イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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呪いの唄と雷の声-1

 

 

 尾刈斗中との練習試合当日。

 雷門中サッカー部に、ここにきて大きな変革が訪れていた。

 面々にとってこれから先への希望になるやもしれないものの、私からすれば、今の状況においてはそれほど歓迎はできない事態である。

 

「豪炎寺! 来てくれたんだな!」

「ああ。円堂……俺、やるよ。お前たちのサッカー部に入る」

 

 炎のストライカー、豪炎寺修也。彼は帝国との試合で乱入した後、そのままサッカー部に入ることはなかった。

 円堂ははじめ、彼を引き込むことに熱心だったものの、何か心変わりがあったのか、ここ数日はそれも大人しくなっていたが。

 どうやら、その心変わりは円堂に限った話ではないようだ。

 豪炎寺は円堂の熱烈な歓迎を受けながらも、面々を見渡した。

 

「……豪炎寺修也だ。よろしく頼む」

「すごい……! 豪炎寺さんまで入ってくれるなんて!」

「豪炎寺さんが来てくれたなら百人力っす!」

「これなら尾刈斗中なんて一捻りでやんすよ!」

 

 彼らにとっては廃部のかかった試合の直前。

 そこに入ってきた、全国に通用するストライカー。当然ながら、こういう騒ぎが起きるわけだ。

 この一週間で多少なり、自信をつけさせた筈だったが、一年生ともなるとこの出来事に希望を感じてしまうのは避けられまい。

 私としても、興味深い出来事ではあるものの、明日でも良かったであろう事態の落としどころを思考しているうちに、豪炎寺は私の前までやってきて、頭を下げた。

 

「先日の試合では、ありがとうございました。あの時の言葉で、もう一度コートに立つべきだと決心がついたんです」

「余は何もしておらぬ。貴様にとって覚悟が必要なことだったならば、それを果たしたのは貴様自身だ」

 

 事情は聞きはしない。

 どうあれもう一度サッカーという舞台に戻ってきて、そしてこの部に入ったのならば、そのように扱うまでだ。

 

「チッ……今更出てきやがって。言っておくが、このチームにはストライカーは足りてるんだ。お前の出る幕はないぜ」

 

 豪炎寺の登場に浮かれるばかりではなく、不満を思う者もいる。

 さっそくとばかりに染岡が突っかかり、円堂が宥めるように間に立つ。

 

「そういうなって染岡! ストライカーが二人なら攻撃力も二倍だ! 二人でガンガンゴールを決めてくれよ!」

「必要ねえよ、こんなヤツ! 俺の必殺シュートがあれば十分だ! エースストライカーの座は渡さねえ!」

「――そうか。雷門のストライカーは結構つまらないことに拘るんだな」

「んだとぉ!?」

 

 売り言葉に買い言葉。豪炎寺のそれは、本心なのかもしれないが。

 染岡には対抗意識は無駄になると諭したつもりだったが、性格上それは無理な話か。

 もはや何も言うまい。同じチームにいる状況で、意識するなというのも酷だろう。

 

「ともかくだ。円堂、豪炎寺を選手として申請しておけ」

「っとと、そうだった!」

 

 出すのかよ、とでも言いたげな染岡だが、それ以上の文句を口には出させない。

 必要であれば使う。豪炎寺が不要だというのなら、結果で示せば良いだけの話だ。

 ともかく、豪炎寺の使い方を含め、思考に沈もうとした矢先、部室の扉は開かれる。

 入ってきたのは、この部の顧問であり監督でもあるという教師、冬海だった。

 

「尾刈斗中が来ましたよ。準備はできていますね――おや、豪炎寺くん。あなたも入部したんですか」

 

 会話など碌に交わしたこともないが、この男は裁定するまでもない小物だ。

 この部においては監督として名前を貸しているのみ。彼がいなくてはならない理由、価値はあるものの、それ以外を求めて思考を傾ける時間も惜しい。

 ……下らない妄言を唆す気概もない辺り、影山よりは無害だといえるが。

 

「……であれば、期待していますよ。是非とも大活躍して、その力を示してください」

「……はぁ」

 

 その信用を預ける意味のなさを豪炎寺も悟ったのか、その返答は気が乗っていない。

 他の面々にも、冬海を好意的に見ている様子は見られなかった。

 監督としてはともかく、教師として信用に足る存在であればあのような視線は向けられない筈だが、どうやらそちらも碌なものではないらしい。

 

「そ……それから不破さん。あなたも、選手として……ひっ!?」

 

