読み切り作品 最弱無敗の神装機竜~紅の英雄伝~ 作:Mk-Ⅳ
突如として現れたグレンに、リーダーの男は顔を真っ赤にしながら怒りで体を震わせている。
「な、なんだ貴様は!?一体どこから来やがった!?」
グレンに指をつきるけながら怒鳴り散らす男。断崖などに阻まれたアジトに通じる道は、自分達が塞いでいるこの道しかなく、そんな彼らの背後に現れたことに動揺を隠せないでいた
そんな男らの意図を呼んだのか、グレンは気にした様子もなくそれはね、と笑みを受かべる。
「この子が教えてくれたんだよ」
「ぐぅ」
グレンの背後から、先に襲い掛かってきた熊がのそのそと姿を現したではないか。その時とはうって変わって、穏やかにというか、彼に懐くようにじゃれついているのだった。
「お前らを追い出してあげるって言ったら、喜んで手伝ってくれるってさ」
「~♪」
意思疎通ができているようにグレンが撫でてあげると、嬉しそうに鳴く熊。そんな光景に、んな馬鹿な、と言わんばかりに敵味方とわずに唖然としてしまう。
「さてと…。アジトに囚われている人達は解放したってわけだけど…」
一通り撫で終えると、賊らへと視線を巡らしながら歩みだすグレン。
自分達をまるで脅威と認識していないグレンに、女の子を人質にしている配下が虚勢を張るように叫ぶ。
「う、動くなっ。このガキが――」
その言葉を遮るように睨みつけるグレン。その瞬間、まるで獅子に――いや、それ以上び存在を前にしたような圧迫感に襲われ、恐怖に余り手にしている剣を落す。
「ひッ!?」
その瞬間、グレンの姿が幻影のように掻き消えると、配下の手から女の子の姿が消えてしまう。
――それと同時に、再びグレンの姿が現れると、彼の側にその女の子がいるではないか。
「あ、え?え?」
まるで、奇術にあったかのように狼狽する賊らを尻目に、グレンは何が起きたのか理解できずに呆然としている女の子へ屈んで視線を合わせると、安心させるように頭に手を置く。
「怖かったね。もう大丈夫だよ。おにいさん達がお家に帰してあげるからね」
女の子がその言葉の意味を理解していくうちに、安堵のあまり堪えていた涙か溢れ出していくのだった。
そして、そんな彼女をグレンは頭をそっと撫でる。
「よしよし、いい子だから離れていてね」
女の子を抱えると、ちょっとお願いね、と熊の背に乗せてあげると、熊はその場から離れていく。
そこまできて、ようやく冷静さを取り戻したリーダーの男が叫び散らす。
「ふ――ふざっけんじゃねえ!!!何なんだテメェは!?俺様の計画を台無しにしやがって!!!」
「ただの通りすがりの旅人ですよ。見てわかんない?」
ほら、と自分の姿を見せつけるグレンに、馬鹿にしてるのかと額の血管を浮かび上がらせる男。
「――殺せぇ!!」
発破をかけられた配下らの数人がグレンへと襲いかかると、次々と剣を振り下ろしていく。
それを紙一重の間合いで難なく避けながら、グレンは右手を水平に構えると、刃を振るうように一閃する。
――すると、襲い掛かかった男らの剣が切断されように半ばから折れていく。
「いい子らの手前、殺さんでおいてはやるよ」
グレンがそういうと、男らは白目を剥くとその場で倒れていき、その光景を見た残りの賊らに激しく動揺が走る。
「し、4,5人をいっぺんに…」
「な、何が起きてるんだ!?妖術か!?」
そんな中、セリスティアは冷静に目の前で起きた光景を理解していた。
「(違うっ。常人の何倍もの速度で動き、相手の行動の先の先をも読んで先回りしている…グレン、あなたは一体…!?)]
