イナズマの女帝   作:主要人物の実姉概念が流行ってほしい人

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呪いの唄と雷の声-2

 

 

「ドラゴンクラッシュ!」

「ぐぅ……っ!」

 

 轟く竜のシュートが、再び放たれる。

 尾刈斗中キーパーの鉈はパンチングで防ごうとするも、威力を削り切ることはできなかった。

 

「ゴール! 前半わずか十分で雷門中二点目!」

 

 攻撃力は足りているが、思いのほか勢いに乗りすぎているな。

 好ましい展開とはいえない。間違いなく尾刈斗中は焦りを覚えているだろうが、この勢いで調子に乗らないほど、こちらの面々は勝利に慣れてはいない。

 であれば、それは大きな隙になる。

 

「よっしゃあ! いいぞ染岡! このままガンガン決めていけ!」

「おう! なんだ、不気味なヤツらだと思ったら、とんだ虚仮脅しじゃねえか」

 

 先制点だけならばまだしも、二点も取ってしまえば浮かれずにはいられまい。

 そして、油断を突くことが尾刈斗中の戦い方である以上、落ち着かせるべきではある。

 だが……ここで尾刈斗中が動き出すならば、一度流すべきか。

 あの連中のつまらない手管はともかくとして、優位であることに浮かれればどうなるかを、彼らは学んでおくべきだ。

 

「まさか、こんな必殺技を持っていたなんて……なるほど、やるじゃないですか。ですが……それならこちらも出し惜しむ必要はありませんね」

 

 期待通り、向こうも動き出すようだ。

 当初の想定よりも早いものの、無暗に手を抜かれるよりは良い。

 ホイッスルが鳴り、前線に上がっていく尾刈斗のメンバー。その動きはこれまでと異なる、奇妙な歩法であった。

 不規則に各々が入れ替わり、一見意味の見出せないパス回しも相まって、相手をたちまち困惑に落としていく。

 

「まったく――いつまでも調子に乗ってんじゃねえぞ、雑魚どもが! てめぇら! そいつらに地獄を見せてやれ!」

 

 人格が豹変したように、突如として声を荒げた地木流。

 なんだあの情緒不安定は、と意識を傾けていれば、彼は立ち上がり、『呪い』を呼び込むための唄を諳んじ始めた。

 

「マーレ・マーレ・マレトマレ、マーレ・マーレ・マレトマレ……!」

 

 よもやと思っていたが……あれは、虚仮脅しというよりは子供騙しの類だな。

 あの監督までもが積極的に引き金になるとは。あれでは彼が十二人目の選手であるも同然だ。

 豹変により、誰もがあの男を注目せざるを得なくなる。

 そして、その言の葉を耳に受けながら、選手たちの不規則な動きを前にしていれば、脳はたちまち混乱していく。

 こうなれば彼らの術中。既に彼らが思うように操れてしまう状態だ。

 

「なんだか知らないけど……みんな、油断するな! 落ち着いて相手の動きをよく見るんだ!」

 

 ……それでは駄目なのだが、異なる動きをし始めれば警戒するのは当然か。

 呆れつつも見ているうちに、キャプテンの幽谷が中心となった必殺タクティクスは発動する。

 

「動くな――ゴーストロック!」

「っ!? あ、足が……!?」

「動かないっす!」

「ふふ、これが尾刈斗の呪いだ。楽しんでくれよ」

 

 監督も含め、チーム総出で相手を縛り、操る特異な立ち回り。

 これは再評価が必要だな。あれほど大掛かりなことができるならば、手品として一見の価値はあるだろう。

 止まれ、という命令に、無意識のうちに動かなくなった体。

 棒立ちになってしまえば、考慮すべき相手としても数える必要はなくなる。

 影野や壁山たちディフェンダーのみならず円堂もその制御下に置かれてしまい、勢いのないシュートに手を伸ばすこともできず、ゴールネットは揺らされた。

 

「恐るべし、尾刈斗中のゴーストロック! 二対一、まずは一点返しました!」

 

 しかし……どうにもこういう試合運びは新鮮に感じるな。

 帝国であれば、わざわざこのような戦法に付き合うことはまずない。

 相手が何か、小細工を弄したところで、個々が即座に対処してしまえるだろう。

 あの『ゴーストロック』とやらの攻略も、その試合におけるテーマになることはない。

 

「くそっ、何が呪いだ! もう一回突き放してやる!」

 

