逆転する悪魔のパラベラム ~かつて最強と呼ばれた伝説のソロプレイヤーがゲーム大会に出場して無双する話~   作:ロカイクオ

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28話 結成、ぬるりと

 翠は、聡明だ。

 

 これまでなんども言及しているが、それでも言い足りないほどに。

 

 だから俺が一を説明すれば十を、十を説明すれば百を、翠はわかってくれる。

 

 

 

 それは、このときもそうだった。翠は、俺にかんして多くのことを知っている。

 

 この世界でただひとり、俺の委員長ロールのことも知っている。

 

 だから、赤城さんが聞いていることを前提の端折った説明をしても、俺がどうして電甲杯に出なければならないのか、翠は把握してくれたはずだった。

 

 

 

「――そういうわけで、俺が平常心で組むことのできるプレイヤーを探しているんだ。それには翠がもっとも適任だと、俺は考えている」

 

 

 

 そう、俺は話を締めくくった。

 

 終始、翠はほとんど不動だった。

 

 翠の表情は、俺にも考えが読めない。

 

 とくに今は静かにメロンフラペを吸入し続けており、どれだけ顔色を読もうとしても「美味」くらいしか出てこない。

 

 

 

「話はよくわかった」

 

 

 

 と、おもむろに翠はうなずいた。それから、

 

 

 

「わたしでよければ協力する。がんばる」

 

 

 

 と、あっさり続けた。

 

 

 

「ほんとに⁉」と、赤城さんががたりと席を立った。

 

「翠、頼んでおいてなんだが、無理はしなくていいんだぞ。たしか、大事な模試が控えているのだろう。もしもそっちに集中すべきなら……」

 

「模試なんてどうとでもなる。それとも、クマは少しゲームにかまけたくらいでわたしの成績が下がると思う?」

 

「……思わない」

 

 

 

 翠の成績が落ちるなんて、俺には想像できない。

 

 

 

「ただし、断っておかなければならないことがある。わたしは、家の事情で、夜にオンラインゲームをすることができない。だから、練習の時間は放課後から下校までの時間、PCルームにかぎられる。それでもいいなら」

 

 

 

 翠はそう言い足した。

 

 いけない、俺が先に伝えておくべきことだった。翠と組むうえでは、それは事前に明言しておかなければならないことだ。

 

 赤城さんは、顎に手を当てて考えた。

 

 

 

「夜はできなくて放課後だけ、かぁ。……え、それって、夏休みの最中はどうなる感じかな?」

 

「それにかんしては、さっき都築先生に確認を取ってみた。夏休みもPCルームは開放しているようだ。なんなら、練習用に個室を取ることも可能とのことらしい」

 

 

 

 翠が自分の家で練習できないことを知っているから、事前にたしかめておいたのだった。

 

 ちなみにイヨちゃん先生の返事だが、

 

 

 

「え? 亜熊くんが、電甲杯の準備で学校のPCを使って練習したい? そんなの……もちろんいいに決まっているわよ~! なんなら今、先生が好きな台を予約してあげるわ。二台? それとも三台?」

 

 

 

 であった。快諾どころの話じゃない。

 

 あいかわらず、俺にかんしては過保護であるように思えてならない。

 

 

 

「そういうわけだから、もしも翠がその気だったら――」

 

「うん。休みの期間も、閉校時間までは練習できる」

 

「わざわざ登校してくれんの? なんかそれ、悪いんだケド……」

 

「悪くない。わたしの家は、ここから徒歩圏内。朝から日が暮れるまでなら、ルシファー・オンラインを勉強できる」

 

「それなら、あたしはぜんぜんいいよ! 総合的な練習時間、ちゃんと取れそうだし。じゃあもう、これで決定——」

 

 

 

 結論を急ぐ赤城さんを、俺は止めた。

 

 

 

「待ってくれ、赤城さん。この期に及んでだが、よく考えてほしい。翠と組めるのは俺にとっては願ったり叶ったりだが、全員にとっていい条件かどうかは、この段階できちんと確認しておきたいんだ」

 

「んー……って言っても、あたしはもう最悪ふたりでもいっかなーって思ってたところに入ってくれるわけだし、あんまそれ以上のことはなー」

 

 

 

 赤城さんは、あらためて翠に目線をやった。

 

 

 

「でも、ほんとにやったことないんだ? ルシオン」

 

「ない。銃で撃ち合うゲームだということは知っているけど、それくらい」

 

「そなんだ。ルシオンって今はもう超覇権ゲーだし、やったことがないっていうのもめずらしいねー。あ、でも一般入試組だったら案外フツーなのかな?」

 

