女子寮に着いたのは良いが……この場違いな雰囲気はなんなのだろうか。答えは簡単、俺が男でここは女子寮だからだろう。
「お部屋はこのかさんの2つ隣でしたね」
「そうだな。それにしても……」
「どしたん?」
「いや、少し場違いな気分だ」
「そうけ?」
「まぁ、男性が女子寮にいるわけですからね」
「気にしない気にしない! そのうち慣れるって!」
「……慣れても良いのか?」
正直、良くない気がする。そう思いつつ皆について歩いて行くと今日から俺の部屋になるらしき部屋の前に着いた。
「着いたえ~」
「ここか?」
パッと見どこも似たようなもんなんだな、女子寮は……。部屋の番号、覚えておくか。それと少ないとは言え一応荷物の確認はしておかないといけないだろう。
「そういや青山君さ、本は読む方とか言ってたけどどんな本読んでんの?」
「あ、うちも知りたいなぁそれ」
「私も興味あるです」
「わ、私も聞いてみたいかも……」
「特にこれと言って決めてるわけじゃない。ただ題名を見て、良いと思ったものを読んでるだけだ」
ジャンルにこだわりがあるわけでもない。乱読家、と言うやつに当てはまるか。
「へぇ~、今部屋にあるの?」
「ちゃんと荷物が届いていれば何冊かあると思うが……」
「なら、確認しにレッツ・ゴー♪」
やたら元気のいい早乙女。何をどうしたらそこまで元気になれるのやら。
「ごめんな、こーちゃん。ハルナも悪気は無いんやけど……」
「すみませんです」
「その、怒らないで頂けると……」
何故か対象達が謝ってきた。謝られても困るが……どうしたものか。
「それは良いが……今までの発言からしてそう思っただけなのだが、全員本が好きなのか?」
「うん。好きやえ~」
「私たちは図書館探検部に所属してるです」
「わ、私は図書委員もしてますー……」
「……ふむ。図書館探検部とは?」
「こーちゃんは図書館島知ってるやんな?」
「行ったことはないが、知っている」
浮島に建っている建物だったな。無駄に大きいと良く思ったものだ。
「そこの本を全て読むのが私たち図書館探検部の目的なのです」
「コクコク」
「何だか凄いな……」
何がどう凄いのかは自分でも分からないが。
「いえ、好きでやっていることですから凄いとかは無いですよ」
「……そうか。ところで、ずっとここで立ち話ししていてもしょうがない。中に入ってくれ」
「え、良いん?」
「良いのですか?」
「良いんですかー……?」
三人とも同じように聞いてきた。どうやら大事な事を忘れているようだ。
「別に変なものを置いてるわけじゃなし。それに……」
「それに?」
「早乙女が既に入ってる」
そう、扉を開けた瞬間に早乙女が入って俺の荷物を漁り始めていたのだ。散らかさなければ構わないが……。
「へぇ~。お、これはこれは……。おおっ、スゲェ!」
「あ、あはは……」
「ハルナ……全く困った人です」
他人の部屋で他人の荷物を漁る友人の様子を見て、呆れた表情になる三人。
「へぇ~、あんまし物置いてないんやね~」
「必要最低限の物しか置いていない」
「男性の部屋はもっと汚いと聞き及んでいましたが……」
「あ、私もー……」
「今日来たばかりだから当然だと思うのだが」
「なるほど、すっかり忘れてましたです」
俺達が話していると誰かの電話から着信音らしき音が聞こえた。
「あ、ウチや。ちょっとごめんな~。はい、もしもし~? あ、アスナ?」
相手は神楽坂らしい。何事だ?
『ちょっと!? 木乃香あんた今どこにいんの!?』
「今? 今はハルナ達とこーちゃんの部屋におるけど……」
……ここまで声が届いてるな。対象も携帯から耳を離して会話している。
『へぇ~、パル達もいるんだ。ねぇ、私もそっち行って良い?』
「ちょっと待ってな。今聞いてみるわ。なぁ、こーちゃん」
「なんだ?」
「アスナがこっち来たい言うてるけどどうかな?」
「別に構わないが」
だが、苦手なタイプではある。……騒々しいからな。しかしここで断るのも変な話だ。
「ありがとう、こーちゃん。アスナ、こーちゃんが是非来てって~」
「そこまでは言っていない」
『ま、まあそこまで言うなら行ってあげるわよ』
「……もう好きにしてくれ……」
きっと、意見するだけ無駄なんだろう。対象との会話で俺は一つだけ学習した。
『じゃあ今から行くからねー』
「うん。待ってるえ~。アスナが今から来る言うてたわー」
「へぇ、アスナがねぇ……どういう風の吹き回しかしらね?」
大方、直接文句を言いに来ると思うが……。
「アスナさんは最初猛反対してたですが」
「うんー……」
「まぁ、来たら分かるんやない?」
「それもそうね」
「そうですね」
「はいー……」
しかし、十数分経っても神楽坂が来る気配はなかった。そんなに遠い場所から電話したのだろうか?
