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まもなく深夜零時と言ったところかな。思えばカード回収も俺にとってはここで凛先輩とルヴィアさんの喧嘩を眺めてたことが始まり何だよなぁ。
「油断しないようにねイリヤ。敵はもちろんだけど……ルヴィアたちがドサクサ紛れで何してくるかわからないわ。レイ、ちゃんとイリヤのサポートお願いね」
《お二人の喧嘩に巻き込まないでほしいものですねー》
「どちらがカードを回収しても良いでしょうに……。まあ、俺は凛先輩の後輩なんでいうことは聞きますよ」
剣を手に構成して戦闘準備を整える。真正面にはルヴィアさんと美遊。凛先輩の言葉を借りるなら出来ではないけど味方でもない。……もーちょっと仲良く出来ないですかね? 無理? そうですか。
「速攻ですわ。開始と同時に距離を詰め、一撃で仕留めなさい」
「はい」
「あと可能ならドサクサ紛れで遠坂凛も葬ってあげなさい。レイ、こちらに着くなら謝礼も弾みましてよ?」
「……それはちょっと」
「すみません、ルヴィアさん。凛先輩には恩があるので」
《殺人の指示はご遠慮ください》
ほんとお淑やかに見えてルヴィアさんって結構過激だよなぁ。あーあー、最初の頃のイメージがもう滅茶苦茶だよ。まあ、いつも完璧なお嬢様って感じだと対応に困ったからある意味凛先輩と同タイプって分かってからは対応も楽だけど。
「そろそろ時間ね。いくわよ!」
《限定次元反射炉形成!鏡界回廊一部反転!》
凛先輩の言葉の後に二本のステッキが鏡面界へ飛ぶための動作を開始する。
「「
そして魔法少女たちがそう唱えるのと同時に世界は再び反転してぐるりと回る。あぁっ、また酔いそう。ほんとこの瞬間キライ。
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視界を覆う闇が晴れて再び気味の悪い世界へとやって来た。以前の痴女を相手した時と同じ波打つ光に閉ざされた鏡面界。そらを見上げれば大きな魔法陣が幾つも……お? 魔法陣の中心辺りに黒いローブを身に付けたいかにも魔術師って感じの女性がいる。アレが今回の敵ってことね。
「何アレ……? すごい数」
「ねぇルビーこれって……」
同じように空を見上げたんだろうイリヤの呟きが聞こえる。そして何かに気が付いたように若干震えている凛先輩の声。魔法陣が光りはじめる。
《そのようですね。どうやら向こうは、戦闘準備万端だったようです》
「くっそ!」
咄嗟にイリヤ達の前に出る。光が一層強くなった瞬間降り注ぐ幾つもの魔力弾。
「全身再構成、擬獣化!」
なんちゃって擬人化よりももう一段階怪獣寄りの変身をする。擬人化形態は尻尾や二枚の翼、角が生える態度だが擬獣化はそれらに加えて四肢がデストロイアの甲殻に包まれ、翼は四枚に口角に牙が跳び出し、胸に特徴的な円形の牙の集合部分が出来る。翼を限界まで広げてイリヤと凛先輩、美遊にルヴィアさんを守る。手にもつ剣はヴァリアブル・スライサーを全力稼働させ出来る限りの魔力弾を撃ち落とす。
「ルビー、サファイア! ごめん、全然持たない!」
《魔力障壁の展開規模、強度共に最大、全ての魔力を障壁に回します! 凛さん、離れないで下さい! 死にますよ!》
《ルヴィア様も離れないで下さい!》
後ろはどうにか防壁を張れたみたいだけどこれ、攻撃が激しすぎて再生追いつかな、あっやば――――
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「レイ!?」
「ッ!」
「そんなッ!」
「不味いわね……っ」
レイ以外の面々は障壁越しの光景に目を見開く。遂に防御が間に合わなくなったレイの頭部が黒化英霊の攻撃によって吹き飛ばされたからだ。頭部を失い力なく倒れる最中の身体にも慈悲なく攻撃は続けられ、自分たちを守るために広げられた翼にはボコボコと穴が開き、右腕を吹き飛ばされ、胴体に穴が開き、膝から下が吹き飛ばされる。そして物言わぬ肉塊が地面に転がる頃になってやっと攻撃は収まった。
すぐに障壁を解除してレイだったものに駆け寄るイリヤ。
「れ、レイ?」
自身の魔術障壁が突破されていくらかダメージを受けているにも関わらずクラスメイトの元へ駆け寄る。先ほどまで一緒に笑っていた級友が無残な姿にされたことがよほどショックだったのかイリヤは混乱してただレイの肩を揺すりながら声をかけ続ける。
「……っ、美遊!
