読み切り作品 最弱無敗の神装機竜~紅の英雄伝~ 作:Mk-Ⅳ
「王立士官学園?」
「あ~。クロスフィードに建てられた装甲機竜の乗りて――
初めて聞く単語にキョトンとしている少年に、おっちゃんが解説してあげるのだった。
「ん?てかラルグリスって聞いたことあんな」
「ラルグリス家っていやぁ、四大貴族の一角じゃないですか。革命戦争でも大貴族の中で最も活躍したことで、王家の懐刀って言われるくらいの影響力を持つ」
「あぁ、そういや娘がいるって
少年が何やら懐かしがるような素振りをしていることに、セリスティアが父を知っているのかと問おうとするよりも先に、少年が口を開いた。
「それで、学生のあんさんが何でここに?1人なのかい?」
「…この地に潜伏しているとされる、帝国の残党と見られる賊の調査に派遣されたのです。他に同行していただいている方々には、王都へ伝令に戻ってもらっています」
「ふむ。ならあとは王国軍に任せればいっか」
「いえ、私はこのまま連中の後を追います」
セリスティアの放った言葉に、少年がん~?と怪訝そうに眉を潜めた。
「理由は?」
「奴らは村の子供や若い女性を連れ去っていきました。軍の到着を待っていては、逃げられてしまい可能性があります。根城の位置は掴んでいます、今ならまだ救い出せる筈です」
「やめときな」
今にも飛び出していかんばかりに正義感を瞳に燃やしているセリスティアに、少年が冷や水を浴びせるように冷徹な声音で制止する。
何故?目線で訴えてくる彼女に、少年がやれやれと言いたげに息を吐く。
「1人でいっても、その攫われた人達を盾にされたらあんた戦えるの?」
「ッ――それは…」
図星を突かれたようで、唇をきゅっと結んで黙ってしまうセリスティア。そんな彼女を見て若いなぁ、と言いたそうな顔で肩をすくめる少年。
「『神装機竜』の乗りてだからって。あんたはまだ学生なんだから、危ないことは大人に任せりゃいいんだよ」
セリスティアの腰に差している剣――機竜乗りの証である
神装機竜――世界でそれぞれ1種しか存在しない希少種で、一般的に用いられている汎用機竜を遥かに凌ぐ性能を持つ機竜のことである。
彼女が強気に出ていたのは、それ故であろう。
「結局、人間1人でできることなんてたかが知れてるもんさ」
「ですが…」
セリスティア苦悶の表情を浮かべて背後に視線を向けた。その先には村の生き残りの人々がいた。年老いた者がほとんどであり、若者の多くは賊から村を守ろうと戦い――命を落としたのであろう。村を訪れた時に見た死体らの姿が少年らの脳裏をよぎったのだった。
「お母さぁぁぁぁんっ…」
奇跡的に難を逃れた女の子が、母を呼んで泣き出してしまう。家族を理不尽に奪われ不安に苛まれ続けたことだろう、他の子供らもつられるように悲しみの感情を噴出させてしまう。
大人らが懸命に慰める光景に、おっちゃんは思わず俯いて視線を逸らしてしまう。こういった悲劇は古今東西珍しいことではなく、この村だけに限ったことではない。台風や洪水のような災害にあったものだと思い切り、残された者だけで生きていくしかない…。それが世の常であると、年を重ねる内に身についた処世術である。
「そっか、おかあちゃんや友達に会いたいよな…」
だが、そんな悲哀を打ち破るように、少年が女の子に歩み寄ると、身を屈めて視線を合わせそっと頭を撫でる。
「よし!お兄さんに任せない、連れてかれた人達みーんな連れ戻してくっからよ」
「本当?」
「ああ。だからもう泣かないでいい子でまってるんだよ?」
「うん!」
泣き止んだ女の子に、いい子だ、ともう一度撫でると、少年は立ち上がりセリスティアへと歩み寄る。
「あなた、何を?」
「助けに行くんだよ。あんたの希望通りに、俺と2人で」
「…あなたも?」
突然の申し出に、面を食らったような趣で少年を見るセリスティア。
確かに服の上か見わかるまでに肉体は鍛えられてこそいるが、武器も持たず――まして片腕しかない身でそのようなことを言い出すとは夢にも思っていなかったからである。
