逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
俺がディスコのボイスチャンネルで待っていると、すぐに赤城さんがあらわれた。
『はろはろー! いいんちょくん、聞こえる?』
「やあ赤城さん、よく聞こえるよ」
『さっきもらったルシのID、フレ申請したよ! 届いてるかな?』
届いていた。俺が画面端にあらわれたIDを承認すると、すぐに俺のロビー画面に赤城さんのアイコンがポップした。どうやらぶじにパーティに加われたようだ。
『えっへへー』
と、赤城さんはやけに嬉しそうな声で言った。
『まじで匿名熊のIDだー! やっとできんだねー、いっしょに!』
俺のほうこそ、パーティにQG_Airiの字面があるというのは変な感じがした。
「赤城さん。今からだと一時間ほどしかできないが、それでも大丈夫だろうか」
『もち、いいよ! ぜんぜん嬉しい!』
「それならさっそくカジュアルにでもいこうか」
俺がカジュアルマッチのボタンを押そうとすると、赤城さんが止めた。
『ちがうちがう! 射撃練習場にしよ!』
「練習場? なぜ?」
『あたし、いいんちょくんとタイマンしてみたい。匿名熊の強さ、対面して肌で知りたいから!』
なるほど、と俺は思った。
どうやら、赤城さんはタイマンをご所望とのことらしい。
ここで注記しておくと、現在のルシオンにおいて、タイマンをおこなうゲームモードというものは存在しない。
そもそも三人ひと組でおこなうバトロワ系のゲームなので、ふたり対戦機能というのは実装されていないのだ。
だから対戦したいプレイヤーは、パーティを組んで射撃練習場に行く。
射撃練習場とは言葉どおり、エイムの練習などをおこなうための場所のことだ。障害物のある広い空間に、ルシオンのゲーム内で登場する銃が全種類置いてある。
ここの機能のひとつで、プレイヤー同士が撃ち合いすることができるわけだ。
射撃練習場に着くと、俺たちは相談した。
『ね、キャラどーする? とりまスキルもアビリティも縛りでどうかなって思ってんだけど』
「それなら、なんでもいいんじゃないか。おおよそ当たり判定が同じなら」
『おっけ。ならあたしが〈メレン〉に合わせんねー』
赤城さんがキャラ変へんした。
マレイユというキャラから、俺の愛用するメレンへと姿を変える。彼女のメレンはスキンを変更しているようで、豪華な赤いドレスを着ていた。
ルシオンは無料ゲーだが、課金要素としてゲーム内でさまざまなスキンを販売している。赤城さんはどうやらプレイ時間相応に課金もしているようだった。
ちなみに俺のメレンは適当に決めたコモンの赤いスキンだ。俺は、あまりスキンにはこだわりがなかった。
『武器はどーする?』
「普通はなにを選ぶものなんだ?」
『んー、いろんな組み合わせあるよ? 〈ウィジット〉一丁だけとか、SMG縛りとか、ショットガンも持つパターンとか。単におたがい好きな武器を持つのもナシじゃないね』
「……それならば、〈ワルツ〉と〈バルカローラ〉でどうだろう」
『いいじゃん! いいよ、それでやろっ。アタッチメントは全盛りで!』
ワルツは高性能なSMGサブマシンガン、バルカローラは強力なショットガンだ。どちらも実戦で握ることが多い武器だから、互いに使い慣れているはずだ。
俺たちはそれぞれの武器に最高のアタッチメントを装着すると、ステージの奥に移動した。実際のステージでよく見るような障害物がいくつか置いてある空間だ。
台形のようなかたちのブロックの上で、ふたりのメレンが対峙した。
『うわぁ、なんか緊張するっっ』
「どうしてだ?」
『だっていいんちょくん、まじ強いんだもん! うわー、がんばろ。ボロ負けだけは絶対回避するから!』
こちらこそ緊張していたが、俺はなにも言わなかった。
ルールは十先となった。十本先取したほうが勝ちということだ。
『あたしがグレ投げるから、爆発したら開始ね。じゃー、はいっ』
赤城さんが合図としてグレネードを投げた。
二秒ほどして爆発すると、俺たちは撃ち合いを始めた。
まずは凹凸のある遮蔽物に乗り、頭出しの状態で射撃する。
頭出しというのは、言葉通り頭だけを出した状態を保つことだ。キャラの肉体の大半が隠れているため、敵の攻撃が当たりづらくなる。タイマンにかぎらず、実戦でのルシオンでも頭出しが可能なポジションを見つけることは非常に大切なことだ。
赤城さんの動きは、基本に忠実だった。
ADS(スコープを覗きこむ状態のこと)しながらの移動撃ちがシンプルに速い。俺のワルツの弾は、大半がはずれてしまった。
次の瞬間、画面に血が飛び出るエフェクトとともに、俺のメレンのHPがごっそりと削れられた。まずい、当てられすぎた。
当たり前だが、銃は撃ちきるとリロードしなければ次弾を放つことができない。
俺はしゃがみモーションを入れて完全に身を隠しながら、弾を込めつつヘッドホンの音に集中した。
このゲームにおいては、相手の足音を聞くというのはとても重要な行為だ。
今も足音がしていた。赤城さんが詰めてくる音だ。ダメージレースでアドが取れているのだから当然の選択肢だといえる。彼女が右方面から抜けてくると読んだ俺は、あえて一段下に下がり、岩場からグラウンドに降りた。
こちらの体力が削れてしまったのはしかたがない、それならば切り替えて、岩場を壁に見立てたショットガン対決に持ち込んだほうがいい。
だが、それをやるにしてもSMGで少しでも削ってからだ。
俺は向こうが移動している隙に少しでもダメージを与えておこうと考えて、相手の出現の予測地点にエイムを置いて待った。
俺が思ったとおりの位置に、赤城さんは飛び出してきた。
俺が読めなかったのは、スライディングジャンプした赤城さんのメレンの、そのみごとなストレイフ――空中での急激な方向転換だった。
「っ……!」
ほんのコンマ数秒の遅れ。その隙に、岩場を降りながらの腰打ちでごりごりとHPが削られて、俺のメレンがダウンした。
『えへへ、まずは一本もーらいっ』
赤城さんの嬉しそうな声がした。
「……すごいストレイフだな」
『だっしょー? 自信あんだから。でも、いいんちょくんもでしょ、ストレイフ得意なのは』
いちおう、そういうつもりではある。
ストレイフというのは、ルシオンの上級テクのひとつだ。
とある操作方法を使って、空中にいるにもかかわらず自在に移動方向を変えるキャラクターコントロールのことだ。
『回復した? なら次ね!』
「……よし」
赤城さんがふたたびグレネードを投げる。
次の開幕の削り合いは、両者おおよそ同じだった。違ったのは、俺のほうから詰めたことだ。赤城さんが岩場を降りたと見て、俺も降りると、側面を走った。
武器も〈ワルツ〉から〈バルカローラ〉に持ち替える。ショットガンは、SMGとは違って中距離の火力は出せないが、そのかわりに接近戦では無類の強さを誇る。
俺はメレンをジャンプさせて壁を蹴ると、赤城さんがいると読んだ場所に向けて照準した。
が、赤城さんはそこにはいなかった。
壁を登る音がしたときには、俺は上から撃ち下ろされていた。SMGの連射が俺のメレンを襲って、俺はまたダウンしてしまった。
『やたっ。いただきー』
「いい判断だ。今のは付き合わないほうが賢明だ」
これで2-0だ。序盤にリードをつけられてしまった。
『よし、どんどんいくよーっ』
俺たちは体力を回復すると、ふたたび撃ち合いをはじめた。