イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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これが雷門サッカー-1

 

 

 まあ、及第点か。

 本来想定していた成長性を大きく超えて、サッカー部はこの日を迎えた。

 

「結局、新必殺技はできなかったんですか? 夏未お嬢様から秘密の特訓場を提供されたと聞きましたが……」

 

 御影専農中との試合当日。彼らに対する冬海の嘲りを聞き流しつつ、私は御影専農中の選手データを眺めていた。

 彼らのサッカーの体系が成立したのは比較的近年ではあるが、その特徴を現在まで徹底している。

 今私が見ているものよりも遥かに詳細なデータを集め、相手の行動パターンを分析し、それをもとにシミュレーションを重ね、勝利への道を算出するデータサッカーの極地。

 そこから連中に付いた異名はサッカーサイボーグ。

 キャプテンの杉森のみならず、彼らは一人残らず、異名に相応しい鉄面皮だ。

 

「確かに新しい必殺技はできませんでしたけど……それでも、チーム同士の戦いなら勝ち目はあります! あいつらに負けないチームワークで、ガンガン攻めていけば!」

「そう単純にいけばいいですが……いつまでもそんな単純な思考で勝てるほどサッカーは単純では――」

「――整列だ、行け。戦法は伝えた通りだ」

 

 試合前に意欲を削ごうとする冬海の言葉を遮り、彼らをフィールドに上がらせる。

 冬海の言葉を熱心に聞こうとしていた者は一人たりともいないようで、駆け足で離れていく。

 選手データに目を向けつつ、ベンチに腰掛ければ、冬海がおずおずと尋ねてきた。

 

「……あー……ふ、不破さん? その……どういう作戦を立てたのですか? 私は、何も聞かされていないのですが……」

「何故貴様に伝えねばならん。戦うあの者たちが仔細を知っていればそれで良い」

「で、ですが、私もサッカー部の監督ですので……」

「それらしい責務を果たしてからものを言え。名義を貸しているだけの貴様に対して、この場で戦法を口にせねばならぬ理由があるのか」

「い、いえ! 別にそんなことは……」

 

 私が何も口にするつもりはないと理解したようで、冬海は黙り込んだ。

 野生中の時は何も言わなかったこの男が、妙に今日の試合を気にしてくる。

 この男を危険視している訳ではないものの、ここまで露骨に行動を起こされると、疑念も出てくるというもの。

 まあ、どうあれ私はこの場で戦法を口にするつもりはない。

 ここは既に、連中の戦場。このベンチにおける会話さえ、聞かれていることは前提と捉えるべきだ。

 無論……連中に塩を送ってやる戦いもできよう。完全に敵の術中に落ちた上での試合というものも、経験する価値はある。

 しかし、この試合で雷門中サッカー部が学ぶべき戦いはそれではない。

 

「フットボールフロンティア二回戦! 雷門中学と御影専修農業高校附属中学の試合です!」

 

 相変わらず暇であるのか、試合のスケジュールを調べて予定を空けてきたのか、当たり前のように角馬は現れていた。

 辺境である野生中に比べれば赴きやすい場所ではあるのだろうが、その情熱はどこから来るのか。

 どうあれ、今日も静かな観戦とはいかないようだ。

 

「ホイッスルが吹かれました! 雷門中ボールからキックオフ!」

 

 ボールを渡された染岡が上がっていく。それに対して、フォワードは動こうとしない。

 ミッドフィールダーもボールを奪おうとはせず、染岡をさして見ることもせず杉森の守るゴール付近へと走っていく。

 専守の姿勢――だが、それが完全に成立するより前に、染岡はゴールを狙える位置にまで辿り着いた。

 

「ッ……ディフェンスフォーメーション、ガンマ3からガンマ4へ移行! 11番のシュートに備え……っ」

「そいつはどうかな!」

 

 杉森の指示に応じ、すぐさま動きを見せたディフェンス陣。

 しかし、染岡へシュートと見せかけてボールを高く蹴り上げる。

 そこへ走り込んでいた豪炎寺は既に跳び上がり、炎を巻き上げながら回転を始めていた。

 

「ファイアトルネードッ!」

 

