イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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女帝と雷門中サッカー部

 

 

 雷門中と帝国の練習試合から数日。

 私は雷門、そしてサッカー部のマネージャーである木野、そして雷門の執事とかいう初老の男とともに、掘っ立て小屋……もといサッカー部の部室へと向かっていた。

 理由こそ聞かされてはいないが、おおよそ想像もつく。この時まで私が一人で赴くことがなかったのは、雷門の判断に理があると判断したがためだった。

 

「あの……不破先輩。この間の試合はありがとうございました。おかげで廃部なんてことにならなくて……」

「どうして私の方を見るのかしら」

 

 もの言いたげに雷門を見る木野。

 円堂と一緒に、あの日生徒会室に来ていたということは、彼女も雷門に振り回され、部員集めに奔走していたのだろう。ご苦労なことだ。

 

「余がおらずとも結果は変わらなかった。豪炎寺修也がいるだけで済んだ話よ」

「でも、やっぱりうちの最初の一点は先輩ですから。先輩に憧れている部員も多いんです」

 

 勘定には入れるなと言っておいた筈だが、そうもいかないようだ。

 素直に豪炎寺のシュートを最初の得点と意識していた方が、よほど精神的な支えになるだろうに。

 円堂に限らず、どうもこのサッカー部というものは頑固な人間の集まりであるらしい。

 

「憧れるのはいいけど、同じことができるとは思わないことよ。私も何かの冗談かと思ってたのに、本当に歩くだけで帝国相手にゴールするなんて……」

「それはさすがに、みんなできると思ってないわ。……練習で真似しようとしている子はいるけど」

「好きにせよ。素養があれば誰でもできることに過ぎぬ」

「その素養が誰にもないのよ……」

 

 そも、先の試合において、私がいた時間は既に試合としての体を成していなかった。

 本来の帝国であればあれほどの無様は晒さない。私も一方的な試合にしようと思えば、それなりに気を張る必要があっただろう。

 そんな雑談をしているうちに、サッカー部の部室に辿り着く。

 ……近場で見れば、本当にひどいな。入るどころか、近付くにも躊躇があるのは、雷門も同じであるらしい。

 私たちの心情を木野が理解することもなく、今にも外れそうな扉が開かれた。

 

「みんな、お客さんよ……何かあったの?」

 

 入っても大事はないのだろうか。今にも崩れそうな印象を受けるが。

 雷門は私よりは躊躇いが少ないようで、木野に続いてさっさと中に入っていく。

 

「……臭いわ」

 

 より入るに拒否感を生まれる一言。本当に何か、悪影響などないのだろうか。

 不安を覚えつつも、雷門が悪態を続けていれば進む話も進むまい。

 それに、これ以上執事の男にあれを抱えさせ続ける訳にもいかない。仕方ないが、入るほかなかろう。

 

「邪魔をするぞ、サッカー部」

「どわああああ!?」

「ふ、不破さん……!?」

 

 たちまち騒がしくなった、よく声の籠る小さな室内に、早々に嫌気がさしつつも部屋を見渡し――ちょうど部屋の一角が空いていた。

 

「そこで良い。手間をかけたな」

「いえいえ。お嬢様の命ですから、なんのことはございません」

 

 よくできた執事だな。ここまで文句も零さず、彼はそれを運んできた。決して軽いものではあるまいに。

 部屋の角に置かれたのは、一つの椅子。言うまでもなく、雷門に用意させたものである。

 かつて帝国にあった玉座には遠く及ばないものの、あれがあったところでこの部室では浮くばかりだろう。

 座った心地に難がないだけでも十分だ。

 

「おいマネージャー、一体どういうことだよ。不破……さんはともかく、そいつは何しに来やがった」

「あら、ずいぶんな言葉ね。たった一つ勝ちを拾っただけで思い上がっているんじゃないかしら?」

「んだと!?」

 

 ふむ……埃が気になるな。碌に掃除もしていないのだろう。

 雷門に言えばこちらもどうにかなるだろうか。こんな場所では思考をまとめることもままなるまい。

 

「到底誇ることのできない勝利ではあるけど、廃部だけは免れたようで何よりよ」

「おう! これからどんどん試合して、強くなっていくからな!」

 

