クロエと同室……。
「いや、べつにしなくても良いかな」
「あれ? そ、そうなの……」
「意外?」
「うん」
マスターは少しだけ困惑気味にしている。まぁ、あれだけ熱烈な再会しながら同室は拒否ってるってちょっと変なのかな?
「まぁ、普段はクロエと一緒にいるだろうし、もしかしたらどっちかの部屋にお泊りなんてする日もあるかもしれない。けど、互いに一人になれるスペースは確保しておくべきだと思うし、少し離れている方が会った時に愛は燃えるでしょう?」
そういってマスターにビーストⅢとしての笑みを見せる。するとマスターは少しだけ顔を赤くして引く。
「お、幼いと思っていたのに、この色気ッ……!? 大人のテクニックだ……!」
「これでも『愛欲』のビーストだからね。あとは単純に一人部屋に憧れがあった」
「……そっちが本音じゃないかい?」
ダ・ヴィンチちゃんが何か言ってるが聞こえなーい。ふふ、折角の一人部屋、どう改造しようかな。というか、他の人ってどんな改造してるんだ? 僕、道具作成のスキルとかもってな……あ、
「それじゃ、今日はもう好きにしちゃっていいよ! 明日から色々よろしくねレイ!」
「うん。色々ありがとうマスター。僕の力上手く使ってね」
「では私も失礼するがその前にコレを受け取りたまえ、今の所のカルデアのルールブックだ。今日みたいなことはこれッきりになるようによく読んでおいてくれたまえ」
「はーい、分かりました」
そういってダ・ヴィンチちゃんから冊子を渡される。……なにこの『天草四郎に聖杯を渡してはいけない』って……え、天草四郎いるの!? あ、他にも注意事項とか今カルデアにいるサーヴァントの一覧もある。あとでちゃんと読んでおこう。
二人が部屋を離れて自室に一人になった。よし、改造に取り掛かろう。擬獣化形態に変異して胸部分にある円形に牙が集まった第二の口を開ける。その内側に手を突っ込む。
「んー……どこにしまったっけ……? あ、あった、あった!」
胸の中から取り出したのは青白い光を放つキューブ。かつて僕が美遊の世界を破壊しつくしていた時、月で見つけた物凄く古いアーティファクト。
「レガリア起動」
別名、ムーンセル・オートマトン。『月の聖杯』であるというそれを起動する。まさか聖杯を部屋の模様替えで使う日が来るとは……。
「さぁ、僕の望む部屋を作り出して」
部屋の中が光に包まれて無かったはずの家具が現れたり、今まであった家具の配置が換わっていく。そして完成したのは和室。
「うん、『詠天』がそうだったからっていうのもあるけど畳の方が落ち着くんだよねー……」
出来立ての畳に思いっきり寝転がりながら伸びをする。あー、久々の畳だ……あの空間重力もなにもないからあれはあれで過ごしやすいんだけどやっぱ慣れ親しんだものが一番だよねー!
――ピンポーン――
んぇ? ……というかインターフォンついてるんだこの部屋。誰が来たんだろ? 隣のサーヴァントさんとか? まぁ、誰でも良いか。さっさとドア開けよっと……。
「はーい、どなダヴぇッ!?」
ドアを開けた瞬間飛び込んできた誰かに押し倒されて首を絞められる。別に今の僕は呼吸を必要としていないから別に首を絞められるくらいなんともないけど一体誰……え?
「どうして……どうしてよ、レイ……」
僕の上に跨っていたのは涙を浮かべたクロエだった。
「さっきマスターから聞いたの。同室断ったんですってね。私はレイが着たら一緒に住みたいって言ってたのに……どうして断っちゃったの? どうして私から離れていくの? どうして私と一緒にいてくれないの? あのとき酷い事いったの実は怒ってる? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! いやよ、謝るから、何度だって謝るから一緒にいてよレイ。確かにあなたの言う通り私は一人じゃなかったわ。けどあなたがいいの! 貴方に一緒にいてほしいのよ! お願い、なんとか言ってよ、レイ……。」
……言ってることとやってることがちがーう! 首を絞めてる手の力、全然弱くならないし、ていうか力強くなってるし! 呼吸はしないって言っても言葉出すのには空気必要なんだが!?