 試合の再開、しかし直情的な染岡は、取り決めさせたパス回しも忘れ、単独で前線に上がっていく。

 尾刈斗中の面々も安堵しているだろうな。これが彼らの勝利のパターンなのだろう。

 相手が呪いを信じ、そして焦れば焦るほど、そこに付け入りやすくなる。

 

「無駄だ……もうお前のシュートは通用しない」

「うるせえ! 負け惜しみ言ってんじゃねえっ!」

 

 三度、放たれた『ドラゴンクラッシュ』――染岡はそう信じているようだが、その威力は本来のものに遠く及んでいない。

 そして、ボールの軌道はキーパーの真正面。

 あの独特な手の動きによって操られているのだろう。

 見かけだけのシュートが通用する筈もなく、ボールは当たり前のように受け止められた。

 

「何……っ!?」

「これが、ゆがむ空間……この技の前では、どのようなシュートも無力……!」

 

 これで攻守ともに、尾刈斗中がペースを握ったも同然。

 再度、発動された『ゴーストロック』により動けなくなった面々の傍を悠々と抜けて、幽谷が二点目を決めた。

 

「お、お姉ちゃん……やっぱり、これが尾刈斗中の呪いなんじゃ……」

「そうであろうな。だが、春奈。あれを呪いなどと宣うのはやめよ、片腹痛い」

「ニコリともしてない……お姉ちゃん、やっぱり試合の映像をみんなに見せておいた方が良かったんじゃないの? そうすれば、何か対策みたいなのも取れたかもしれないのに……」

 

 隣に座る春奈はどうにも不安げだ。

 数日前、尾刈斗中の練習試合の映像を春奈が見つけていたものの、私は他の者たちに見せることをしなかった。

 確かに、あれを見れば、連中がどう動くかを知る機会にはなっただろうが。

 

「試合を見れば先入観が生まれる。それは連中の付け入る隙につながりかねん」

「先入観……? お姉ちゃん、あの呪いの仕組みが分かったの?」

「そんな大それたものではないと言っていように。そら、また試合が動く」

 

 種など知らずとも良い。対策さえ見つけてしまえば、仕組みが不明なままでも戦える。

 

「染岡! みんな! 練習した通りにやるんだ! 不破さんに教えてもらった通りに!」

「円堂――」

 

 もちろん、円堂は勘付いたという訳ではないだろう。

 彼は真っ直ぐなのだ。ゆえに相手のチームとの対話を無視することはできず、尾刈斗中の術策にも容易くはまってしまう。

 だが、同時に練習には真摯であり、その性質でチームを引っ張るタイプのキャプテンだ。

 それが必ずしも、状況を好転させるとは限らないが……。

 ――少なくとも先に策だけ授けておけば、それを無駄にはしない人間だ。

 

「何をしようと無駄だ! ゴーストロック!」

 

 同じように動きを止めようとする、尾刈斗中の面々。

 しかし、手詰まりだと感じたならば円堂を信じてみる――それができるならば、再び状況は変わる。

 

「マーレ・マーレ・マレトマレ、マーレ・マーレ……何故止まらない!?」

 

 指示した通りに――それを徹底することは、雷門中らしいサッカーとは言えまい。

 だから、これは気付きにしかならないだろう。ただ闇雲に相手に挑むだけでは、勝てない試合もあると。

 この一点の意味合いを、彼らは考えねばなるまい。

 それでこのサッカーを許容するのであれば、そのように指導しよう。

 

「動ける、これなら……! よっしゃあ!」

「馬鹿な……!」

 

 キーパーが先の『ゆがむ空間』を発動していたようだが、その動きの一切を無視して突き刺さる染岡のシュート。

 そして続けて、前半終了のホイッスルが鳴った。

 

「ここでホイッスル! 雷門、尾刈斗のゴーストロックを破り、勝ち越しの三点目を奪い取りました!」

「やったぜ、染岡!」

 

 戻ってきた面々の盛り上がりは最高潮といえる。

 原理不明の『ゴーストロック』を破り、大きな一点を得られたのだ。当然だろう。

 

「でも、どうして動けるようになったんだ? 俺たちは別に、特別なことはしていないぞ」

「していただろうに。貴様たちは鍛錬の通りに動いた。それが答えだ」

 

 首を傾げる面々。ただ一人、ベンチで試合を見ていた豪炎寺が立ち上がる。

 

