逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
しばらくして、俺はミュートを解除した。
「とりあえず戻ったよ。聞こえるかな、赤城さん」
返事はなかった。
切断されていたわけではなく、ほんのわずかな息遣いは聞こえた。
『……え、どゆこと?』
五秒ほどして、ようやく赤城さんはくちを開いた。
『え、まじ? なんか、一瞬でひっくり返されたんですけど……』
「ひっくり返ってはいない。9-9だから同点だよ」
あれから、俺はどうにか追いついていた。
赤城さんが強敵なことに違いはないから、かなりの集中力が求められたが、それでもなんとか勝ちを拾い続けてきた。
取り決めは十先だから、次で決着がつく。
『あのさ。プレイヤーが変わったりとか、してないよね……?』
「まさか。ここは俺の部屋だし、俺はひとりだよ」
ははは、と俺はから笑いをした。
「赤城さんのキャラコンに、ようやく少し慣れてきただけだ。でも赤城さんのほうこそ、ますます動きがよくなっている。次はどうなるかわからない」
『いや、そういう次元のエイムじゃなくなかった……? てかエイムどころか、ぜんぶヤバかったけど……え、えぇ?』
「とにかく最後をやろう。グレを投げるよ」
俺はGキーを押してグレネードを構えた。
二十戦目がはじまる。
これで勝敗が決まるせいか、赤城さんのプレイは消極的になっていた。
あまりピークせずに、ぱらぱらとSMGを撃ってくる。
俺もそれに付き合って、双方が少しずつ削れた。
リロードのタイミングがずれて、俺のほうのマガジンが切れたときに、ようやくやる気になったのか、赤城さんは前に出てきた。
おそらくショットガンで決めにくるだろうから、俺のほうも武器を持ち替える。俺が相手の出現ポイントを読んで照準すると、飛び出した赤城さんがすばやく壁ジャンし、俺の頭上を跳び越えた。
その際、上からマシンガンの嵐に襲われる。赤城さんはまだSMGのままだった。
俺はなんとか相手の動きに反応して、ショットガンの一発目を撃っていた。が、それはクリーンヒットにはほど遠い、カスダメにしかならなかった。
HPは、俺のほうが若干不利だ。しかし相手にはリロードか、あるいは武器チェンジの隙が生じる。
左右に小刻みに動く赤城さんに向けて、俺はふたたびショットガンを撃った。
弾は、うまく当たらなかった。
そのせいで武器を持ち替えられて、まともに撃ち返されてしまった。まだあと一撃なら耐える体力はある――そう思っていたが、俺のHPがなくなった。
赤城さんは、楕円状に散弾が広がる仕様のショットガン〈バルカローラ〉の、その半分以上を俺の頭に当てたようだ。
ヘッドショット。
むずかしいかわりにダメージが胴体の倍になる、必殺のエイムだ。
10-9……俺の負けだ。
俺はマウスから手を離すと、指をよく揉んだ。
『いちおう、勝った……けど』
「ああ、おめでとう。さすがだな、赤城さん」
『……ありがと。でも……なんか、納得いかないんだけど!』
なぜだか、赤城さんは怒るような口調だった。
『いいんちょくん、ちょっとプレイにムラがありすぎじゃない? 配信だとべつにそんなことなかったじゃん!』
「そうかな。タイマンなんてあまりやらないから、緊張していたのかもしれない。でも、俺の実力はもともとこんなものだよ」
『うそ! だってさっきの追い上げのときは、もっとぜんぜん……! ねえいいんちょくん、まさか通話してるときだけ手を抜いたりとかしてないよね?』
「そんなはずがないだろう。たんに赤城さんがうまいだけだ。さっきの壁ジャン後の削りなんかすばらしかったよ。さすがQGのエースだ、キャラコンならほとんどプロと遜色ないじゃないか」
『ん、やっ、まあ、たしかに自信はあるけどさ……。てか、まためっちゃ褒めんじゃん。やめて、それなんかヘンな感じなるから……』
俺のほうには、べつに持ち上げているつもりはなかった。
『ゔーーーっ。でも、やっぱ納得いかない! ね、もっかいやろ? こんどはスキル有りとかでもいいから!』
「また後日にしないか? あまり時間もないし、もしカジュアルもやりたいのなら……」
『……むー、わかった。でもぜったい、ぜったいにまたやってね! 約束だよ?』
俺は曖昧な返事をしたが、内心ではそこまで乗り気ではなかった。
大会の練習をするつもりはあるにせよ、俺のプレイが赤裸々になるタイマンは、正直ごめん被りたい。
そのあとは、ふたりでカジュアルマッチに潜った。
俺はメレン、赤城さんはマレイユという移動に強いキャラ、ゲーム側でマッチしてくれた野良プレイヤーはビジーという武器を一丁多く持てるキャラだった。
赤城さんの先導に従って俺と野良はついていき、彼女の読みのおかげで、ぶじに勝利できた。
ルシオンのワンマッチにかかる時間は、最後まで勝負に絡めば、おおよそ二十分強だ。もともと一時間だけ軽くという話だったから、その日の赤城さんとの初プレイは、それで終了となった。
彼女は大会の構成などについても相談したかったようだが、俺のほうが丁重にお断りして、本日のところはお開きとなった。
理由は、シンプルに俺が限界だったからだ。
俺はヘッドホンをはずすと、よろよろとベッドに向かい、倒れこんだ。
ソーシャル・バッテリーの補充のつもりが、真逆の行為となってしまった。自室で委員長ロールをやったのは初めてということもあり、大幅に消耗してしまっていた。
「……弱かったな、俺」
俺は自分の掌をみつめて言った。
今さっきの自分のプレイングを思うと、なさけなくなる。
雑魚もいいとこ、クソ雑魚だった。
とはいえ、収穫もあった。
チームメイトとして組んだときの赤城さんが、やはりというべきか非常に頼りになりそうだというのは、助かる再確認だったといえるだろう。
俺が想像していたよりもずっと、彼女はこのゲームに造詣が深かった。
だからといって、この体たらくの俺と、即席のチームメイトで、プロゲーマーも混ざるような大型大会で優勝できるかといえば……。
それでも、やれるだけやるしかない。
俺は委員長で、彼女はクラスメイトで、協力しなければならないのだから。
俺は決意をあらたにすると、疲れた脳みそで、そのまま眠りについてしまった。