 不躾な戯れ言を宣おうとした冬海を視線で黙らせ、立ち上がる。

 この男に指揮権などない。本気で勝ちを求めているようには見えないが、何をもって私をフィールドに立たせようとしたのか。

 まあ良い、此度の試合がどのように動こうと、私が出ることなどない。

 部室を出てグラウンドに向かえば、そこにはまるでホラー映画の世界から出てきたような雰囲気のチームが立っていた。

 

「……不気味だ」

「お前が言うな……」

 

 影野と半田のぼやきを聞き流しつつそれに近付く。

 不気味に感じるのは当然であり、それがあの連中の狙いでもある。

 あれが素であるのかは知らないが、彼らの演出の一環として機能しているのだ。

 

「風貌を気にかけるな。あの連中が何を得手としているかは伝えた筈だ」

「気にするなって言っても……」

「余は策を授けた。それを受け入れ、フットボールフロンティアへの出場権を得るか、廃部となるかは貴様たち次第だ」

 

 無論、彼らにとってその策が困惑するものであることは理解している。

 だが、実力の不足している者があの連中と戦うにおいて、最も堅実な勝利を掴む手段だ。

 

「どうも初めまして。尾刈斗中監督の地木流と申します」

「あ、ああ、どうも……」

 

 歩み寄ってきた尾刈斗中の監督が、冬海と挨拶を交わす。

 あの変わり者たちを率いる人間とは思えない、人好きのする笑みではあるが、彼の本質はそれだけではあるまい。

 その、本心ではあるだろうが裏の見える笑みを、彼は私と豪炎寺に向けてきた。

 

「豪炎寺修也くん、そして不破煌雅くんですね。いやあ、お二人と戦えるなんて光栄です。今日はお手柔らかにお願いしますよ」

 

 なるほど。それが目的だったか。

 雷門は『練習試合を組んだ』とは言ったものの、それが向こうから申し込まれたものであることは明白。

 どれほど粗末な勝利であったにせよ、帝国に勝利した雷門中には注目が集まっているだろう。

 その力を見極めてみたいというのは当然の帰結だ。

 

「おい、待てよ。あんたたちの相手は俺たち全員だろうが」

 

 地木流の言葉に気を害したのか、染岡が苛立たしげに詰め寄る。

 本当に誰にでも噛みつくやつだな。口先だけではない、といえる程度の攻撃力を手に入れられたのが救いだが。

 

「……? ああ、失礼しました。確かに、サッカーは二人ではできませんからね。数合わせの皆さんも、よろしくお願いしますよ」

「数合わせだと!?」

「意気軒高で実に結構、これは良い試合が期待できますねぇ」

 

 しかし、確かにこの連中、小細工ばかりは噂通り達者なようだ。

 これで面々は尾刈斗中に反感を抱かざるを得なくなった。

 

「くそ、馬鹿にしやがって……!」

「やめろ染岡! 試合で示してやればいいんだ、俺たちの力を!」

「然り。貴様たちは鍛錬通りの動きに努めれば良い」

 

 円堂の言葉で最低限、軌道修正はできたか。

 ならば授けた策も機能するだろうと判断し、スターティングメンバ―とする面々を送り出す。

 

「は……? ち、ちょっと待ってください! お二人は何故出ないんですか!」

 

 私や豪炎寺が目的であったならば、当然狼狽えるだろう。

 送り出したのは、豪炎寺を除く十一人。

 まだ彼らは幸運なものだ。豪炎寺の入部が間に合っていなければ、姿すら見ることができなかったのだから。

 

「余がそう決めた。他に理由など不要だろうに」

「し、しかしですね! 私たちはお二人と戦うために……」

「なれば引き摺り出せば良かろう。それに足る相手であると、貴様たちが示せば良いだけの話だ」

 

 地木流と、他にも何か言いたげな冬海をその場に置いて、ベンチへと向かう。

 ついてくる豪炎寺には不満の色はない。私の意図を既に把握しているのだろう。

 

「悪く思うなよ、豪炎寺」

「分かっています。昨日まで練習していたのは、あの十一人を前提にした連携でしょう。今から俺が入っても、和を乱すだけです」

「あの者たちの力を見定めよ。後半にはあの中で動けるようにしておけ」

 

 今の雷門サッカー部は、豪炎寺がいる前提の動きを学ばせていない。

 この状態で不用意に彼をスターティングメンバ―にしたところで、彼を頼ることによる油断や隙を生むだけだ。

 であれば、彼らが自分たちだけで戦えることを先に自覚させる。

 その上で豪炎寺にも、自身が入るチームの力量を把握してもらう。

 そも、この試合で手にする勝利は副次的なものでしかない。これは、このチームの完成度を引き上げるための試合だ。

 