「俺とあんたならできる。――ただし、あんたが俺を信じられるかどうか次第だけどな」
どうする?と問うように手を差し出してくる少年。
セリスティアはその手を見つめながら逡巡してしまう。出会ったばかりの人間が、装甲機竜を有する相手に生身で挑むと言うのだから当然の反応であろう。
だが、考えの読めない浮世絵離れした異質さを宿した瞳には、己の欲望で他社に理不尽を強いる『悪』への明確な怒りを宿していた。
飄々とした仕草は鳴りを潜め、体からはまるで歴戦の勇士のような闘志を放つ彼を見ていると、不思議と迷いは消え去り、その手を取ってたのであった。
「――わかりました。ラルグリス家の名に懸けてあなたを信じましょう――」
セリスティアが少年の名を呼ぼうそして言葉を詰まらせると、彼はとやべっ、といった顔であ、と情けない声を漏らした。
「そういや名乗ってなかったや、俺はグレンってんだ。よろしくね~」
へへっと気まずそうに頬を掻くグレンに、少し、ほんの少しだが不安を覚えてしまうセリスティアであった…。
村を発ったグレンとセリスティアは。彼女の機竜に乗って賊の根城がある山の麓まで移動すると、目的地を目指して山の中を歩いていた。
「グレン」
「どしたセリスティアさん?」
敵に気づかれぬように進むべきとグレンに言われたので、生身に戻ったセリスティアが呼び掛けると、先頭を歩くグレンは警戒しているため振り返ることなく答えた。
「やはり私が潜入すべきです。民草であるあなたが危険を冒す必要はないのですから…」
考え直してほしいと促すように話すセリスティア。
グレンの提案した作戦はセリスが正面から敵の注意を引き、その間に彼が根城に潜入し、囚われている人々を開放するというものであった。
当然気づかれれば敵地で孤立することになるので、そうなればまず命はないであろう。だから、その役目は自分がすべきだと彼女は主張しているのだ。
「あのねぇ…」
そんな気遣いを見せるセリスティアに、グレンは足を止めて振り返ると、寧ろ不満しかない顔で彼女の鼻先に右手の指をビシッと指す。
「おたくが捕まったら、どんな大変なことされるかわかってます???」
「た、大変なこと…」
真剣な顔で告げられた内容を想像して、思わず冷や汗が流れて息を呑んでしまうセリスティア。
「いいですか。君はめっっっっっっっっっっちゃ可愛いって自覚をもった方がいいよ!」
「か…かわ、いいっ!?」
思いがけない言葉に、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていくセリスティア。
士官学園に入る前は、家柄故にパーティーなどの社交の場に出ることも少なくなく、顔を合わせる男性誰もの同じこと言われるのが常であった。――ただ、その誰もが自分をラルグリス家の令嬢としての機嫌取りか、男としての欲望を滲ませた意味合いしか感じられず愛想笑いしか返すことができず、恐怖しか覚えないものであった。
だが、目の前の少年からはそういった不快な感情など感じられず、ただ純粋に自分の身を案じてくれていたのだった。
「どしたの?何かあった?」
「い、いえなんでもありません!さあ、先を急ぎましょう!」
心配そうに覗き込むグレンを直視できず、彼を追い越して歩き出すセリスティア。――そんな彼女の足元に木と木の間に結ばれていたワイヤーが引っかかる。
「セリスティアッ!」
「きゃっ!?」
急いで駆け寄ったグレンが、彼女の腕を掴んで引き寄せるのと同時に、その眼前をヒュンッ!と矢が横切ると、木の幹に突き刺さる。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとうございます」
ワイヤーの先には草木に隠す形でボウガンが仕掛けられており、あと一歩でも助けるのが遅ければ今頃自分は頭に赤い花を咲かせた死体となっていたと認識すると、先ほどとはまた違った冷や汗が噴き出したセリスティアの表情が青ざめていく。
