逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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99話 'ENIGMA'

 エニグマというプレイヤーの存在がはじめて認知されたのは、ルシファー・オンラインのサービス開始から3か月が経過したシーズン2のことだった。

 

 

 

 かねてより"競技シーンに最適なバトルロワイアルを"という設計思想が共有されていた同作は、果たしてほんとうにプロシーンが盛り上がるような新規タイトルになるのか、一般プレイヤーが楽しめる設計となっているのか等、多くの懸念を抱かれつつのリリースとなったが、それらはみごと杞憂に終わっていた。

 

 はやくも年末に開催が予告されていた公式大会には、世界に散らばる各名門プロチームが参加を表明したことで、同作はこれからのFPSシーンの新星として、ぶじにほかの人気タイトルたちと同じ卓に並ぶことになった。

 

 

 

 ゆえに、シーズン2にしてランクマッチシステムが導入された際は、世界大会の前哨戦として、その公開順位に注目が集まっていた。

 

 果たして、どのプレイヤーがもっとも優れているのか――。

 

 蓋を開けたとき、そこに並んでいたのは名門プロチームの名を冠する選手たち。すでに他タイトルで世界を獲ったプレイヤーや、この先の競技シーンにおいて大きく名を上げることになる未来のエースたちだった。

 

 

 

 ――が。

 

 そこに名を連ねる個人勢が、たったひとり。

 

 ENIGMA――エニグマ。

 

 そうとだけ名乗っているアジアサーバーのプレイヤーは、もちろん、その時点ではたいして話題になることはなかった。

 

 

 

 "Who's the hell that player ENIGMA? I know he's a solo. Which team does he belongs to. That was the first time I got beaten up by same player 3TIMES IN 1DAY. "

 

 ――あのエニグマってプレイヤーだれだよ、ソロでやってんの知ってるぞ。どこの所属だ? 1日に3回も同じ相手に轢かれたのはじめてだったぜ。

 

 

 

 もっともはやくエニグマに言及したのは、のちの世界チャンピオンであるAdamkiller(アダムキラー)のSNSの投稿だったが、そのいいね数はたったの47に留まっている。

 

 その翌週にアダムキラーが自分のアカウントにUPしたエニグマとの対戦動画は、およそ1000倍となる4.5万いいねがついた。

 

 リリースから間もないゲームで、まだチートツールも出回っていない。つまりこれは、生身の人間がおこなっているプレイということだ。

 

 

 

 "We gotta seek him out. Hey c'mon ENIGMA, join our squad! DMs OPEN!"

 

 ――こいつを発掘しないと。よぉエニグマ、うちに入れよ。DM開けとくぜ。

 

 半分本気の勧誘にも、エニグマは沈黙を貫いていた。

 

 

 

 エニグマは、それからもずっと世界ランクに名を連ね続けた。

 

 おもしろがった欧米勢がわざわざアジアにやってきて対戦したが、そのたびに返り討ちにされてSNSで言及し、さらに名が知られるようになるループが発生した。

 

 

 

 極めつけは、Youtubeに突如として作られたENIGMAと名乗るアカウントと、そのアカウントがUPしたクリップ動画だった。

 

 これまでは敵としてしかみられなかった、エニグマのプレイヤー視点。

 

 その理解不能のキル集は、全世界的に広まった。どういうわけか、その本家の動画はすぐに消されてしまったが、コピー動画が大量に出回った。

 

 ルシオン上のIPからアクセスサーバがTokyoであることが判明して、エニグマが日本在住であることが判明した。

 

 

 

 そう時を待たずして、エニグマはとうとう単独での世界ランク1位を達成した。

 

 

 

 いったい、その正体はだれなのか――。

 

 他を寄せ付けぬ圧倒的な強さと匿名性のドラマは、人々の好奇心を刺激した。

 

 そして気づいたときには、その名を知らぬ者がいないほどのプレイヤーにまで昇りつめた。

 

 ルシファー・オンラインの世界だけに留まらない、都市伝説的な存在に。

 

 

 

 そして、今。

 

 エニグマは、その姿を失せている。

 

 いっときは日本のプロチームに所属したという噂が流れたが、それは名を騙る偽物だったらしく、結局はだれも彼のことを知れていない。

 

 爵位持ち(バロン)帯に長らく君臨していた王は、あるときからまったく現れなくなり、ただその名だけがプレイヤーたちの心に残り続けている。

 

 

 

 王の行方はだれも知れず、その沈黙はいまだ破られていない――。

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

『これは、信じられない展開になってきました…………!』

 

『いやあ、ほんとうに。とんだダークホース、というかなんというべきか……』

 

 

 

『ここでいったん、状況を整理していきましょう。最終戦の最終マッチ、ラウンド4! ラウンド3にて盤面が整理されての比較的安定したファイト模様になるのではないかというわれわれの予想を覆し』

 

『単身で敵につっこむプレイヤーがひとり現れたことにより、残存6部隊のうち5部隊がしっちゃかめっちゃかの状況になっております!』

 

