イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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弟いわく、サッカーバカ

 

 

「最近の皆さんのレベルアップは目覚ましいですね!」

「うん! この調子でフットボールフロンティアを勝ち進むことも、全然不可能じゃないわ!」

 

 その日の河川敷のサッカーグラウンドは、普段が生温いといえるほどに鬱陶しさを感じた。

 他の面々はそうでもない――むしろ、何かを勘違いしたのか浮かれ上がっており、集中を欠いている節がある。

 邪魔もいいところだな。あれではこちらが目的ではない一般市民の通行の妨げにもなるだろうに。

 

「それにしても……今日は見物人が多いわね。ちょっと異常なくらいに」

「きっと雷門のファンですよ! これだけ連勝を続けているんですもん、そろそろああやって練習を見に来る人たちがいてもおかしくありません!」

「ファン――そっかあ……ついにみんなにもファンが……!」

 

 木野と春奈まで、ずいぶんとおめでたい思考になっている。

 フットボールフロンティアの一回戦を勝ったくらいで、たかが練習に、あれだけカメラを構えるファンがいきなり増える筈もないだろうに。

 変に注目を浴びる懸念はもちろんあった。

 しかし、どちらにせよ注目されるならば、チームを勢い付ける方が良いだろうと、点差を開いた勝利を許容してきたが……皆の勘違いはともかく、視線が煩わしい。

 ふむ……ファンだろうがそうでなかろうが、あの群れに向けてシュートの一つでも打ち込んでやれば大人しく去るだろうか。

 今のところ実践する気のない、益体のない想像をしていれば、基礎鍛錬を終えた面々が必殺技の調整に移ろうとしていた。

 

「よーし! まずは豪炎寺からだ! 思いっきり打ち込んで――」

「――必殺技の練習は当面、禁止します」

 

 シュートを豪炎寺に促そうとした円堂の言葉を遮ったのは、先日マネージャーとしてサッカー部に入部した雷門。

 結局のところ、いきなり血迷った理由は聞いていない。

 先日の試合で心を動かされた様子ではあるものの、果たしてここまでサッカー部に入れ込むほどのものなのかと疑問を抱くばかりだ。

 

「き、禁止!? いきなり何を言い出すんだよ!」

「当たり前じゃないの。あそこの人だかりが見えていて?」

「人だかりって……俺たちのファンだろ? だったら、すっげえ必殺技を見せてやらないと!」

「……円堂。言い辛いんだが、あれはファンじゃない。俺たちのデータを採りにきた、他校からの偵察部隊だ」

「ええ!?」

 

 眉を顰めた豪炎寺の冷や水の如き指摘により、浮かれ切っていた面々は現実に帰ってくる。

 応援団よりも偵察部隊の方が先にできるというのも滑稽な話だな。それもこれも、帝国に勝利したなどという箔が付いてしまったせいだが。

 面々の反応に呆れ返った雷門は、その表情をそのままこちらに向けてきた。

 

「……不破さん、あなたが気付いていない筈もないでしょうに、どうして止めなかったのかしら」

「賊に配慮する必要がどこにある。名が売れた代償だ、諦めよ」

「女帝さまからすれば全然気にならないんでしょうけど、駆け出しサッカー部からすれば致命的なのよ。使える必殺技も限られている以上、それをみだりに見せて対策される訳にもいかないわ」

 

 対策される前提の戦法を組めば良いだけの話なのだが、どうやら雷門の考えはそうではないらしい。

 こうなればどれほど私が、この程度は敗北には繋がらないと説明したところで納得はすまい。世話の焼けるマネージャーだ。

 

「とはいえ、何もさせないのも酷ね……いいわ、基礎練習は許可します。二回戦……御影専農中との試合まで、十分に個々の技術を磨きなさい」

 

 それだけ言い残して、不満だらけの面々を置いて去っていこうとする雷門。

 逃がさんぞ。有益な情報を齎しに来たならばともかく、モチベーションを下げるだけで終わろうというのは許容できない。

 

「雷門、貴様の権限でグラウンドは借りれぬのか。無理ならば理事長の威を借りても良い」

「そんなことのために特権を振りかざすなんて……いえ、普段の自分に返ってきそうだから言わないでおきましょう」

 

 自分を客観視できているようで何よりだ。普段のそれが無茶振りである自覚もあるらしい。

 