「赤城さん、翠は入試組じゃない。ゲーマー特待枠なんだ」

 

 

 

 俺は、そう正しておいた。

 

 

 

「え、そうだったの⁉ なのに頭いいわけ⁉」

 

 

 

 若干問題がありそうな発言をする赤城さん。

 

 

 

「な、なら得意遊戯ゲームは? なにをやってきたひとなの?」

 

 

 

 その疑問には、翠がテレビの前を指して応えた。

 

 そこには、三台の種類が異なるゲームハードが置いてある。カセットは差しっぱなしだった。

 

 

 

「……レトロゲー、ってこと?」

 

「そうだが、それだけというわけではない。翠は、RTA走者なんだ」

 

 

 

 と、俺がかわりに解説した。

 

 RリアルTタイムAアタック――それはゲーマーたちのあいだでも、かなり独特な立ち位置の用語だ。

 

 この特殊な競技にいそしむ者たちは、対戦ゲームの勝敗ではなく、ゲームのクリア速度で競い合うのだ。

 

 

 

 おもにソロゲーをプレイして、スタートボタンを押してからエンディングを迎えるまでの時間を計り、だれよりもはやくクリアすることを目指すわけだ。

 

 翠の場合は、俺たちが生まれる前からあるような、とても古いゲームの最短クリア攻略をこのんでいる。

 

 

 

「翠は今、ふたつのタイトルで世界1位の記録を保持しているんだ。たしかオルタナクエスト7と、ガリオンズハートだったか」

 

「そう。先々月まではみっつだった。シン・ヴァーミリオンⅡの記録を、台湾のプレイヤーに抜かれてしまった。いつかこの手に取り返す」

 

「せ、世界……⁉ え、それほんと? すっご……‼」

 

 

 

 赤城さんは、あっけに取られたようだった。

 

 俺は翠のすごさがわかってもらえて鼻高々だった。

 

 まあ、オルタナクエストはともかく、ガリオンズのほうは走者の合計が五十人ほどしかいない小規模なものなのだが、それは言わないでおく。

 

 なんにせよ、翠はすごいのだ。

 

 

 

「とにかく、そういうわけで翠にはゲームセンスはあるんだ。ただ、ルシオンのようなタイプのゲームをほとんどやったことがないというだけで」

 

「だいじょぶ、ぜんぜん問題ないよ! 他ゲーが得意なら飲みこみもはやいはずだし。それに世界レベルなんでしょ?」

 

「楽観はしないでほしい。RTAは、覚えたチャートを正確にトレースする競技。不測の事態も、ほとんどの場合リカバリーの手段が確立されている。すべてがアドリブで成り立っているリアルタイム対戦ゲームとは、まったくのべつもの」

 

 

 

 翠は、学校から支給されているタブレットを開いた。Youtubeでルシオンと検索すると、いちばん上に出てきたライブ配信をタップした。

 

 流れてきたゲーム画面を、翠はじーっと観察した。

 

 

 

「複雑な画面情報。とてもむずかしそう」

 

「あ、マキシムさんの配信だ。あいかわらず動きえぐいなぁ。うまいわー」

 

 

 

 うしろからひょいと画面を覗いて、赤城さんが言った。

 

 

 

「UIはまあ、たしかにフクザツかもねー。でもやっているうちにすぐ覚えるよ。てかあたしがぜんぶ教えるし! 手取り足取り!」

 

 

 

 翠は、指をわきわきさせる赤城さんから、俺のほうに目線を移した。

 

 

 

「肝心の大会はいつ?」

 

「本番の大会は、だいたいひと月後。ただしその前に校内予選があって、そっちは終業式のあとだから、もうあと一週間程度だ」

 

「とても近い。付け焼き刃にもならなさそう」

 

 

 

 翠はゲーム画面に目を落とした。その瞳は、先ほどよりも少しだけ自信なさげに見えた。

 

 

 

「安心して! いいんちょくんまじ最強だし、あたしもめっちゃがんばるから、絶対予選で負けるなんてことないよ。それにこのゲームって、いてくれるだけで仕事になってくれるようなキャラとかスキルも多いから、入ってくれるだけで助かるんだよね、ほんと」

 

「……そういうことなら、がんばる」

 

 

 

 首肯した翠に、赤城さんが笑顔で俺のほうを振り向いた。

 

 

 

「ならさ、これでメンバー結成ってことでいい? いいんちょくんも、いいよね?」

 

 

 

 どうやら、ふたりとも結論は変わらなかったようだ。

 

 であれば、俺のほうにも異存はなかった。

 