「さあ、いよいよ始まります! 雷門中サッカー部と尾刈斗中サッカー部の練習試合! 今回の実況もこの角馬圭太でお送りいたします!」

 

 ……聞いたところによると、あの角馬なる男は別にサッカー部に関わりがある訳ではなく、将棋部の一般生徒であるらしい。

 つまるところ、あの実況はただの趣味であるということ。

 好きにすれば良いとは思うが……もしかして全国大会でもないのに、喧しい実況が付きまとうのだろうか。

 

「よーし、やるぞみんな!」

 

 とはいえ、実況で気が滅入るのは私くらいらしく、円堂を中心に気合が入った様子。彼らのやる気がなくなるよりは良い。

 私だけが憂鬱な気分になっている中、試合は始まった。

 

「さあ、キックオフです! 武羅渡から幽谷、そして月村へ! 月村、軽快なドリブルで上がっていく!」

「お、追いつけないっす!」

 

 ディフェンダー、壁山の大柄な体格は守りに有効ではあるが、身軽さを売りにする選手を相手にするには本人の経験が不足している。

 追いつけないのは当然だ。私はそもそもこの一週間、ディフェンスの鍛錬をさほどさせていないのだから。

 特に苦戦も見せずにゴール前まで上がっていった月村なる選手は、荒々しい蹴りでボールを打ち上げる。

 

「ファントムシュート!」

 

 放たれた球はエネルギーを帯びて五つに分裂し、それぞれが不規則な軌道でゴールへと迫っていく。

 珍しい性質のシュートだ。『初手』を捨てた必殺技というのは、帝国にいた頃もそれほど見たことがない。

 あの内の一つがゴールに至れば、というような投げやりな目的でもあるまい。

 確かにあのシュートは、本体を見切る力がなければ攻略に手間取るだろう。

 だが、それができずとも確実に止める手段が存在する。

 円堂も、それをすぐに理解したらしい。握り込んだ右手に集まった力で、そのための必殺技を発動する。

 

「――ゴッドハンド!」

 

 顕現した巨大な手が、幻影をすべて掻き消し、ボールを受け止める。

 この一週間で、円堂には帝国で見せたこの『ゴッドハンド』を安定して繰り出せるように努めさせた。

 今の円堂であれば、これが最適解だ。すなわち、分裂したエネルギーすべてを捉えられる必殺技で防御してしまえば良い。

 あのシュート自体に大きな威力はない。同じ必殺技同士のぶつかり合いであれば、負けることはない。

 たちまち威力を殺し切った円堂は、即座に攻撃に回る。

 

「いくぞ! 練習通りだ! 栗松!」

「わかったでやんす! よ、よし……宍戸!」

 

 ふむ……意識はできているな。

 円堂からボールが渡った栗松が、すぐさま宍戸へパスをする。

 さらに宍戸から松野へ、そして松野が目金へダイレクトパスとつなげていく。

 

「今です、染岡くん!」

「おう! 任せとけっ!」

「雷門中、素晴らしい速度のカウンター! 見事なパス回しであっという間に染岡にボールが渡った!」

 

 華があるとはいえないが、ボールを獲得してからの攻撃パターンを定めておくことは戦術の要になる。

 今は臨機応変でなくとも良い。これが通用する相手である内は、最も実力を引き出す手段だ。

 

「喰らえ! ドラゴンクラッシュ――!」

「何……っ!?」

 

 竜が吼える。放たれたシュートは向こうのキーパーが素で受け止められる威力を凌駕していた。

 そして、動揺により必殺技を発動する猶予もなく、青く輝く一撃がゴールネットを揺らす。

 

「ゴールッ! 雷門中先制! 染岡の必殺シュートがゴールに突き刺さりました!」

 

 一点目。ここまでは順当。

 だが――浮かれ過ぎているな。たった一点で安心できる相手でもあるまいに。

 これで油断が生まれなければ良いが、と思いつつ、ここから先の展開を組み立てる。

 私の期待通りに彼らが励めば、勝ち越したまま前半を終えられるが、逆転されたとしても問題はない。

 前半のうちに、連中が手品を使い始めれば良い。

 尾刈斗中が切り札を出し惜しむ性質でなければ、あと一点も取れば危機感を覚えるだろう。




【豪炎寺修也】
原作と比べ、サッカー部への入部が数日遅れたものの、彼らに期待されるストライカーであることは変わりない。
変わりないが、この一週間、不破が徹底させた連携の練習に豪炎寺は含まれていないため、前半はベンチとなった。

【尾刈斗中サッカー部】
キャプテン・幽谷を中心とした積極的な攻撃が特徴のチーム。
純粋なサッカーの技量は平均的だが、変則的に切り替わる陣形をはじめとした搦め手を武器とする。
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