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ワシントンにある大通りを見下ろせる空き家の一室。僕たちはワシントンでの拠点としてそこを選んでいた。
「……どうだ?」
ジェロニモさんが虚空に向かって話しかける。すると真正面の空間が歪んでスルリとロビンさんが現れる。
「偵察終わったぜ。ったく『顔のない王』酷使し過ぎだっつーの」
「ロビンさんの宝具便利だから……」
『顔のない王』、装備者を隠蔽する能力があって、透明化・消音・気配遮断等により高いステルス性を持っている。……なんか王様の『身隠しの布』を思い出すなぁ。……というか王様の蔵には全部の宝具の原典があるって言うし無関係じゃないかも!
「仕方あるまい。余が斥候など出掛けては一騒動だ」
「そりゃまぁ、そうですけどね!」
ネロさん、目立つから……。あ―――。
「お帰りジャック」
「ただいま、レイ」
ロビンさんの後ろから気配遮断を解除したジャックが現れた。ポテポテとスキップの様な足取りで近づいてきたジャックとハグをする。……なんかこの娘これが癖になってないかなぁ? 召喚されてから定期的に求められるんだよね……。別にいいけど。
「「「……」」」
くッ、べ、べつに良いとは言ったけど。こんな生暖かく周りに見つめられるのは恥ずかしいんだけど!?
「そ、それでジャック、なにかあった?」
「んとね、なんかお祭りをやるみたいだよ!」
「お祭り?」
場の空気を切り替えたくてジャックに偵察の結果を聞くと気になる言葉が返って来た。お祭り?
「あぁ、それな。どうも連中、この大通りで大規模なパレードを開くつもりらしい」
「パレード? 何だよ、それ」
「そこまでは分からねぇな。ただ、ケルトの連中がパレードの準備を行っていたのは確かだ」
ロビンさんも確認してるってことは間違いないな。パレードか……なんだろう僕たちが知らない間にアメリカのでっかい都市でも落としたのかな?
「パレードだとぉ……何とけしからん! いやさ、羨ましい!」
「なによ、私に呼び出しかかってないんだけど!?」
「逆だし、ケルトのパレードにどうしてあんたが呼ばれるんだよ!」
パレードと聞いたネロさんとエリザベートさんが悔しそうな表情でして声を上げる。その両方に突っ込みを入れていたロビンさんの表情はかなり疲れていた。……ツッコミキャラ少ないもんね。大変だろうな、ロビンさん。
「あちゃー。なんと残念な男よ……。貴様、パレードを開いたことが無かったのか?」
アーチャーだけに?
「やるわきゃねーだろ。こちとら一般人ですよ」
「いいぞ、パレードは……。余の名を歓呼する民、整然と一糸乱れず行進する兵士たち。余が手を一振りするだけで、素敵! 最高! 万歳! ネロ様抱いて! の雨あられ。うむ、余もパレードをしたくなってきたなっ!」
「勿論先頭に立ってパレードを盛り上げるのは最高のアイドルな訳よ! アナタ、そんなことも知らない訳?」
「だから俺が知る訳ないでしょって」
二人の猛ツッコミなのかボケなのか分からない言葉にロビンさんは律儀に答えてる。
「……そうか。誰であれ心が浮き立つか。では、パレードの時を狙おう」
やっぱそうなるよね。パレードともなれば喧騒に紛れて接近することもたやすいはず。
「狙うって、誰を?」
「パレードで一番高台にいるサーヴァントだ。……サーヴァントではないかもしれないが」
「ビリーよ。パレードというものはな、権力の頂点に立つ人間が一番目立ってなくてはならぬ。そういうイベントなのだ。それ故に暗殺には絶好の機会でもある」
「ふぅん。目立ちたがりも大変だ」
「ロビン、ジャック。サーヴァントたちは潜伏しているか?」
「知覚できたサーヴァントは二騎。それ以外は、少なくとも俺が探知できる範囲ではいなかった」
「私たちも同じ、とても強そうなサーヴァントの気配が二つ」
ジェロニモさんの言葉にロビンさんとジャックが答える。となるとその二騎のどちらかが親玉の可能性は高い。
「二騎の周囲は、ケルトの戦士たちが固めている」
「あとね、あとね、サーヴァントみたいな気配が一つあったよ。サーヴァントみたいなんだけどなんか気配がボヤボヤしててね。本当にサーヴァントなのか、ただ強い戦士だったり別の魔物だったりするのかは確かめられなかった」
おや? また気になる情報が。
「他のサーヴァントは不在か。そして正体不明の気配……」
ジェロニモさんはそう呟いて考え込む。
「だけどロビンの探知範囲から出ていたら分からないよね。待ち伏せという可能性もなくない?」
ビリーさんが指摘した可能性は否定できない。
「俺はアーチャーなんで、サーヴァントの探知範囲は結構広いぜ? ただ、その索敵範囲から一瞬で接近できるのもサーヴァントっちゃあサーヴァント何だがね」
「ロビンさんが範囲に優れているならジャックは精度に優れています。そのジャックに正体を掴ませないとなると同じアサシンかロビンさんみたいに正体を偽装する宝具を持っているサーヴァントの可能性もあります」
「―――どうする、ジェロニモ?」
ビリーさんがジェロニモさんに決を求める。そしてジェロニモさんは深く考えた後顔を上げた。
「やるしかないだろうな。千載一遇の機会であることは間違いない。我々はワシントンまで、まったく戦わずに来た。一方マシュやマスターたちは西部で派手に動いた。そのことについて、彼らが知らないわけでは無いはずだ。
仮に謎の気配がサーヴァントだとしても相手は三騎。
「うむ。では、どう動く?」
ネロさんは腕を組みながらジェロニモさんに策を求めた。……なんかネロさんとジャックの声って似てるかも。……こんど一人称『余』って言って貰おうかな。
「ネロ、君の宝具はどのようなものだ?」
「うん? 余の宝具か? 余の宝具は―――」
え、そんな宝具もあるんだ。……世界って広いなー。
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「―――では手筈通り」
「オレの『顔のない王』で姿を消して接近する。……無貌の王、参る……!」
パレードが始まってジェロニモさんが指示を出し暗殺計画が始まる。目標は勿論ケルトの戦士たちが担ぐ神輿の上に座っている女性のサーヴァント!