「不破さん、あなたは規定の攻撃パターンを徹底するように指導したんですね」

「然り。相手を気にせず、定めた通りに動きを再生する。それを徹底すれば、尾刈斗中の呪いだかは効かん」

「一体どうして……」

「要は、あれは催眠術だ。監督の口にしていた呪文やヤツらの奇妙な動きで、お前たちの動きを制御していたんだろう」

「豪炎寺――それじゃあ、俺のシュートが止められたのは……」

「手の動きで平衡感覚を失ったんだ。正面にシュートを打つように暗示をかけられていた」

 

 物は言いよう。呪いなど、ただの暗示に過ぎない。

 彼らの容貌から言動まで、そのすべては彼らが思い通りに試合運びをするための演出だ。

 

「そんな卑怯な……!」

「たわけ。勝負とは試合の前から始まっている。あれが連中の戦術ならば、嵌まった側に責があろうよ」

 

 つまらん手品とはいえ、在り方からしてそれを徹底しているさまは見事と言えよう。

 それが連中の戦い方。

 まあ……サッカーの技術を鍛えろとは思わないでもないが。

 

「貴様たちにさせていたのは仮想敵を定めない連携だ。相手と対話をしない、貴様たちだけで完成された動き。それが一つの、理想的な戦い方であることは知っておくがいい」

 

 催眠術のための、相手の動きを一切気にせず、自分たちにとっての理想の攻撃パターンを再生する。

 相手が搦め手を戦術としているならば、対話を拒否すれば敗北することはない。

 タクティクスともいえない戦法ではあるが、チームとして不足していた連携技術を磨くだけで相手チームへの対策にもなるゆえに、これを徹底させていたが。

 ――納得はしていないな。ならば重畳、これ以降も、退屈が極まることはなさそうだ。

 

「豪炎寺、後半は目金と代われ。円堂、種が割れたゴーストロックにどう抗するかは貴様に任せる。同じように戦うも良し、貴様たちの手段であれを破れるならばそれも良しだ」

「っ――わかりました! ゴーストロック、攻略して見せます!」

 

 フィールドに戻っていく面々。その決意に、落胆もなければ安堵もなかった。

 はじめから私は、そう答えることを確信していたのだろうか。

 この一週間である程度、このサッカー部の性質も理解できた。

 どれだけ鍛錬をしても、どれだけ指導を繰り返しても、彼らは帝国と同じサッカーはできない。

 司令塔を中心とした静かなプレーではなく、それぞれの個性を捨てずに全力をかけるプレー。

 私自身と合うサッカーではないものの、彼らの持ち味を消し去るような無粋な真似をしようとは思わない。

 

「さあ、後半キックオフ! まずは染岡に渡ったボールを――木乃伊が奪う! そしてボールは幽谷へ……おっと、豪炎寺が見事なインターセプト!」

 

 やはり、個人の技量は豪炎寺が抜きん出ている。

 前半動きを見ていたこともあって、尾刈斗中の攻撃パターンも見切っている。

 だが、目の前にいる豪炎寺を、幽谷が悠長に逃がすことはない。

 

「させるか――ゴーストロック!」

「くっ……!」

 

 相手を無視するという選択肢を取らなかった以上、豪炎寺もその術中に落ちる。

 彼であれば、ある程度の精神鍛錬をこなせば跳ね除けることもできようが――今はそれは叶わない。

 

「やっぱりさっきのはマグレだったか! ゴーストロックは誰にも破れない! 最強の必殺タクティクスだ!」

 

 精神的支柱を取り戻したようで、笑みを浮かべて幽谷は一気に駆け上がっていく。

 ディフェンス陣も円堂も、同じく『ゴーストロック』の術中。朗々と諳んじられる地木流の唄は止まらない。

 このままであれば先の焼き直し。せっかく勝ち取った優位を安易に捨てることになる。

 だが、なんの思いつきもなく攻略して見せると宣った訳ではないらしい。

 円堂は息を大きく吸って――辺りに大声を轟かせた。

 

「ゴロゴロゴロ……ドッカァーンッ!」

 

 近くにいれば、耳を劈いていたほどの叫びは、地木流の唄を掻き消した。

 突然の奇行に幽谷はシュートコースを見誤り円堂の真正面。

 それに対して円堂は、反射的に気を込めた拳を叩きつけた。

 

「――熱血パンチ!」

「なんだと――――!?」

 

 弾かれたボールを風丸が受け取り、上がっていく。

 大声で無理やり唄を塗り潰すと同時に強く動揺させてしまえば、相手は『呪い』どころではなくなる。

 なるほど……決して賢くはないものの、私では考えつかない攻略法ではないか。

 

「っ……」

「――!? お姉ちゃんが笑った!?」

「春奈の目には余がどう映っているのだ。余とて愉快なことがあれば笑うとも」

 

