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「ではブリーフィングを始める。所員のみんなも聞いてくれ」
ダ・ヴィンチちゃんに話をした次の日の朝。管制室からレイシフトの準備が整ったと連絡があり、カルデアの所員やサーヴァントたちは中央管制室に集まっていた。と言っても流石にサーヴァント全員は入れないためある程度のグループのリーダー格的存在が集まっている。うーん、場違い。しかしダ・ヴィンチちゃんに作ってもらったこれをマスターに渡さなきゃいけないし、ここで待機するしかない。
「北アメリカ大陸。『アメリカ合衆国』と呼ばれる超大国だ」
どうやら今回の特異点はアメリカらしい。……ニューヨークとか行けるのかな。ふふふ、ちょっと不謹慎だけど遠足みたいでワクワクする。
「―――ではレイシフトを開始する。マスター・立香、準備を」
ドクター・ロマンがそう言うとマスターは頷いてコフィンに向かって歩き出す。ってちょっと! まだ渡せてない!
「ああ、立香くん待ちたまえ」
「ダ・ヴィンチちゃん?」
良かった、ダ・ヴィンチちゃんが止めてくれた。立ち止まってる間にマスターの前まで走っていく。
「彼からの提案で今回ある装備を作ってみたのさ」
「装備?」
「あぁ、ビーストクラスのスキルを活かした支援装置だ。さ、レイ君最後の仕上げは済んでるね?」
「勿論です。さ、マスター、これを持って行ってください」
そう言って僕はダ・ヴィンチちゃんが製作しクロエにも協力してもらった装備をマスターに渡す。それを受け取ったマスターは手の平のソレを注意深く観察する。マスターの隣で待機していたマシュさんもそれを覗き込む。
「……これ、防犯ブザー?」
「えぇ、ですけど紐を引っ張ったら流れるのはブザー音じゃないですよ」
ダ・ヴィンチちゃんといっしょにその装置の使い方や上手く動作した時のことを説明していく。みんなの反応は半信半疑って感じだったけど、上手く行けば特異点攻略を大分簡単に出来ると思うんだよね。
そして全ての説明が終わった後マスターとマシュさんはコフィンの中に入りレイシフトしていった。さて、上手く行ってくれると良いんだけど……。
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立香とマシュがレイシフトしたのは第四特異点で見たバベッジの様な見た目をした機械兵とレトロチックな兵士たちが戦闘している荒野のど真ん中だった。
「なっ!?」
「マスター伏せて!」
至近距離を矢や銃弾が飛び交う。マシュは即座に意識を戦闘用のそれに切り替えて立香を直ぐに地面に伏せさせて自身の身体と盾を使い立香に降りかかる火の粉を防ぐ。
「こ、こんな戦闘のど真ん中にレイシフトとかついてないにも程があるでしょ! もうどうなってるのドクター!」
『いや、これは本当にすまない! どうしていつもいつもレイシフトの座標が安定しないんだ!』
「ドクターには後で一発ぶちかますとしてまずはこの場を離脱しましょうマス―――先輩待って!」
「え――」
次の瞬間、二人の近くに砲弾が落ちた。爆風で吹き飛ばされる立香。
「ドクター! 先輩が! キリモミ回転しました!」
『はい!? ええとマシュ。君は何を言って――』
「ですからキリモミ回転です! ジャンプと同時にクルクル回って! 先輩! しっかりしてください! 先輩、せんぱい!」
手足から血を流しぐったりとして動かない立香を起こそうと懸命に声をかけるマシュ。そんな二人のもとに戦闘をしている両軍が近づいてくる。
『不味いな……立香君の怪我も深刻だが、この状況……あ! マシュ、立香くんのポケットからあのブザーを出すんだ。成功するかどうか分からないけど今はそれしか望みがない!』
「ぶ、ブザー! えっと……どこに……」
ドクターの言葉にマシュは立香のポケットの中を探りレイが出発前に渡してきたブザーを探す。
「あ、あった! お願いします、レイさん!」
『レイー! ここよー!』
