逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
何戦も続けて戦っていると、相手の実力がよくわかるものだ。
正直に言おう――俺は、驚いていた。
赤城さんは、本当に強かった。
純粋な戦闘テクニックでいえば、普通にルシオンをプレイしているだけではお目にかかれないほどだ。
もちろん実戦ではタイマンではなく3on3だし、現在の状況に加えてスキル運用も加わることにはなるが、それでも単純な撃ち合いの強さは、このゲームにおける資本といえる。
その点でいうと、赤城さんのファイト力は本物だった。俺は何度か惜しいところまでいったが、毎回、最後には撃退されてしまっていた。
九戦目が終わった。
そのとき、俺たちはしばらく、どちらも黙っていた。
『……えーっと』
いささか気まずそうに沈黙を割ったのは、赤城さんのほうだった。
現在、戦績は9-0。
赤城さんはいちども負けずに、俺を崖っぷちにまで追いつめてしまっていた。
『あはは、また取れちゃった。やー……いいんちょくんって、ほとんどタイマンやったことないんだもんね?』
「まあ、そうだな」
『やっぱこれ、実戦とはぜんぜん違うからねー。それにあたしタイマン好きだから、よくいろんなプレイヤー誘ってやってきたし、これだけ無駄にうまいっていうか』
画面の向こう側で、赤城さんが困った顔になっているのがよく伝わってきた。
はじめのうちこそ俺を倒すたびに喜んでいた赤城さんだったが、俺が一方的にタコられているうちに、どんどん口数が減っていった。
こうもワンサイドゲームだと、勝っているほうが気まずく感じるようだ。
『こ、これ終わったらさ、カジュアルいこっか? いいんちょくんもそっちのがいいよね?』
俺は、うまく答えられなかった。
クラスメイトに、気を遣わせてしまっている……。
その事実が、俺を消耗させていた。さっきまで赤城さんに蜂の巣にされていたメレンの体力のように、俺のバッテリーがごりごりと削られていく。
いや、気を遣わせてしまっていることだけが理由ではない。
俺には、赤城さんの思惑が透けてみえていた。
思ったよりも弱いやつをチームメンバーに選んでしまったかもしれない……赤城さんがそんな後悔をしているのが、ありありと想像できる。
わざわざクラスの壁のようなやつに声をかけてみたというのに、そいつが期待よりも弱かったら、赤城さんもさぞがっかりだろう。
そして実際、俺は大会で活躍できない可能性のほうが高いのだ。もしも赤城さんが心変わりしてほかのメンバーに変えたくなったとしたら、それは止めないほうがいいくらいだ。
――だが、それでも。
「……赤城さん。ひとつ、お願いがあるんだが」
『なに?? あ、武器とか変えてみる?』
「いや、このままでいい。ただ、しばらくミュートにさせてもらってもいいだろうか」
通話のスピーカーミュート。
すなわち、俺の声が向こうに届かず、赤城さんの声も聴こえなくなる状態だ。
『えっと……べつにいい、けど』
赤城さんは、こちらの意図がわかりかねるようだった。
『ごめん、あたしもしかしてうるさかったかな……?』
「いや、ぜんぜんそんなことはない。ただちょっと、俺のほうで試してみたいことがあるだけだ」
『ふーん……?』
「じゃあ、今度は俺がグレネードを投げて合図するから、それでやろう」
『お、おっけー』
俺は、通話をミュートにした。
ゲームを再開する前に、俺は考えた。
――今の俺は、だれだ?
委員長の亜熊杏介か?
それとも配信者の『匿名熊』か?
もしもゲームをするならば、後者であるべきだ。
が、現実にはそうなっていない。
もっとも、これはじゅうぶんに想像できた事態だ。クラスメイトの赤城さんとゲームするにあたって、俺のなかの余計な部分が出てきて邪魔をするというのは。
俺に想像できなかったのは、俺に委員長が混じったときのゲームの弱さだった。
なにせ委員長ロールを務めながらFPSをやるのは初めてのことだから、俺にも実力がわからなかったのだ。
さすがに、もう少しはマシだと思っていた。
が、それはどうやら楽観だったらしい。
今のままでは、赤城さんの期待に応えるだけの働きができるとは、到底思えない。
「……ふう」
焦ってもしょうがない。現実とは世知辛いものなのだろう。
肝心なのは、べつのほうのパターンもきちんとみておくことだ。
だから俺は、めがねをはずした。
「いけるか?」
おそらく、いけるはずだ。
俺は大きく前傾姿勢になると、開始の合図としてグレネードを放り投げた。
十戦目が、はじまった。