「はい! 最大出力!
ルヴィアはそんなイリヤの姿と無残な姿となったレイを見て唇を噛み締める。彼女にとってレイはあまり関係を築けてはいないが、礼儀もなっており、一度助けられた恩もある。遠坂凛の弟子という点を除けばそれなりに気に入っていた人間だった。そんな人間を傷つけられて黙っていられるほど冷酷な人間でない彼女は直ぐに美遊に指示を飛ばす。
美遊もすぐにルヴィアの意図をくみ取り全力でサファイアに魔力を集中させ渾身の一撃を繰り出した。
―――ドバァァッッン!―――
「……っ!?」
美遊の放った渾身の一撃は英霊に当たる前に何かによって弾かれる。
「なっ……弾いた!?」
「あれは……魔力指向制御平面!? まさかこれ程の規模で……!」
凛とルヴィアが直ぐにその何かの正体に気が付いて驚愕する。
「あー、ほんときらいよあんなかおがいいだけのおとこなんて。まったくしんじられない!」
英霊の口が素早く動いて何かを唱えると暴風がイリヤ達を包む。
「閉じ込められた!」
《イリヤさん、イリヤさん! ショックなのは分かりますがしっかりしてください! 上、上見てください!》
「上……?」
ルビーの声に従って上を見上げれば先ほどよりも大きく禍々し色合いの魔法陣が展開されていた。
「なによ、アレ……」
「撤退ですわ! 撤退ー!」
味方の一人が死亡し、そのショックで魔法少女の片方は軽く放心状態、こちらの攻撃は一切通用しないという状況ルヴィアと凛は直ぐに撤退を決める。
《反射路形成! 鏡界回廊一部反転!》
魔法陣からレイを貫いた時とは桁違いの威力の攻撃が放たれる直前。どうにか転移が間に合い、通常界へと逃げかえることが出来た。しかしそこに生還の喜びを祝う空気はなく重苦しい空気が流れていた。ただし、凛を除いて。
「何だったのよ、あの敵は……」
「凛さん……レイが……」
敵について考察を始める凛に弱々しい声でイリヤが話しかける。イリヤは今だレイの身体に手を置いて揺り起こそうとしていて、眼のハイライトがない。そんなイリヤとレイの様子を苦しそうに何故か自分を責めるように見つめる美遊。一方で凛は何事かとイリヤの方を見て納得する。
「どうしたのイリヤって……あぁ、レイなら心配しなくて大丈夫よ」
「遠坂凛!」
あっけらかんと言う凛にイリヤと美遊が驚愕の表情を浮かべる。それだけ言って再び英霊の攻略を考え出す凛にルヴィアが大声を上げる。
「確かに魔術師は非道でなければやっていられないこともありますわ! けれど、けれども! 貴女はレイのことを気に入っていたはずです! レイは貴女を守って死んだのですよ! ならせめて……感謝の言葉の一つだけでもかけて上げなさいな……。野蛮人だと散々罵って来ましたが、それ以前に最低限の人の道すら外れましたの、遠坂凛!」
「いや、なんであんたがそこまで怒って……。あぁ、そう言えばルヴィアと美遊は知らないか。というかイリヤもなんで忘れてるのよ」
大声で怒鳴られた凛は最初キョトンとしていたが少ししてどうしてそこまでルヴィアが怒っているのかに気が付いたらしく納得の表情になる。そしてツカツカとレイに近寄る。
「あんたもアンタで何時まで寝てんのよ!」
そう言いながら凛はイリヤをレイの身体から遠ざけた後、魔術でレイの身体に火をつける。
「え!?」
「遠坂凛、貴女何を!?」
再び驚愕する美遊とルヴィア。しかしレイの身体が火に包まれると火の中心でレイの身体のシルエットがグニグニと動いてやがて欠損の無い人の形へと変わる。すると火が消し飛び無傷のレイが姿を現した。
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「沖繫レイふっかーつ!」
よし、どこも体に異常なし。完全復活だね。当たりを見渡せば驚愕した表情の美遊とルヴィアさん。茫然としたイリヤにあきれ顔の凛先輩。
「……いやー、負けちゃいましたね」
「『負けちゃいましたね』じゃないわよ、アンタがさっさと復活しないせいで私が要らぬ誤解を受けたわよ!」
「復活したところで勝ち目なかったし別に良かったじゃないですか」