そんな彼女を落ち着けるように優しく肩を叩くグレン。
「落ち着け。はいっ、深呼吸~」
言われた通りに深く息を吸って吐くを繰り返すと、うるさかった胸の動悸も静まっていき、乱れた思考も平常を取り戻していく。
「落ちぶれたとはいえ元は軍人だ、これくらいの罠は仕掛けるさ。だから、俺より前に出るな。いいな」
きつく言い聞かせるようにグレンは話すも。そこに彼女を責めるような意図もなく、戦場で必要なことを教えるようという気遣いさえ見られていた。
「わ、わかりました」
相手が素直に頷くのを確認すると、グレンが再び先頭で歩き出す。
同じ失態は繰り返すまいと、神経を尖らせて警戒していたセリスティアは、ある違和感に気づく。
「(雑草が踏みしめられている?)」
自分の進行方向に生えている草が踏みならされており、1本の道となっているではないか。
――そして、目の前の少年を観察すると、一歩一歩踏みしめるようにして歩いており、慣れていない山中を歩く自分を気遣ってくれているのだと察するのだった。
それに木々の生い茂る山中は、同じ景色が続くため、道具を使ってさえも迷うことも珍しくないと聞くが、彼は何も用いることもなく、まるで自分の庭のように苦なく進んでいた。――自分では気づくこともできない道中の罠を容易く見破りながらである。
「グレン」
「ん~?」
「あなたは、何者なんですか?」
無意識に発して言葉に、思わず気まずそうに視線を逸らすセリスティア。それは疑心などではなく、純粋な好奇心によるものだった。
自分と変わらぬ年齢の筈なのに、まるで戦場を知り尽くした百戦錬磨の戦士のような余裕のある姿に、自分の目指すべき答えがあるではないかと思えたのだ。
「狩猟民族出身の田舎者だよ」
グレンは振り返ることなく歩き続けながら答える。確かにそれなら山中での無駄のない行動には説明がつく。ただ、それだけでは、全てのことに納得ができるものではなかった。
しかし、それ以上は話したくないような雰囲気も感じられ、より深く踏み事を躊躇わせた。
「っと、待った」
グレンが何かを感じとったのか、足を止めるとセリスティアを制止する。
彼の注視する先に視線を向けていると、草木がガサガサと揺れると、大柄の熊が姿を現したではないか。
「っ!?」
グルルッ、と今にも襲い掛かろうと威嚇してくる熊に、本能的に剣を抜こうとしたセリスティアを、グレンが手を重ねて抑えた。
「この辺りの主かな。勝手に勝手に住み着いてるアホ共のせいで殺気立ってるだけだな。」
そういうと、無防備に熊に向けて歩き出すグレン。
「グレン!?」
「大丈夫、任せて」
話している間にも咆哮を挙げながら突進してくる熊に、グレンは体を僅かに横に逸らすと、振り下ろされた腕を薄皮一枚触れるかの際どさで避け、そのまま側面に回り込むと毛を掴むと、乗馬するのと同じ要領で背に飛び乗る。
「グレン!」
「問題ない!このまま予定通り行こう!」
振り下ろさんと荒ぶる熊を苦なく乗りこなしながら、グレンはセリスティアから引き離そうとその場から走らせると、木々の中へと消えて行くのだった。
1人残されたセリスティアは、どうすべきか迷うも、彼の言葉に従いアジトを目指そうとして、また草木が揺れる音が鼓膜に響く。それも今度は多数の足音だけでなく、
「ほう、
新たに現れたのは、古びてこそいるものの、帝国時代に用いられた武具で身を固めた三十人はいるであろう集団であり、最後尾にリーダーと見られる男は、統一された性能を持つ汎用機竜で飛行能力を持つ『ワイバーン』を身に纏い、その両脇を固めるように2人の陸戦特化の『ドレイク』を纏った男が控えていた。
「(やはり帝国の残党っ!)」
素早く剣を抜いて構えながら、例の賊であろう男らを観察するセリスティア。
装備や発せられる威圧感から、想定通りの相手であると確信する。だが、それよりも――
「(私のことを知っている?)」
このような連中と顔を合わせた覚えなど皆無であり、なぜ自分のことを知っているのか――というよりもこの場に来ることを予見していたような口ぶりに、言い知れぬ気味の悪さを感じてしまう。