接敵まであとわずかと言う所でマシュはブザーを見つけ思いっきり引っ張る。するとブザーから流れたのは大声でレイを呼ぶクロエの声。突然流れ始めた人間の大声は両軍の注目を集め立香とマシュに襲いかかって来る。
もうダメかとマシュは思い、せめて立香だけでも助けようと自分の盾と自身の身体で意識のない立香を守ろうとした。
「……あれ?」
しかしいつまでたっても攻撃が訪れずマシュがゆっくりと顔を上げる。
「うーん、実験成功で喜びたいけどそんな余裕はない感じだね」
スキル『単独顕現(クロエ)』を使いブザーに録音されたクロエの声をたどって特異点に単独顕現し、立香とマシュに襲い掛かった全てを一刀で切り伏せた
「レイさん!」
「取り合えず周りの奴等、全員吹き飛ばす。マシュさんはその間マスターに応急手当お願いします」
そう言ってレイは擬獣化形態へと姿を変えて襲い掛かって来る機械兵、レトロ兵、砲弾、銃弾、矢、槍などの悉くを叩き落としていく。
「こ、後退だ! 後退するぞ! 負傷した奴等を背負ってやれ!」
「GRRRUUUUU……」
「両方とも下がってくね。取り合えず戦闘終了……出だしから最悪だな、これ」
後退していく両陣営を眺めながらレイはそう呟き、マスターとマシュの方へ駆け寄る。マスターを見ればマシュの懸命な応急処置で血は止まっていた。しかし意識は戻っておらず怪我も激しい。一刻も早くどこか落ち着ける場所で治療魔術をかけたいところだ。
「怪我人ですね!」
どうしたものかとレイが考えているとそこに赤い軍服を着た女性が現れたのだった。
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「アメリカの存在自体が危ぶまれる、か……」
いきなり現れた女性にマスターを連れてかれちゃったから仕方がなくついてきたアメリカ合衆国軍の後方拠点。マスターの方にはマシュさんが治癒のスクロール持って行ったし大丈夫だろう。その間、僕は出来るだけ色々な人たちに話を聞いて回りその内容を木箱に座りながら整理する。
あのロボットの兵隊を使っていたのは『アメリカ合衆国軍』と呼ばれる人たち。突如として現れた《ケルト軍》に蹂躙されたアメリカ大陸を奪還するために戦っているらしい。
「ケルト……」
カルデアにいるキャスター、ランサーのクー・フーリンさんがケルト神話の人だったはず。けどこの時代に、しかもアメリカにケルト人っていなかったと思う。となれば、今回の特異点はケルト側と敵対することになるんだろうか。
―――いいですね? そこを一歩でも踏み込めば撃ちますから―――
―――ドォンッ!―――
―――ふ、踏み込んでいませんが!?―――
……銃声が聞こえたんだけどマスターは大丈夫だろうか? というか周りの兵士さんたちが全然気にしてない。よ、よくある事なのだろうか?
「おう、坊主驚いただろう?」
「え? あ、はい」
傍を歩いていた青い帽子のアメリカ兵のおじさんに声をかけられた。
「ナイチンゲールさんはおっかないが自分から怪我人を増やしたり死者を出す人じゃねぇよ。お前の姉ちゃんもきっと助けてくれる」
そう言いながらおじさんは隣の木箱に座る。というかナイチンゲールって……あのナイチンゲール? え、学校の図書室に会った偉人についての漫画と全然違うんだけど。あとお姉ちゃん? あ。
「あの人はお姉ちゃんじゃないですよ。ただの知り合い……友人の上司? みたいなものです」
クロエ、イリヤ、美遊のマスターだし間違ってはないはず。……この言い方的には僕の上司でもあるんだけどね。 まぁそこらへんを話すと混乱のもとだし黙ってていいだろう。
「あん? そうなのか。あの嬢ちゃんと坊主の髪色が似てるからてっきり姉弟かと思っちまった!」
いや、マスターはオレンジで僕は赤でしょうが……。
「ま、そんなことよりよく生きてたな! 今まで避難生活で大変だったろう。よく頑張ったな、ほらご褒美だ」
「あ、ありがとうございます」
どうやら僕たちはケルトから逃げてきた避難民だと思われてるみたいだ。おじさんはガシガシと僕の頭を撫でた後何かを渡してくる。これは……チョコレート?
