イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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女帝の帰還-1

 

 

 久々に見た黒光りする装甲車に溜息をつく。

 相変わらず、正気の沙汰とは思えないほどに悪趣味だ。

 外観は物々しく、乗り心地も悪い。再三、あれに関しての不満は述べた筈だが、結局別の車両に取って替わられることはなかった。

 鬱屈とした気分を隠さずにいれば、内から赤いカーペットが伸び、整列したサッカー部の面々が出てくる。

 あの時継承したキャプテンマークを腕につけた有人を先頭としたメンバー。あれが今の帝国一軍チームか。

 現二年生を中心とした構成だな。下手に三年生に頼らず、来年のことも見据えた悪くないチームと言えよう。

 

「……帝国というのは、ずいぶんな趣味を持った学校なのね」

「あの度し難い装甲車のことであれば、余も実に不本意だった。可能なら帝国を去る際に一台残らず叩き潰すべき膿だったのだが」

「私が言いたいのはそこだけではないのだけど……」

 

 見覚えのない者たちは一年生か。生半可な鍛錬をしている訳ではないことは分かるが、この距離では実力までは測れない。

 まあ、試合を見ていれば読み取ることはできよう。『試合』と呼べる程度の代物になれば、だが。

 

「それで……不破さん。あなたはどうしてこの部屋から観戦しているのかしら……?」

「外で鬱陶しい視線を浴びながら観戦しろと?」

「……いえ、外の居心地はさぞ悪いでしょうけど……まあ、いいわ。校長室で観戦しようと思ったけど、ここでもさして変わらないし」

「移動したくば好きにせよ。この部屋を乱したりはせぬ」

「生徒会でもない人を残すのは問題があるのよ」

 

 双眼鏡を覗いてグラウンドを眺める雷門。付き合いがいいのか、私を信じる用意がないのか。

 一人で観戦できれば最良だったが、騒がしくもなく、不躾な視線も向けてこないならば構わないと妥協する。

 静かな部屋を求めて、最初に思いついたのがこの生徒会室。

 鍵さえ開いていれば良かったのだが、ちょうど施錠をしようとしていた雷門と遭遇したのだ。

 

「……せっかくだから言うけど、あれ、持って行ってくれないかしら?」

 

 雷門が指さしたのは、隅の机に置かれたサッカー部のユニフォーム。

 そういえば、あの円堂とかいうキャプテンがこの部屋に置いていったのだったか。

 

「サッカー部に返却に行けば良いだろうに」

「あなたが渡されたんだから、あなたがそうするのが筋でしょう……!」

 

 抗議の視線が向くが、単独である以上さほど気にするものでもない。

 しばらく無視していれば、雷門は諦めたように溜息をついて、再びグラウンドに目を向ける。

 まだ試合は始まっていない。

 グラウンドでは帝国のサッカー部がまばらに立ち、ウォーミングアップのためか軽く動き回っている。

 

「まったく……それにしても、流石は帝国ね。こうして見ているだけでも、信じられないような動きのキレだわ」

「……」

 

 有人の動きが硬いな。常に冷静であれと、私のみならずあの影山からも度々言われていた筈だが。

 ……いや、有人だけではない。他の面々も平静を装っているがぎこちなさが拭えていない。

 帝国の理想には程遠い。あれでは、まともに動ける二軍を出した方がいくらか良い。

 私が率いていれば、全員スターティングメンバーから外していたところだ。一体、有人は何を考えているのか。

 

「あれじゃあ、うちのサッカー部なんて練習にもならないかしら。……不破さん、やっぱり法螺よね? あれを一人でどうにかできるって」

「余を疑うのであれば過去の試合の映像でも見れば良いだろうに」

「見たわよ。けど、いまいちわからなかったわ。あなた、どの試合でも、自分は走り回ったりせずに歩いてばかりじゃないの」

「駆けるに足る試合であればそうするというだけの話よ」

 

 妙に勉強熱心な雷門に多少感心しつつも、帝国への疑念は拭えない。

 本当に、あのコンディションで戦おうというのか。如何に格下であろうが、帝国がこのような隙を晒すなど。

 小さな苛立ちは消えないまま、時間は過ぎる。

 雷門中サッカー部の方で何やらトラブルがあったようだが、それで試合が流れる筈もなく、キックオフの時はきた。

 