 心外な驚き方をしてくる春奈の目には私がどう映っているのか疑問に思っていれば、染岡にまでボールが渡り、キーパーと一対一の状況になっていた。

 だが、すぐにシュートに移ることはない。

 既にキーパーは手を不規則に動かしている。そして、染岡はそれを目にしてしまったのだろう。

 今から意識するなといっても難しい。加えて、そのままボールをキープしていても、尾刈斗チームのディフェンス陣が迫ってくる。

 

「だったら……っ、豪炎寺ィ!」

「ッ!」

 

 このままではゴールは奪えないと、染岡は判断したらしい。

 キーパーから視線を外し、しかしボールに込めた気はそのままに、強く蹴り上げた。

 当然、不意を突かれたディフェンス陣は対応できず、ボールの軌道も塞げない。

 

「あの催眠術の仕掛け、お前も見破ってたんだろ! だったらここでお前が決めてみろよ! 『炎のストライカー』なんだろ!?」

「ふっ……いいだろう!」

 

 高く上げられた『ドラゴンクラッシュ』の威力が霧散するよりも前に、豪炎寺は染岡の意図を酌んで、炎を巻き上げながら跳躍していた。

 複数のシュート技を組み合わせることにより、威力を引き上げるシュートチェイン。

 本来、細かなタイミングの調整が必要な技術だが――よもやそれを、敵の戦法を破るために即興で成立させてみせるとは。

 

「ファイアトルネードッ!」

 

 竜が炎を纏い、赤熱する。二つの必殺技の組み合わせは、相乗効果により威力を引き上げる。

 あれはもはや、新たな必殺技といえるだろう。

 雷門チームのストライカー二人による強力な合体技だ。

 

「う、ぉおおおおおおおお――――!」

「ごっ……ゴール! 染岡と豪炎寺の合体シュートでキーパーごとゴールに押し込んだ! 雷門、再び引き離しましたぁ!」

「やった! やったよ、お姉ちゃん!」

「ああ。及第点は超えた。課題は山のようにあるが、悪くないチームだ」

 

 『ゴーストロック』の攻略法は見出し、そして『ゆがむ空間』を力で破れるシュートも確立した。

 尾刈斗中の面々にこれ以上の手立てがあったとしても、この勢いを止めることはできないだろう。

 あとは油断しなければ良いだけで、彼らがそのような愚を犯すとは思えない。

 これで試合の趨勢は完全に決した。

 

「二つの必殺技の合体、いわゆるシュートチェイン……あれは雷門の切り札になるでしょう! この合体技を『ドラゴントルネード』と名付けましょう!」

 

 染岡の発想を愉快に思っていれば、目金が立ち上がり、自信満々に先の連携に命名した。

 

「また名付けてる……」

「またとは?」

「ああ……染岡くんのドラゴンクラッシュ、あれも目金くんが名付けたんです」

 

 ……なるほど。

 染岡が採用しているのなら、少なくとも彼にとっては良い仕事であったのだろう。

 木野からの妙な情報になんとも喩えがたい気分になりつつも、それ以上の追求はしないことに決める。

 少なくとも、聞くに堪えない名前になっている訳ではないのだ。何も言うまい。

 そんなことよりも意識を傾けるべきは試合だ。

 

 ――その後の後半、『ゴーストロック』に悩まされることもなく、快進撃は続いた。

 尾刈斗中の底力による窮地もあったものの、円堂はこれ以上ゴールを譲らず、六対二という大差で勝利。

 雷門中サッカー部は廃部を逃れ、フットボールフロンティアへの出場を勝ち取ったのであった。




【不破煌雅】
安定して勝つことのできる、己の授けた策に馬鹿正直に従うだけではない雷門サッカー部を愉快に思っている。
帝国には決してなれないが、まったく違う成長を果たしそうなチーム。
ここならば、当分は退屈しないだろう。

【トライアルフォーメーション】
必殺タクティクス……というほど大層なものではないと不破が語る戦法。
あらかじめ構築した攻撃パターンを、敵の動きを考慮せずに実行するという、本来は連携の確認に過ぎないもの。
実戦には到底使えないが、「練習時のパターンをそのまま再生する」ことに努めることで、相手の特異な動きを気にせずに行動できるという利点がある。

【鬼道有人】
「……最後まで見ていかないのか?」
「……」
「……鬼道――」
「……」

【冬海】
「ら……雷門中が、尾刈斗中を破りました……!」
『……』
「……あの、総帥……?」
『……』
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