『台風を巻き起こしているのは――"Quiet BearS"唯一の生き残りである、Aguma選手! みかけによらない荒々しい立ち回りにより周囲のチーム間の均衡が崩れ、今や実況もままなりません!』

 

 

 

『ニャムさん。フツーは…………あまりこういう展開にはならないですよね?』

 

『おっしゃるとーりです! というのも、普通はソロプレイヤーが場を荒らそうとしてもすぐに排除されてしまうからですね。ですが、ヴェロシティを利用したヒット&アウェイの精度が、その無理を通しています』

 

 

 

『あの……これは、プロでもめずらしいくらいの大立ち回りですよね?』

 

『……まあ、そもそもプロはこういうリスクを負わないというのはありますが、内容としては、そうですねw』

 

『Aguma選手はLC学園枠ですが、たしか一般生徒というお話ですよね?』

 

『…………私にもわかりませんッ! LC学園、実は内部で生徒をeスポーツ選手にするための改造実験でもしているのでしょうか!?』

 

『そんなはずはありませんがw』

 

 

 

『――――っと、冗談を言っているうちにマップ南の錬金場の戦い、いちど戦線から引いていたAguma選手がふたたび遠方からダウンを奪う!』

 

『と、同時にヴェロシティで詰めます! この与ダウンの頻度と相まって、すさまじいスキルのリキャスト速度です!! 対するは"実業団YUBI7"のニッキー選手、ならびにシグ選手!!』

 

『いや、さすがにここの1on2は無理筋すぎませんかね……。籠城の態勢が整っている相手ですから、ここを通せてしまったらさすがに、もうゲームの常識が』

 

 

 

『――――って、え?』

 

『え?』

 

 

 

『『……………は?????』』

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 ――――ありえなかった。

 

 

 

 赤城愛莉は今、となりのモニターに釘付けになっている。

 

 このプレイは、ありえない。

 

 彼のプレイには、およそ常識というものが、存在していない。

 

 

 

 最終マッチでリタイヤとなり、観戦するばかりとなった愛莉は、彼のプレイングになんども口を覆いそうになった。

 

 それは、まともなプレイヤーなら選ぼうとしないルート、ファイトの仕掛け方だったからだ。あまりにも無理筋だといえるキルの拾い方だったからだ。

 

 だが実際には、その無理を通してしまっている。

 

 単身にもかかわらず、自由に周囲からダウンを奪い、それでいて自分だけはやられていない。

 

 

 

 使用しているのは、おもに三倍スコープを装着したペインバッカー。

 

 専用装備のヘルポンプの効果は、これまで食らったダメージに応じて弾の威力が上がるというもの。

 

 そしてメレンのアルティメット〈ゼロポイント〉は、医者であるメレンがみずからに特製の注射を挿して、これまで与えたダメージの分だけ割合でHPを回復すると同時に、次に撃つマガジンの威力を高めるというもの。

 

 一応、これらはシナジーのあるコンボだと言えなくもないが、机上の空論に近い話だ。昔とは違い、ヘルポンプにもメレンの性能にも調整が入っており、今ではそこまで体力の回復が見込めないからだ。

 

 少なくとも、トレードが成り立つほどに意味のある回復量には、ほとんどならない。

 

 

 

 だが、実際には――。

 

 目の前で、そのコンボを使って、異様な火力と耐久力を発揮し、単身で戦い続けている人間がいる。

 

 現在、ラウンド4の終盤。

 

 すでにここまで10キルを稼いでおきながら、彼に引くつもりはないようだった。

 

 

 

 さきほどから、彼はずっと「なにか」を探しているようだった。キルを欲しがるというよりも、それ以上に、とある物資を求めているようにみえた。

 

 その証拠に、倒した相手の石像はすべてチェックしていた。

 

 お目当てのものがみつからなかったのか、今、彼はまたべつの戦場に向かった。

 

 

 

(それはっ……さすがに、やりすぎじゃない?)

 

 

 

 思わず、愛莉は声に出しそうになってしまった。

 

 現在、残存チーム数は4となっている。

 

 すでに最終安置の強い位置に陣取っている1チームと、自分のところと、銃声を発している場所の2チーム。

 

 この状況で、その2チームがいるところに仕掛けに行くのは、端的に誤りだ。

 

 

 

 なぜなら、好ポジション――いわゆるチャンピオンポジについているチームを倒すのには、ほかのチームの協力が不可欠だからだ。

 

 もしも漁夫の利を成功させたとしても、単身で1on3をすることになる。

 

 それ自体はこれまでもやっていたかもしれないが、この最終安置はわけがちがう。

 

 ガイナブリッジ南のラウンド5が最悪の立地であるというのは、彼だって当然知っているはずだ。

 

 

 

 自殺志願的とさえいえる突撃は、長屋の建物で籠城している敵パーティに対しておこなわれた。ほんの一瞬だけ顔を出した相手をペインバッカーで撃ち抜くと、ヴェロシティを吐いて速攻で詰める。