「来ないな」
「こーへんなぁ」
「来ないわね」
「来ませんですね」
「どうしたんだろうー……?」
「ふむ……近衛」
俺は疑問に思ったことを聞いてみる事にした。もし予想が当たっていたら……。
「ん?」
「神楽坂はこの部屋がどこにあるのか知っているのか?」
「あ」
……やはりか。道理でいつまで経っても来ないはずだ。騒いでいたならその音で見つけられるだろうが、割としずかにしていたからな。
「あ、あはは忘れてた」
「仕方がないな……」
そこに再び対象の携帯に着信がある。十中八九神楽坂だろう。
「はい、もしもし~」
『木乃香! 今気付いたんだけど私、青山君の部屋知らない!!』
「「「「「……」」」」」
この場にいる全員が固まった。言わなかったこちら側にも非があるが……向こうも向こうでもっと早く気付かないものか?
『で、木乃香どこなの?』
「えっとな。うちらの部屋の2つ隣やえ~」
『近っ!? 下まで行って損した!』
ちなみにここは二階である。そうして……
「あのー、神楽坂ですけどー」
「どうぞ」
神楽坂の声とノック音がしたので、声をかける。
「お邪魔しま~す」
「アスナ遅いっ!!」
おそるおそると言った感じで神楽坂が入って来たその時、早乙女がいきなり叫んだ。
「うわっ、パル!? びっくりさせないでよもー!」
「アスナが遅いからでしょうが!」
「仕方ないでしょ。下まで行ってから部屋知らない事に気付いたんだから」
「さすがにそれは遅いと思うです」
「あ、あの、えと……」
「あはは、まぁアスナやしなぁ」
「私だからってどういう意味よー!」
……一気に賑やかになってしまったな。
「まぁ……それは置いといてアスナ、どういう風の吹き回し?」
「ん?」
「だってあんた、昼間は男子が女子寮に入るなんて! とか言って猛反対してたじゃない」
「あー……でも良く考えてみたらなんでか分かんないのよねー。強いて言えば勘?」
「そんな事でいちいち怒鳴られていたのか……」
なんてはた迷惑な話だ……。
「あはは、ごめんごめん。だから、ほら」
「?」
「仲直りの握手よ」
仲直り……? 神楽坂が一方的に突っかかってきただけな気がするが。それ以前に直る程の仲ではない。
「それと私も友達になってあげるわ」
「あ、それえ~な。こーちゃんもまだ慣れてないやろうし、友達は多い方がええしな~」
「そうか……ならこれからよろしく、と言う事で良いのか? 神楽坂……いや、友人ならばアスナと呼んだ方が良いのか?」
とりあえず好意的に受け取っておくことにした。
「それはお好きにどうぞ? そもそも私の苗字長いし」
「はいはい、アスナの呼び方なんてどうでもいいから、まだ聞いてない事を根掘り葉掘り聞いちゃうよー!」
「いや、確かにどっちでも良いけどアンタに言われると妙に腹立つわね」
さて……どう対処したら良いのだろうか。
「お~♪」
「ハルナ、節度は守って下さいです」
「んもぅ、分かってるわよ。ちょっとはこのパル様を信用しなさいって」
「ハルナだから心配なのですが」
「う、うん……」
「まぁ、答えられる範囲なら良いが」
答えられない事を聞かれてもどうしようもない。
「うんうん。良いねー、その意気よー。ならまず青山君はどこ出身なの?」
「京都だ」
「そうなんや? 実は、ウチも京都出身やえ~」
「近衛は喋り方でだいたい分かる」
「あや」
自覚……はしてるだろう。たまに隠そうとしている人間もいるが。
「はい、じゃあ次の質問はアスナ! あんたが聞く!!」
「え、私? そんないきなり言われても……なら血液型は?」
「アスナ、しょっぼいなぁ」
「うっさいわね! いきなり話振られて質問できるわけないでしょ!」
「A型……だった筈だ」
昔そんな話を聞いたことがある。
「へぇ~、そうなんやぁ。なんか合ってる気がするなぁー」
「ですね」
「うんー……」
「どういう意味だ?」
「こーちゃんは知らんの? 血液型別性格判断って言うんやけど」
「いや……聞いたことないな」
