読み切り作品 最弱無敗の神装機竜~紅の英雄伝~ 作:Mk-Ⅳ
かつてこの世界には『アーカディア帝国』と呼ばれた大国が存在していた。
他の国の追随を許さぬ圧倒的国力を持ち、それを背景にした武力をもって周辺国家を飲み込まんと侵略し、やがては世界の全てを手にすることも不可能ではないとされた国である。
帝国を治める皇族と、それに従う貴族らは誰しもが「帝国は偉大で不滅なり」と口にし、後の歴史家に己らの偉業が永劫語り継がれると信じていた。
――しかし、そんな彼らの彩られた栄華の裏では、その富を特権階級である王族、貴族が独占し、民へはとどまることの知らない戦の戦費を賄うために重税が課されたことによる格差社会が生まれていたのだった。
当然民から不平不満の声が度々あがるも、王族、貴族は権力にものを言わせて彼らを抑えつけ従わせるのだった。
そのような歪んだ社会構造は、国の拡大に比例して広がりを続け、誰もがそれが当然だとある種の諦観が続く中――変革は突如として起きた。貴族の一員であるアティスマータ家が、帝国に対しクーデターを起こしたのである。
当主であるアティスマータ伯が、腐敗した帝国の打倒と、圧政に苦しむ民の解放を訴え、それに賛同した一部の貴族や民衆により『革命軍』が結成されたのだった。
しかし、その規模は帝国軍に比べれば貧弱なものであり、国の内外問わず誰もが早々に鎮圧され、愚かな敗者として歴史に刻まれることだろうと考えていた。
そんな者達の予想を裏切り、たった2人の戦士の活躍により革命軍は勝利を重ねていき、その勢いは熱を生み、その熱は新たな時代の到来を人々に植え付け、1人、また1人とその流れに乗り込まんと革命軍に加わっていき。強大化した革命軍は、遂には帝国の心臓部である帝都を目前にまで迫った。
対して追い詰められた帝国は、起死回生の一手として、『帝国最強』と名高い戦士ベルリオーズ率いる精鋭部隊による敵本陣への強襲を敢行したのであった。
それに対して、革命軍が迎撃に送り出したのは、たった1人の戦士であった――
帝都近郊にある森林地帯――戦の趨勢を決めうる戦場で、燃え盛る炎が周囲の木々を焼いていく中、2人の戦士が対峙していた。
両者ともまるで竜を模したような重厚な鎧――古代文明が遺した超兵器『|装甲機竜<ドラグライド>を纏っており。1人は帝国精鋭部隊を率いる帝国最強騎士ベルリオーズであり、もう1人は革命軍の戦士であり、その見た目は10代になるかどうかという幼さを見せる少年であった。
「――帝都が堕ちた、か…」
夜が明けて日が昇る空を見上げながら、ベルリオーズが敵である少年に語り掛ける。
帝都の存在する方角からは、火の手による黒煙が無数に上がっており、己の本拠が敵の手に落ちたことを示していた。
帝都が陥落するよりも前に、敵総大将であるアスタマータ伯を討ち取る。それがベルリオーズら精鋭部隊の使命であった。
それを目の前の敵である少年に阻まれ、自分以外の配下を討ち取られた時点で、作戦は失敗に終わっており、例え目の前の敵を打ち倒そうとも、己のひいては仕える帝国の敗北は確定していたのだ。
「――次で決着としよう」
それでもベルリオーズは戦うことを止めはしなかった。獲物である大剣を構え対面の少年を見据える。
彼は最早戦の勝敗など関係なく、今は帝国の騎士としてでなく、ただ1人の戦士として眼前の好敵手との決着を着けたかったのだ。
纏う黒き機龍『シュープリス』には幾つかの浅い傷こそできているものの、痛手と言えるようなものは何一つなく、ベルリオーズ自身の肉体には一切の傷が見られていなかった。
対する少年は、纏うというよりも、その肉体と紅い機龍がまるで一体化している異様な外観をしており。その身に深々と刻まれた無数の傷からは絶えず血を流しており、口を動かす力さえ残されていない満身創痍な状態であった。特に、右肩から左脇の下に深々と刻まれた斬撃による傷口は、致命傷と言ても過言ではないものであった。