「……調整しても、サッカー部が安定して使えるようになるには時間が掛かるわね。一回戦突破くらいじゃ、学校のみんなが納得できるような実績じゃないわ」

「なれば外部に悟られず鍛錬を実施できる練習場を用意せよ」

「言っておくけどドア・イン・ザ・フェイスのつもりなら成立すらしていないわよ。あなた、実は交渉苦手でしょう」

「必要性がなかったゆえな」

 

 安定して使用できる、外部の目を遮断できる練習場。帝国のサッカーコートが理想なのだが。

 もはや手に入らないものではあるが、こうして考えると鍛錬の場としてはこれ以上ないほどに好ましい環境であった。

 あれと同じほど、とは言わないものの、せめて学校のグラウンドくらい毎日のように使えるようにならないものか。

 サッカー部としての活動のために、わざわざ河川敷まで歩いてくるのも面倒なのだ。

 

「……まあ、いいわ。練習場については考えておきます。ひとまず、今日明日くらいは必殺技の練習を自重してちょうだい」

「理事長の言葉か」

「そう思ってもらって構わなくてよ」

 

 適当に返せば、適当に返ってくる。そのまま去っていく雷門を見送り、溜息をつく。

 仕方あるまい。あのような有象無象に鍛錬を左右されるのは腹立たしいが、まったくの無害という訳でもないのだろう。

 

「基礎鍛錬、延長のためのメニューを組む。各自、それに従い鍛錬を行え」

 

 即興で適切な負荷となるよう、鍛錬の内容を組み立てる。

 雷門への要望は期待していないが、あのように挑発してやったのだ。それなりの成果は持ち帰ってきてもおかしくない。

 そちらが結局無為に終わったとしても、必殺技を磨かない選択肢はない。

 個々が能力を磨いたことで、新たな必殺技に繋がりつつある者もいるのだ。それらを確立させれば、より大きな戦力となる。

 

「それから、春奈。これを記録しておけ。この者たちの今の能力値だ」

「また? 結構な頻度で更新するのね。まあ、勉強になるからいいけど……ねえ、お姉ちゃん。このノート、どのくらいで使い切ってるの?」

「内容によっては一日で使い切るな」

 

 最新の能力を記載しきったノートを春奈に渡す。

 二重管理になるものの、基本的にノートの方は私の手慰みだ。春奈が最近記録しているデータベースでの管理の方が、都合が良いだろう。

 

 

 +

 

 

 日もほぼ沈み、暗がりの道を歩く。

 学校からならばともかく、河川敷からの帰路は時間がかかる。これも、あまりこちらのコートが好ましくない理由の一つだ。

 まあ……家に帰ったところで特にすることもないのだが。

 それに、稲妻町の静かな町並みは嫌いではない。都会の喧騒よりはよほど良い。

 思考を片付けながら歩く分には、ちょうど良い雰囲気と言えよう。

 

 ……さて。二回戦は御影専農中との試合となる。

 連中とは帝国にいた頃、フットボールフロンティアでの試合はないものの、練習試合の経験はある。

 というのも――あの学校のサッカー部の活動には、影山が一枚嚙んでいたらしい。

 なにかと忌避されがちな帝国を恐れることなく、さりとて対等でもなく、といった奇妙な関係。

 私がいた頃はともかく……今はどうなっているか。あるいはあの学校も、帝国のように見るに堪えない惨状になっているかもしれない。

 厳重な警戒を向けるべき相手ではない、というのが今のところの印象。それで済めば良いのだが。

 

「……む?」

 

 ――その時、鞄の中から振動を感じた。

 いつ以来に鳴ったか分からない、帝国の時からほとんど、ただ持っているだけの携帯電話。

 開いてみれば、画面に書かれていた名前は。

 …………………………………………。

 

『……こんばんは、姉さん』

「……うむ。壮健か、有人」

 

 ……良かった。通話はこれで合っていたか。

 内心の動揺を悟られないように言葉を返す。弟の声は、僅かに沈んでいるように聞こえた。

 

『……出てはくれないと思っていました。その……先日の、練習試合の件で……失望されてしまったのかと』

「その自覚があるならば良い。実に落胆した出来事ではあったが、お前はそのままではあるまい」

 

 どうやら有人は、練習試合のことを未だに引き摺っているらしい。

 土門から不調であると聞いてはいたが、この子はあれで繊細だ。

 あの時の己の選択に後悔はないが、いささか刺激が強かったか。

 

「お前はお前らしくあり、そして正しいと思うように動け。常々言い続けていることだがな。そうである限り、余はお前を否定はせぬ」

『……はい』

 

 少しは持ち直した、だろうか。電話越しだと細かい声色の変化が分かりにくい。

 