 

 その場に残っていた敵は2枚で、純粋に数で負けるファイトがはじまろうとしていたときも、愛莉は思わず止めそうになった。

 

 だが、決着はいざ声に出す前についてしまった。

 

 

 

 ヴェロシティで吶喊してから、建物内部でメレンが壁を蹴る。めまぐるしくカメラが動き、常人にはなにが起きているのかわからないまま、その操作が完了する。

 

 まるでピンボールのように屋内を横断したメレンが、完全にこちらの姿を見失っているクラインの背後に着地すると、ワンマガジンで敵を落とした。

 

 直後に相対したアタッカーのミザイルは、〈アドレナリン〉と〈セービング〉のスキルを同時発動していた。条件抜きで火力と防御力にバフをかける、つまらないほどに王道の構成だ。

 

 かつ、ミザイルはショットガンの専門家――そのパッシブ効果によって、「インファイトのミザイルはクソゲー」と言わせるほどの近距離火力を誇る。

 

 

 

 そのミザイルが、SMGのワルツによって蜂の巣にされる。

 

 石像となった敵をみたときに愛莉が思い出したのは、かつてのタイマン。

 

 ともにチームを組むことになったとき、通話を切ってプレイしていいかと残した彼がみせた、9連勝の光景。

 

 

 

 ――そうだ。

 

 あのときも、勝ち方がわからないほどの圧倒のされ方をした。

 

 

 

 からくりは単純だ。チートを疑いたくなるほどに叩きこまれるヘッドショットの前では、普通の相手と戦うつもりでピークした時点で殺される。

 

 あっという間に、1on3を制してしまった。

 

 

 

 続いて、彼らが撃ち合っていたパーティが乱入してくる。

 

 被弾するや否や、神速のアーマースワップ――すぐ近くの石像から新品のアーマーを奪い取る行為だ――をおこない、むしろ敵にスライディングで詰めた。

 

 決定打は、またもヴェロシティだった。

 

 

 

 そう――この戦法。

 

 ヴェロシティによる加速をおこない、直後に振り向いて敵を撃つという、言っていることだけを聞けば、なんとも単純に思える戦術。

 

 これを真似しようとして、すぐに現実的じゃないときづいて断念したプレイヤーが、この世にいったい何人いるのだろう。

 

 かくいう愛莉も、そのうちのひとりだ。

 

 これと似たようなことができるプロはいるが、それでも彼らは、実戦投入しようとしない。せいぜいクリップ用の魅せプレイで披露する程度で、それも数々の失敗のすえに、ようやく成功している。

 

 

 

 これでキル数は13。文句なしに今大会のベストだろう。

 

 残存部隊は――――2部隊。

 

 つまり、倒さなければならないのは、あと1チームだけだ。

 

 

 

 手早くすべての石像の物資を確認する。最後に倒した敵の石像で、ようやく彼は息をついたようだった。

 

 ――みつけた、とでもいいたげに手にしたのは、特殊アイテムである"リフトアップ"。

 

 それは愛莉の予想どおりだったが――予想どおりであるがゆえに、愛莉は負けを悟った。

 

 

 

『ラウンド4終了、生存可能区域の縮小がはじまります――――』

 

 

 

 ルシオンのゲーム内アナウンスが流れて、最終ラウンドに移行する。

 

 最後に目指す場所は、崖の上。

 

 この位置から向かうのでは、勝負にならない場所だ。

 

 

 

 そもそも上にあがるためのスキルを持っているか、もしくは上昇できるアイテムのリフトアップがなければ、最後の勝負に絡むことができない。

 

 しかもそれらを使ったうえでも、あまりにも自由に撃ち下ろされることになる。

 

 つまりこれは、もうほとんどゲームセットの状況だ。

 

 彼がいかに強かろうとも、この局面ばかりは関係ない。

 

 

 

「……すごかった。ほんとに……ここまで、ほんとに、すごかったよ。やっぱり、あたしが思ったとおりだったんだ。匿名熊は、最強だったんだ……」

 

 

 

 思わず涙ぐみながら、愛莉はそう口にした。それはここまでの健闘を讃えてのことで、もしこれで優勝ができなかったとしても、悔いはないと思った。

 

 

 

 ――――しかし。

 

 

 

 一瞬だけ生じた間隙において、彼ははじめて、モニターの外を向いた。

 

 深く被ったフードの下、鼻筋まで覆ったマスクの上に、よく知っているように思える瞳がある。

 

 その瞳が、愛莉を捉えた。

 

 

 

「…………いいんちょくん?」

 

 

 

 返事はなかった。ほとんど、まともな動きさえもなかった。

 

 ただいちどだけの瞬きに、愛莉は存在しないはずの言葉をみた。

 

 

 

 ――俺に任せてくれ。

 

 

 

 最終ラウンドがはじまった。

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