おそらく、血液に存在するDNAからおおよその性格を判断するのだろう。
「ちなみにA型は一般的に几帳面と言われているです」
「……なるほど。だが、俺は几帳面なのだろうか?」
性格とは自分では分からないものだ。
「こまめに掃除しているらへんは几帳面さが出ていると思うです」
「それにこーちゃんはうちらの質問にも真剣に答えてくれとるしなぁ~」
「それは几帳面ではなく誠実と言う」
「…………ま、まーまー気にせんといてーな。んと、せやなぁ……こーちゃんさっき京都出身言うてたやん? 京都のどこに住んどったん?」
無かったことにされてしまったか。まぁ……対象相手では今更か。
「確か山の近くだったハズだ」
「……」
「ち、抽象的すぎるです」
「え、えと……?」
「……すまない。詳しくは覚えていない」
覚えても仕方なかった、と言う方が正しいか。それに実際間違えてはいない。ほとんど山小屋暮らしだったのだから。
「そうですか……じゃあ青山さんは結構前から麻帆良に?」
「いや、こっちに来たのは去年からになる」
「なるほど、割と最近なのですね」
「ああ」
「そうなんですかー……」
「うーん……」
対象が何か考え込んでいた。一体どうしたのだろうか?
「近衛?」
「……え? こーちゃんなんか呼んだ?」
「さっきから何か考えているようだったから呼んだが」
「あー……うん。あんなこーちゃん」
「ん?」
「やっぱりうちらどっかで会ったことない? それも小さい頃に……」
……またその話か。しかし、そこまで印象的な出来事だっただろうか? 師匠と彼女の父が話している間に少し会話した程度だったと思うのだが……。
「おや? このかさんと青山さんは既に会ったことがあるのですか?」
「う~ん。ウチもよう思い出せへんから小さい頃って思ってんけど……。こーちゃんはどう?」
「俺も小さい頃の事はハッキリと覚えていない。だから学園長室ではああ言ったが、実を言うと会った事があるかは分からない」
……何故まだ覚えているのだろうか? 俺に会った事なんて取るに足らない出来事のハズだが。それとも本当に何かあったのか……?
「うーん、そっかぁ~。なんやもやもやするなぁ……」
「本当に会った事があればその内思い出すですよ」
「わたしもそう思いますー」
「そうだな」
「ん~……せやね」
「―――ってあんたらこの私を差し置いて楽しくお話してんじゃないわよー!」
いきなり早乙女が叫びだした。……そう言えばすっかり忘れていたな。
「それよりお前達、時間は良いのか?」
「へ?」
「それなりに遅い時間だぞ」
あくまで俺の感覚では、だ。とは言え、深夜に仕事が入る事もあるからそれが寝る時間と結びつくかどうかはまた別の話なのだが。
「あー、もうそんな時間なんや~」
「時が過ぎるのは早いですね」
「そうだね」
「ふわ~~ぁ。ねぇ木乃香、そろそろ帰らない? 私明日も早いからさー」
「神楽坂は朝早いのか?」
「バイトよ、バイト。新聞配達の」
「へ……ぇ」
バイト……アルバイトの事か? 短時間労働で賃金をもらうと言う。俺みたいな成功報酬とは違うタイプの労働方法。
「9時半だろうが12時半だろうがネタが無くなるまで私は話続けるわよ――っ!!」
「ハ、ハルナ! それは迷惑ですよ!」
「そ、そうだよハルナ。今日はおいとましないと……」
綾瀬と宮崎の二人が暴走した早乙女を引きずって連れて行ってくれた。
「では、また明日です」
「おやすみなさいー……」
「ああ、また明日」
「離せ~! 私はまだほとんど話してない――!!」
早乙女の残響が聞こえたが……まぁ、気にする事ではないだろう。
「じゃ、私も帰るけど……木乃香はどうする?」
「あ、ウチも帰るわ~」
「なら早く行かない? 私もう眠くってさ……青山君また明日ね」
と、一言だけ言って先に部屋を出た神楽坂。……ああ見えて結構苦労してるんだな。
「ああ」
「こーちゃん」
「どうかしたのか?」
何故か部屋に残っている対象。一体何用だ?