そんな不安を振り払うように、剣を眼前に掲げると、柄に備えられているボタンを押す。
機攻殻剣は対応する機竜と連動しており、一定の範囲内なら手元になくとも、
「――降臨せよ「おっと、そこまでだ」」
愛機を呼び出そうとしたセリスティアを遮るように、リーダーの男が嘲笑うように口を開く。
それに合わせて先頭にいる配下らが左右に分かれていくと――腕を縛られた1人の少女の首に剣を当てている男が視界に入る。
「うぅ…」
「っ――!卑怯な!」
「卑怯?ラルグリス家の令嬢は『勝てば官軍』という言葉をご存知ないらしい」
目じりに涙を溜めて、今にも泣きだしそうな女の姿に、咄嗟に怒鳴るように叫ぶも、そんな彼女を馬鹿にするように笑うリーダーにつられて配下らも嗤いだす。
「さあ、その剣を捨ててもらおうか、逆らえばわかるよなぁ?」
人質にしている配下が、セリスティアに見せつけるように、女の子に当てている剣の刃を更に押し付けようとする。
「ひゃぅ!?」
「っわかりました。言う通りにしますから、その子に危害を加えないで下さい」
セリスティアは剣を投げるようにして手放すと、両手を挙げて降参の意思を示す。その姿にリーダーの男は満足そうな笑みを浮かべる。
「ふん、それでいい。貴様みたいな雌ガキが機竜を――それも神装機竜を持つなどあってはならんのだからなぁ」
蔑んだ目を向けてくる男らに、思わず歯軋りするセリスティア。
男尊女卑に染まっていた帝国では、皇族や名門貴族、あるいは目覚ましい戦果挙げる機竜乗りでもなければ、女は道具としてしか見られなかった。
その帝国の残党である連中にとって、セリスティアは人としてすら見ていないのかもしれない。
「さて、機竜さえ渡せば持ち主は好きにしていいと言われているが…」
芸術的なまでに整った美貌をもつセリスティアを、顔から爪先まで嘗め回すような目を向ける男に、蛇がはいずり回るような悪寒に苛まれ、後ずさりしそうになるも、弱みを見せまいと踏みとどまり気丈に振る舞う。
忠告された通りの展開となったが、自分は1人ではない。信じると決めた『仲間』がいるのだから――
「ん~なんだその目はぁ?」
反抗的な目を向けてくるセリスティアに、リーダーの男が不機嫌に鼻を鳴らすと、彼女に歩み寄っていく。
「私はお前達のような、武人としての誇りも持ち合わせていない輩に屈しはしない。それだけです」
「貴様ッ…!」
凛とした姿勢で非難するセリスティアに、男が激昂した顔で拳を振り上げる。
死なないように加減はするであろうが、機竜に生身で殴られれば、骨が数本は折れてもおかしくはないであろう。
それでも心は決して負けまいと、男を睨みつけるセリスティア。そんな彼女に不快感を強めた男は、加減など忘れて本気で殴ろうと拳を振り下ろし――
「ぎゃああああああああああああああああ!?!?!?」
その寸前に、男らの背後から砲撃でも起きたかのような轟音と共に、男が吹き飛んでくると、リーダーの男の後頭部に直撃するのだった。
「ぬぐわぁ!?」
機竜が展開する視認できない盾――『防御障壁』によってダメージこそないものの、衝撃による不快感に顔を顰めると足元に落下した男に視線を向ける。
自分達宇と同じ防具を纏った男は、アジトの見張りに残した部下の1人ではないか。
「何が…」
「うぅ…」
事態が飲み込めず困惑している男らの前に、新たに見張り役の配下が1人姿を現す。
「つ――強ぇえ…」
覚束ない足どりで、現れた配下は悪夢でも見たかのようにうわ言を呟くと、白目を剥いて膝から崩れ落ちた。
そして、その配下を踏みつけながら新たな人影が姿を現す。
「おう、上手く飛んだ飛んだ」
「グレン!?」
想定外の登場に驚愕しているセリスティアをよそに。グレンは額の上に右手をかざして、リーダーの男に飛ばした男が直撃したこと確認すると、吹き飛ばした男が痙攣を起こしてはいるものの、生きてはいることも含めて満足気に頷いているのであった。