それでも、少年の目には衰えることのない闘志を宿し、右の目は刃物でつけられたと見られる傷で塞がれてはいるものの、片目だけであっても、その気迫は並大抵の者であれば恐怖で震え上がらせられる程に狂気じみた凄みを帯びていた。
「――――」
息も絶え絶えだが、少年は姿勢を低くし、まるで獣が獲物に襲いかかるようにして構える。そして、背面の翼の噴出口から噴き出ていた炎が収まっていき――いや、エネルギーを集約するように凝縮していく。
互いに僅かな隙をも逃さぬよう全ての神経を集約し機を伺う。燃え盛る炎が木々を焼き払っていく音さえ、両者の意識の外に追いやられ、戦場とは思えぬ静寂が彼らを包む。
神の悪戯か、舞い散った葉が両者の間を舞い、それが地面に落ちる――
「「!」」
のと同時に、両者が相手目がけ駆け出した。
集約された炎を爆発させるようにして生み出したエネルギーで、砲弾のように加速し突撃する少年――そんな彼の眼前に大剣の刃が迫る。
神速とすら言える速度の見せた少年、その一歩先を往くようにして加速したベルリオーズは、間合いを詰めるのと同時に大剣を脳天目がけて繰り出していた。
回避も防御も許さぬ、速度もタイミングも絶技としか表せない、芸術的なまでの斬撃が少年の命を刈り取る寸前、少年の姿が掻き消えた――
それでも肉を断つ確かな手応えを感じると同時に、胸を貫かれる衝撃がベルリオーズを襲った。
「……………………見事っ」
ガハッと口から多量に吐血するベルリオーズ。その目は己の胸を手刀で貫く少年を捉えていた。
だが、少年も無傷ではなく、左翼と左腕の肘から先を失っており、先の斬撃で切断された部位が宙を舞うと、重力によってドサッと地へと落ちた。
刃が脳天から真っ二つにせんとする直前に、少年は更なる加速を行い体を僅かながら右に逸らしたことで、胴体を深々と斬られ、左腕を失うという深手を負いなふぁらも致命打を避けたのだ。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
勝者となった少年は何が起きたのか理解できていないのか、唖然とした趣きのまま固まっており。どうやら最後の一連の動作は無我夢中で行ったものらしい。
「若者、よ…」
そんな少年に、ベルリオーズは優しく語り掛けた。その目には己の命を奪う者への怒りや憎しといった負の感情はなく、ただ純粋なる賞賛と敬意が宿っていた。
そんな彼に、少年はビクリッと体を震わせると腕を引き抜いて後ずさる。
胸部を貫かれ、命尽きようとしているのもかかわらず、ベルリオーズは倒れるどころか威厳に満ちた佇まいを乱すことなく屹立していた。
「良い戦士だ。感傷だが、別の形で出逢いたかったぞ――」
「――――!?」
その言葉に、驚愕に目を見開いた少年が何かを言おうとするも、その前にベルリオーズの目から生気が失われ事切れる。
1人残された少年は、勝利の感慨を得た様子もなく、呆然とした様子で事切れたベルリオーズ見上げているも、深々と斬られた胴体の傷口から血が噴き出すのと同時に、口から多量に血を吐き出すと、その場に仰向けに倒れると動かなくなってしまうのであった。
『革命戦争』後にそう語られることとなる一連の戦いは、こうして幕を閉じることとなる。
帝国を打倒した革命軍は国名をアティスマータ新王国へと改め、周辺国との融和を進めていき、民は自由と安寧を享受していくこととなる。
そして、革命最大の立役者である2人の戦士である機竜使いを、人々は『黒の英雄』、『紅の英雄』と呼び称えた。
しかし、両英雄とも新王国建国から間もなくして、表舞台から姿を消してしまうのであった。
それから5年の歳月が過ぎ。表向きは平穏を謳うも、その陰で新たな動乱が渦巻こうとしている新王国にて、歴史の影へと消えていた英雄らの物語は、再び幕を開けようとしていたのであった………。