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「君の肉体を構成する生物の生息時期や夢で見たという辺りの環境からもその記憶は人理どころか神代以前の出来事なのは確実だろう。そして星が出来たばかりと言っても良いそんな時期に存在した巨大な竜といればアルビオンしかあるまい」
「……アルビオン」
皆で早くからのお風呂を済ませたあと、葉巻と本の香りに包まれた一室で僕は孔明先生に話を聞いてもらっていた。うん、どうやら先生の話は当たりらしい。その名前を聞いた時、ビリビリと身体が反応していた。
「竜種にとっての
「死滅……?」
「ああ、アルビオンが何故地表に長く残っていたかは不明だ。だがそれでも『もうここでの生存は不可能』と判断したんだろう。アルビオンも世界の裏側への移動を開始した。しかしその時には既に裏側へ移動するための孔をあけることができないほどに神秘は衰退しており、転移は不可能となっていたと思われる。そこでアルビオンは神秘に頼らず、物理で穴を開けて世界の裏側へ移動しようとして地中で力尽きている」
死んだのか、奴が……? あれだけ強かった奴がそんな最後を?
「……大丈夫か、少年」
「え? あ……何で?」
孔明先生の指摘で気が付いた。僕はなぜか泣いていた。僕はアルビオンという竜に直接あったことは無い。だけど死滅したと聞いた時ぽっかりと胸に穴が開いたような気がしてなんだか肌寒い。
「へ、変かもしれなないですけど体が勝手に泣いてるみたいで……ごめんなさい、止められないです」
「別に気にする必要はない」
そう言って孔明先生は葉巻を吸う。
「アルビオンが限界まで地表に残り続けたのは友の目覚めを待っていたからだったのか」
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「……」
「今日のレイは甘えん坊さんなのね」
「レイもお母さんの中に帰りたくなった?」
エルメロイ教室を後にした僕は冷静な心と震える身体というちぐはぐな状態に陥ってしまい頭がどうにかなりそうだった。そんな中ふらふらとやって来たのはジャックとナーサリーの部屋。前に話したことのある同室システムを使ってる二人の部屋だ。
そんな部屋の中で僕はベッドにうつ伏せで寝っ転がり、ベッドの上で女の子座りをしているナーサリーの腹に顔を当てて、腰に手を回して抱きしめる。ジャックが背中に寝転がり耳元で話しかけるが答えない。
というか、色々あって答える気力がない。あー、でもいきなりの来室にも関わらず歓迎してくれた二人に何も言わないのは駄目だよな……。
「色々あって少し甘えたい。本当はクロエに頼んだ方が健全なんだろうけど……あの子にはカッコいい僕を見せたいんだ。そう色々考えてたらナーサリーの顔が思い浮かんで……。ごめんね」
「んっ、ふ、ふふ、お腹に息が当たってくすぐったい。っ、ふぁ……! そ、それであたしのところに来たのね。嬉しいわ」
そう言いながらナーサリーは僕の頭に手を置く。
「レイ、横眼だけでも良いからこちらを向いてほしいわ」
「ん?」
ナーサリーに言われた通り首を傾げる要領で顔の半分を上に向けナーサリーと目を合わす。
「……変わらない。レイは本当にあたしを求めてるのね。嬉しいわ、とっても嬉しいわ。」
「ナーサリー?」
「何でもないわ。あたしでよければ存分に甘えて頂戴」
「ありがとう、
知らないはずなのに覚えている竜。覚えているはずなのに沸き上がらない感情。心は知らないと叫んで、体は覚えていると叫ぶ。両方に板挟みにされる意識。あー、頭が痛い。何も考えたくない。いっそ全部
「少し……眠ってもいい?」
「ええ、大丈夫よ。ゆっくり休んで、レイ」
疲れた頭にナーサリーの甘い匂いが心地いい。落ち着いて暫く休めばこの頭痛もどうにかなるはずだ。
「寝ちゃった?」
「えぇ、寝たわ。ジャックもお休みする?」
「んーとね、このままレイの顔見てる。……なんか可愛いかも?」
心地の良い微睡に身を任せ、夢の中を漂う。頭痛は消えて思考が澄んでいる。透明だ、気分が良い。お陰で考えがスイスイと進み、僕がどうしたいのかがまとまっていく。
僕は会いたいんだ、アルビオンに。この体に残った願いを叶えてやりたい。かつて魂に残った少年の願いを叶えて魔力回路を1680万色に発光させた時のように。僕というビーストを完成させるための礎になってくれた存在の願いを叶えてやりたい。
お墓でも亡骸の一部でも良い、アルビオンに会って謝るんだ。それが今の僕に出来ること! そのためにもまずはちゃんと人理を修復しないと。特異点の攻略頑張るぞ!
「ジャック、ナーサリー、次の特異点が見つかったそうなのでサーヴァントは全員戦闘待機にィィィィイイ!?!?」
眼が覚めた。
「ルサリィ、声が大きいわ。レイが起きちゃったじゃない」
「ルサリィうるさーい」
「え、わ、私が悪いんですか!? え? でも、あ、あれェ?」
どうやら二人に用があって部屋にやって来たルサリィ先輩が僕たちの姿を見て驚き、大声を上げたらしい。
「大丈夫、もう起きるとこだったし。ルサリィ先輩、おはようございます」
「お、おはようございます。お昼寝してたんですか?」
「はい、そんなところです……」
上半身を起こしてベッドの淵に座る。背中にジャックが張り付いたままだけど別にいっか。
「レイ、調子はもう大丈夫かしら?」
すると隣にナーサリーが移動してきてそう聞いてくる。その問いを聞いたルサリィ先輩は目を丸くする。
「調子って、やっぱりあの戦闘でどこか怪我したんですか!? 直ぐにサンソンさんの所に行きましょう!」
「あ、大丈夫ですよルサリィ先輩。ケガではないです。ただちょっと悩み事……みたいなものがあって」
「悩みですか……」
僕の言葉に考え込むルサリィ先輩。少し考え込んだ後ルサリィ先輩は近づいてきて正面から僕にハグしてきた。ん? ハグしてきたァ!?
