逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~ 作:ロカイクオ
「あまり、こういう場所でゲームのことを大々的に話すのは控えよう」
思いきって、俺は必要なことを伝えた。
「かんちがいはしないでほしいのだが、俺は赤城さんといっしょに誠心誠意がんばるつもりだ。だが、学校ではあまりゲームの話はしたくないんだ。というのも、そう――なんというか、意識のスイッチ的な話で、俺にとってゲームというのは放課後の時間のものだから、学校という勉学に励むべき場所でゲームの話をしてしまうと、集中力のようなものがどうしても削がれてしまい」
ぺらぺらと、俺の口から出まかせが飛び出す。
これは長年培ってきた委員長マインドが生み出す熟練の技だ。はじめて赤城さんとスタバで話したときと同じ、ほとんど無意識の所作である。
「そのかわりといってはなんだが、放課後は存分に話そうじゃないか。さっきの赤城さんの戦略の話もたいへん興味深かった。あれについてのアンサーはまた学校が終わってから」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って」
「? どうした、赤城さん」
「いったん離れて、これやばいから、まじで…っ」
きづけば、赤城さんの顔が真っ赤になっていた。本来まばゆいばかりの白い肌は、今やトマトジュースのように朱に染まっている。
俺が引き下がると、赤城さんは胸に手を置いてフーと息を吐いた。
「す、すまない。暑苦しかったな。俺としたことが」
「や、ぜんぜんいいの。あ嘘、ぜんぜんいいってわけじゃないんだけど、そういうアレじゃなくて。と、とにかくびっくりして、あんま話聞けなかったや、えへへ」
赤城さんは前髪をしきりに撫でつけると、
「で、なんだっけ? えーっと、ゲームの話はあんまって?」
「あ、ああ」
「そだよね。や、わかるよ。いいんちょくん、はじめもその話してたし。イメージ崩したくないのって超わかるよ、あたしもそういう立ち回りばっかだもん。とくにネットだと」
赤城さんの物分かりのよさには驚かされるばかりだ。
「じゃ、とりま学校ガッコはこれまでどおりみたいな感じでね? てかごめんね、あたしバカだからさー、ぜんぜん気にしないで公園角待ちとか言ってたの、よくなかったね」
「いや、いいんだ。俺のほうが変なことを頼んでいる自覚がある」
「変だって思わないよ。それにほら、冷静に考えたらそっちのほうが最後かっこいいし」
最後? 俺は首をかしげた。
「最後だよ――電甲杯の決勝戦! いっしょに出る以上、そこはオープンにやるしかないじゃん? で、そんときに実はウチらんとこのいいんちょくんが超つえーってなったら、めっちゃいいじゃん! うわ、あたしのほうがアガるかも!」
なぜだか鼻息を荒くして、赤城さんは先に歩いていった。
もう学校はすぐそこだ。
「とにかく、そういう感じだってのはりょーかいしたから心配しないで。でも、きょうの放課後はがっつり空けといてね? たぶん、すっごい時間かかるから」
「……なんだったか?」
「もー、しっかりしてよ。だから、三人目のメンバー探しだよ! しっかり募集かけておいて、ひとりあたり一時間くらい取っておいたから。放課後、即PCルーム集合でよろしくねー!」
赤城さんは手を振ると、明るい笑顔で去っていった。
その耳が最後まで赤いままだったのをみて、俺は反省した。
咄嗟だったとはいえ、あまりめったなことをするものではないな。
教室に入るとき、俺は若干の緊張を隠せなかった。ひさしぶりの登校だし、いろいろと個人的には事件があったせいだ。
だが、結論からいうと問題はなかった。
机につくと、何人かに「めずらしかったな」「委員長も風邪とか引くんだねー」「ロボットかと思っていたのに」などと声をかけられるに留まり、それ以降は普段どおりも普段どおり、なにも新たなる変化はなかった。