言葉にすれば単純とも言えるが、それをなすためにどれだけの鍛錬と、己の生死をかけた極限状態に身を生き続ける経験値が必要となるか。まして、相手の命を奪わないよう手加減するなど、達人の領域をも超えた神技と呼べるまでに、動作一つ一つが見とれてしまうほどに輝きを放っていた。
「どうする?子供に手荒なもんは見せたくないんだ、白旗上げてくれると助かるんだが」
「――」
あきらかにこちらを下に見ているグレンの態度に、リーダーの男はプルプルと体を震わせると、堪忍袋の緒が切れたのか、狂ったかのようにドレイク乗りへと叫びだした。
「ぶっ殺せぇ!どんなに強くても所詮はただの人間だ!!機竜に敵うわけねぇんだ!!」
「お、おう…!」
今まで見たことのない気迫に、怯えながらもドレイク乗りらが前へ出ていく。
そんな状況でもグレンに焦りなどなく、ちょっと困ったくらいの様子で頭を掻いている。
「ん~流石にそれは面倒ねぇ…。しゃあない、起きろ『ジャバウォック』」
言いきかせるようにそう唱えると、グレンの体の――まるで内側から『炎』は溢れ出るように噴き出した――
「なっ――!?」
誰もが想定外の事態に騒然とする間にも、炎はグレンを焼くことなく、寧ろその身を守ろうとするがごとく、彼を包んでいく。
やがて炎が吹き散ると、彼の体は獣のような鋭利な爪を携えた手足に、『竜』を彷彿とさせる翼と尻尾を持つ真紅の鎧を身に纏った姿へと変異していたのだった。
「な、なんだそれは!?装甲機竜、なのかぁ!?!?」
その姿を見たリーダーの男が、震える声を漏らす。
確かにグレンが身に纏うのは装甲機竜に似ているが、正確には身に纏うというよりも、
「あ、ああ…!」
そして、そんなグレンを見た配下の1人が怯えきった様子で後ずさる。
「く、『紅の悪魔』…!」
「――!?」
その男の発した言葉に、賊だけでなくセリスティアも驚愕の目を向けた。
――5年前の革命戦争にて、革命軍を勝利に導いた機竜乗りの1人を、敵である帝国はいつしかそう呼ぶようになった。つまり――
「『紅の英雄』。グレンがっ――!」
新王国建国の英雄にして『双竜の英傑』の1人。それが今まさに眼前に立っているのだ。
「『紅の悪魔』!?奴が!?」
「ま、間違いねぇ!5年前の戦争で、俺の仲間を焼き殺したバケモンだぁっ!!」
何度も見た悪夢を再び目の当たりにした男が、青ざめた顔で武器を落として尻もちをついて震えている。
「ま、マジかよっ」
「そんなのが出てくるなんてきいてねぇぞ!?」
そんな男の姿を見た配下らの動揺は更に広がり、逃げ出そうとする者がいつ出てもおかしくない状態となっていた。
「ふ、ふふ…。はーーーーハッハッハッハッぁ!!」
だが、リーダーの男だけは対照的に笑みを浮かべて侮蔑的な目をグレンへと向ける。
「そうか貴様があの『紅の悪魔』か…。だが、知っているぞ、かつてのベルリオーズ卿との戦いで負った傷で、貴様はもう以前のようには戦えないと」
「……っ!?」
男の言葉に、衝撃を受けるセリスティア。グレンの体を良く見ると、確かに翼の内の左側が根元から失われており、肉体と一体化している真紅の鎧もまるで色褪せたようにくすんでしまっており、何より、元より損失していた左腕と、右肩から左脇の下に深々と刻まれた斬撃によるものらしき傷跡が、男の言を証明するかのように痛ましく見えてしまったのだった。
「…………」
そして、グレン自身が沈黙してしまっていることが、賊らに確信を与えてしまっていた。
ドレイク乗りの1人が、威勢を取り戻すとグレンに侮蔑の目を向ける。
「へ、へへ何だそういうことかよ。ビビらせやがって…なぶり殺してやるよぉ!」
装甲機竜用のブレードを構えると、脚部のローラーで加速すると、グレンへと肉迫していく。