 赤城さんが、握りこぶしを天に向けて突いた。

 

 

 

「やっ……たぁぁぁ!!! よかった~~、これでフルメン出場できる! ああほんとうれしい、ありがとありがと! もー、なんかもぉ、ハグしてい?」

 

「だめ」

 

「そんじゃ握手で! ほんとありがとーー!!」

 

 

 

 赤城さんが翠の手を握った。きゃるんきゃるんの笑顔で握手する赤城さんと、無表情で手を振り回される翠の対比がすさまじい。

 

 

 

「えっへへー。それならさっそく――」

 

「エントリーの手続きを?」

 

「ちっがーう! あいや、ちがわない、それもすぐやる! けど、閉校時間が来る前に、みんなでルシオンしよーよっ。PCルーム戻ってさ、みんなでカジュアルまわそ!」

 

 

 

 赤城さんは、これでもかというほどに瞳をキラキラさせていた。

 

 たしかに、こうなった以上は可能な限り速やかにチームの練度をあげていくことが大事だ。とくに翠には基本から教えなければならないし、時間はいくらあっても足りない。

 

 それでいて、連日の知らない相手とのルシオンラッシュで、俺がこれ以上なく疲れているというのも事実だ。

 

 どう返事したものか――そう考えて、俺はあることを思い出した。

 

 

 

「赤城さん、きょうはこのあとで用事があると言っていなかったか?」

 

「あれ?」

 

「ほら、だからきょうはふたりまでしかチームメイト候補に会えないという話だったじゃないか。十七時には学校を出なければならないと」

 

「……うわー、そうだった。おもっきし配信日じゃん、あたし」

 

 

 

 赤城さんはあからさまにテンションが下がった。

 

 スマホを取り出すと、スケジュールアプリのようなものを開いて確認する。

 

 

 

「ダメだ、しかもコラボだからさすがにおやすみできないな。相手に迷惑かかっちゃうし……あーん、どうにかならないかなぁ」

 

「きっと、そうもいかないのだろう」

 

「そうなんだよねぇ。はぁぁぁ、しょうがない。背に腹は代えられぬかぁ」

 

 

 

 赤城さんは諦めたようで、おとなしくスクールバッグを手にした。なぜか最後だけ武士口調で。

 

 

 

「なら、練習は来週からにしよっか。とにかくきょうはメンバーが決まっただけ大収穫ってことで」

 

「ああ、そうしよう。翠もそれでいいか?」

 

 

 

 こくり、と翠がうなずいた。

 

 さしあたり解散の流れになったが、その前に忘れずに、俺たちはエントリーの申請をしておいた。学校側の用意していたフォーマットに、すでにリーダーとして登録していた赤城さんの、空欄となっているチームメイト枠を埋める。

 

 

 

第4回電子機甲戦杯 ルシファー・オンライン部門

 

LC学園高等学校 校内予選

 

 

 

<チームリーダー>

 

 2年A組 赤城愛莉

 

<チームメンバー>

 

 2年A組 亜熊杏介

 

 2年C組 相戸翠

 

 

 

 三人の名前が並んだ状態で申請を完了すると、赤城さんはやけに満足そうにスマホの画面を眺めて、なんどかスクショを撮っていた。

 

 

 

「じゃー、あたしはこれで……」

 

 

 

 去ろうとした赤城さんが、そこで足を止めた。

 

 

 

「ねえ、いいんちょくん」

 

「ん、なんだ?」

 

「相戸サンはいいとしても、いいんちょくんはフツーに夜もプレイできるわけだよね? てことはさ、あたしらだけでもやれること、あるわけじゃん?」

 

 

 

 赤城さんは、そこで思い出したように自分の使ったマグを取ると、俺に「これ、あんがと」と言って手渡した。それから、こう続けた。

 

 

 

「タイマン百本ノック、やろっか???」

 

「さすがに多すぎないか……?」

 

「もしくは、デュオで十連チャンピオン達成まで眠れません企画とか!」

 

 

 

 まちがいなく過労死する提案を笑顔でおこなってくるギャル。こわいよ。

 

 

 

「や、まあそれは冗談にしてもさ、めっちゃ練度高めよーよ? チーム構成の話とかも無限にあるし。ね? やろやろ?」

 

「……っ、ま、ぁ、練習は、必要だからな」

 

「えへへ、よかった! それなら、やれそうなときはいつでも連絡してね? ぜったいだよ? 前みたいなソロ配信してたら許さないかんね!」

 

 

 

 それじゃあふたりとも、またあしたねー! と快活な声で残して、赤城さんは部屋を出て行った。

 

 

 

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