勿論能力を使って飛び散った脳漿やら血液やらで状況を把握していたんですけど、あの弾幕の間を縫って飛び、切りかかるのは今の俺にはどうやっても出来ない訳で。かといって馬鹿正直に突っ込んでいっても弾幕に削り落とされるし、どう見ても積みだったよね、今回。
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! レイ、レイですわよね!」
「はい、沖繫レイですよ?」
「あなた、無事なんですの?」
ルヴィアさんがこちらに寄ってきて両手で俺の頬を包み込むながら確認してくる。
「はい。全くの無傷です。美遊とルヴィアさんには説明してありませんでしたが、自分ほぼほぼ不死身で熱か魔力で再生できるんですよ」
「不死身……再生……。色々聞きたいことはありますが……。無事で良かった……」
そういって俺を抱きしめてくれるルヴィアさん。あー、やっぱり何も知らない人から見たらびっくりだよなぁ。後ろの方で美遊も驚いた表情してるし。
「凛先輩は昔から知ってますし、イリヤには前回の戦いの時に説明したんですけどねぇ……」
「あ、あれ本当なんだ」
イリヤもレイが復活したことである程度持ち直してきたのかよろよろとだが立ち上がる。
「何だ、信じてなかったの?」
「普通信じられないからね!?」
しばらくすれば全員が落ち着きを取り戻した。そして俺の無事が分かれば話の流れは英霊対策に移行するわけで……。基本的に無敵の性能を誇るカレイドステッキだが、今回の相手はすこぶる相性が悪い。相手の攻撃は神代の魔術というなんか、その、ともかく凄い魔術であり現行の魔術障壁では相殺しきれないそうだ。それに加えて魔力指向制御平面というこれまた高度な魔術を使っているらしく、こちらの攻撃は通さないが向こうの攻撃はバンバン通ってしまうらしい。……チートか?
《攻撃も反射平面も座標固定型のようですので魔法陣の上まで飛んでいければ戦えると思います》
サファイアがそう結論付けた。
「……と言っても練習もなしにいきなり飛ぶなんて……」
「あ、そっか。飛んじゃえばよかったんだね」
「いや、まあ、飛ぶ程度なら問題はないけど……」
「……」
俺が翼を広げてバッサバッサと飛び、イリヤがフワフワと浮遊し始める。……おー、流石魔法少女。……ん? 何故だか知らないが凛先輩が驚愕の視線をイリヤに向けてる?
「ちょっと! なんで行き成り飛べるのよ! あと、そう言えばレイは飛べたわね!」
《凄いですよイリヤさん! 高度な飛行をこんなにサラっと!》
「そ、そんなに凄いことなのこれ?」
凛先輩とルビーの驚きように混乱するイリヤ。
「私やルヴィアだって丸一日訓練してようやく飛べるようになったのよ!?」
「強固で具体的なイメージが無いと浮くことすら難しいというのに、一体どうして……」
あー、そっか。俺もなんとなくで飛べてる側だから深く考えなかったけど確かにそういうもんか……。凛先輩とルヴィアさんはアニメとか見ないだろうしなぁ。
「どうしてって……魔法少女って飛ぶものでしょう?」
アニメの力は偉大! そういうことにしておこう。俺もデストロイアって空飛ぶもんだろう? としか答えられないし。
「くっ、負けてられませんわよ美遊! あなたも今すぐ飛んで見せなさい! 美遊!」
凛先輩の所のイリヤが飛んだことでルヴィアさんにも火が付いたらしい。美遊に飛ぶように指示を出すが、一方のミユはかなり思い詰めた表情をしている。んー、昼間の美遊の様子を見るに頭は良いけど硬いタイプだろうし無理じゃないか……?
「人は……飛べません」
ほら、やっぱり。
「そんな考えだから飛べないのですわ! 来なさい! 明日までに飛べるように特訓ですわ!」
「あぅ……」
「覚えてなさい遠坂凛!」
そう捨て台詞を残してルヴィアさんが美遊を引きずって帰っていった。
「とりあえず今日はお開きね。明日は丁度学校休みだし私も色々戦略練ってみるわ」
「また明日かぁ。勝てるかなぁ」
「勝つのよ! 何としても!」
イリヤの弱気な発言に凛先輩が活を入れてその日は解散になった。