「テメェを仕留めりゃあ、俺が『帝国最強』の機竜乗りよぉ!」
それに対して、グレンは構えるどころか、身動き一つ取ろうとはしなかった。
「グレンッ!」
セリスティアが悲鳴じみた声をあげるも、無常にもグレンの脳天目掛けて振り下ろされた刃は――盾のように折り込まれた翼とぶつかり合うと、金属同士が衝突する際に生じる甲高い音を響かせた。
「…へっ?――へぶぅ!?」
砕けるようにへし折れたブレードを見て、間の抜けた声を漏らすドレイク乗りの男の顎を、グレンが蹴り上げると軽々と宙を舞うと、男体は重力に従い落下し意識を失っているのか受け身も取らずに地面に激突して動かなくなるのだった。
「そんな、話がちが――」
その光景にうろたえたもう1人のドレイク乗りの男が言い終わる前に、獣が襲い掛かるように突撃態勢を取るのと同時に、眼前に移動していたグレンが顔面を掴むと締め上げながら持ち上げる。
「あががががが!?」
「――言っておくがよ」
ようやく口を開いたグレンは、呆れ果てた顔を賊らに向けた。
「確かに弱くはなったがよ、だからってお前らが強くなった訳じゃねえだろうが」
「あべしっ!?」
振りほどこうともがくドレイク乗りの男に、とどめと言わんばかりに力を籠めると、メキョッと人体からなってはいけない音を響かせると、ドレイク乗りの男の体が脱力して動かなくなると、雑に投げ捨てるグレン。
「それとな――『
誇りを汚されたかのように、怒りを滲ませた顔で殺意の宿った威圧感を放つグレンに、配下の賊らは皆戦意を失い武器を捨てると次々と逃走を始めていく。
「ま、待て!逃げるな貴様らッ!」
リーダーの男が呼び止めようとするも、最早誰も聞く耳も持たず散り散りになっていき、残されたのはリーダーの男1人となるのだった。
そんな男に、グレンがお前だけは逃がさん、と先ほどと同じように突撃態勢を取る。
「――ッ!」
男はぶっ飛ばされてのびている配下を掴むと、グレンへと投げつけたではないか。
「とっ」
グレンが投げられた男を受け止めると、その僅かに生じた隙に背を向けると全力で逃げ出すのだった。
「はーはっはっはっ!俺は終わらん!こんなところで終わってたまえうかぁ!」
往生際悪く、無様と言える姿を晒す男。
「――降臨せよ、為政者の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え、『リンドヴルム』」
そんな男の視界に、手放していた機攻殻剣を手にしたセリスティアの姿が映った。
詠唱符を唱えると、彼女の背後に金色の機竜が出現すると、鎧となってその身を包んでいく。
「――
武装であるランスの切っ先を頭上に掲げると、彼女を中心とした光の結界が形成され、それが男のいる空間も飲み込んでいく。
思わず動きを止めた男の視界が一瞬だが暗転すると、次の瞬間には先ほどまでいた場所に、まるで巻き戻されたかのように立っているのだった。
「!?『神装』かッ!」
それが、神装機竜のみが持つ固有能力によるものだと察した男に、セリスティアがランスを構えながら突撃していた。
「ぬおおおおお!?」
咄嗟にブレードを盾にして受け止めると、刀身が砕かれるもその衝撃を利用して距離を取ると、男は再度の闘争を試みる――瞬間、待ち構えていたグレンの拳が眼前まで迫っていたのだった。
「ォオラァ!!」
「ひでぶ!?!?!?」
顔面に拳がめり込み、そのまま地面へと後頭部から叩きつけられた男は完全に沈黙するのだった。
「うっし!」
会心の一撃を叩き込めたことに、満足そうに拳を握りしめるグレン。一方のセリスティアは肩の力が抜けるように安堵の息を吐く。
