上位存在さん「おとーさん♡」ドクター「ふぁっ!?」   作:たこ焼きブラザーズ

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上位存在さんである"無垢"さんのお話。
感想や評価貰えると嬉しいです


*4話目まで投稿した後に、「ん?これ無垢さん、上位存在さんじゃなくて単純に不思議ちゃんなだけじゃん」と思い急遽それっぽいのを付け加えました。


上位存在さん「おとーさん♡」ドクター「ふぁっ!?」

 

 サルゴンの何処か、スラム街の薄暗い路地裏。

 

 そういった場所には、『テラ』に於いて光の当たらないここにしか居場所のない"鼠"たちが潜んでいる。

 彼らにとって、長い髪と小綺麗な服をなびかせ一人歩く女は、どうやっても目に入る無防備な女("f⚪︎ck me"と誘う女)だった。

 

 

「──あの身なりだ、生かして売るより死体にした方が足がつかなくていい。あんな綺麗なツラなら物好きがいくらでも出すだろうぜ」

 

「……武器も隠しておける服と装備じゃねぇな……丁度良い。バラした後は服も剥いで"豪遊"だ」

 

 

 背後から忍び寄る二つの影。一人が鈍く光る鉈を振り下ろした。

 悲鳴を上げる間もなく、肉を断つ嫌な音と共に、華奢な首が地面に転がった。

 

 

「馬鹿やろぉ!! 胸を一突きにすりゃいいものを、首を刎ねやがって! これじゃ値打ちが下がるだろうが!」

 

「だったらテメェでやれよ! 勢いが付いたんだよ! いいからさっさと袋に詰め──」

 

 

 罵り合っていた男たちの言葉が、凍りついた。

 

 

「……急に視界が反転したと思ったら"おとーさん"達ね。もしかして……それが此処の情熱的なデートのお誘いの作法なのかしら?」

 

 

 地面に転がった"頭"が一人でに転がってコチラを向いている。今しがた死んだばかりというのにジョークまで飛ばしてきている。

 断面からは血の一滴も流れていない。ただ、断面の奥には人の組織の代わりに"光"のような何かが脈動している。

 

 

「あ、危ないわよ。そっちは室外機があるわ」

 

 

 頭が指摘する。

 主を失ったはずの「胴体」が、蹌踉めきながら立ち上がる。そしてまるで暗闇で手探りをするように、ふらふらと足元のゴミ箱を蹴飛ばし、室外機に肩をぶつけながら音の方向へ歩いていく。

 首のない体が頬の砂を落としながら己の頭を拾い上げた。

 

 

「やっぱり、頭が無いと平衡感覚が狂ってしまうわね。胴体にも三半規管代わりの臓器を詰め込んでおくべきか『ドクター』に相談しておきましょう」

 

 

 胴体は拾い上げた頭を、平然とした手つきで首の断面へと据え置いた。

 "じり"と微かに焼ける音と不快な癒着音が響く。彼女が首を軽く回すと、継ぎ目は霧が晴れるように消え元の滑らかな白い肌に戻った。

 

 

「ひ、ひいぃ……ッ! バ、バケモノだあああ!」

 

 

 男たちは腰を抜かし、喉を枯らして逃げ去っていった。それを「結局どう云う理由のお誘いだったのか?」と事もなげに首を傾げて眺める女。

 

 

「せっかく新しい"おとーさん"達と話せると思ったら逃げちゃって。

 ……私は別に、気にしてないのに」

 

 

 女──『無垢』はそう呟くと、また何処かを目指して歩き始めた。

 

 

 

 ────────────

 

 

 ロドスアイランドの食堂はいつだって賑やかで騒がしい。ロドスは様々な国、人種があつまる企業であり、特に人が集まる食堂となれば騒がしくなるのは自明の理である。

 

 斯くいう私もその喧騒を奏でる奏者の1人である。半年前にこのロドスアイランドに裏方の事務員として入職した私。巨大な艦であってもそれなりに月日が経てば多少は勝手も分かってきて、このIDカードも板についてきた今日この頃の昼。

 本日のお昼担当はマッターホルンさんで定食はパスタとスープらしい。腕利きの料理人の中でも所謂"あたり"の日だ。定食を持って先輩のいる席に戻ると、既に半分はパスタを食べてしまっていた。

 少しくらい"待て"が出来ないものかと思うがこの人はそういう人だ。私も気にせず食べ始める。

 

 

「いやぁ、やっぱりマッターホルンさんの料理は五臓六腑に染み渡るな。なぁ、新入り。お前もそう思うだろ?」

 

「それは本当に同意します。こうやって皆で食べるとこの定食もより美味しく感じます。

 ……何かロドスって不思議ですよね。こんなに生まれも種族もバラバラなのに、食卓を囲めばみんな普通に笑い合ってる。外の荒野じゃ考えられない光景で今も夢なんじゃないかって」

 

 

 先輩は少し笑ってしまっている。

 何か変な事を言っただろうかと少し頭にくる。

 

 

「『普通』ねぇ……確かに皆仲良くやってる様に見えるが、それはある種の線引きをしているからだ。いいか? ここには良くも悪くも色んなモノが集まる。

 だからどうやったって相入れない奴もいるし見つかる。そういう奴達とは会っても見なかった事にする、もしくはそういう事もあると受け流しているからこその『普通』が成り立っている」

 

 

 そう言うと先輩は向こうの列に視線を投げかける。

 それに釣られて見るとトレイを持って色々な人が並んでいる。

 