「それで。何の要件か」

『……近況を聞きたくて。正式に、雷門中のサッカー部に入ったようですので』

 

 情報収集か。土門の報告はあるだろうに、それでは不満に感じたか。

 ……まあ良い。他の者であれば一蹴していたが、自ら、それも私に連絡をしてくる辺りが彼らしい奇策だ。

 気が済むまで付き合ってやろう。どうせ帰路はまだ長いのだ。

 

『姉さんは……飽きたといって帝国を去りました。どうして、雷門中でもう一度、サッカーを始めたんですか?』

 

 ――そうして、おずおずと有人が切り出した話題は、私が想像していたどの話題とも異なっていた。

 サッカー部で何をしているのかでも、いつ試合に出るつもりなのか、でもない。

 話したところで、一切帝国の益にはならないだろう事柄。

 その意図を探ろうとして数秒、それらしい答えは出てこなかった。

 

「あの者たちは余の関心を惹いた。それがすべてだ。余がまだ見ぬサッカーがここにはある。再開するには十分な理由だ」

『それは……っ、それはどうしても、帝国では実現できないサッカーなんですか!?』

「分かりきったことを問うな、有人。あの練習試合で感じたであろう。あれは決して、帝国にはないサッカーだ」

 

 戦力の低下を……嘆いている訳ではないな。もっと根本的な訴えだ。

 だが、具体的な答えは見えてこない。

 既に有人は私の帝国を継承した。

 確かに、雷門中に私がいたことは巡り合わせが悪かっただろうが、私がどこでサッカーを再開しようと、有人が自身の在り方を損なう理由にはならない筈だ。

 とはいえ……弟が迷うならば、話し相手になってやるのが姉の務めだろう。こちらも、答えを明確にすることを保留していたものに、多少ばかり踏み入ってやっても良いかもしれない。

 

「有人――雷門中のサッカー部をどう思う。余を除いても良い。お前から見てあの者たちはどう映るか、言葉にしてみよ」

『……奴らは、バカです。どんな計算にも縛られず、予想できないことをやってのける、サッカーバカの集まりです』

「――――クッ」

 

 思わず、笑みが零れた。

 相変わらずこの子は、言語化が巧い。

 そうか――それか。私の期待に応えながらも、私の背中を追って歩まない理由は。

 

「……なるほど。サッカーバカか、言い得て妙だ。余の庇護を受けながら、あの者たちは余に染まらぬ。賢い試合をする頭がない。なればこそ、余はもう一度動いてみる気になったのだろうよ」

『ッ……今のサッカーは、楽しいですか?』

「うむ。満たされるには程遠いが、いずれは、という期待がある」

『……そうですか』

 

 再度の沈黙。何を迷っているにせよ、私の答えを求めていたならば、それを呑み込む時間くらいは与える。

 

『……ありがとうございます。聞きたいことは、それだけです』

「――そうか」

 

 終わりだというならば、それまでだ。これ以上追及はすまい。

 迷いがあれば存分に迷えば良い。フィールドに立った時、それを持ち込みさえしなければ、何も言うまい。

 ……とはいえ、せっかく連絡をしてきたならば、こちらにも聞きたいことはある。

 

「有人、こちらのサッカー部には春奈がいる。三人で会う場を設けたいが、どうか」

『…………すみません。俺は……春奈と会うつもりはありません』

 

 静かな拒絶の後、通話が切れる。無機質な電子音が不愉快になる前に、携帯を閉じる。

 何故、頑なに春奈と会おうとしないのか、私にはどうにも分からない。有人は何を抱えているのか、こればかりは、幾度問い質しても答えは返ってこなかった。

 ままならないものだ。これに関する、姉としての最適解は見つけられる気がしない。

 今日何度目かの溜息を零してから、思考を切り替える。今、解決しない問題を考えていても仕方がない。

 優先すべきは、二回戦までの計画をどのように立てるかだ。




【不破煌雅】
弟妹の悩みに気付くことはできても、自身の存在感が大きすぎて何に悩む必要があるのか理解できないタイプ。
なお、機械に疎いが機械音痴という訳ではない。日常的に使うようなものは普通に使えるし、タッチタイピングはできないものの見ながら打つ分にはそれなりに早い。
携帯で文字を打つことにも支障はないが、メモ帳やメールなどを開く手順を覚える気がない、という感じ。
なんなら携帯を持たず、充電器に差したまま数日放置することもままある。メールも開いたりしないのでずっと通知も点滅している。

【鬼道有人】
アニメと同じようなムーブはしつつ、七割増しくらいで曇っている。
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