「る、ルサリィ先輩?」
「ナーサリーに甘えたのは良いです。でもその感じだと一人で解決したみたいですね。それも良いですが今度からは悩んでること迷ってることがあったら相談してください。レイ、私は『ジャンヌ・ダルク』ですよ。救国の聖女です! 後輩の悩みも救っちゃいます!」
ハグを緩めて互いのおでこをくっつけて顔を合わせる。……あの頭部の謎の飾りが少し当たってるのは空気を読んで黙っておこう。
「貴方は私の大切なひ―――ひっ、1人目の後輩! えぇ、一番弟子ですから!? 先輩として大切にしてますからね! 今度からは先輩にもちゃんと相談すること!」
きゅ、急に至近距離で大声ェ……。
「は、はい……」
「勿論、あたしにしても良いのよ?」
そう言ってナーサリーも横から抱き着いてくる。
「私もギュー!」
ジャックも後ろ姿に引っ付いていた状態から腕を前に伸ばしてきて抱き着いてくる。うん、すっごく暖かい。相談、相談か……。なんかカルデアに来たばかりの頃、イリヤから僕が一人であの世界に残った後の話を色々聞いたけどその時にも言われた気がする。
「ルサリィ先輩、ナーサリー、早速一つ質問良いですか?」
「はい」
「勿論よ」
「戦闘待機ってなんですか? 僕が来てからの特異点でよく分からないんですけど……」
「「……はぁ」」
た、溜息!?
「レイ」
「ジャ、ジャック?」
「今のはレイが悪いと思う」
「ジャック!?」
す、すんごい冷たい声でジャックに指摘された!?
「……はぁ、仕方がないですね。先輩の私がしっかり教えて上げます! まず、今の段階は『特異点の座標』が確定した状態です。あとは現地のデータを現時点で観測出来るだけ観測します。この段階からいつレイシフトが始まっても良いように訓練やら宴会騒ぎは中止、自室や管制室での待機がサーヴァントにお願いされます」
あぁ、そう言えば朝から酒盛りしてる人とかもいるしな、サーヴァントには。というか『お願い』か。まぁサーヴァントに命令の強制なんて令呪もないスタッフには無理か。
「そして『レイシフト準備完了』と管制室から連絡があればブリーフィングが始まってそれが終わり次第マスターたちはレイシフトを開始するんです」
「なるほど」
「ただここからが大変なの」
あ、今度はナーサリーが説明を始めた。
「最初、レイシフトできるのはマスターとマシュだけなのよ。あとのサーヴァントはマスターがその特異点の経脈のターミナル、レイポイントに辿り着かないと特異点にいけないの。それまではマスターとマシュ、あとは現地の人や協力的なサーヴァントに頑張ってもらうしかないの」
現地に到着したばかりの時が一番危ないのに戦力も一番少ないのか……。心配だなぁ、せめてクロエも一緒に行けて呼んでくれれば単独顕現できるのに……。 ん?
「あ、行けるかこれ?」
「レイ?」
「何か思いついたの?」
上手く行けば一番危険な到着直後がどうにか出来るかもしれない。
「うん。もしかしたら最初から特異点に同行できるかも」
「ホント!?」
「ダ・ヴィンチちゃんの所に行かないと!」
この作戦には彼女の協力が絶対必要だ。いつブリーフィングが始まるか分からないし善は急げだ。
「そしたらみんなでダ・ヴィンチちゃんの所に行きましょう!」
全員ベッドから降りて廊下を走ってダ・ヴィンチちゃんの工房に向かった。僕にとって初めての特異点攻略だ、気合入れていくぞー!
・グレート・ビッグベン・ロンドンスター先生
霊墓アルビオンのことを話したら危うい気配を察知してあくまで竜種のアルビオンについてのみ語った。ライバルの死骸が採掘されてますなんて言えたもんじゃないからね。
・ジャック→レイ
最近できた自分と同じような存在で友達。お母さん(マスター)も偶について行けない解体にも笑顔で付き合ってくれる。一緒に遊んでくれてとっても嬉しい。なんだかレイといると胸がポカポカする。
・ナーサリー→レイ
実は初対面以降も時々レイに対して変化スキルを使っているが自分の姿は変わらない。今回もレイが甘えてきたとき本当はクロエを求めているんじゃないかと目を合わせてスキルを使ったが姿は変わらなかった。レイは心の底から自分を求めていた。クロエにも見せれない弱った姿を見せてくれた。情緒がグチャグチャになってきた。
・ルサリィ→レイ
初めての後輩。自分と同じぐらいの子供で、自分を綺麗と言ってくれた男の子。自分より強いけれどどこかズレていて放って置けない可愛い二代目トナカイ。もう! 私がしっかりしてないレイは本当にダメダメですね! 仕方がありませんから私が先輩として面倒見てあげます。あ、あくまで先輩としてです! ロジカルです、私情なんて挟んでません!
・アタランテとケイローン
頭を抱えた。