 先頭に三徹明けのドクター、Wさん、ペンギン急便のパンの名前の人とテキサスさんだっけ? あとはテンニンカ大将軍に絡んでいる電波っぽい方のスカジさん。

 確かに先輩の言う通り、何人か見なかった事にした方が良い感じの人達が並んでいる。と腹の虫も納得してしまった。

 

 

「言った通りだろ? ああいうのは此処じゃよくあることの一つとして消化した方が身体にいい。だがだからと言って灰汁が無くなるわけじゃない。どっかの宗教トップ、一振りで山を削っていった怪力のバカ、裏社会の人間。

 そういう個性の強い奴らを料理として消化するならば、調味料とシェフが必要になる訳よ。そこで皆"七不思議"としてしまって酒の肴にしてしまうのが丁度いい」

 

「七不思議……ですか?」

 

 

 私はパスタを口に運ぶ手を止めた。

 まだ聞き覚えのない単語が引っかかっている。

 

 

「あん? 半年も居てまだ知らなかったのかお前。まぁ丁度いいな。少し話すか」

 

 

 先輩は声を潜め、周囲を警戒するようにして語り始める。

 

 

「例えば、この艦のトップの一人であるケルシー先生にも何個かあるな。曰く、夜中に1人であの仏頂面でダンスを踊っていたとか。だが、ここ最近のホットな話題は『優しい館長』さんだな」

 

 

 残りのパスタをフォークでクルクルと巻き取りながらなんて事ない様に言う先輩の言葉に思い当たる節がある。

 それとケルシー先生のそれマジですか。

 

 

「館長っていうと、いっつもニコニコしている"無垢"さんですか? 何処かの地方で博物館の館長してたっていう……」

 

 

「そのニコニコしていて優しい館長さんが噂のその人だ。聖母か女神の回し者かってくらいで、何時も『キャンディーは足りてる?』と握らせてくる不思議なオペレーター。

 だがここはロドス、灰汁の強い奴らが平然とトレイを持って並んでる場所だ。

 そんな場所であんな『完璧な善意』が浮世離れしたまま存在してる。それがどういうことか分かるか?」

 

 

 そこまで言われれば鈍いおバカでも分かる。

 つまり『そういう事もある』とした方が都合のいい"個性の強い人"らしい。先輩はより声を低くして続ける

 

 

「ロドス七不思議……いや、七十個はあるな。そのリストの上位に彼女は常に居座ってる。

 曰く、彼女はクルビアの企業が密かに作り上げた量産型アンドロイドの試作品。曰く、ドクターと『出来てる』仲。曰く、艦内のあちこちで同時に同じ顔の女を見たっていう『ご家族』同時乗艦説……」

 

 

 同じ顔が何人も居てたまるかと思ったが、向こうにその実例がいればそうも言えない。

 電波っぽいスカジさんがドクターの奇行(特技の口内カップ麺作り)に驚いているのを見ていれば『冗談は先輩の性格だけにしといて下さい』なんて冗談も出ない。

 

 

「……今失礼な事考えてるって顔しているぞ新入り。まぁ良い。目撃証言は絶えないんだ。だが誰もそれを問題視しない。なぜだと思う?」

 

「それはロドスのトップ……あのケルシー先生やアーミヤ代表が野放しにしてるってことは、つまり『実害がない』か『制御下にある』ってことだ。

 俺たちみたいな脛に傷持つ連中にしてみりゃ、中身が量産型ロボットだろうが、電波だろうがそんなことはどうでもいい。

 仕事に取り組む能力があって危害を加えてこない、ついでにあんな風に彼女が笑いかけてくれて俺たちの心が少しだけ楽になる。

 それで十分なんだよ」

 

 

 カウンターの側にその"無垢"さんがいた。丁度徹夜明けのドクターに差し入れのキャンディを渡しているところだったらしい。

 彼女はふとこちらを向き、悪戯が見つかった子供のような、あるいは全てを見透かした年長者のような──不思議な微笑みを浮かべて会釈した。

 

 

「ほら見ろ。あんな顔されたらもう何でも良くなるだろ?」

 

 

 確かにあんなにニコニコとした人に笑いかけられると大体の事はどうでも良くなる気がする。実際に何だか熱に浮かされた様な気分になるな

 

 

 皆叩けば埃が出る人生、藪蛇を突いて問題を起こすよりも"そういう事"と受け流した方が丸く収まるのだろう。真実を暴くより、遠目に茶化す方が楽しいものな。

 

 私の袖から覗く体表に浮いた黒い石(鉱石病患者の証)を見てそう思う。

知らないふりが重要なんだと

 

 

「……それで気になったんですけど『出来てる』ってこっちのやつですか?」

 

「お前そのズッコンバッコンのジェスチャーは止めろ。何処で覚えてきたんだそんなの……そうだよそれだ。

 ドクターの事を『おとーさん♡』なんて言って抱きついてたことがあるらしいな」

 

「ふぁっ!? ドクターをお父さん!?」

 

 

 まさか企業のトップの1人がそんな特殊プレイを! 

 

 

 そういう思いが私の内心を駆け巡り思わず大きな声を出すと、先輩は「しっ!」と指を口に当てた。

 そうやってまた一つ喧騒が大きくなった食堂にある出口先の通路。

 

 そこに今食堂でニコニコとドクターの近くに居る筈の無垢が、『もう1人』その通路を歩いて行ったことに気がついた人間はこの場に居なかった。

 

 




先輩:元スラム街のガキ系お兄さん。見ないふり、知らないふりが得意なこの大地に溢れた普遍的な不幸経歴の持ち主

私こと後輩くん:鉱石病患者。結構いい性格の持ち主

ケルシー先生: Running In The Dark

鉱石病:不治の病であり、未だに治療薬はない致死率100%の感染性の病。
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