 少なくとも、今の御影専農の選手たちは豪炎寺のシュートに対応した陣形にはなっていない。

 何故ならば、この速度による速攻を仕掛けられ、豪炎寺からのシュートを受けるという攻撃パターンなど、彼らの分析上、存在していなかったからだ。

 

「――シュートポケット!」

 

 とはいえ、この程度の想定外に対応できない者たちでもないか。

 杉森が交差させた手を広げることによって展開された力場が、炎の一撃を捕縛する。

 バリアによる防御ではない。シュートの威力を喪失させ、極端に減速させる力場は、『ファイアトルネード』のエネルギーをたちまち衰えさせていく。

 

「ぐっ、これはっ!」

 

 その威力を殺しきれないと確信したのだろう。即座に両手で受け止めようとして、杉森はボールをどうにか弾いた。

 データサッカーの信奉者にしては、中々の判断能力だ。

 

「なんだ、今の単純な攻撃パターンは……! それに、お前たちの能力は……っ!」

 

 コードの繋がった頭を押さえ、困惑を隠さない杉森。

 他の選手たちも動揺しつつも、今度こそ万全な防御を固めんとする。

 松野から染岡に、そして放たれた『ドラゴンクラッシュ』を、やはりディフェンス陣は防ぎきれず、杉森が続けざまに発動した『シュートポケット』によってどうにか捉えられた。

 ゴールラインすれすれでボールを止める杉森。それに対し、止められたとはいえ自分たちが戦えていると実感したらしい染岡は得意げに笑う。

 

「想定と違う……! 我々の計算した能力よりも、数段上を行っているだと!?」

「へっ、文字通り、血の滲むような練習だったからな。どんどん行くぜ、豪炎寺!」

「ああ――次は決める!」

 

 自信は十分、互いのシュートを止められてなお、あの意欲を維持できてるならば問題ない。

 その姿に杉森たち御影専農の選手たちはたじろぐも、何かしら、次の命令でも入ったのか――表情を硬いものに切り替えた。

 

「……我々のデータは絶対だ。計算が狂えば、修正すればいいだけの話。それを証明する!」

 

 ディフェンダー弘山から、ミッドフィールダー大部へ。

 確かに冷静さは取り戻したようで、そのパス回しに淀みはなく、淡々とした、熱の感じられないものだ。

 しかし、正確なパスであればこそ読みやすい。前線へと切り込もうとする大部に、すぐさま栗松が対応する。

 

「させないでやんす!」

「無駄だ、お前たちの行動予測は完璧だ――スーパースキャン」

 

 完全にパターン化された、百度やって百度同じ動きのできるだろう、フェイントを織り交ぜた動き。

 オフェンスにおいても、ディフェンスにおいても通用する、相手選手それぞれに対する最適な行動パターンを高速で算出して実行する、御影専農の代名詞ともいえる『スーパースキャン』。

 それに栗松は翻弄され、抜かれつつも、ギリギリのところでボールに足を伸ばした。

 

「くっ……山岸っ」

 

 しかし、ボールを奪取するには至らない。

 またも動揺を見せつつも、ボールを守った大部は前線のフォワード、山岸へとボールを蹴った。

 

「よし、来い!」

 

 構える円堂に、山岸は応じない。

 反対側を静かに走り込んできた下鶴に素早くボールを送り、さらに下鶴はそれをダイレクトで打ち上げる。

 そこに飛び込めるような選手は近くにいない。一見すればただのミスキックだ。

 だがそれは、キーパーの不意を突き、確実に一点を取るための手段。

 浮き上がったボールは、込められた力を推進剤として、途端にキーパーへの脅威と化す。

 

「くらえ、パトリオットシュート!」

 

 ボールは煙を噴き上げながら、山岸に対応しようとしていた円堂の反対側へと迫っていく。

 普通であれば間に合う筈もない。だが、円堂は生憎ながら、普通ではないキーパーだ。

 

「決めさせるかぁ!」

 

 後のことなどまるで考えない全力の横跳びにより食らいつき、両手でどうにかシュートの軌道を変えて、ボールをコートの外へと弾き飛ばす。

 不意打ちと正確性に特化し、威力が秀でた必殺技ではないことが功を奏したか。

 