もちろん、俺としては願ったり叶ったりであった。
若干の違いがあるとすれば、赤城さんと目が合うことが増えたことくらいか。
多々良さんや瀬波さんと話しているさなか、なんとなく俺と視線が交差すると、意味深な顔で手を振ってくる。もちろん俺が手を振り返すことはなく、かわりにこくりと頷いて対応するようになっていた。
退屈な授業ちゅうに、俺はノートを取るふりをしながら、今後の構想を練っていた。
赤城さんが共有しておいてくれていたチームメイトの候補は八人だ。ランク帯やプレイ歴、プレイ頻度、使用キャラなどを含めて、かんたんなプロフィールまで添えてくれていたから、赤城さんの準備もかなりのものだといえた。
キャラクター構成は、ルシオンにおいては非常に重要な要素だ。キャラ選びの段階で、ある意味勝負は決まっているといっても過言ではないほどに。
俺は、キャラ変更には融通がきくほうだと自負している。QGでのプレイ歴をみるに、赤城さんがメインとして使えるのは三キャラほどだろう。ここにあとひとり加わるとして、どういう組み合わせがもっとも勝率が高くなるか……。
そういう分析は楽しくもあり、時間を忘れさせてくれる――。
「では、次の問題を――そうねぇ、じゃあ亜熊くん! ここは、なにに気をつけなければいけなかったんでしたっけ? 解けたら、いよかんポイントをあげますよ!」
突然、名指しされて俺はわれに返った。
教卓では、イヨちゃん先生がニコニコと俺をみていた。
今は英語の時間。期末テストの返しと、その答え合わせを全体でおこなっている最中だ。が――。
キャラ構成の考案に夢中で、すっかり聞いていなかった。次の問題とはなんのことだかもわからない。
(——まずい)
俺の委員長人生の最大のピンチであるといえた。
授業を聞いていなかった? 到底、委員長として許されることではない。
くそ。イヨちゃん先生はよく生徒を当てて、正解した場合には特別ないよかんポイント――これを集めた場合になにが起こるのかはわかっていない――を配るというのは、うちの学校の常識であるというのに、俺としたことが。
俺が答えないことで、クラスの衆目が俺を刺した。
「亜熊くん? どうかしたのかな……?」
まさかこの俺が授業を聞いていなかったなどとは夢にも思っていないだろうイヨちゃん先生は、純粋にふしぎそうに首をかしげた。
――冷や汗がひとつ。いや、ふたつ。
どうすれば。
すなおに白状するか? だめだ、それはありえない。ならば体調不良のせいに……いや、それも悪手だ。俺の委員長像が揺らいでしまう。
困ったときに周囲に目をやってしまうのは、むかしからの俺の癖だ。
その癖が、このときは役に立った。
窓際の席で、赤城さんが俺にピースをしていた。
なぜ――⁉ 手を振るに飽き足らず、とうとう謎のポーズを……?
それもただのピースではない。
両手を使ったもの――いわゆるダブルピースだ。
それから、赤城さんは答案用紙を指さした。
即座に、俺は意味を理解した。
——大問2の、2!
意をけっして、俺は声を出した。
「……My father, who was the last person to permit such a thing, got extremely angry.....この文章の気をつけるべきところは、関係代名詞の制限用法です。……すみません、少し声が詰まってしまって」
一瞬の静寂。そのあとで、
「はぁい、よくできました~! 亜熊くんの言うとおり、今の英文は曲者なのですね。でもみなさん、よく解けていました。亜熊くんには、特別にいよかんポイントを2個あげちゃいますね~!」
えー、2個はずるいよ先生ー! と声がして、笑い声があがる。
……どうやら、九死に一生を得たようだ。
まるで弾丸が頬をかすめた直後の兵士のような気持ちで、俺は着席した。
「~♪」
もういちど目線をやると、赤城さんはまたもや二本指を立てて、俺に向けて意味深に笑っていた。
こんどこそ、それはピースの意味だったのだろう。