「女性でケルトの戦士たちの頂点に立つ―――。なるほど彼女が女王か!」
あれが無限に兵士を生み出している元凶。彼女を仕留めれば無限に増える兵力は消せる。
「みんな~! 今日はメイヴの為に集まってくれてありがとう! この国は永遠王の国! 私とクーちゃんの、私とクーちゃんによる、私とクーちゃんの為だけの国! 24時間奉仕することを光栄に思いなさい。24時間隷属することを歓喜に思いなさい。正義も、名誉も、栄光も、全て私たちの元へ!」
な、なんかどっかで聞いたことのある演説のパロディしながら物凄いこと言ってるなこの女王!
「――ロビン!」
「あいよ、『顔のない王』解除! 行け、セイバー!」
ロビンさんが宝具を解除したとたん、僕たちは女王……確か名前はメイヴだったか? メイヴの目の前に現れる。
「うむ、任せよ!」
「ん?」
「女王メイヴよ! 中々に愛らしい容姿だが、生憎と貴様の天下はこれにて終わりだ! 春の陽差し、花の乱舞! 皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで―――」
そこで僕はジャックの手を握る。
「ジャック、魔力を回す! 宝具の準備を!」
「うん! 思う存分解体するね!」
「開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!」
ネロさんの宝具が展開するとそこには今までのワシントンの街並みは消え失せて、今まで見た事がない正に絢爛豪華という言葉がぴったりな劇場が広がっていた。
「! まさか、固有結界……!? いえ違う、これはなんていうか、凄く迷いのない魔術! でも何て美しさなのかしら! この宝具、欲しいわ!」
宝具が欲しいって……。宝具はそれぞれの逸話が形になった物だろうに。宝具を奪う宝具とかあるのかな? 流石に無いか、あったら無法すぎるし。
「貴様には過ぎたる宝具だが、今宵は大盤振る舞いだ! 覚悟するがよい!」
「コノートの女王メイヴ! 悪いが、その首級を頂戴する!」
「――行くよ!」
「最高の劇場じゃないネロ! 良いわ、サーヴァント界最大のヒットナンバーを、聞かせてあげる!」
「お願い、ジャック!」
「うん、行くよー!」
これだけのサーヴァントがいるんだ、増援が来る前に一気に―――。
「大ピンチ! 大ピンチよ、私! 大ピンチだから―――
「来るが良い、王とやらよ!」
「だけど、その前に女王メイヴ! お前はここで終わりだ!」
ジャックに十分な魔力が回ったのを確認して手を離す。女王、そう
「此よりは地獄。“わたしたち”は炎、雨、力……殺戮をここに……」
「あぁ、そっちは貴方が対処なさい、客将」
「ッッッ!?」
何か猛烈に嫌な予感がする。メイヴは今、誰に指示を出した? 誰が誰を狙っている? すくなくとも王様と彼女が呼んだ存在には命じていない。だってあからさまに声色が違う。つまりここに、既に、僕たちの知覚できていない存在が一人いる! そいつが誰を狙うか? そんなの
「ゴメン、ジャック!」
「きゃァ!? レイ!? どうし――――」
宝具の体勢に入っていたジャックを突き飛ばす。そして今までジャックがいた位置には僕がいる。大技はこれで防いだし、先ほどの狙っていた場所には両腕を突き出して無防備な奴がいる。数を減らすためにもこちらを狙っている誰かは確実に僕の方に狙いを変えるはず。これで何が来てもジャックは大丈夫なはずだ。
「我が圏境に気が付くか。だがこれで仕舞よ。
「――て―――。……レイ?」
あぁジャック、無事でよかった。でも僕の血がかかって汚れちゃった。折角の綺麗な髪と顔なのに……本当にゴメン。気が付いた時には喰らっていたその槍は背中側から入り動体を貫通して胸から先っぽが出ていた。そのせいで突き飛ばして目の前で尻餅をついてるジャックに僕の血がかかってしまった。ったく、これが槍の一撃? どんな威力だよ。
時間で自然復活はするけど、急がないといけないし、一時的に意識を落とそう。その分全速で復活に回ればすぐに復帰できるはず。
ただこの状態で意識落としたらジャックのストレスヤバそうだし落ちる前に一言だけでも……。
「
これで僕が起きるまで頑張ってくれるはず、ヨシ!
・李書文 ケルトの客将へ
味方が増えるんだ。敵も増えないとな。
・レイの最後の台詞
なにもヨシじゃない。偶然にもジャックのある記憶を呼び起こしてしまう最悪の一言だったりする。
・ジャック→レイ
???