けど……そっかクロエはそんなに僕のことを思ってくれていたんだ。この数年、色々な出会い、出来事があっただろうに変わらず僕だけをこんなに思ってくれていた。それはとっても嬉しいことだ。それなら僕も答えないと……。
まずクロエの頬に手を添える。するとクロエの眼が僕の手に向く、そのまま視線を移動させて僕の首を絞めるクロエの手をタップする。するとクロエは自分がしていることに気が付いたのか一瞬で顔を青ざめる。
「あ、ああ! ごめ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい! わ、私なんでッ……! 違うの、傷つけたい訳じゃないのに、どうして!?」
バッと手を離して蹲ってしまったクロエをゆっくり抱きしめる。
「ごめんね、クロエを苦しませちゃったね」
「なんでレイが謝るのよ!? どう考えても私がわる―――「クロエの中では終わってなかったんだね」―――……」
「僕は覚悟を決めて、終わりを受け入れ、お別れした。けどクロエにはそんなもの無かった。準備する時間も無かった。進学した、成長した、色々な経験をした。けどクロエの心はずっと
「……うん」
「ふふふ、前はよくイリヤがうじうじしてたけどクロエもこうなるんだね?」
「……きらい?」
「まさか、僕がクロエを嫌いになる事なんてないよ。一人部屋にしたのだって理由があるんだ。自分の部屋を思いっきりお洒落にしたり、好きな物で飾り付けて好きな子を招待したいんだよ。それが次第に好きな人のモノが増えていったりとか、そういう変化だって素敵なことじゃない?」
「……そうかも」
膝から僅かに見えるクロエの顔色が良くなってきた。
「だからさ、今度はクロエの部屋にも招待してね? どんな部屋か楽しみにしてるから。大丈夫、確かに多少離れ離れになるけど朝が来ればまた会える。学校に通っていた時と一緒だよ。ここならちゃんと明日が来るんだよ、クロエ。『さようなら』じゃない『また明日』って言えるんだ、だから安心してクロエ。僕はここにいる、今度は勝手にいなくなったりしない。もう一度ここで始めよう、幸せな日々を!」
「……えぇ、えぇ! そうね、ありがとうレイ! これから
そうして顔を上げたクロエの顔色は喜色に染まっていた。うん、もしかしたらまた不安定になるときがあるかもだけどひとまずこれでオッケー! 大丈夫、今度また不安定になっても僕がちゃんとそばにいるから。
……ま、それはそれとして。
「取り合えず、今日は帰さないよクロエ」
「え?」
まぁ、来年には高校生って話だから僕も同じ年齢だろうし、今の子は進んでるなんて聞いたし、そもそも今はお互いにサーヴァントだし別に良いでしょ。クロエの方が身長が高くなってしまったため少し不格好だがクロエを抱えて部屋の奥に向かう。
クロエを寝台に寝かして部屋のドアをロックする。
「れ、レイ? 一体どうしたの?」
「……ふふ、分かってるくせに。どれだけ僕がクロエを愛してるか……この数年分も一気に愛してあげようかなって」
「そ、それって……」
あーあー、顔を真っ赤にして目も泳がせちゃって。本当にクロエは可愛いなぁ。
「今の僕は『愛欲』のビーストⅢ。獣の巣に立ち入った人が無事に帰れると思う? たっぷり、じっくり愛してあげる」
クロエ→レイ
まだよ、まだ終わってないわ! 一見平気そうでも心はあの日の別れから抜け出せていなかった。最愛の人物の最後を罵倒してしまった。自分の生きる世界にあの人の生きた証はない。ただ自分の肉体と周りの時間が過ぎていくだけ。そして過ぎれば過ぎていくだけ最愛の人の思い出さえ消えて行ってしまう。そんな中、奇跡で再び再開出来たその人を今度は離さまいと必死だった。離れていくぐらいならいっそ……永遠に自分の手元で保管して……。いいかたあれですが魔術師として調整されていた方の人格ですからね。そんな手段も持ってるし、思考もあるっちゃある。
しかし憐れ! 獣の巣に立ち入ってしまったクロエちゃんは怪獣に美味しく頂かれちゃいましたとさ。