「止めたぁぁっ! 円堂、決死のセーブ! 下鶴の必殺シュートを見事に防ぎました!」

「よっしゃあ! 見たか!」

「……馬鹿な。我々の計算では、今のシュートが決まる確率は約九十九パーセント……到底、お前が防げる攻撃ではなかった筈だ」

 

 よほど自信のあった攻撃パターンらしい。立ち上がった円堂に対し、呆然と下鶴が告げる。

 ほぼ確実な得点を期した不意打ちの不発は、御影専農にとって非常に大きなものだったのだろう。

 下鶴の言葉に円堂は一瞬ぽかんとしてから、得意げに笑ってみせた。

 

「なら、俺たちが一パーセントを拾えたってことだな! これも練習の成果だ!」

 

 ……相手の計算を真に受けるのも、円堂らしいというか。

 彼らとしては、たとえその一パーセントとやらを円堂が拾ったとしても、こぼれ球をゴールに放り込めるような算段だったのだろう。

 事実、下鶴のシュートの後も、中盤の選手も含めてゴール付近へと迫っていた。

 つまるところ、完全に攻撃が失敗した今の状況は、彼らには想定できていなかった。

 

「くっ……至急、再計算を要求します! 相手の能力値も、その動きも! これでは我々の戦術パターンが通用しません!」

 

 下鶴が監督に向けて叫ぶ。妙な装置で顔を隠しており、顔色は窺えないが……あの焦りよう、監督としてもまったくの想定外であるらしい。

 確かに彼らは、雷門中に勝利するため、データ収集と分析を怠らなかったのだろう。

 無論、その計算には、私がどのような策を彼らに授けるかも含まれていよう。連中の小賢しさで、どこまで私の戦術に対応できるかは知らないが。

 とはいえ、前提が誤っていればその努力にはなんの意味もない。

 

「不破さん、その……円堂くんたちがうまく戦えてるからいいんですけど、どんな作戦なんですか? 御影専農の選手たちが、あんなに動揺するなんて……」

 

 趨勢が傾いたとはいえないが、互角にはなっているか、と考えていれば、木野がおずおずと尋ねてくる。

 春奈もこちらに目を向け――ついでに、冬海も聞き耳を立てている。

 当然だろう。今この瞬間に至るまで、私はこの試合における戦法を、スターティングメンバーの面々にしか伝えていない。

 伝えたのはこの会場に移動する直前。他言無用、誰に聞かれても口を滑らせるなと、十全に言い含めておいた。

 そのうえ、万一誰かから零れたところで、御影専農が即座に対処できるような策でもない。

 何故ならばこの試合の結末は、私をして未知数なのだから。

 

「さてな。想像がつかぬならば、この試合が終わり次第、円堂にでも聞くが良い」

「はぁ……作戦は分からないですけど、イナビカリ修練場の特訓の効果が凄いですね。相手の予想の上を行っているみたい」

「どこから拾得したデータを利用しているなど知らぬが、鵜呑みにしていては足を掬われる。連中には良い薬になったであろうよ」

 

 御影専農が、一体何を情報源としているかなど、想像がついている。だからこそ、相手の計算に大きな齟齬を与えることになった。

 つまらぬ小細工ではあったが、少なくとも私は面々の能力が把握できている。それほど大きな支障はない。

 まあ……この小細工の必要がなくなり、答え合わせをした時、春奈はさぞ怒るだろう。

 それに関しては、多少……負い目がないでもないが。

 

 ――その後、御影専農は攻撃に消極的になる。

 雷門中への対策のため、再計算の時間が必要だったのか、とにかく失点をしないことに集中したことで、染岡と豪炎寺も攻めきれず――両校無得点で前半は終了した。




【不破煌雅】
ノートに記載し、春奈に渡している各選手の能力データについて、帝国と同一の方式に見せかけて各能力に不自然にならない程度の下方修正を掛けている。
明確にこのデータを利用しているだろう存在が現れるまで……というか、フットボールフロンティアで帝国と当たるまでは継続するつもりだった。

【土門飛鳥】
そんなことはもちろん知らない。
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