逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
ある日の放課後のことだった。
「赤城さん……俺はもう、ここまでだ……」
——俺は、しかばねのように倒れていた。
息も絶え絶え。死にかけである。
「いいんちょくん!? ちょっと、どうしちゃったの?」
「やはり俺には荷が勝ちすぎる話だったようだ……。役に立たない委員長で本当に面目ない……よければ廃棄業者に連絡して、この役立たずを処分してくれ。スクラップ工場に着くまで、俺はおとなしくしているから……」
「やばっ、いいんちょくんってダウナーになると手がつけらんないかも! 目、かすんでるし! 肌、白くなってるし! って、死なないでってば、いいんちょくーーーん!」
赤城さんの悲鳴が学校内をこだましたが、それでも俺は起き上がることはできなかった。真っ白に燃え尽きて、この世から消えそうになっていた。
なぜこうなったのか。
それを話すには、数日前のことから語らなければならないだろう。
*
赤城さんと組んで電甲杯に出ることになった翌々日の、日曜日のことだった。
一学期も残すところあと少しで、電甲杯の〆切も近い。
とはいえ、今の俺にはとくにやれることはないというのが正直なところだ。
残りのメンバー探しの仕事は赤城さんに一任しているし、メンバーが決まらないことには、俺が準備するべきものの指針が存在しないからだ。
つまり、仕事は週明けから。
だからこそ、俺はこの土日を――めちゃくちゃになまけていた。
今、俺は寝っ転がりながら菓子を貪り、死んだ目でじーっと漫才をみている。もうかれこれ二時間ほど、こうしてゴロゴロしている。
……かんちがいしないでほしい。これは、あくまで戦略的に必要な行為だ。リラックスすればするほど、バッテリーが溜まっていくのだ。
来週からは、放課後に直帰することができなくなる。俺の委員長史上、もっとも大変な時期となるだろう。これはそのための蓄えであり、備えだ。
備えがあっても憂いがあるのだから、もう備えに備えまくったほうがいいのだ。
「~♪」
俺は好きなボカロアーティストの曲にノリながら立ち上がった。菓子は食い終わったし、お笑いのプレイリストも見終わってしまった。
時刻は二十時を回ったくらいだ。つまり、そろそろいい頃合いといえる。
俺はPCを操作すると、いつも使っている配信サイトにアクセスした。『匿名熊』のページを開くと、最後の配信から一週間以上も経っていた。
チャンネル登録者も微減していた。もともと雀の涙ほどではあったが、だからこそ数人の減少が大きな割合となる。
べつに無名配信者でいいとは思っていたが、いちど登録してくれたひとたちが消えていくのは、なんともいえない物悲しさがある。
ふたつほどメッセージも寄せられていた。
もうやらないんですか、というコメントと、配信スケジュールがわかったらお知らせしてほしいです、というコメントだった。
たとえ少数でも、俺を心配してくれたり、応援してくれたりするひとはいるのだ。
赤城さんの一件からしばらく配信できていなかったが、そろそろ再開してもいいだろう。
「……よし、やるか」
俺は、配信ソフトとルシファー・オンラインを起動した。
ひさしぶりのルシオン配信ということで、心躍るものを感じる。
どのキャラを使おうか。いつものメレンもいいが、大会のことを考えると別キャラを練習するべきだろう。エゴの強いキャラではなく、チームに貢献できるタイプが理想だ。
味方の耐久力を底上げできるフィラリアか、チーム全体の移動速度をあげられるクラインか……。
スキル選びも重要だ。どのクラスのキャラクターを選ぶかにもよるが、こちらも基本的にはチーム全体のためになるものがいいだろう。
まったく、ルシオンのことを考えているときが人生でいちばん楽しいな。
俺は指をパキポキと鳴らすと、さっそくカジュアルマッチに潜った。サブモニターで配信状況をたしかめると、はやくも数人が来てくれていた。
彼らの挨拶コメントに対して、俺は夏風邪を引いていたという言い訳を投稿した。噓も方便だ。
そのあとで、俺は何度か対戦をおこなった。
調子もよくて、連戦連勝だった。
短コメばかりだが、視聴者リスナーたちが喜んでくれているのがわかる。
しかし、何戦目かでチャンピオンを取ったときのことだった。
にこにこしながら画面を見ていた俺の顔から、ふと笑みが消えた。
lili-love-77 : ほんとにやってるし
――赤城さんだ。
そう認識するとほぼ同時に、俺のディスコードに赤城さんからメッセージがきた。
『いいんちょくん????』
『どーしてルシやってんのかな??』
『しかもソロで‼』
俺は困惑した。
まさか、赤城さんは怒っているのか……?
だが、なぜ。
『どうしてルシオンをやっているかというと』
『ルシオンがやりたいから です』
焦るあまり、俺の返事は終わっていた。委員長ポイント、大幅マイナスだ。
赤城さんの返信はなかった。
と思ったら、こんどは着信音が鳴り始めた。ディスコードの通話機能だ。
どうしようと焦りながらも、俺は配信者コメントに『すみませんROMです』とだけ書きこんだ。
急いでめがねを探し、装着。そのあとで、おそるおそるコールに応えた。
「やあ、赤城さん。な、なんの用かな」
『なんの用って、もう!』
赤城さんの声は、あきらかに不機嫌そうだった。
大きなため息をつくと、
『……あたしたち、チームメイトになったんだよね?』
「ああ、そのはずだが」
『ならさ、まだ三人目は決まってないけど、まずあたしらでルシ、やるはずじゃん! でもあたしからって、めっちゃ誘いづらいじゃん!』
「ど、どうして」
『だって、そーじゃん。あたしのほうからお願いしてるんだから、あんまプライベートの時間まではもらいにくいってゆーか……』
だから! と、そこで赤城さんは声のボリュームを上げた。
『あたし、昨日の夜も、今日のお昼も、いいんちょくんに声かけるのめっちゃがまんしてたのに! なのにひとりでプレイしてー‼ いいんちょくん、大会に出るから勉強ベンキョーとか前倒しになっていそがしいのかなって思ってたのに!』
ついさっきまで漫才をみながら菓子を食っていた身としては耳が痛い話だ。
ともあれ、赤城さんが立腹の理由はわかった。
どうやら彼女は、俺とゲームがしたかったらしい。が、俺が日夜勉学などにいそしんでいると信じてくれており、またそれを邪魔したくはないので、俺のほうから誘いがあるのを待っていたようだ。
……とすれば、悪いのは俺か?
あまり熟考するまでもなく、俺が悪いような気がする。
俺のできそこないの脳みそが必死にリカバーの手段を探した。
その結果、俺はピンと思いついた。
「違うんだ、赤城さん。ちょうど俺のほうからも連絡しようと思っていたんだ」
『……どゆこと?』
「もちろん、ゲームに誘うためだ。ただ、ひさしぶりだから、少し慣らしてからにしなければ失礼だと思って、ひとりでカジュアルに潜っていただけだ。でも、もう腕もじゅうぶんに温まったよ」
『……なんか、うそっぽいんですケド。さっき、何の用かなとか言ってたし』
どうやら彼女は記憶力がいいようだ。
『でも、ま、それならいいやっ。じゃさー、今からいっしょにやろ♡ 十分くらいしたらボイチャ入るね』
突然機嫌がなおったようだ。
もちろん断ることはできなかった。俺は、あまり長くない配信になってしまったことを視聴者たちに詫びると、しぶしぶ配信ソフトを終了した。