 意気軒高な円堂。勝利ともいえない勝利であったが、発破にはなったようだ。

 他の部員たちもその意思はあるようで、円堂の宣言に強気に笑う。

 勝利すること、強くあることは大前提であった帝国とは、やはり雰囲気からしてまるで異なるな。

 

「そういうと思って、次の練習試合を組んであげたわ」

 

 ……ずいぶんと積極的だな、雷門。意外とサッカー部に入れ込んでいるのだろうか。

 

「本当か! 一体どこと……?」

「尾刈斗中。試合は一週間後よ」

「尾刈斗中……? どこの学校だっけ?」

「知らないけど……とにかく試合だ! みんな、張り切っていこうぜ!」

 

 ほう――尾刈斗中か。

 あの連中とは試合の経験もない。他の試合を見ての印象だが、今のこの者たちが勝てないと断じるほどではない。

 とはいえ、駆け出しのサッカー部が試合をするには、いささか奇抜な学校だ。

 沸き立つ面々に、雷門は微笑む。……まったく、やはりというべきか、親切で試合を組んでやった訳ではないらしい。

 そして、そう思ったのは私だけではないようだ。

 先ほどから雷門に嚙みついている、坊主頭のフォワードは疑いの目を向けたままだ。

 

「待てよ。どうせただ試合しろってだけじゃないんだろ」

「察しがいいわね。ええ、その通り。もしこの試合に勝つことができなければ、サッカー部はただちに廃部よ」

「雷門、貴様は零細の部活動を廃部にする趣味でもあるのか」

「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!? 先の帝国戦だけじゃ彼らの実力が示せていないでしょう!?」

 

 さすがに否定せざるを得ないほどに低俗な趣味だ。

 このまま廃部を匂わせて徹底的にこの部を弄ぶつもりであれば、雷門との付き合いも考えねばなるまい。

 

「負ければ廃部ではあるけど! もし勝てば! フットボールフロンティアへの出場を認めてあげるわ!」

 

 なるほど、そういう条件だったか。

 どこか自棄になったように雷門から提示された『ご褒美』に、目を瞬かせていた面々は再び沸き立った。

 日本の中学サッカー界における頂点を決める大会。

 私からすれば当たり前のものであったが、このサッカー部は参戦を勝ち取るところから始まるわけか。

 これはまた、新鮮なスタート地点だ。

 

「まったく……それから、気になっているでしょうけど、彼女についてよ」

 

 感じたことのない、新鮮な価値観。

 それに妙な感慨を抱いていれば、雷門が私の傍に移動する。

 

「不破煌雅さん。この前の試合はもちろんだけど、まさか彼女の去年までの活躍を知らない人はいないわよね?」

「そりゃあ、まあ……陸上部だった俺でも知っているレベルだけど……」

 

 そういえば、寄せ集めもいいところだったな。このサッカー部は。

 あの試合で私が下がらせた青髪は、どうにも疑念を含んだ視線を向けてくる。

 不躾なそれを咎めても良かったが、話の腰を折っても仕方あるまい。

 私も時間を無駄にしたい訳ではないのだ。

 

「喜びなさい。どうやら彼女は、サッカー部に入ってくれるそうよ」

「本当ですか!?」

 

 ――サッカーには飽いた。それは紛れもない本音である。

 だが、一度興が醒めてなお、このサッカー部は私に対して『面白い』と感じさせた。

 ここに来た理由はそれだけだ。ここならば、私の知らないサッカーの世界というものがあるのだろうと。

 とはいえ……ここはまだ、私が本気を出すに足るサッカー部には遠く及んでいないが。

 

「前の試合に来た時は一体何事かと思ったけど……まさか本当に入部するなんて」

「あの不破さんがサッカー部に入ってくれるなら、フットボールフロンティアの優勝だって夢じゃないでやんすよ!」

「そう、それよ。入部は認めたけど、不破さんを頼ってばかりで他の部員がまるで役をしていないサッカー部と言われるのは嫌でしょう?」

 

 サッカーが一人で行うスポーツではないにしろ、私一人でどうとでもできるというのが現状の中学サッカー界であることは厳然たる事実だ。

 だが、帝国のように私がチームを率いるのでもなく、私一人が戦うだけで良いのであれば、それでは再開した意味もない。

 ゆえに、私は一つの方針を定めた。

 