 雷門チームのフォワードが一度下げたボールを再度受け取ると、佐久間と寺門のスライディングを躱し、前線へと上がっていく。

 ……遊んでいるのか。それとも、あの者たちは道化に転職したのか。どちらにせよ、笑えた話ではないが。

 意図的に作った隙を突いて、雷門中はゴール付近まで攻め上がる。

 そうして、フォワードが蹴り込んだボールを、嘲笑うように一歩遅らせてから、源田が受け止めた。

 

「……あら。まあ、こんなものよね」

「……」

 

 そして源田が軽く放ったボールを受け止めた有人が寺門にパスし――放たれたシュートは円堂何某を突き飛ばし、最初のゴールを奪い取る。

 多少、動きはらしいものに戻ったようだが……それはどうしようもない茶番の開幕。

 ああ――こんなものを見せられれば理解はできる。

 あの者たちが何を求めているか。そして何を恐れているか。

 一点、また一点と、積み重なる点数。雷門中の選手たちを弄ぶ蹂躙劇。

 

 前半が終わった頃には、帝国は十点を奪っていた。

 

 

 +

 

 

「……」

「ねえ、不破さんっ、あなたさっきから何を怒っているの……!?」

 

 しばし閉じていた目蓋を開く。顔を上げれば、居心地悪そうな雷門と目が合った。

 別に隠していた訳でもないが、ハーフタイムで試合から意識を外したことで、私の苛立ちに気付いたらしい。

 一つ、深呼吸をして、苛立ちを鎮める。

 

「……許せ、雷門。見るに堪えぬ惨状だったゆえな」

「それには同意だけど……帝国が相手なら当然じゃないの。ようやくスタートラインに立ったばかりのサッカー部でまともな試合ができるわけがないわ」

 

 雷門の的外れな同意を受けつつ、雷門チームの面々に目を向ける。

 舐めてかかった帝国チームに無暗に走り回らされた前半、あれではどれだけの体力自慢でも疲労が勝る。

 事実、試合を満足に続行できる程度に体力を有している者は一人もいない。このまま後半を開始すればより悲惨なことになるなど、どれだけサッカーに無知な人間でも予測できる。

 もはや前半の最初のように、ごく僅かな活躍すらない。今や周囲の観客たちも、あれがただの『パフォーマンス』だと理解しただろう。

 より点差を広げる無様を晒すならば、ここで試合を放棄する方がまだ賢い選択というもの。

 褒められる選択ではないものの、醜く足掻くよりは同情からの称賛も受けられよう。

 

 ――だが。

 

「……ほう」

 

 どうやら彼らは、諦めという言葉を忘却したらしい。立ち上がって奮起する円堂に応じ、半数は渋々といった様子ではあるが――帝国を相手に戦い続けるという道を選んだ。

 まともに走る体力さえない者も、過度に痛めつけられた者も、等しくその闘志を消していない。

 膝を震わせながら立ち上がり、帝国を睨み据える。

 力の限り噛みついたところで傷一つ付かないだろうに、それでも獅子の群れに抗う、窮鼠の群れか。

 なれば、応じるべきだろう。相手が虫であろうが鼠であろうが、戦う覚悟を決めた者であるならば、力でもって叩き潰す。それが、私が求めた帝国であった。

 ……思えば、あれほどまでに闘志を燃やす相手に出会ったことがあったか。

 空元気で立ち向かってきても、どこかに諦めを抱く者ばかりであった。ああいうチームがいれば、あの時ほどの退屈は抱かなかったであろうに。

 

 始まった後半。早々に、鬼道を中心として佐久間、寺門、小柄な一年生が上がっていく。

 ありふれた戦法だ。長い後半、早々に勢いをつけるためにあえて大きく動くことは、対等に近い相手であれば有効といえる。

 ――此度の目的は、まったく違うが。

 遠目に眺める私の呆れを察せる筈もなく、有人が蹴り上げたボールを囲むように、三人が飛び上がった。

 タイミングと速度を完全に合わせた個々の回転によるエネルギーの充填。あれは、やろうとして真似のできる代物ではない。

 確固たる意思統一がなければ成功しない、帝国サッカーの象徴たる必殺技――『デスゾーン』。

 必殺技を持たない雷門チームが防げるものでは断じてなく、無情にも十一点目を知らせるホイッスルが鳴った。

 

