修学旅行もようやく2日目。今朝は大変だった……途中で少年が朝食に呼びに来てくれなければ危うく飯抜きになるところだった。
「ふむ、こんなもので良いか」
『それもいつまで保つかな?』
「フン、修学旅行が終わるまで保てばそれでいい。この『石化』は並の治癒術者では治りそうもないからな」
封印による凍結処理を施した『石になった右手』を見て俺はそう判断する。あの時辛うじてレジスト出来たものの、これでは右手は完全に使い物にならんな。下手に衝撃を加えて砕けてしまったら目も当てられん。
『しかし、あの小僧……我の事も知っているとはな』
「お前の力があれば勝負にはなると言っていたが?」
『知るか……何故我がお前の様な人間に手を貸さねばならぬ』
「知っている。別に頼ろうなどとは思っていない」
乗り切ってみせるさ。少なくとも修学旅行が終わるまでは。終わりさえすれば俺は本山に戻る。そこで治療も受けられる……ハズだ。右手はこれでいいとして、早く食事に向かうか。朝の騒動のおかげで時間が押している。
「「……」」
「おい、じろじろ見るな。食べづらい」
「「うるさい変態」」
「あ、あははごめんなこーちゃん。うちが寝ぼけてたせいでー」
「まぁ……もういい」
さてどうしたものか。蔑視全開で神楽坂・桜咲の両名から睨まれやりにくい事この上ない。
「で、今日の班行動なんだが……」
「あ、せっちゃん! 一緒に回ろな!」
「へうえっ!? あ、あの、えと……」
「嫌なん……?」
「大人しく一緒に回れ。また昨夜の様な事態になってはかなわん」
「あ、う……分かり、ました。よろしくお願いしますお嬢様」
さて、俺はどうしたものか。出来れば静かに過ごしたいが……確か奈良公園だったか?
「青山君はどうするの?」
「まだ決めてはいない。少しはゆっくりしたいと思うが」
「うわー、ジジくさいわねぇ。……あれ? その右手、包帯なんてしてたっけ?」
「目ざとい奴め」
「え、なんで!?」
「後で説明してやる。ここで説明は出来ん」
全く、変な所で勘が良いと言うか何と言うか……。
「分かったけど……そう言えば左利きだったっけ?」
「俺は両利きだ」
「そうだっけ? でもずっと右手……」
「うるさい黙れ」
「さっきから酷くない!?」
「フン」
そうして食事も終え、奈良公園。本来は俺達だけだったが、珍しく宮崎が押しの強さを見せ少年もついて来ていた。
「近衛には桜咲が付いてるからまず問題はない。少年は……まぁ何だかんだで上手くやるだろう。となると……何をしたものか」
「何独り言言ってんの? ほら行くよー!」
「おい早乙女引っ張るな……」
「ハルナがすみませんです……。おや、その右手はどうされたのですか?」
「ちょっと怪我をしてしまっただけだ。あまり気にしないでくれ」
「そうですか……。何かあったら大変ですし、お気を付けて」
「そうだな。気を付けるとしよう」
でないと本当に大怪我しかねんからな。……石化は十分ヤバい気がするが。
「まったくもー、パルは強引なんだから……」
「早乙女の強引さにはある種の尊敬を覚える」
「そう?」
「ああ。見習おうと言う気はないが、俺みたいな人間からすると救われる時もある」
「へぇ……意外、パルの事結構評価高かったのね?」
「そこだけはな」
強引すぎて疲れる時も多々あるが……。まぁそこも含めて早乙女と言う人間なのだろう。
「だけを強調するの止めてあげなさいよ」
「それより、近衛の方は大丈夫だろうか」
「大丈夫じゃないの? 桜咲さんが一緒じゃん」
「近衛のあの異様な強引さに耐え兼ねて逃げ出していなければ良いがな」
「あー……」
そう言っていると、見覚えのある髪型の女子がこちらへ向かってきていた。
「こ、ここまで来れば……」
「ほう? 護衛対象を放置するとは、良い度胸だな?」
「ひうっ!?」
「全く……神楽坂、近衛を頼めるか? どうせ俺が行くとお前達にまたロクでもない事言われるからな」
「あ、あははー、了解っ!」
「か、神楽坂さん……!」
「さて、お前には言わなくてはならない事が山ほどある」
「うぅ……」
こいつはどうしてこう、普通に接する事が出来ないんだ。……まぁ、俺が普通とはとても言い難いがな。
「気持ちは分からんでもないが、そもそもの原因はお前が避け続けたからだろうに」
「そ、それはっ……そう、なのですが……」
「近衛が寂しがっているぞ」
「けどあれはおかしくないですか!?」
「知るか」
「そんなっ!?」
その後も押し問答が続いたが、みんなでなら回ると桜咲が言い切ったのでその案を受け入れる事にした。――のだが
「あいつら……」
「あや? アスナとせっちゃんは?」
「俗に言う迷子だ」
「そうなん?」
「ああ。全く、中学生にもなって迷子などと……」
普段なら構わんが時と場合を考えろ。『今』の俺一人では対象を守りきるのは少し難しいんだぞ? あの猿女だけならともかく……。
「まぁ……せやったら探しに行かなしゃーないなー」
「そうだな」
「あはは、これってデートみたいやな~」
「……フ、そうだな」
「ふぇっ?」
「男女が2人で……。なるほど、これはデートになるだろうな」
俺がそう言った途端、顔を赤くする対象。どう言う意味なのかは段々分かっては来たがどうすれば良いかまでは流石に分からない。
「あう~」
「はっはっは」
しかし、誰も見当たらないな……。少年は宮崎と一緒に回っていたようだが……。
「はい、お団子あーん」
「……何の真似だ?」
「んー……せっかくのデートやし?」
「意味が分からん」
いきなり団子を目の前に差し出されても困るのだが。俺は別に食べさせて貰わなくてはならない程子供ではない。
「あはは、えーからえーから♪」
「んぐっ!? ……いきなり口の中に物を突っ込むんじゃない。まぁ、団子自体は美味かった」
「ごめんごめん。あ、次はこれな~」
「まだあるのか……?」
また突っ込まれるのは御免被るので今度は大人しく口を開けて食べ物が入ってくるのを待つ。
「やー、自分からしたとは言え、これ恥ずかしいな~」
「ふむ。……おや? 近衛、あそこに倒れているのは少年ではないか?」
「ほぇ? ひゃー!? ネギ君どないしたん!?」
「あ、このかにこーちゃん見つけたぁっ! ってネギくーん!?」
「おい、その呼び方は止めろ」
早乙女……お前までその呼び方をするつもりか……?
「知恵熱、と言う奴ですか……」
「俺達もさっき発見したばかりだから詳しくは分からないが……神楽坂、桜咲。これはどういう事だ?」
「あ、いや、その~」
「……後でお話します」
「全く、仕方ないな……」
そう言えば宮崎も見当たらない……。こんな調子で本当に大丈夫なのか少年は……?
次から文字数はこんな感じになると思います