「だから、暫くの間……少なくとも、あなたたちが全国で戦えるようなレベルに達するまで、不破さんの試合への出場を禁止するわ。これは不破さんも同意した方針だから、文句は彼女に言いなさい」

 

 何かの当てつけのように、私に押し付けてきた雷門。

 ざわつきが広がるが、その一方で納得した様子を見せる者も多少なり存在する。

 自分たちがどうしようもないほどに実力不足であることを理解している者たちなのだろう。

 

「しばらくは不破さんには、あなたたちの指導や指揮に徹してもらいます。監督の冬海先生がどこまでやってくれているか知らないけれど、さらに本格的に教えてくれると思うわよ」

 

 コーチ、監督の真似事。彼らの監督であるというあの教師はそこまで優秀ではないらしい。

 腑に落ちていないように首を傾げる者たちに、雷門は苦笑する。

 あれは、どちらかというと私に向けたものだな。

 幸先が不安であることへの笑いだ。人の苦労を笑うとは、やはり趣味が悪いのではないか、この女。

 

「それじゃあ、不破さん。あとはよろしくお願いするわね。その椅子は好きに使ってちょうだい」

 

 私の呆れに気付いているのか、いないのか。

 雷門はそれだけ言い残し、執事を伴って部屋を出ていく。

 当然、残った私にすべての視線は向いた。

 

「そういうわけだ。貴様たちはまだ余と共に戦うに足る域にはない。ゆえに、強くなれ。余の期待に応え続ける限りは、勝利というものを下賜してくれる」

「すっごい上から目線っす……」

「当然であろう。余と貴様たちが同じ次元にあるなどと思い上がるな」

 

 当面のこと、私自身がサッカーをする訳ではない。

 指揮はともかく、指導はそれほど経験がないが、私であれば問題はないとして。

 彼らのその意欲と、私にそれを続けるほど、彼らへの関心が続くかどうかは不明だ。

 

「けど、いきなり指導ったってよ……」

「方針もなく鍛錬に打ち込んだところで実るものもない。余の所属するサッカー部に半端は許されぬ」

「――みんな。不破さんの指導、やってみようぜ! とにかく、次の練習試合に勝てなきゃ廃部なんだ。今の俺たちに必要なのは、少しでも早く、少しでも強くなることだ!」

「然り。精々励めよ、雷門サッカー部」

 

 手を叩いてその場を纏めるのは、やはりキャプテンである円堂だった。

 確かに、当面は廃部を免れるための、次の一勝か。それを奪取しなければ、フットボールフロンティアにも至れない。

 指揮すべきは素人だらけのサッカー部……実に新鮮ではないか。

 その状況も、なかなかに愉快だと感じつつ、名前も知らぬ部員たちを見渡し、ようやく、豪炎寺の姿がないことに気付く。

 

「それで、豪炎寺修也はどうした?」

「ああ……豪炎寺は入部していないんです。また声をかけてみるつもりですけど……」

 

 ふむ、奮起したかと思ったが、私の見込み違いだったか。

 彼がいれば、それだけで幾分まともなチームになったのだが、ないものを求めるのは愚かだ。

 既にいくつか考えていた、豪炎寺ありきの戦術を白紙にしつつ、代案を組み立てていれば、坊主頭が机を叩いて立ち上がった。

 

「豪炎寺なんて必要ねえ! このチームには俺がいる!」

「ふむ。貴様、名は?」

「染岡竜吾、雷門のエースストライカーだ!」

 

 そういえば、転校してきた頃、この部室の前にいた三人に、この男の姿を見た覚えもある。

 少なくともこの部の中では、サッカーの経験はある方なのだろう。

 帝国戦でのシュートを見る限り、まだその本質が目覚めるには遠いように思えるが……彼がこのチームのストライカーか。

 尾刈斗中との試合までに、可能な限り磨くほかあるまい。

 想定を裏切られ、思いのほか前途多難なサッカー部を前に、私は大きく溜息をつくほかなかった。




【不破煌雅】
雷門中サッカー部に入部した、元帝国学園の女帝。
「こいつ一人でいいんじゃないかな」というレベルで戦力過多な存在のため、しばらくの間、選手としては出場しない。
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