最後の一撃は意思疎通など介さない即興のものであった。それでも、彼なら自分の意図読んでくれると確信があった。
今までラルグリス家の者の責務として、他者を護るべく、独りになろうとも己の弱さを見せまいとしてきた彼女には、初めて胸に湧く感情に、戸惑いこそあるも決して不快なものではなかった。
「セリスティア」
そんな自分に、グレンは笑顔で手のひらを広げて掲げてきた。
「?」
「イエーイ!」
その意図がわからないも、とりあえず真似をしてみると、グレンはとパチンッと手のひらを合わせる。
「上手くいったね!相性いいんじゃね俺達!」
先ほどまでの獰猛さが嘘のように鳴りを潜め、年相応に無邪気にはしゃぐグレンに、そんな彼を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
そんな折、逃げ出した賊らであろう悲鳴があちこちから響き渡ってきたのだった。
「これは?」
「テメー勝手に荒らした者を、自然は簡単に許しはしないってだけさ。逃げたことを後悔するくらいには痛い目にあってもらわんとね」
何か察しているらしく、腰に手を当ててやれやれと呆れた顔をしているグレン。
「ま、殺さないようにって
解説してくれているようだが、よくは理解できないが、逃げ出した連中の心配はしなくていいということらしい。
「この度はなんとお礼を言ってよいか。誠にありがとうございます」
「ありがとう、おにーさん!おねーさん!」
捕らえたリーダーの男や、諸々のことは派遣された王国軍に任せ、攫われていた人々を連れて村に戻ったグレンとセリスティアは村の人々から感謝の言葉を受けていた。
「いえいえ。たまたま通りがかっただけなんで気にしないで下さいな」
「私もラルグリス家の者として、当然の責務を果たしだだけなので…」
謝礼については丁重に断りながら、村の外れで一息つく2人。
「ふー。取り合えずこれで一件落着だぁねぇ」
「ええ、ですが――」
「ん?」
「あなたが、あの『紅の英雄』だったなんて…。どうして言ってくれなかったのですか!?」
いきなり抗議されて、ええ!?と目を丸くするグレン。そんな彼に構わずセリスティアは捲し立てる。
「そうすれば、あのような無礼な振る舞いなどしなかったのに…!ああもう、穴に埋まってきます…」
そういって機攻殻剣で穴を掘ろうとするセリスティアを、グレンは慌てて止めるのだった。
「まーまーまー!そんな風に呼ばれてるなんて知らなかったんだもん!てか、何!?『紅の英雄』って!?知らん間に変なことになってんですけど!?」
「…知らなかったのですか?」
「知らないよ!そんあ痛々しいもん名乗った覚えないざます!――あ~!さてはあの『腹黒』の仕業か!王都に着いたら文句言ったらぁ!」
キシャ―!と何かしらかに憤慨しだすグレンに、本当にしらないのか、と冷静になるセリスティアであった。
そんな彼らに、合流した商人のおっちゃんが話しかける。彼に事の顛末とグレンの正体を話すと、なんか、不思議と思ってたもんが釈然としたわー、と素直に受け入れてくれたのだった。
「いやー、にしてもあんちゃんがかの『紅の英雄』様だったとはねぇ…。世の中何が起きるかわからんもんやなぁ」
「やめて!その呼び方ッ。ちょー恥ずかしいんですけど!?」
いやぁぁぁぁ!と頭を抱えて地面をゴロゴロと転がりだすグレン。
「もおおお嫌や!すぐにでも王都に行って、あの『腹黒』をぶん殴ったらああああああ!!」
「ちょ、今からやと機竜でも日が暮れるであんちゃん!?」
「落ち着いて下さいグレン!流石にそれは問題になりますよ!?」
ジャバウォックを纏って飛び出していこうとするグレンを、おっちゃんとセリスティアでどうにか宥めるのであった…。