「あんな、こーちゃん。これからよろしゅうな」
「そんな改まって……どうかしたのか?」
「う~ん、どうって言うことは無いんやけど……変かな?」
「いや、変じゃない……と思う。なら俺も、改めて……これからよろしく」
「うん! じゃあまた明日なー」
「ああ」
対象が出て行ったのを確認し、思わず一息つく。
「友達……か」
俺はそう呟く。別に後悔しているわけじゃない。これは俺が選んだ事だ、誰に言われるでもなく。だが……本当に良かったのだろうか?
『愚かだな』
突然、頭の中に低い声が響く。もう既に馴染み深い声だ。幼い頃からずっと聞こえている声。
「……お前か」
『貴様に友達だと? 笑わせるではないか』
「あいつらは何も知らないからな……」
そう……何も知らない。知らないからこそ友達になれた。今はまだ知らなくて良い……。知られなくていい。
『だが知れば必ずや貴様を軽蔑し離れていくだろう』
「分かってる。だから俺は……」
『全てを隠し通し続けるか? しかし所詮は他人。それでも貴様は望むのか? 友とやらを』
「ああ……覚悟は、出来ている。あいつらと友達になると決めた時から」
それが正しいのかは分からない。だけど、俺がしたいと思った事なんだ。貫き通してみせる。
『……なら何も言うまい。貴様の覚悟とやらを見せてもらおうか』
「勝手にしろ」
言いたい事だけ言って、奴の気配が消えた。……奴は龍、と言うらしい。俺の体に封印されている……これもらしい。何故封印されているのか、何故俺なのかは知らない。ただたまに話しかけられるのが面倒な存在なだけだ。
「……うむ、今日はもう寝るとしよう」
しかし、強く戸を叩く音に邪魔された。
「誰だ……?」
さすがにずっと放っておくのも騒々しいので戸を開くと
「……」
対象より少し背が低い女が立っていた。何故か、殺気を込めた眼で俺を睨みながら。
「君は?」
同じクラスにいたな……。誰だったか。
「桜咲刹那だ」
「それで、その桜咲がこんな夜に何の用だ?」
こいつも、男子が女子寮になんて! とか言うクチか? ……違うな。放っている殺気が一般人のソレとは明らかに違う。
「青山の剣士がこの学園に一体何の用だ?」
「え?」
……気付かれたか? だが、ここで正体をバラすわけには行かない。何とかして誤魔化さないといけないな……。あと、俺は剣士じゃないし、青山とも関係ない。
「たとえ、宗家の者だろうとお嬢様に手を出すのはこの私が許さな――」
「ふむ……? さっきから何を言ってるんだ?」
結局、俺は何も知らないただの一般人を演じる事にした。これが一番楽だし、何より敵視されているのであればその方が都合がいいだろう。
「何をフザけている!」
怒らせてしまった。だが、絶対にバラすわけにはいかない。聞いている限りコイツも護衛任務らしいが、俺とはおそらく事情が違う。
「フザけてるのはそっちじゃないのか?」
「なに!?」
「夜にいきなり来たと思ったら、宗家だの剣士だのゲームの話をして……」
男子中等部で聞いたことがあるような言葉を言ってみる。確かげえむとか言うの、男子は好きだったはずだ。
「ゲームだと……? まさか、神鳴流剣士じゃなくて一般人……?」
神鳴流と口に出しているが、大丈夫なのか? 秘匿義務があるはずだが……。
「……大丈夫か?」
「ハッ! あ、そ、その、この度は夜分遅く大変失礼しました! 出来れば私がさっき言っていた事は誰にも言わないで頂けると……」
「分かった」
「ありがとうございます!」
「誰にでも苦労とか悩みはある」
「違いますよ!? と、とにかく、お願いしましたからねっ!」
そう言うなり、桜咲は部屋を飛び出して行った。
「……間一髪、だな」
そもそも、あの人が青山なんて苗字を付けるからこんな事に……。
「おっと……もうこんな時間か」
気が付くと既に夜も更けていた。制服から寝間着に着替え、俺は布団に寝転がり目を閉じた。
後日、対象の計らいで俺は対象達と一緒に登校する事になった。一人では心細いだろうとの事らしいが……。まぁ、護衛対象が自ら近づいてきてくれるのはこちらとしても願ったりだ。
~主人公追加情報~
・体に何か封印されてる。
・しかも話しかけてくる。
NA○○TOをパクった訳でも人○力でもありませんよ今のところは!