「……あれが帝国の必殺技……遠目に見ただけでも寒気がするわね。あんなものを日常的に練習しているの?」

「貴様が想像するほど激しい鍛錬は必要ない。『デスゾーン(あれ)』に必要なのは意思の統一。鍛錬の様子を見れば貴様も失笑するだろうよ」

 

 そも、『デスゾーン』は身体的な技術を十分に満たすことが、使用者の候補に挙がる第一条件。

 あのように動き、気を溜める鍛錬など殆ど行わない。帝国の象徴でありながら、その鍛錬はずいぶんと地味なものだ。

 無論、それを地味と口に出す者は、あれがどれだけ高度な技術によって成立する必殺技なのかを知る帝国チームには一人もいないが。

 

「そうなの? まあ、経験者だろうあなたが言うんだから、間違いないんでしょうけど……」

「あれは余が使う技ではない。見たであろう。あの技において、司令塔は始動役に徹する」

 

 ゆえに司令塔に隙が生まれず、防がれた場合も即座に対応できる。

 帝国に代々伝わるに相応しい理に適った必殺技と言えるだろう。

 あれを受ければ、ほぼ等しく相手は戦意を喪失する。さて、どうだと目を向けてみれば――まだ、折れていないか。

 認めよう、あの根性だけは、彼らは帝国を凌駕する。

 自分たちにとって最も警戒すべき特性を持っていると、果たして彼らは気付いているだろうか。

 それにさえ気付いていないのであれば。あるいは、気付いたところで覆しようがないと考えているのであれば。

 

「……愚か者どもが」

「え……?」

 

 そこから、帝国は攻撃のパターンを変えた。

 手を抜いた遊びではない。多彩な必殺技を使い、より雷門チームを痛めつける方針に。

 『サイクロン』、『キラースライド』、『アースクエイク』、『百烈ショット』――帝国が力を示すために有する必殺技の数々。

 さらには……『ジャッジスルー』。あれも、帝国に相応しくないと、私が廃した技であった筈だが。

 それが、相手を徹底的に叩き潰す目的なのであれば、黙殺してやることも考えた。

 だが、彼らの目的は雷門チームではない。あの蹂躙は、ただの餌だ。

 

 ……そうか。なるほど。

 お前たちがサッカーに政を挟むようになったのであれば、是非もない。

 年月が経てば仕来りも変わるもの。私が示した帝国の在り方は、よほど強く刻んでやったつもりだが、どうやら見込み違いであったらしい。

 影山の手が早かったのか。それとも後輩たちを過大評価していたのか。

 どちらでも構うまい。どうあれ、私のすべきことは決まった。

 部屋の隅に置かれたそれを手に取り、思い切りビニールを破く。……生地はさして上質でもないか、当然だが。

 

「ちょ、不破さん、何して……バッ……鍵! 鍵!」

 

 慌てて入口の鍵を掛けにいく雷門に騒がしさを感じつつも、眼鏡を置き、制服を脱ぎ始める。

 あのアウターがあれば良かったのだが、あれは家だ。このようなこと、想定していなかったのだから仕方あるまい。

 広げたユニフォーム。特に考えず、最初に手に取ったものを置いていったのだろう。

 背番号『20』の刻まれたそれに鼻を鳴らし、身に着けていく。

 

「一体……どういうつもりなの? 今更あなたが行ったところで、逆転なんて……!」

「必要があればそうするが、不要だろうよ。そも、余は勝ちに行こうという訳ではない」

 

 ふん……業腹だが、久方ぶりのこの動きやすさには、否応にも熱が高まる。

 だが、落ち着け。愉しむ展開にはなるまいよ。

 

「――覇道の意味を忘れた愚か者どもを、誅しに行くだけだ」




【雷門夏未】
大体不破のぶっ飛んだ思考に振り回される役柄。

【帝国サッカー部】
やっていることは変わらないが、原作よりもテンションが低い。
鬼道なんかは(本当に頼むから早く出てこい、豪炎寺……!)ってなってる。
おおむね影山のせい。
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