「ここは暇だろう。おじさんはこれから哨戒だが、それが終わったら遊んでやろう! それ食って良い子にしてろよ!」
そう言っておじさんは青い帽子を被り直しながら立ち上がり、歩き去っていった。……。
「甘ッ……」
アメリカのチョコレートはびっくりするぐらい甘かった。あまりの甘さに僕が苦戦していると突如拠点内が騒がしくなり始める。
「敵襲! 敵襲だ!」
成程騒がしくなるわけだ。
「……えぇいッ!」
ッぷ……。木箱から飛び降りて手に持っていたチョコレートを一気に飲み込んだけど、っぱ甘すぎるってこれ!?こ、この年で胃もたれしそう。
「レイ! 助けに来てくれてありがとう! それからキャンプの人たちを守るよ、力を貸して!」
「レイさんそれからこちらは一緒に戦ってくださるフローレンス・ナイチンゲールさんです!」
勢いよくマスターとマシュさんがテントの中から出てくる。良かった怪我はもう大丈夫みたい。
「気にしないでマスター無事で何より。戦闘も任せて。レイです、よろしくお願いしますナイチンゲールさん」
「えぇ、よろしく」
拠点内を走りながら簡単な自己紹介をして戦場へと向かう。既に戦闘は始まっており少なくはない死者、負傷者が出ている。
「みんなお願い!」
「では治療の時間です。速やかに患部を切除します」
「切れば良いんだね。任せて!」
「行きましょうマスター」
マスターの指示に従い一気に駆けだしてまるで猛獣の様なケルト人たちをなぎ倒していった。
どれほどのケルト人を倒しか分からない。けど向こうはサーヴァントを相手にするのが苦手なようで戦線は一旦膠着状態になった。
「テントに敵が届くことは無さそうですが……む、むむ。」
『敵性サーヴァントの反応だ! 二騎くるぞ!』
ひと段落したと思ったら今度はサーヴァントか! 身構えると二人のサーヴァントが姿を現す。
「王よ、見つけました。どうやらサーヴァントの様です。戦線が停滞するのも無理はない。ここは我らが相手をするほかないかと」
「流石は我が配下ディルムッド・オディナ。君の眼は例えるならハヤブサのようだ!」
緑のピチピチタイツ上裸男と、鎧姿の金髪ロン毛だ。どうやら上裸の方はディルムッドと言うらしい。ただ名前よりも気になることが一つ。ディルムッドと呼ばれた恐らくランサーの手に血で汚れているが見覚えのある《青い帽子》があることだ。
「我らフィオナ騎士団の力、存分に見せつけよう。そして、この豊穣たる大地に、永遠の帝国を!」
「御意! ではお覚悟を。我はフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナ」
うん、ケルト側は敵、これは決定事項だ。
「ディルムッド……輝く貌のディルムッドですね。そしてその置くにいるのが彼の主、フィン・マックールですね」
マシュさんから補足が入るが割とどうでも良い。
「マスター、ディルムッドは僕一人で相手するから残りの面子でフィンの方をお願い」
「レイ?」
「うん、ゴメンマスター。ちょっとディルムッドに対して個人的な用が出来ただけだから」
「……分かった。負けないで!」
そう言ってマスターはマシュとナイチンゲールの方に指示を出し始める。
「レイ。沖繁レイ」
名乗りながら剣を構える。それに合わせてディルムッドも帽子を捨てて二本の槍を構える。
「ディルムッド・オディナ」
「「勝負!」」
・どこでもレイくん。
レイとダ・ヴィンチちゃんが作った装備。見た目は防犯ブザーそのもの。ただし流れる音声はクロエの声であり、その声をたよりにレイは時代、場所問わず単独顕現出来るという代物。
・青い帽子のアメリカ兵
レイを避難民だと思いチョコレートを上げた兵士。10歳の息子がいたが既にケルト人によって殺害されている。
・ディルムッド
哨戒任務中であろうアメリカ兵を強襲、ケルト兵達の奇襲に貢献した。ビーストに目を着けられた。
・何気に判明したレイ君の髪色。
デストロイアの擬人化ですからもちろん髪色は赤です。……まぁ、細かい容姿設定は別にいらないかなとも思ってるんですけどね。